元勇者提督   作:無し

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記録 インストールブック 黄昏の書

The・World R:1

Δサーバー 水の都 マク・アヌ

重槍士 青葉

 

青葉「…時間的に、あと1時間くらいかぁ…」

 

離島鎮守府には、移ることになった

それまでの間、出発の準備はもうできているからあと少し、待ってみたかった

 

青葉(司令官、あのあとどうなったんだろう?)

 

初心者のカイト、あの強制回線切断の影響はきっとあのカイトにもあったはず…

 

青葉(それにしても…ひどい目にあったなぁ…)

 

防具は役に立たない、槍も武器としては最低クラスの火力しか出ない

モルガナのせいでヴォータンはその意味を失った

 

青葉(多分、その辺の槍を買って使う方がまだ強い…)

 

レベル1の、雑魚ですら手を焼く可能性がある…

 

青葉(…あ!)

 

今転送されてきた緑のPCが、カイト…

 

青葉(…やっぱり、初心者なのかなぁ…)

 

パチリと音が鳴る

 

青葉「あ…あれ?スクリーンショットのショートカット設定してたっけ……あ"っ…り、リコリスさん…!?」

 

…リコリスさんの手には、私のポロライドカメラのアイテムが…

 

青葉「な、なんで持ってるんですか…うう…でも、写真とか撮るタイミングはないし…壊さないでいてくれるなら…」

 

リコリスさんは閉じた瞳のまま、どこに向けるわけでもなく、カメラのシャッターをきる

 

青葉「写真を撮りながら時間の旅、か………あ、あの人って」

 

カイトに近づいていくPC、あれは…ミミルさん…!

 

青葉「…じゃないな、うん、違う」

 

ミミルさんは褐色の撃剣士で、明るい茶髪が特徴だ

でも今カイトに近づいていった撃剣士は褐色は同じだけど白髪で、アーマーの色も少し違う

 

青葉(あれは……ええと、そうだ!ブラックローズ!)

 

コピーと対峙した事もあれば資料も見た

間違いない、.hackersの副官、ブラックローズ!

 

…でも、初心者なんだろうな、真っ直ぐの移動もちゃんとできてない…ゲームそのものが初めてな様な…

 

エリア転送用のカオスゲートの周りを回りながら何かを探す様な動作をするブラックローズとそれを眺めるカイト…

突如ブラックローズがカイトに向き、詰め寄る

 

ブラックローズ「なに…なによ…?なんか言いたいわけ?」

 

カイト「いや……」

 

ブラックローズ「あ、わかった、あんた初心者ね、そうだ、絶対そうよ、そうでしょ?」

 

青葉(多分自分もですよね…?)

 

ブラックローズ「失礼しちゃうなぁ…いい?特別親切に教えたげるけど、そうやってジロジロ見んのはマナー違反!ゲームの中でもリアルでも一緒だよ!わかった!?」

 

カイト「……」

 

言葉の無い空白の間を三点リーダーが埋める

 

ブラックローズ「だからぁ!なんなのよっ!」

 

カイト「……」

 

ブラックローズ「てんてんてん、じゃないっちゅ〜の!」

 

青葉(中々、面白いものを見てしまいましたね…司令官…カイトと、その相棒、ブラックローズの出会い…)

 

こんなものが見られるなんて、素直に嬉しい

 

青葉「あ、行っちゃう、追いかけ…あ"っ!?」

 

あそこにいるのは、このバージョンに似つかわしく無い白塗りピエロは…

 

青葉「そうだ!確か道化のポザオネ、今回の私のパートナーになる人!」

 

こちらに気づいたのかポザオネさんが近づいてくる

 

ポザオネ「オマエが青葉アルね〜?」

 

青葉「あ、アル?」

 

ポザオネ「団長から話は聞いてるアル、が……ワタシはオマエと組む気は無いアル!」

 

青葉「は、はあ…?」

 

ポザオネ「どうせトロンのアホは油断してやられただけアル、ワタシはそうはいかんアル…シッシツシッシッ!」

 

青葉(ろ、ロールプレイがキツい人だなぁ…ボイスは男の人なんだけど…)

 

ポザオネ「それに、ワタシは重槍士に嫌な思い出があるアル…さっさと失せる事ヨ!」

 

青葉「…あ、あの、それより…トロンメルさんはもう出てこないんですか?」

 

別に2人で当たる必要はないし…

 

ポザオネ「ん〜?オマエ、聞かされてないアルか?トロンはガイストが発見した時にはバラバラに刻まれてて、そのまま意識ごとやられたアル」

 

青葉「…え…?」

 

頭を殴られた様な感覚に陥った…

 

青葉「トロンメルさんが…未帰還者に…?」

 

ポザオネ「今頃病院のベッドでオネンネ中アルね!シッシッシッシッ!」

 

青葉「あの、トキオってキャラにやられたんですよね…!?」

 

ポザオネ「そう聞いてるアル」

 

青葉(あのPCにやられたら…未帰還者に…?いや、私はやられても…待って、やられた時はトキオさんは…剣が一本だった、今は二本になってる、あの剣が悪い?)

