元勇者提督   作:無し

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chess

神通の家

綾波

 

夕立「…何してるの?」

 

神通「将棋です」

 

綾波「やりますか?…これで終わりました」

 

神通「え?…終わってません、まだ王手もかかってませんし、詰みません」

 

綾波「盤面の2手3手先を読むことは大切です、しかし、相手の手札を読むことも忘れてはなりません…例えば、私のこの歩、これを玉将の前に打てば、それを避けるために歩を取るか逃げるか…そして逃げられる先のマスには飛車、桂馬、角が有ります」

 

神通「打ち歩詰めは反則ですよ」

 

綾波「もちろんわかっています、なので、私がここに…香車を置いたら?香車だったらルール的には問題ありませんよね?」

 

神通「……なるほど、確かにこの盤面では詰んでいましたか」

 

綾波「まあ、これはものすごく簡単な例です、でも…」

 

桂馬を指して王手をかける 

 

神通「え?」

 

綾波「桂馬をとると?…神通さんの駒では、ここにある玉を守る為に金で桂馬をとる必要がある…とりあえずそれでその出番は凌げますね、ではここから勝つにはどうしますか?」

 

神通「…無理でしょう、香車詰めもできるのに…」

 

綾波「脳死はよくありません、桂馬を動かしたことで詰みは回避されました…さて、ではこうしましょう」

 

将棋盤を回転させる

 

綾波「私がここから勝つとしたら?」

 

神通「……」

 

綾波「確かに、一度有利に立ち、王手をかけたらあとは一方的に詰め、殺すだけ…それが当たり前です、しかし…現実はなかなかそうは行かないものなんですよ」

 

神通さんが再度王手をかける

 

綾波「王手を防ぐには、王手をかけた駒を取るか、王手にならない様に邪魔な駒を打つか、王を逃すしかない…さて、ここからは一手に二つの意味を含ませましょう」

 

実に単純な駒を打つ

 

神通(この駒を取ったら…ノーリスクで私の角を取られる…)

 

綾波「攻められませんよね?…守ると言うのは、容易いんです…ある、何かを守り続けることはね」

 

堅牢な城を作る

それは私の得意なことだ

 

神通さんは考えながら駒を遊ばせる

上手く指せない、私の手のひらの上から出ることができない…

 

神通(…誘導されている気が…)

 

香車や桂馬、一手で大きく動ける駒は…意表をついた詰みを狙える

 

守りながら攻める

 

一手に二つの意味を持たせる

 

綾波「神通さん、飛車角ばかり守るのは良くないですよ、桂馬や香車の重要性を理解していますか?」

 

そう言って、王将の隣に歩を置く

 

神通(隣?…横の駒は取れないのに、王手もかからな……いや)

 

神通「参りました」

 

綾波「そうですね、次の手番には私の桂馬は王手をかける、移動のために歩をとれば香車に王を取られ、逃げれば歩に取られる、別の逃げ道も気付けば潰されている…いや、元々潰してあったの間違いですけどね」

 

神通「……これが、2手3手先…」

 

綾波「そうではありません、私が知って欲しいのは…機会は必ず巡ってくると言うことですよ」

 

神通「……」

 

綾波「夕立さんも」

 

夕立さんに笑いかける

 

夕立(…狙いを、勘づかれてる?)

 

綾波「簡単な話です、タイミングを見極めれば…いつかチャンスは来る、今はその時じゃない……それと、神通さん、棒銀は確かに強い動きではありますが、私には通用しませんよ」

 

神通「…棒銀?」

 

綾波「貴方がやっていた戦術の名前です、銀と歩を棒の様に突き出すことからついた名前です、単純ながら攻撃的で、対処を知らないと角をあっさり取られ、飛車成りまで許してしまいます」

 

神通「…姉さんや那珂ちゃんには通用したのですが」

 

綾波「単純すぎるんです、それに…戦略がありません、あるのは戦術と戦法だけ…その戦術も戦法も幼稚です」

 

神通「幼稚……どうせ私なんか…」

 

綾波「夕立さん、これを見てください」

 

角の進行ルートに王、そしてその二つに挟まれる様に飛車を置く

角と他の2つは敵対している駒だ

 

夕立「…これが?」

 

綾波「これは飛車を取れる盤面です、飛車を動かしたら王手になりますから…」

 

夕立「それで?」

 

綾波「飛車を守りたいなら奪った駒を捨てて逃げるしかない…それも、角が逃げるしかないと判断する位置に駒を打たねばより不利になる」

 

神通「…私にもそれを意識しろと?」

 

綾波「将棋とは戦場を俯瞰的に見られる立場なんです、王は本隊、他はそれぞれの隊だとして…本隊を逃すための役割がこの飛車なんです」

 

神通「その飛車は、反撃すらも許されない…」

 

綾波「そう、死ぬ事でしか役に立たないんです、悲しい事ですがあくまでゲームです、そう言うルールなんです」

 

夕立「…それで?」

 

綾波「この飛車の犠牲は果たして無駄なのか…まあ、将棋なので相手に使われる駒になると言う意味ではかなり苦しいんですけど…この飛車を取らせた以上、どう勝つかと言う選択肢は狭まる…」

 

神通「…だから守りを固めろと?」

 

綾波「ええ、守り方にもいろいろありますが、弱い駒で強い駒を取るには守る方が容易い」

 

夕立「でも、ずっとは守れないっぽい」

 

綾波「それすらも意味を持たせるんです、意味のない事をそのままにして時間を無駄にするのではなく、意味を持たせる…そして…一気に攻める」

 

神通「一気に?」

 

