元勇者提督 作:無し
横須賀鎮守府 医務室
実験軽巡 夕張
夕張「〜♪」
パソコンと向き合いながらコードを打ち込み、カートリッジの内部データを書き換える作業を始めてすでに2時間
このカートリッジの改造さえ終われば今日の仕事は終わる
キタカミ「…ねえ」
ベッドから起き上がり、キタカミさんが気怠そうに声をかけてくる
夕張「はい?」
キタカミ「…ここって」
夕張「大丈夫、盗聴器監視カメラ無線機、その類は何一つ置いてません、あるのはこのオフラインのパソコンと、いくつかのコンセントだけ、そこも盗聴器のチェックは毎朝してるし」
キタカミ「……成る程ね、起きてたのもバレてたんだ」
夕張「アヤナミさんと私の会話を聞かれてるって気づいた時は殺されるかと思ったけど…大丈夫ですよ、そちらに敵意がないならこちらも何もしません…あ、そうだ、お腹減ってませんか?」
キタカミ「……まあ、でも今の私何か食べても…あー…そっちも聞きたかったんだ、なんで私怪我してないの?あんなにズタズタになってたはずなのに…」
夕張「あなたがここにきた時、既に瑞鶴さんが治療した状態でした、だから貴方が意識を失っていたのは精神的なダメージが大きな要因」
キタカミ「…なら、今も精神的に穏やかじゃない私に…」
夕張「大丈夫、貴方はちゃんと守りきれました、そこに寝てる人以外に怪我人は…まあ、軽症以外ではいないし、死者も勿論ゼロ、そしてみんな宿毛湾に先に移動しました」
キタカミ「…よかった…」
夕張「……さて、これで終わりと」
パソコンのディスプレイをスリープモードにしてキタカミさんの方を向く
夕張「さて、何食べます?私のおすすめはエースコックのワンタンメンですけど」
キタカミ「…お湯少なめ時間長めで」
夕張「おお…それは美味しそう…」
キタカミ「カレーうどん?…そっちはカップ焼きそばにたぬきそば…」
夕張「カレーラーメンですよ、ほら、カップヌードル」
キタカミ「いや、そういうことじゃなくて…なんでそんなに作ったのさ、お腹は減ってるけど流石に食べきれないよ…?」
夕張「いや、そうじゃなくて…ここってサイバー攻撃には絶対完璧な防御の自信があるんですけどね…」
キタカミ「…何?なんの話?」
夕張「ここは、ネット回線も通らない作りになってて、最低限の電気しか通ってません、なので情報とかの流出には…デジタルの面では強いんですけど…そろそろ3分経つから出てきて?」
天井の一角が外れて那珂と川内が降りてくる
キタカミ「……成る程ね」
川内「や、キタカミ」
那珂「なんで気付かれたのかはわからないけど…」
夕張「…ま、私も伊達に横須賀鎮守府所属の艦娘じゃないですし?あ、はいこれワンタンメン、お湯少なめ時間長め」
キタカミ「…ああ、うん…今食べんの?」
夕張「2人もどうぞ」
那珂「あ、じゃあラーメンで」
川内「じゃあ蕎麦にしようかな」
キタカミ「…で、あんたが食べるのがそのカップ焼きそば?」
夕張「いえ、ほら、起きてください、もうお互い腹の中を見せ合いませんか?」
キタカミ「…誰に…」
川内「アレかな」
川内がベッドの一つを指す
春日丸「……」
ゆっくりと春日丸さんが起き上がり、こちらを向く
夕張「貴方も回復してるんだし、起きてるはずだとは思ってました」
春日丸「…そうですか」
夕張「はい、これ」
春日丸「どうも…」
川内「……相変わらずカップ麺生活?」
夕張「美味しいですよ?」
川内「栄養…」
那珂「そんなこと言いながら食べたら美味しくなくなるじゃん…」
夕張「まあ、そんなことは置いといて…先に食べちゃいましょ?それから話しても遅くはないでしょ、ね?」
キタカミ「ふう…ご馳走様」
川内「せめてネギ入れたかったなあ」
