元勇者提督 作:無し
離島鎮守府
秘書艦 アケボノ
アケボノ「なんでこのタイミング…Linkの人間が移って1日も経たずに襲撃…まさかそういう手筈だった?いや、それなら……もう良い、私のやるべきことは一つ…!」
ただ提督を守ること…!
執務室へと走る
砲撃が建物をかなり崩しているために、もうここは長く保たない…
提督は恐らく全隊との伝達、他基地への連絡などで動けてないはず…
アケボノ「提督!!」
執務室の扉を荒々しく開く
海斗「アケボノ…!」
アケボノ「よかった…ご無事でしたか!早く避難を!」
海斗「いや!それよりも全員を広場に集めて!」
アケボノ「何を仰っているんですか!今は一刻を争うんです!」
海斗「それはわかってる!だから……アケボノ!君にしか頼めないんだ、無線が通じないキタカミを始めとする全員を広場に集めて欲しい」
アケボノ「…!」
そう言われては、私は逆らえない
海斗「僕は大丈夫…この部屋は頑丈な作りだからね」
アケボノ「……は、すぐに全員集めて参ります!」
…何も考えがないわけではない筈だ
だけど、この行為は賭けでしかない
博打を打たなくてはならないのは分かっているが、賭け金に自分を含める必要などないのに
教導担当 キタカミ
…身体中痛い
意識が奪われてないせいで、この痛みにだんだんと慣れ始めている
キタカミ「……行かな、きゃ…」
動かない両腕をどうにかして、手をついて、立ち上がり、歩かなきゃ
こうしてる今も、目の前でたくさんの砲弾が撃たれて、みんなに当たるかもしれない
…それは、ダメ
キタカミ「……動け…」
肩を踏み砕かれても、神経は生きてる
肩がダメでも、筋肉と皮で突っ張る
手を、肘をつく
その際普通は肩の骨が体の体重を支える役割を担う
でも私の肩はそれができない
キタカミ「…っ……ぁ…ああぁぁあ…!」
動かすほどに激痛が走る
骨が肉と皮を少しずつ斬るような痛みが体内に走り、悶絶しそうになる
ようやく膝立ちの状態になった時にはもう叫び声を上げる気力もなかった
…でも、行かなきゃならない
目の前にたくさんの深海棲艦がいるけど
今もずっと砲弾を撃ち続けてるコイツらを無視してでも、私は行かなきゃならない場所がある
キタカミ「っ……は…ぁ……はぁ…」
脚だけで立ち上がる
重力に引っ張られる腕が憎いほどに痛む
キタカミ(…あそこに、行かなきゃ…!)
私室前
キタカミ「誰か!居る!?」
そう言ってドアを何度か蹴る
佐渡「キタカミだ!」
早霜「開けるのは待ってください、敵には幻術使いもいるとか…」
キタカミ「…開けなくて、良い…!全員無事かだけ、教えて…!ワシントン達も居るよね…!?」
ワシントン「ええ!海防艦の子達も全員この部屋に避難させてる!貴方こそ大丈夫なの!?」
キタカミ「……ちょっとヤバい…だから、逃げる準備しな…」
早霜「どこに?」
キタカミ「…応答できなかったけど…提督が、運動場に全員集めてる……なんか考えがある筈…!」
ワシントン「運動場ね…!」
…伝えられた、よかった…
ふと、壁にもたれかかり、空を見上げる…
キタカミ「!!」
こっちに、砲弾が…
そう思った時には既に色々と遅かったんだ
もう、止まれなかった
食堂
綾波
しがみついた護衛棲姫を壁に叩きつける
何度も、何度も…それを20…いや30ほど繰り返した頃
綾波「…ようやく、意識を失いましたか」
…それまで必死で喰らい付いていたのだ、評価されるべきだ
誰にも知られず、多数を守ったことを…
綾波「……あなたが私と共に来るのなら、こうはしなかったのに……とても、惜しい…あなたは本当に素晴らしい人だ、敵ながらに称賛の言葉を」
そう言って寝かせた護衛棲姫の肌がだんだんと血色を帯び、元の肌色へと戻っていく
綾波「…敵にこんな言葉を言うことは、本当に稀なんですよ、春日丸さん……素晴らしかったです、お疲れ様でした」
体が人間のものに戻ったからか、床に大量の出血
春日丸さんはあと5分の命だ
私はそう診断した
綾波(…もう、関係ない)
…せめて、安らかなることを
そう思い、食堂から歩いて出る
綾波(……今日は本当に全て予定外だ、失敗するはずの作戦がこんな大打撃になるなんて)
…ここまで侵攻した以上、そのままここは落ちる
落とす想定でなかったのに、落ちてしまう
ついついやる気になってしまったせいで
綾波「!」
…さて、ここまで驚く日はそうないだろう
綾波「なんで、貴方がここに…どうやって…!」
