元勇者提督 作:無し
The・World R:1
Δサーバー 水の都 マク・アヌ
重槍士 青葉
青葉「……」
クリムさんから、全てを聞いた
だけど、それはクリムさんの目線の話だった
脱退の理由に関しては深くは語ってはくれなかった、価値観の相違とだけ…でも、それは…腑に落ちない
青葉(…ここまできたら、最後まで取材しよう)
こうなると、どこに行くか迷う…誰にあたるべきか…
青葉(…あれ?)
ジーク「聞いたか?偽物の話…」
耕次「ああ、騎士団がいなくなったからって昴と同じ格好して成りすます奴らのこと?」
青葉(なりすまし…?)
ジーク「昴のふりをしてアイテムを集ったり、騙し討ちしたり…」
青葉(そんなの、最低だ…)
青葉「あ」
マク・アヌの橋からこっちに向かってくる人
昴さんによく似た人…
青葉(…エディットは同じはず…声、かけた方がいいかな…でも…)
どんどん近づいてきて、私の脇を何も言わずに通り抜ける
青葉「…!」
本物だと思った
だって…遠くからではわからなかったけど…
暗い
そして、深い闇のような重い空気…
近くにいるだけで喉が詰まる感覚…言葉を発さない感覚…
これほど深く、苦しみ、傷ついていた…とは
青葉(追いかけないと…!)
気づいた時には、すでに昴さんの姿はなかった
青葉「っ…やらない事で、後悔するのは、嫌なのに…」
ぎゅっと…手が暖かく握られた
青葉「え?」
手の前にエフェクトがかかり、転送される
Δサーバー 隠されし 禁断の 聖域
グリーマ・レーヴ大聖堂
青葉「ここ…大聖堂…リコリスさんが…?」
リコリス「……」
青葉「…あ」
遠くに見えるのは、昴さんと…騎士が1人
青葉「力を貸してくれたんですね…わかりました、行きます!」
近づき、様子を伺う
サルー「昴様」
騎士が膝をつき、礼をする
昴「やめてください…私はもう、あなた達の長ではありません」
サルー「…どうか、お戻りください…それまでこのサルー、ここを動きません」
昴「紅衣の騎士団は、既にその役目を失いました」
サルー「しかし、銀漢如きが昴様を差し置いて新しい騎士団を立ち上げようと…」
昴「サルー!…かつて、行動を共にした仲間にたいして、軽侮の言葉を吐くようなことがあってはなりません!」
…銀漢
確か、チートPCとして私を強く非難し、敷波さんや司さんを捕らえた騎士…
昴「あなたの進むべき道は、あなた自身が探すことです……ここは、The・Worldなのですから」
そういって昴さんは聖堂を後にした
サルー「…昴様…」
青葉(この人に、話を聞いてみよう…)
青葉「すみません」
サルー「…何者だ」
青葉「…私がわかりませんか、紅衣の騎士団の人はみんな私の顔を知ってるものだと思っていました」
サルー「……そうか、確か重槍士の青葉!…何故ここに……昴様を狙ってか!」
青葉「え?…ち、違いますよ!私も昴さんが心配で…」
サルー「…なんだと?」
青葉「それに、その…クリムさんからいろいろ話を聞いたんですけど…腑に落ちないことも多くて、貴方に話を聞きたいんです」
サルー「……俺は分隊長でもない、ただの1隊士だぞ」
青葉「構いません、貴方の昴さんへの忠誠心は、他の騎士とは違うように見えましたから…」
サルー「……場所を変えよう、誰かに見られたくはない」
青葉「いくつか聞きたいことはありますが、特に気になるのは…クリムさんの脱退についてです」
サルー「クリム殿か…クリム殿は、あくまでもThe・Worldを遊びだと説いていた、良くも悪くもな…故に、面白くないと感じたから抜けたのだろう」