夕張「さて、ここに横須賀、呉、さらには離島の主要メンバーが集まったわけだし…いや、ちょっと違うな、春日丸さんは…個人として、綾波さんのことを想っている」
春日丸「…だとしたら何だというんですか」
夕張「……さて、どうしようかな…何から話せば良いのか」
そう言ってイジっていたカートリッジを拾い上げる
夕張「これをみて」
カートリッジを起動する
持っていた手が、白く染まる
キタカミ「!」
川内「その腕、深海棲艦の…!」
夕張「っ……うぅ…っ…」
右腕が焼けるような感覚…
那珂「だ、大丈夫…?」
夕張「…これは……っ…深海棲艦の力を使う…春日丸さんや、アケボノさん…イムヤさんのデータを使ったカートリッジ…所謂ダイバーと呼ばれる力を…再現したもの…っ」
カートリッジが手からこぼれ落ち、膝を突く
それとともに腕が元に戻る
夕張「っ…はぁ…はぁ…っ…!これは……負担、大きいわね…!」
キタカミ「それを見せて、どうしたかったのさ」
夕張「…すぅ…はぁ……深海棲艦、それがなんのために生まれたのか…って、知ってますか…」
川内「なんのために、生まれたか…?」
夕張「…この世界は、もともと艦娘も深海棲艦も居ない世界…本当なら、存在しなかった世界…だけど、ある存在のために、生み出されてしまった」
那珂「ちょっと待って、意味わからないんだけど…」
夕張「……深海棲艦は人工の産物です、そしてそれはある存在のために作られた」
キタカミ「さっさとその正体を教えてくれる?」
夕張「…前の世界に存在せず、そして…強大過ぎる力ゆえに、生まれた歪みとも言える存在…それが、反存在、クビア」
川内「クビア…!?話には聞いたことあるけど…」
キタカミ「なにそれ」
那珂「…うちの提督が戦ったって言ってた、The・Worldのカウンタープログラム…巨大な力をぶつけ合い、対消滅する為のプログラム…」
夕張「正確には倉持司令官達も戦った事がある…巨大な存在で、全てを破壊する…そういうプログラムだって聞いてる」
キタカミ「……ねえ、それで、その話の続きは」
夕張「…本来、クビアはThe・Worldで強大な力が行使された時に現れる存在だった…でも、思い出して、前の世界…あの世界は、ネットとリアルがほとんど融合していた…だから、あの戦いの終わりの時…」
川内「世界が、再誕するときに産まれた…?」
夕張「そう、そしてこの世界には、The・Worldが誕生する前からクビアがいた」
那珂「…それで?」
夕張「ただ…クビアは、リアルに居たわけじゃなかった、ネットの中に囚われた存在として、産まれてしまった……だから、クビアは…実態を求めた、私たちのように」
キタカミ「私…達?」
夕張「私たちはもともとデータだった事、忘れた?…再誕の影響で肉体を得て、まだ10数年じゃない?」
川内「……でも、深海棲艦が…いや、クビアゴモラ…」
夕張「色々考えてるみたいだけど違う、深海棲艦は失敗作なの」
那珂「失敗作?」
夕張「深海棲艦は死体で構成されてる、死体を細かくして……いや、魚で例えるとさ、魚粉っていう乾燥した魚を粉にしたものがあるでしょ?それを練って練り餌を作る…それが、動き出したのが深海棲艦」
キタカミ「…それは、なんとなく知ってる」
夕張「流石に、一度深海棲艦にされてると嫌でもわかるか…うん、人間の体をものすごく細かくして、その一つ一つがナノマシンのような働きをする…細胞を人工のものに置き換えるようなもの……ナノマシン、そこが重要なの」
那珂「…ナノマシン…機械って事?」
夕張「そう!…機械、つまり、ネットに接続する力があるの」
川内「まさか、それを依代に…?」
夕張「そう、クビアは現実の肉体を得る為に、人間の死体を利用しようとした…ある研究機関に働きかけてね、その研究機関は人の死滅した細胞を再活性化させ、ネットに接続させ……そうすると何故か、深海棲艦が出来上がってしまった」