キタカミ「へ…はは……や…調子、良さそうじゃん…」
先程の戦闘でも十分なダメージだったのに、新たに砲撃で腹部と左腕の大部分に火傷を負っている…
そして、顔も多少怪我をしており、口と鼻から血が流れっぱなし
もう立つ気力もないのか、ぐったりと倒れたまま
だけど、この感じ…
綾波(この人に直撃する砲弾じゃなかったんだ…!何かの盾にされた……いや、この表情…自分から、守ったんだ……)
ドンドンとドアを叩く音でハッとする
択捉「キタカミさん!キタカミさん!!」
ワシントン「今外に出ちゃダメよ!」
綾波「…海防艦に、アメリカの…」
キタカミ「……見逃して、くれないかな」
綾波「…なんですって?」
キタカミ「もうさ、情け無いけど、戦える体じゃないんだわ…もう無理、多分一生戦えない、普通の暮らしもできない……と言うか、多分そのうちに死ぬ……それでさ、勘弁してくれない?」
…要するに、自分の命と引き換えに、背中にあるものを護ろうとして…
綾波「……私がその約束を、守ると?」
キタカミ「…約束してくれるなら…守るだろうねぇ……」
…確信している
そういう目だ
綾波「…なら、断るとしたら?」
キタカミ「……どうだろうねえ…」
キタカミさんが仰向けの姿勢のまま、踵を臀部へと近づける
キタカミ「ふっ…!……うぐぐ……」
綾波(まさか、立とうとしてるのか…?……その身体をまだ動かすと言うのなら……とんでもない、無茶をする…流石としか言えない)
キタカミ「…っ!!立て!立て!!」
綾波「……あなたの身体はすでに限界を迎えています…死にますよ、それ以上動くと」
キタカミ「…わかんない、かなぁ…」
綾波「……」
キタカミ「ガキも守れない大人になるくらいなら死んだほうがマシってこと…!」
綾波「…それは…!」
桃色の杭がキタカミさんの周囲に現れ、地面に突き刺さる
そして、何かに引かれるようにゆっくりとキタカミさんが体勢を立て直す
綾波(タルヴォスの聖杭か…随分とお利口だ…しかし…キタカミさんはもう瀕死、ここで無茶をすれば確実に死ぬ、それくらい自分でわかっているだろうに…)
綾波「仕方ないですね…特別ですよ?…あなただからこんな手を使う」
キタカミ「っ……う…?」
綾波「…あなたの鼻、確かに驚異的な嗅覚を持っていますが…でも、それだけ鼻血を垂れ流していては匂いなんて分かりませんよね?」
キタカミさんを霧が包む
キタカミ「…まさか…これは…!」
綾波「はい、イニスです、瑞鶴さんにお力をお借りしてまして…まあ、彼女はすでに自我を失いましたが」
私の背後から、瑞鶴さんが現れる
キタカミ「…そうか…神通達も、そう言うことか…みんな自我を…」
綾波「ええ」
クスリと笑い、キタカミさんの方を見る
キタカミ「……綾波…!」
綾波「今、あなたはどんな状況ですか?答えてみなさい」
キタカミ「!」
キタカミさんが、がっくりと項垂れ、聖杭が消滅する
キタカミ「……鎖で…全身を、固められて……動け、ない…?…なんで…あ、足場が…無い…お、落ちる…!」
綾波「……あなたと私は、よく似ている…アケボノさんとは違うものの、ね」
…背中にあるものを守る覚悟、その覚悟は、きっと誰よりも硬く、強い…
なぜなら蜃気楼に囚われ、現実を見失っているはずのあなたの眼は…しっかりと私を捉えているのだから
綾波「…さて、引き上げますか……おや」
アヤナミ「そうはいきません」
いつの間に後ろに…
綾波「…水鬼程度の力で私にまた戦いを挑むとは…」
アヤナミ「……私と倉持司令官の間には、ある取り決めがありました」
綾波「…なんですか、いきなり」
アヤナミ「ある通信がトリガーになり、そうすると言う約束があるんです…」
綾波(……意味がわからないな)
アヤナミ「…なので、私はその約束を守る」
綾波「……待ちなさい…あなた、確か私が直々に背骨を砕いた筈…」
アヤナミは軽く笑い、こちらを睨む
アヤナミ「そう見えますか?…私の背骨が砕けてるように」
綾波「いいえ、だから疑問なんだ…まさか…」
チラリと瑞鶴さんを見る
綾波「……完全に自我を失っていない、と言うことですか」
アヤナミ「ええ…瑞鶴さんは私と春日丸さんを治療してくれましたよ…そして今、キタカミさんも…」
綾波「…!」
幻覚にうなされてはいるものの、恐らく回復し続けている…
この2対1はマズイ…
アヤナミの目的は撤退のはず…上手く立ち回れるか?
