元勇者提督 作:無し
The・World R:X
Θサーバー 蒼穹都市 ドル・ドナ
双剣士 カイト
欅「世界規模のサイバー攻撃です、流石に綾波さんといえど1人ではこなせません、それに此方もかなりの人員を投入している…きっと何処かで逆転の目がある筈です、しかし…」
カイト「…問題はそれだけじゃ無いでしょう…?ぴろし3やなつめさんが…!」
欅「お二人は今自宅に救急車を向かわせています、電話回線なども急いで取り返そうとはしていますが…」
カイト(…埒があかない…!)
カイト「どうするのか!教えてください…!私は何をすればいいのか!」
欅「…青葉さんにはネズミを駆除してもらいたいです、それだけは今カイトを操作できるあなたにしかできない」
カイト「……綾波さんはネズミを使って世界を滅ぼすつもりなんですか…?」
欅「断言はできません、それにネットに対してここまでの攻撃を仕掛けるメリットは…彼女にも薄い筈」
カイト「メリットが、薄い?」
欅「彼女達、深海棲艦の力を使う人間は細胞全てをナノマシンとし扱い、ネットに接続できる、果たしてそのメリットを放棄するでしょうか」
…そんな力があったなんて
でも、そのメリット以上の何かが…
カイト(…いや、待って、蜘蛛の巣に囚われてるのは、私達だった…?)
…そうだ、よく考えろ
ここは、The・Worldは綾波さんの蜘蛛の巣だ
そこにいる人たちを助けるための手段だ…と考えてたけど
私達はその蜘蛛の巣にいる、囚われている人たちを救うつもりが、囚われていたのは私たちもなのかもしれない
カイト「……一度、ネズミを狩るにしても、一度一般PCを避難させましょう…!ここに居させるのは危険すぎます!」
欅「それは…難しいですね、彼らはここを唯一の娯楽として考えています、The・World以外のオンラインに接続するシステムは何も使えませんから」
カイト「…それって、The・Worldからいろんなところにアクセスしたりは…」
欅「そのルートで復旧作業をしています」
カイト「……どう、しよう…私は、どうすれば…」
ネズミを狩るのが正しいのか?
いや、きっとあのネズミの数は途方もない
100や200では効かないだろうし、そうだとしても対処しきれない
…でも、私にも、唯一できることがあるのなら
このカイトのPCボディを使うのではなく…
カイト「欅さん…全PCを一度、このドル・ドナに集めることができますか?」
欅「…何をするつもりですか?」
カイト「10分でいいんです、10分くれれば…最悪の事態を防げる…かも…しれないんですけど…その…無理かもしれないですし…」
欅「…わかりました、あなたが思う最善の手を打ちましょう」
〜10分後〜
青葉「…よし、できた、きっちり10分!」
ゲート前を見る
次々とプレイヤーが現れ、混乱の様子を見せる
青葉「……すぅ…はぁ……大丈夫、私はやる、絶対に大丈夫…」
ぎゅっと紙束を握り、プレイヤー達の集まりの方へと歩く
笑われるかもしれない…いや、笑われるだろう
信じてもらえないだろう
でも、やらなきゃ
キタカミさんに言われたことだけど、私のアイデンティティは物じゃない
でも、アイデンティティを物にできる時もある
青葉「すぅ……号外ー!!!」
そう言って走りながら紙束をばら撒く
「な、なんだなんだ?」
「…新聞?」
新聞と呼べるほど立派なものではない
実に粗末な、簡易的な物だけど、他のプレイヤーに注意喚起するための新聞もどきを放り投げて配る
「ネズミのモンスターに注意?」
「デッドリーフラッシュって、あの?随分昔の」
青葉(お願い、信じて…!)
信じてくれるはずがないことはわかってるけど
信じてもらわなきゃならない
このThe・Worldでその事件が起きたら、どれほどの犠牲者が出るのか、という…最悪の事態が脳裏によぎったのだから
青葉「っ…」
気づけば、私はプレイヤー達に囲まれて前にも後ろにも、進めなくなっていた
…でも、臆することはない
でも、伝えて、わかってもらいたい
1人でも多くにこれを伝えて、被害を防がなきゃならない…!
「あの、青葉さんですか?」
青葉「へっ…?」
「いつもブログ見てます!」
青葉「…えと、恐縮です…?って!それより今The・Worldは危険なんです!ネズミのモンスターもしくは今まで見たことのないようなモンスターを見たら逃げてください!」
「あいつ有名人なのか?」
「なんか有名なブロガーだって」
「本当なのかなこれ」
「実はレアモンスターで横取りされたくないだけだったりして(笑)」
青葉「私の仲間が2人!今意識不明で倒れています!だから…だから皆さんは逃げるなりなんなりしてください!!お願いします!The・Worldでこれ以上事件が起きちゃいけないんです!」
「うわ、マジに頭いかれてんじゃないの」
「知り合いが死んでブログのネタにしてんのかよw」
…なんと言われようが、構わない
この事態を認知さえしてくれれば…最悪、たおした瞬間に目を瞑ってくれれば良い
そうすれば…
青葉「好きに笑ってくれて構いません!だから…」
…視界の端に、紫色のエフェクトが見えた
チラチラと、そのエフェクトが散って、落ちて消えていくのが
ハッキリと見えてしまった
そうだ、当然だ、もし大量に人をやるのが狙いなら、ここで何もしないわけがない!ここに人が集まっているのだから…
やってしまった
人を集めたのは、間違いかもしれない
青葉「……どいてください!!」
人の波をかき分け、ネズミを追う
青葉(どうする!どうする!?)