 

なんにしても、危険である事は間違いないんだ

 

青葉(…止めないと…!!)

 

青葉「これ以上、犠牲者は出しませんから」

 

ポザオネ「ん〜??どうでもいいけど、オマエのキャラ、随分と弱そうアルね〜」

 

青葉「……そうですか」

 

ポザオネ「ま、足手纏いになるだけだから邪魔にならない様にするアルよ」

 

そう言ってポザオネさんはどこかへと消えていった

 

青葉「……トキオさんにキルされたら、未帰還者…か」

 

未帰還者を助ける決意と覚悟はとても強い

しかし、ここからは自分が"そうなる"覚悟も必要になる

 

青葉「…司令官…私、やってみせますから」

 

きっと、今の状況は同じだ

かつてのカイトと同じなんだ

 

だから私も、カイトになってみたい

 

青葉「あ!」

 

ゲートの方に走っていくカイトを見つけて追いかける

 

青葉(!ブラックローズさんも追いかけて…)

 

ブラックローズ「ちょい待ちっ!」

 

カイトが振り返り、ブラックローズさんの言葉を待つ

 

ブラックローズ「そう、アンタ…その……あたしねー…面白いワード知ってるんだけど…一緒に行くっていうなら特別に教えてあげてもいいよ」

 

青葉(あ…一緒に来て欲しいんだな…)

 

カイト「…怪しいからやめとく」

 

青葉「え」

 

ブラックローズ「…あっそ、別にいいけどね」

 

想定外の返事に戸惑い、つい声を漏らしたが…確かに嫌なファーストコンタクトだ…仕方ない、のかも…

もしくは別の場所で仲間になるタイプのイベント…!

 

青葉(だといいんだけど…)

 

しょぼくれたブラックローズは明らかに誘われるのを待ってる様子…

 

カイト「あの…」

 

ブラックローズ「んもぅ、やっぱり行くんじゃない、初めから素直に言やぁいいのに」

 

カイト「…やっぱやめた」

 

ブラックローズ「う〜!!ハッキリしろ!!」

 

青葉(これ、RPG特有の"はい"を押すまで無限回ループするパターンでは…?)

 

カイト「…行く」

 

ブラックローズ「そうそう、そうこなくちゃ…初心者は素直が一番!」

 

カイト「…やっばやめた」

 

ブラックローズ「これって…中途半端なじらし?」

 

青葉(でしょうね…司令官意外と性格悪いとこあったんだ…)

 

カイト「わかった、行くよ…」

 

ブラックローズ「…ワードはΔサーバー、隠されし禁断の聖域だからね」

 

カイトがゲートの方を向く

 

ブラックローズ「パーティに誘いなさいよ?!」

 

青葉(…コメディか何かですか…)

 

 

 

 

Δサーバー 隠されし 禁断の 聖域

          グリーマ・レーヴ大聖堂

 

2人から少し離れた位置に転送する

 

ブラックローズ「うわ……ここって…」

 

カイト「?」

 

ブラックローズ「…なんでもない、さっ、いきましょ?男の子なら、ちゃんとエスコートする!」

 

カイトが聖堂の扉を開く

 

青葉(…中にモンスターが湧いてる?…変な音がする様な…)

 

モンスターの声が聖堂に響く

 

ブラックローズ「え?なんなのなんなのなんっ…!」

 

雑魚のゴブリンが現れ、2人へと近づく

 

カイト「!」

 

カイトがブラックローズの前に出てゴブリンと斬り合う

 

ブラックローズ「い〜や〜だ〜…」

 

…前に出るべき撃剣士は大剣を盾にした様にして後ろで震えている…

なんとも、言えない…

 

パチリと音がした

 

ゴブリンがカイトに斬られ、消滅する

 

ブラックローズ「ふふっ…何よ!弱っちぃじゃない!…こんなの、あたしが手を出すまでもないわ」

 

青葉(声、超震えてますね…)

 

恐怖心と動揺が隠れてない…

カイトもどこかやれやれといった雰囲気だ

 

2人が聖堂の奥へと進む

 

青葉(…誰か転送されてきた?隠れなきゃ)

 

聖堂の中に身を潜める

 

その間に2人は、最奥の台座に鎖で縛り付けられた女の子の像のそばへと行く

 

ブラックローズ「これ、なんだろう…なんだか、切ない…」

 

カイト「…台座に何か文字が……スケィス…イニス…メイガス…あとは削り取られてて読めないな…」

 

ブラックローズ「ねえ」

 

カイト「ん?」

 

ブラックローズ「あたしが初心者だって…バレてるよね…」

 

カイト「うん…まあ」

 

ブラックローズ「そりゃそうだよね…あんだけオドオドしてたらそりゃバレバレか…それなのに付き合ってくれて…アンタ、割といいやつかもね!……あたしね、どうしても調べたい事…」

 

聖堂の扉が大きな音とともに開け放たれる

 

バルムンク「何をしている!」

 

青葉(あの人は…バルムンクさん!)