綾波「……痛み分けにしましょうか」
アヤナミ「…痛み分け?」
綾波「ええ、ほら」
ブラックホールが一瞬現れ、朝潮さんを残して消える
朝潮「え…?ここ、は…」
アヤナミ「……やはり、マーキングしてるんですね」
綾波「ええ、朝潮さんの位置は、常に把握しています」
アヤナミ(どこに…腕か、脚か…首?いや、脳に……?)
綾波「朝潮さんをこのままネット空間に放り込まれるか、それともあなたが引き下がるか」
朝潮「…!」
アヤナミ「……随分と追い込めましたね、綾ちゃんからそんな提案を引き出せるなんて」
綾波「そう思って結構です、実際かなり困ってますから」
アヤナミ「なぜ、倉持司令官に朝潮さんを狙うと言ったんですか」
綾波「アウラの残滓…それがまだ残ってるからですよ…わかるでしょう?」
アヤナミ「!」
…アヤナミが、笑った
綾波「何か面白いですか?」
アヤナミ「あなたがそんなくだらないものに…固執してる様が、面白いんです」
綾波「…チッ…!」
踏み込み、お互いにハイキック…
先ほどと同じ…
綾波「!?」
ではない、この力…
アヤナミ「私の力を水鬼程度と思わない方がいいですよ…!改までなら……引き出せる!!」
押し切られ、体制が崩れる
綾波(こんな事が…!改どころか、改二に限りなく近い!…さすがオリジナルのボディ…!私の培養した体の不完全さをこれでもかと教えてくる…)
神々が創造せし人類と、私が作った偽りの存在、その差を…はっきりと目に見える形で
綾波「……」
アヤナミ「……」
睨み合い
アヤナミからは仕掛けてこないのは明白だ、恐らくアヤナミは時間を稼ぎに来た……なら、私から仕掛けなくてはならない…
綾波(どうする、転移を見られた時点で次の移動先を先読みされて攻撃されかねない…距離を取るか?……それが一番ベターだが、それではおそらく…目的に影響する)
……どれほど睨み合ってるのか…
アヤナミ(……まだ、かな…司令官に連絡してそろそろ10分経つ…いや、誰か連絡がつかない…)
アヤナミの視線が一瞬だけ、泳いだ
綾波「隙を見せましたね」
アヤナミ「ッ…かハ……」
転移からのうなじへの膝蹴り
そのまま地面へと押し倒す
綾波「あなたの計画は破綻です」
アヤナミ「…ぐ……」
綾波「……おや」
アヤナミのポケットからこぼれ落ちた無線機がザーザーと音を鳴らす
アヤナミ「どうやら……でも、ないようです…!」
綾波「…な…?」
信じられない事が起きた
キタカミさんの周りに出たあのエフェクト
そして、周囲に発生した音……
間違いない
私のブラックホールの転移だ
アヤナミ「……私の体内には、改二カートリッジのデータがある…それを明石さんと…取り出して、作り上げた……もう一つの、アヤナミ改二」
アヤナミが、転移して消える
綾波「……アハ……ハハハ…ハハハハハ!!」
…まさか、それを、手にしてるなんて