今の私にデータドレインはない!
カイトに切り替える前に誰かがネズミを捕まえて、万が一閃光を浴びたら…!?
青葉(絶対にさせない!!!)
青葉「道を開けて!!」
槍を大きく振りまわし、無理矢理道を開く
青葉(どう倒す!いや、とにかく人目のない所に…)
欅「
闇の球体にネズミが呑まれる
青葉「け、欅さんっ!?」
「あ、あれ!月の樹の欅様だ!」
「やめたんじゃなかったのか!?」
あの技のエフェクト、こんなに長く持続したっけ…いや、そもそも…あんな技だったかな
…まさか、技を改変した…?ネズミ狩りの為に?
欅「大丈夫ですか、青葉さん」
青葉「あ…え…?」
欅「今はあなたが頼みの綱、無茶はいけませんよ」
青葉「…!…すみません…でも、ここにいる人たちを…」
…全員を守るには、私がやるしかなかった…
欅「…みなさん!聞いてください!この方の言っている事は真実です!」
青葉「欅さん…」
「月の樹が言うなら、本当なのか…?」
「ちょっとヤバいかもね…」
明らかに、周囲の雰囲気が変わる
ログアウトするPCも出始めた…
青葉「あ、ありがとうございます!これできっと…」
欅「ええ、今ここにいる人たちには、真実かもしれない…という気持ちが宿っています、そうなれば、きっと迂闊な行動はせず、自分の身を守ってくれる…はずです」
…そう、上手くいけば
青葉「っ!?」
欅「これは…!」
2人揃って、転送される
???
??? ???
青葉「…真っ白な、部屋?」
真っ白な世界、そして、赤い三角形の傷痕
そして、一部が抉れ、浮かび上がった部分に大量に積まれた本
欅「…ここは」
コツ、コツと…小さく足音が響く
その足音に振り返り、槍を向ける
青葉「!……あなたが、何故ここに…」
…いや、いてもおかしくはない
全ての行動はここで行っている筈なのだから
居るべきなのは事実だ、だが、分からないのは何故姿を表したのか
青葉「綾波さん…!」
綾波「なに、ほんの…余興ですよ」
青葉「余興…?もし何も行動せずに、進んで仕舞えば…どれだけの犠牲者が出ると…」
綾波「……それはあなたが防いでしまった、まさかあんな手段で止めるとは…ネットワークジャーナリストとしてすごい活躍ですね?」
青葉「ふざけないでください!!」
綾波「ふざけてなんていません、でも、あなたが居てくれて本当に良かった」
青葉「さっきからあなたは何を…」
綾波「真実とは、案外手のひらの内に握られている物、だと私は思いますよ」
青葉「だとしても!それが真実であるとは言い切れない…結局は可能性の一つでしかない!」
綾波「可能性ですか…」
綾波さんが私を指差す
いや、正確には、私の隣にいる…
綾波「そのAIはアウラになれなかった、そんな醜くて可哀想なAIに、何を期待してあなたは連れ回しているのか」
リコリスさんを指差してそういう
綾波「シンパシーでも感じましたか?人並みのように生かしたいという、情でも湧きましたか?AIに対して」
青葉「違う!そんなのじゃ…」
綾波「知ってますか?ヒガンバナには毒があるんですよ…致死量に達する前に、手放してしまわないと…ね?」
ぞわり、と…背中を何かが撫でる
青葉「……毒…?」
リコリスさんの方を向く
閉じられている瞳と、目が合った
綾波「くくく…アハハハハハハッ!!あなたは実に脆い、大任を担い、目が曇っているらしい…今のあなたは本当にあなたなのですか?そのリコリスは、青葉さん、あなたじゃなくて…アルビレオを求めている」
アルビレオさんのことまで、知って…?
青葉「な、何を、証拠に…」
綾波「自分のエディットしたPCすらも忘れましたか?そんな目を、していましたか、あなたは」
ハッとして、目に手を当てる
二色のオッドアイ
アルビレオさんと同じ、連星の…
綾波「せいぜい、頑張ってください…青葉さん?」
青葉「う……うわあぁぁぁぁッ!!」
…つい、我を忘れた
否定したくて、私自身が失われるのが許せなくて
綾波さんにヴォータンを突き刺した
綾波「…実に、脆い」
そう言って、綾波さんは消えていった
青葉「はぁ…はぁ…ッ…はぁ…!」
欅「青葉さん」
青葉「……っ…問題ありません…戻りましょう」
欅「いいえ、一度休んでください、ひどく、消耗している」
…自分でもわかってるけど、今止まるのは
欅「大丈夫、あなたは良くやりました、だから」
青葉「っ……う…」
視界が、ぼやけ…て……