キタカミ「そこは偶然の産物だった…?」
夕張「みたいね、しかも…クビアを現実に呼び出すには、質量が足りなかった」
那珂「質量が足りない…?」
夕張「クビアはもともと、超巨大な化け物だったの、だから…その身体をそのまま呼び出すには、島を埋め尽くすほどの肉片が必要だった…しかも、召喚が失敗でもしたら…全部ぱあになる」
キタカミ「だから、深海棲艦は人を襲う…?」
夕張「勿論、深海棲艦も生物として存在する以上は…エネルギーがいる、だけどそれが別の生命を喰らう事でしか補給のできないものでもある」
那珂「……ねえ、待って?深海棲艦が産まれた理由は分かったけど、それは…今なんの意味があって、教えられたの?」
夕張「綾波は深海棲艦の軍勢と、サイバーコネクト社、その2つに協力してクビアを呼び出そうとしてる」
夕張(…そして、おそらく…)
キタカミ「…何故?」
夕張「…さあね、でも、クビアはその研究機関にこう言ったの「強すぎる存在を破壊するための力…世界の均衡を崩すもの、それを破壊する、究極の抑止」…世界を救う為の研究として、クビアの研究は始まったの」
川内「核抑止を、超える抑止?」
夕張「そういう事…核とは違い、世界を汚染することの無いクリーンな力、そういう名目だった」
那珂「…それを今も目指してる理由って何?」
夕張「クビアのウソを看破してるから、クビアの真意を利用したい存在がいる…それだけよ」
那珂「ウソ?」
夕張「…クビアは、倉持司令官…いや、かつての勇者カイトとの戦いに於いて、対消滅を避けたがったし、ギルドG.U.…つまり、ウチの提督やら三崎司令達との戦いにおいても自身の消滅を避けたがった」
川内「…それで?」
夕張「肉体を求めたのは、消滅を避ける為…利用されるためなんかじゃない、そう気づいた人達は、自身の都合の良い世界を作るため、クビアを取り込もうと考えている」
那珂「…結局、世界征服って事?」
夕張「…有り体に言えば、そうかもね…それで、今、敵達はクビアを呼び出す為に必要な超大量の深海棲艦を用意するのは…あまり合理的ではない、と考えてるの」
川内「合理的ではない?」
夕張「これをみて」
小さな手のひらサイズの装置をみせる
夕張「これは、ネットとリアルを融合させる装置」
キタカミ「は?」
3人が構える
夕張「焦らないで、これを発動すると小さなエリアだけ、限定的に融合させるの、Limited space fusion device、LSFDって呼ばれてる装置」
川内「それで」
夕張「クビアを現実に呼び出して肉体を与えるのは、リスクがあると考えたの…もし反逆されたらダメージは深刻でしょ?だから、活動できる範囲を決めて、言いなりにさせることにした」
那珂「それをするのがその装置?」
夕張「そう、でも、まだ開発段階で…ちゃんとは動かない、これが完成したらどこかで実験するとは聞いてるけど…」
キタカミ「それが離島鎮守府か…!」
夕張「多分ね」
キタカミ「……成る程、少し納得したよ…あそこは日本を刺すための前哨基地にも、守る防波堤にもなる」
夕張「あそこに 大型のLSFDをおいて、日本まで攻められちゃ…みんな死んじゃうかもね」
キタカミ「……待って、LSFD…って、小型のもあるの?」
夕張「これがそう、手のひらサイズ」
川内「…あ!ウイルスバグ!」
夕張「…かもね、ウイルスバグが急に出てきたのは、実験段階に入った証明なのかも……私の知らないところでね」
那珂「…ねえ、ダイバーとそのカートリッジ、なんで…」
夕張「……今見せたのは、ちょっとした、保険…私は、敵対するつもりはない、ね?」
キタカミ「…どうだか」