元勇者提督 作:無し
宿毛湾泊地 食堂
重巡洋艦 青葉
…ぼんやりと、重たい手を動かし、箸で少量の米粒を椀から捻り取り、口に運ぶ
咀嚼し、嚥下するまでにかかる時間がいやに長い
噛んでも味がしない、頭にはずっとあの巨大なバケモノの事しかない
あれが、クビア…
私の知っているクビアは、R:Xで出会った私を騙した少年のPCだったのに
いきなり浮島のバケモノが現れ、クビアと呼ばれた
何をどう、捉えればいいのか
そもそも、スケィスは倒せたのだろうが…
八相を舐めていた
八相の強さは私の想像を遥かに、超えていた
私は弱い、あの巨大なクビアにも、他の八相にもきっと歯が立たない
悔しい
次こそは、次の敵は
でも、敵は私が強くなるのを待ちはしないだろう
それに、私は何も知らない
結局あそこにいたのはスケィスだけで…
…何を考えていても、答えはここにはない
行かなくてはならない、The・Worldに…
でも、行くのが怖い
まだ、全身が痛い…私は斬られればその部位にダメージがフィードバックするのだから
杖で殴られ、氷漬けにされ、私の体はボロボロなのだから
…でも、止まりたくはない
止まろうとした自分に腹が立つ
まだ、走り続けるんだ
だから…
箸が椀から少量の白米を掴み取り、口へと運ぶ
青葉(…大丈夫…上手く立ち回れば、死にはしない…次は、もっと!)
青葉「あぐっ…った!?」
ベキッ
口内で嫌な音が鳴る
青葉「…噛む力が強すぎて、お箸が折れちゃった…」
食事だというのに、つい嫌に力んでしまったか…
漣「どもー」
青葉「うわぁっ!?」
いつの間にか、真正面に漣さん…いや、周りを七駆のメンバーに固められてる…!
漣「そんなに驚かれるなんて、漣ショック!オヨヨ…」
潮「で、でも良かったね、無視されてるんじゃなくて…ほんとに気付いてなかったみたいで…」
青葉「え?わ、私に用事ですか…?な、なんでしょう…?」
アケボノ「執務室に出頭命令です」
青葉「え!?」
出頭命令…?私、一体どんな粗相を…
いや、というか司令官がつまらない事で出頭命令を出すとは思えない
…なんだろう、そういえば私は一度深海棲艦になりかけたせいで綾波さんに攫われたことがある
まさか本部に呼び出されて、解剖でもされるんじゃ…
朧「ややこしい言い回ししなくて良いでしょ…青葉さん、出頭命令じゃなくて、ただ、近いうちに少し遠出するからそれについて話があるって事らしいですよ」
青葉「と、遠出…?」
潮「心当たり、ないんですか…?」
青葉(……あ!病院!お見舞いだ…!すっかり忘れてた…)
青葉「あ、あります!ありますあります!すぐ行ってきます!」
慌てて席を立つ
漣「あぇ?!ま、まだご飯途中!」
曙「それよりも重要な用事なんでしょ…あ、エビフライも〜らいっ」
朧「じゃあ…トマト貰お」
潮「朝からフライはちょっと重いよね〜」
漣「え、食べんの?みんなで新しいのもらってくれば…」
潮「でも、これ…ご飯しか手をつけてないみたいだし…食料は大事だからね…」
アケボノ「せっかくのミックスフライなのに勿体ないですね…おや、このコロッケ…クリームコロッケか」
漣「な、なんと!ミックスフライ定食のコロッケは20個に一つはカニクリームコロッケという噂は真でござったか!」
アケボノ「そんな噂無いわよ」
執務室
青葉「失礼します!」
海斗「あ、そんなに慌てて来なくてもよかったのに」
青葉「い、いえ!すみません!それで…!」
海斗「明後日、時間が取れたから新幹線で愛知に向かう事にしたんだけど…青葉は、来る?」
青葉「もちろん、行かせて下さい…!」
海斗「わかった、今は2人に直接会うのは難しいかもしれないから、担当のお医者さんに会うだけになるかもしれないけど…」
青葉「それでも、行きます」
海斗「分かった、調整しておくよ」
それだけの会話をして、執務室を出る
青葉(…お二人にも良い報告をするために、私は…!)