 

ブラックローズ「なにって…アンタこそなによ!」

 

バルムンク「言い合ってる暇はない!ここは危険だ!」

 

ブラックローズ「は?」

 

…気づかなかった!この感覚!何か居る!

 

バルムンク「逃げろと言っている!!」

 

バルムンクさんが2人へと駆け寄る…が、2人との間にモンスターが現れる

 

バルムンク「早く行け!!たぁっ!!」

 

飛翔し、斬り下ろす

バルムンクさんの剣が最大値近いダメージを叩き出し、モンスターが崩れ、死ぬエフェクトを伴った瞬間…

 

青葉「…ウイルス、バグ…!」

 

モンスターはノイズと共に起き上がる

 

バルムンク「やはり、こいつもか…」

 

ブラックローズ「なによ、なんなのよぉぉっ!こいつってば死んだ筈じゃない!!何光ってんのよ!気持ち悪いぃぃぃっ!そんなんアリなわけ!?」

 

バルムンク「ウイルスバグだ、ウイルスがデータを書き換えている、コイツのHPは…無限だ!」

 

ブラックローズ「こいつが…!」

 

バルムンク「俺がしばらく時間を稼ぐ!その間に脱出しろ!」

 

青葉(…手を貸したい、だけど、今の私じゃ…)

 

ブラックローズ「コイツのせいで……殺してやるーーーっ!!」

 

青葉「えっ」

 

バルムンク「無理だ!これは倒せん!コイツに構うな!死ぬぞ!」

 

バルムンクさんが舌打ちしながらブラックローズを追いかける

 

青葉「!」

 

カイトの表情は、凍りついていた

明らかに、あのオルカさんのことを思い出していた…

恐怖と、絶望に満ちた目をしていた

 

…聖堂に、声が響く

 

『本……本を開いて…』

 

カイト「本…?」

 

『強い力、使う人の気持ち一つで…救い、滅び、そのどちらにでもなる』

 

カイトの前に、あの時オルカさんが手にしていた本が現れる

 

青葉(渡っていたんだ!オルカさんの手から、カイトに!)

 

カイト「う…ううううっ…!?」

 

カイトの手の中で本が開き、電流を散らす

 

カイト「っ…!えぁっ!」

 

カイトは本を投げ捨てる

しかし、本はカイトの方を向き、何かをその右腕に…

 

青葉「色が、変わっていく…」

 

緑のPCが、オレンジに…

 

そして、データドレインが展開され…

 

カイト「う…ああ…うわっ……!うわああああっ!!」

 

データドレインが、ウイルスバグを貫いた

 

カイト「…今の、って…オルカの時と…!」

 

バルムンク「はっ!!」

 

バルムンクさんがウイルスを抜かれたモンスターを斬り殺し、カイトに振り返り、睨む

 

バルムンク「今のスキル…そうか、そういう事か……お前もあのウイルスバグと同類というわけか…そんな奴に、助けられるとはな…!」

 

カイト「そんな…僕にだって何が何だか…」

 

バルムンク「最近The・Worldでウイルスによる被害が発生している、面白半分にウイルスを撒き散らし、この世界を貶めようとする存在を私は……許すわけにはいかない!」

 

カイト「違う!僕は…」

 

バルムンク「抜け!剣を抜け!!」

 

カイト「嫌だ!戦う理由がない!」

 

バルムンク「こちらにはある、抜け」

 

カイト「嫌だ!戦いたくない!僕はただ…」

 

ブラックローズ「ちょっとアンタ!」

 

ブラックローズがバルムンクさんに近づく

 

ブラックローズ「助けてもらっといて!それは無いんじゃない!?」

 

バルムンク「…チッ…」

 

バルムンクさんが剣を納める

 

バルムンク「お前を信用したわけじゃない、ただ…事態が把握しきれていないだけだ」

 

そう言って聖堂の出口へと歩く

 

バルムンク「奴らの仲間だと判断したら、その時は……必ず殺す…!」

 

青葉(……今のバルムンクさんは、頭に血が上ってるな…私がここで口を出しても話は聞いてもらえないだろうし、敵認定されて終わる可能性もある…落ち着いたら接触してみよう)

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