綾波「堅い守りを崩すには速度が必要です、流れを殺さず一気に破壊し尽くす…良いですか?攻城戦をする際、攻める側は守り手よりもより多い戦力で攻めるべきです、何故ならそうしないと攻め落とせないから」

 

夕立「…数が居ないと攻め落とせない」

 

綾波「大量の人間が必要です…もしくは、ごく少数の潜入か」

 

神通「随分と真逆ですね」

 

綾波「少数潜入の良い点は侵入さえすればあとは簡単だ、と言う事です…よほど下手な変装でもない限り、何より人の多い様な基地は変装すらせずとも正体に気付かれることはありませんから」

 

夕立「それより、この話の意味って?」

 

綾波「…面白いでしょう?世界でも大国と評される国の上層部に、大量のスパイがいたとしたら?」

 

神通「…どう言う意味ですか?」

 

綾波「アメリカの頭は深海棲艦に支配されてる様なものなんですよ、それが少数侵入の結果ですね」

 

神通「話が呑み込めませんが」

 

綾波「寄生、擬態、深海棲艦はそれができると言う事です…」

 

チェス盤を出し、駒の位置を並び替える

 

綾波「さあ大変だ、アメリカの全戦力を好きに動かせるのが深海棲艦?それでは、私達は…どうすればいいのやら」

 

夕立「どうするのかしら」

 

綾波「どうもしませんよ、下手に動いて感知できない所で核戦争なんて起きたら堪りませんからね…しかし、私が感知できる範囲内なら…全て止められる、デジタルに頼りきっている以上、弾道ミサイルだろうが核だろうがね」

 

神通「……なるほど、まるで貴方1人が堅牢な守りの様だ」

 

綾波「その通りです、正解ですよ、やはり賢いですね」

 

夕立「…何かを、待っている…?」

 

綾波「ええ…私はいつまでも待ち続けます、その時を…」

 

神通(CC社に与すると言っていたのは…いや、今は…触れない方がいい、この人に触れる事は余りにも危険だ)

 

綾波「チェス、将棋…これはあくまでゲームでしかありません…とても簡単なね…だから、王を、キングさえ落とせばその戦争の勝敗が決まる」

 

夕立「…リアルは違うって事?」

 

綾波「ええ、当然でしょう?例えば…離島鎮守府、あそこの頭が落ちたとして、どうなるでしょうか」

 

神通「倉持司令が死んだとなると…復讐に駆られるものもいるとは思いますが…」

 

夕立「…ヤバいのはアケボノくらい…?」

 

綾波「そうですね、彼女達は結局は軍の中の一部であり、帰る国のある人間です、理性的になればあまり暴走はしないでしょう…ですが、それでも何人かは暴走する」

 

夕立「復讐ってことかしら?」

 

綾波「ええ…さて、次は…深海棲艦ならどうでしょう」

 

神通「深海棲艦…?」

 

夕立「群れのボスを潰しても…」

 

綾波「想像できませんよね、理性的に生きてる人たちに野生のことなんて…彼らは何の意図もなく暴れるようになりますよ、復讐ですらない、だって元がただ目についたからなんでも喰らう化け物です」

 

神通「…姫級の深海棲艦はコントロールの為に必要…?」

 

綾波「全部殺せばいりませんけどね」

 

夕立「確かに…ハワイの深海棲艦は人を襲う様子なかったし…」

 

綾波「ハワイに住む人たち、何を聞かされていると思います?」

 

神通「深海棲艦は友好的だ、とかですか?」

 

綾波「半分正解…かな、これ、太平洋棲姫の拠点から持ってきた書類なんですけど…彼女達はアメリカとの戦争を終わったことになってるそうです、そして新たな知的生命体として人類と共存していく…と」

 

神通「…本当に?」

 

綾波「ええ、つまりハワイは実験場なんですよ…アメリカのね」

 

夕立「…それって」

 

綾波「反発するものは殺されても消されてもおかしくはない、そんな神経のすり減る状況が続いている…住んでいる人たちもおかしくなり始める」

 

神通「…正常に見えましたよ」

 

綾波「表向きはね、でも壊れた人間でも表向きは普通に見えるものですよ、それに、人間誰しも自分が壊れたなんて思いたくない、でしょう?」

 

私は正常だ、私はおかしくなんてない

みんなそう思っているから、あの島はなんとか成り立っている

 

周りが壊れてないのだから私も壊れていない、壊れたくない

それが最後の砦…

 

綾波(あの実験場は大失敗でしょうね)

 

綾波「…さて、あの人たちを救うには、どうしたものやら」

 

 

 

 

 

 

離島鎮守府

秘書艦 アケボノ

 

アケボノ「…おや」

 

アヤナミがこちらに気づき一礼する

 

アヤナミ「お疲れ様です」

 

アケボノ「眼帯?」

 

…アヤナミが眼帯で片目を覆っている…

 

アケボノ(まさか…!)

 

アヤナミに詰め寄り、顔に手をかける

 

アヤナミ「ひゃっ!?」

 

アケボノ「この眼帯は」

 

アヤナミ「…め、めばちこができて…」

 

アケボノ(めばちこ…ものもらいか…)

 

ため息をついてアヤナミの顔から手を離す

 

アケボノ「お大事に…」

 

てっきり、ダミー因子が流出したのかと思って焦ったのだが…

 

アヤナミ「あの…それより、深海化の為の艤装…」

 

アケボノ「ああ、イムヤさんがダイバーとか言ってたやつですか」

 

アヤナミ「…はい?」

 

アケボノ「深海化をダイバーというそうですよ」

 

アヤナミ「へえ…」

 

アヤナミは知らない、か…

 

アケボノ「工廠ですよね」

 

アヤナミ「はい、よろしくお願いします…」

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