青葉「果たして本当にそうでしょうか…クリムさんは価値観の相違と言いました、しかし…私には、そうは思えないんです」
確かに価値観の相違はあるだろう
だけどあの熱血漢が途中で物事を投げ出すようなことをするだろうか
果たしてそんなことをしたら自分を許せるのだろうか
青葉「…私には、誰かに追い出されたか…いや、それも昴さんが防ぐか……何かやむを得ない事情があった、としか思えません」
サルー「……どうやら、本当にクリム殿とも親しいようだ…こうなれば隠し事は不義理だな」
…どうやら、煙に巻くつもりだったらしい
サルー「クリム殿は自身を犠牲にしたんだ、彼は銀漢に軽佻浮薄と常日頃から言われていた…まあ、要するに軽い男である、と受け取ってくれれば良い…それを利用した」
青葉「利用?」
サルー「分隊長の銀漢と創設者の1人クリム、この2人の関係は最悪だった、しかし……クリム殿は自身を悪者とし、自信が追い出された体をとることで上手く騎士団を纏めたのだ」
青葉「そんな…」
…だから、あんなに厳しい騎士団に…
サルー「俺もクリム殿には世話になった…当時はショックを受けたが、昴様がこっそりと事情を教えてくれた…クリム殿は、言わば…呪いをかけてしまったのだろうな」
青葉「呪い、か…」
サルー「銀漢は増長したし、最後には解体まで来てしまった…銀漢の昴様への言い様は酷いものだった…臆病だのなんだのと抜かし…昴様が騎士団解散に踏み切ってしまった…」
青葉(昴さんを罵倒した騎士って、あの銀漢だったんだ…)
サルー「…知りたいことは、ほかにあるか」
青葉「…随分と詳しいんですね」
サルー「昔、昴様をPKしようとしたことがある…その時、諭されたんだ…力ではなく、言葉でだ…それで…俺は、昴様とクリム殿に憧れたんだ」
青葉(クリムさんの話してたPKって…この人だったんだ…)
青葉「…貴方と出逢わせてくれた神に感謝しなくては」
サルー「何?」
青葉「出会いは神の御業、別れは人の仕業…です」
サルー「…そうだな、いい騎士と出会えたものだ」
青葉「え?私は騎士じゃ…」
サルー「そうなのか?」
青葉「……ただの、狼ですよ」
リコリスさんが手を引いてる
早く行こう、次の場所へと…
だから私は行かなきゃいけない
青葉「では、私はこれで」
次の場所を目指して
Δサーバー にじり寄る 絶望の 足音
昴「……」
彼女はただそこにいた
何かを待っているように…
そして、何かを求めているように
カオちん「やっほー」
昴「…貴方は?」
現れたのは、色以外瓜二つのエディットのキャラ
カオちん「カオちんは、カオちんだよ?昴ちんは?」
昴「え?」
カオちん「名前、もしかして昴ちん、名前の見方もわからない初心者?」
困惑した昴は、答えることを躊躇う
カオちん「あー、図星だ…でも、迷惑だよねえ」
昴「迷惑?」
カオちん「そのキャラ、エディット…昴ちんだって紅衣の騎士団の昴ちんを真似て作った訳じゃないでしょ?」
昴「はい…」
カオちん「なのに、真似っこだなんて言われてさあ…ほんと迷惑…ねー、ほんと紅衣なんて大っ嫌い…いなくなってスッとした…」
昴「そうなんですか…」
カオちん「だってあいつら威張ってんだもん、喧嘩するな、エチケット守れ、ホント偉そう」
昴「でも、それはここの…」
カオちん「マナーを守ってみんなで仲良くしましょうってやつでしょ?…でもさあ……どうして仲良くなきゃダメな訳?平和じゃなきゃダメな訳?」
昴「それは…」
カオちん「たかが遊びじゃ〜ん…やりたいことやればいいんだよ…」