The・World R:1
Δサーバー 水の都 マク・アヌ
重槍士 青葉
青葉「……誰もログインしてない、か」
誰かを誘って探索するにも、誰も居ないのでは…
いや、でも…タウンにこんなに人がいないのは珍しいな
どこを見て回っても、誰もいない
青葉「The・Worldそのものが無人の状態だったりして…あはは…」
ヘルバ「あら、本当に誰も居ないのかしら」
青葉「ひゃあ!?へ、へへっへ…ヘルバさん!?」
ヘルバ「久しぶりね、青葉」
青葉「え、あー…お久しぶりデス…」
ヘルバ「そう固くなることはないわ、それより、今のあなたに手を貸せることがある気がしてね」
青葉「へ?」
liam.cylを手に入れた
青葉「え、何これ…いや、.cyl…!?」
ヘルバ「貴方が連れているそのAIの機能を拡張するプログラムを組んでみたわ、如何かしら」
青葉「liam…mail…メール機能…?」
リコリス[liam.cylを、わたしにください]
リコリスさんの発言がログに流れる
青葉(これを、認識してる…?いや、でも…)
ヘルバ「随分と迷っている様ね、心配ないわ、それはゲーム内からメーラーにアクセスすることができる様になるだけ」
青葉「……なぜ、私に手を貸そうとするんですか」
ヘルバ「…イレギュラーだから、かしら」
青葉「イレギュラー?」
ヘルバ「貴方もトキオも、あの司達の事件から一切の痕跡を残さず消え…そして、今戻ってきた、何かに呼ばれたかの様にね」
青葉「それは…」
ヘルバ「これで、「何にもありません」…なんて、通用すると思って?」
青葉「……何もないとは言いません、言いませんが、だからこそ関わらない方がいいこともあるはずです」
ヘルバ「だったら、なぜ貴方はそれに関わる道を歩いているのかしら」
青葉「それは…退けない事情が、あるから…」
ヘルバ「理由をつけるのは簡単よ、逃げ出すための理由をつけるのも」
青葉「…投げたりなんか、しません」
ヘルバ「なら、きっとそれは役に立つわ」
青葉「……」
持っていたヴォータンを地面に突き立て、リコリスさんの手をキュッと握る
青葉「ヘルバさんには、この子が見えてるんですか」
ヘルバ「…見えている、というと少し違う、認識しているというべきね、データのログには、そのリコリスというAIが写っている」
青葉「……リコリスさんは、機械じゃありません、データでもありません、AI…」
AIでもない、とは…言えない
そうだ、勿論AIだ、だから、AIであることを否定したいわけではない
データであることを否定したいわけでもない
何より、私にはできない、私達には、データも、AIも否定できない
ヘルバ「…つまり、特別な存在…とでも?」
青葉「…私にとっては」
ヘルバ「だからその機能を埋め込む様な真似はしたくない…って事かしら?」
青葉「…ええ、私は、リコリスさんを便利な端末にするつもりはありません」
ヘルバ「……それならそれで私は構わない、なら…」
別のアイテムを渡される
青葉「…これは」
ヘルバ「さっきのアイテムと合わせて使えばメーラーとしての機能を使える様になるわ」
青葉「…そうですか」
青葉(デスクトップに戻れば問題ないんだけど…確かにR:1にいて、アドレスを使い分けずに済むのは便利かも)
ヘルバ「また会う事になると思うわ」
ヘルバさんが転送されて消える
青葉「……うーん…嫌な、感じ」
メーラーを起動し、閲覧する
青葉「…あ、サーバートラブル!?」
クビアが出てから自然とゲームが落ちてたけど、如何やらサーバートラブルで落ちたらしい
というか、未だに復旧前…
青葉(未来から来てるから入れたけど、本当は誰も入れないタイミングだったんだ…どうりでどこにもPCがいない訳だ…)