昴「遊びにもルールがあるんじゃないですか…?」
カオちん「あれ?そういうこと言う人?マジー…昴ちん?」
昴「そっか……」
カオちん「ん?」
昴「滑稽、ですね……紅衣の騎士団は、裸の王様だった訳ですか」
カオちん「…ねえねえ、昴ちん、お友達になろうよ」
カオちんが一歩昴に歩み寄る
昴「っ…」
昴が一歩下がる
カオちん「そうよぉ…カオちん…遠くからだけど、ずーっとずーっと見てたんだから…!アンタ…マジ昴ちんだよね?どうせレベル上げなんてやってないんだろ?」
昴「……」
カオちんが近づくほどに昴が下がる…
カオちん「イヤ?落ちたっていいんだぜ?BBSに書き込んでやる、ネットにも居られなくなった昴様の真面目な現状ってやつ…ウケるぜ?それとも助けを呼ぶか?…誰が来てくれるかな?」
昴(…呪文…)
昴の足が止まる
もう、引き下がることはしない…
昴(…やっぱり、これには、頼らない)
昴「近寄らないでください…!」
カオちん「あァ…?」
昴「あなたが私を殺そうが、どうしようがかまいません、逃げもしません、でも貴方と友達になることは決してないでしょう…!」
カオちん「チッ…」
昴「私は貴方のような人が…嫌いです…!BBSに書き込みたければ書き込めばいい…貴方の私怨が晒されるだけです…」
カオちん「っ…!…やああぁぁぁっ!!」
青葉「…居た」
崖の下にいる重槍士を視認する
青葉「……随分と、遅くなりました…パーティでなければ居場所も何も分かりませんから…」
槍を振りかぶり、崖下へと投げつける
カオちん「うわっ!?」
カオちんの足元にヴォータンが突き刺さる
そして、空の上に降り立つ
青葉「…「誰が来てくれるかな?」でしたか…来ましたよ、ここに1人」
カオちん「待てやがったのか…!」
青葉「いいえ、探したけど間に合わなかっただけです…どうやらもう手遅れな様ですが…オープンチャットなおかげでログだけはいつでも閲覧できましたしね」
降りて、ヴォータンを引き抜く
青葉「その分、私が…」
カオちん「…あ…!お前、紅衣に追われてた奴じゃ…なんで…」
青葉「紅衣の騎士団のことは私も好きではありません、しかし…昴さんは個人です、紅衣の騎士団そのものではありません…そして、私はああいう人が好きです…だから、そんな人が悲しまない様に…」
鋒を向ける
青葉「貴方をデリートします」
ぶんっと一振りで首を落とす
薄暗い死体になる
青葉「…ネカマヤローめ…って所ですか…私も、ヤローが嫌いになりそうです……ん…?」
視線…いや、これは…
青葉「ダブルスイーブ!!」
振り返りながらスキルを発動する
飛んできた斬撃を叩き落とす
青葉(斬撃を飛ばすスキル!これは…!)
青葉「いきなり何するんですか!トキオさん…!」
トキオ「…よくも昴を…!なんでPKなんかするんだ!!」
青葉「は?…いや、これ昴さんじゃ…あ」
青葉(死体だと色の判別つかないのか…!)
望まぬ戦いが、始まってしまう
青葉(昴さんはもうキルされてるし、どうしようも…)
青葉「ッ!!」
背後から飛んでくる隕石を槍の石突で突き崩す
青葉「このスキル…司さん…!」
司「青葉…」
青葉「待ってください!私がキルしたのは別人です!私はあくまでPKKしただけ!」
攻撃を防ぎながら必死に弁明する
青葉(タウンに戻って昴さんを捕まえるしか…いや、流石にこんなことがあったら落ちてるか…!…うわっ!?)
リコリスさんに手を引かれる
青葉「え、ちょっ…ど、どこに!」
トキオ「逃がすか!」
司「……!」
戦闘中にどこかへ連れて行かれるなんて、今まで無かったのに…!
必死に走り、2人から逃げながら目的地を探る
青葉「……!」
目的地、というか…目的の人は、見つかった
トキオ「あぁっ!?昴!?」
司「昴…!」
…ボロボロの状態で
昴さんはひどく傷ついた状態で捨てられていた、だが…キルはされていないらしい…
青葉「だから言ったじゃないですか!私はやってません!」
青葉(…でも、それよりなんでリコリスさんがここに…いや、私を助けてくれてるんだ)
司さんが昴さんに駆け寄る
昴さんはなんとか起き上がり、司さんと向かい合う
昴「なんで、ここに…」
昴さんの声は、とても弱々しく…心が傷ついていることがわかった
司「…なんでだろう、なんとなく…ここに来れば、キミと逢える気がしたから…」
昴「…私を、探していてくれたんですか…」
司「かもね…」
昴「……私は、待っていました…貴方を…」
縋り付く様に、昴さんが司さんに抱きつく
司「…辛いの…?僕は…」
昴「何も言わないで……しばらく、このままで…」
司「…うん」
辺りに、昴さんの啜り泣く声が響く
司「……いいよ、気が済むまで、泣けばいい…」
…この場に、私たちは、居てはいけない気がした…
トキオ「……」
青葉「……」
お互い、顔を見合わせ、その場は引くことを選んだ
Δサーバー 水の都 マク・アヌ
クリム「騎士団の意味?」
青葉「…ええ、貴方がこだわった騎士団の、存在する意味を知りたいんです」
あの後、タウンでたまたま見つけたクリムさんを捕まえ、話を聞いた
クリム「…昴はノーブレス・オブ・リージュ…高貴なる者の責任と義務だと言っていた…それが、The・Worldのより良い自治なんだろうな」
青葉「上に立つものの…責任と義務、か」
騎士団の解散は、たった一人の騎士の暴走の結果だ
でも、それほどの責任を背負い、果たした…
青葉(…騎士、か…)
クリム「同じ騎士として、思う所でもあるのか?」
青葉「え?いや、私は騎士じゃ…」
クリム「碧衣の騎士団、なんだろ?」
青葉「…碧衣の騎士団…」
デバッガー集団の名前を知ってる…?
クリム「昔はよく見かけたもんだ、それこそエリアの管理とかが杜撰でな、俺が紅衣を名乗ったのも、碧衣の騎士団を知ってたからこそだ…トレードマークは槍だったか」
青葉「…知ってたんですか」
クリム「ま、昔見かけたこともあるしな…タウン襲撃イベント…唯一MVPが2人出た回、俺も参加してたんだ、初心者だったけど」
青葉「あの時、クリムさんも…?」
クリム「ああ、でも、思い出したのはつい最近のことだ」
…やはり、過去に関わるということは…未来を変えることに繋がるのだろうか…
クリム「…連星の騎士さんよ、アンタには…このThe・Worldがどう見えてる」
青葉「連星の、騎士…?」
覗き込んだ水路の水面に自分の顔が映る
青と黄色の…二つの眼が私の目と合う
青葉「えっ?」
クリム「いや、勝手な通り名はよくないか…サラーに聞いた、狼だったか?」
青葉「あ、え、はい…」
クリム「狼にしちゃ、随分派手な制服を着てるもんだ」
…確かに、リアルの制服をモチーフにエディットしたから…狼っぽくはないけど…
クリム「コレをやる、さっきのエリアで手に入れたんだが、俺は赤い稲妻だからな」
灰色のフード付きのアウターの様な装備…
青葉「…偶に、The・Worldって世界観に合わないものを出しますよね」
クリム「それもThe・Worldだ、いや…一周回って全てがそれらしいのかもな」
青葉「……クリムさんは昴さんとリアルでも…?」
クリム「いや?どうしてそう思った」
青葉「……もし、私がクリムさんなら…そして、遠く離れた場所にいるのなら…あの呪文…私は、きっと連絡先を渡すんじゃないかなって」
クリム「…そうか…」
青葉「違いましたか…?」
クリム「…いいや、正解だ」
…私も、持っている
大事な呪文をたくさん持っている
司令官、なつめさん、お姉ちゃん
たくさんの人がいるから、私はまだ前を向いていられるんだ
青葉「勉強になりました…これは、ありがたくいただきます」
貰った装備を羽織る
青葉「…ん?」
フードの上が、ぴょこぴょこしてる様な…
クリム「…ハハハハハ!こいつはいい!まるで本当に狼だ!」
青葉「……げ」
水路を覗き込む
フードの頭の部分に犬の耳…
青葉「…やっぱお返しします…」
クリム「遠慮するな、似合ってる」
青葉「……はぁ…」
結局、フードを脱いだ状態で使うことにした