元勇者提督 作:無し
離島鎮守府 跡地
綾波
綾波「…漸く、快復しましたか…」
…体の感覚が漸く戻ってきた…つい先刻まで指先一つ痺れて動かせなかったと言うのに
綾波「だれも私の寝首を掻かなかったんですね?意外でしたよ」
夕立「……ほんとうに意識がなかった?」
神通「無かったんでしょうね、まあ、随分と長い居眠りでしたが」
綾波「……ん…あの、ヘルバさんと直接やり合ってたんです…私の脳みそもオーバーヒートして休眠期間に入ってましたよ」
夕立「それで?」
綾波「さて、そろそろ良い頃ですか?…ちょっと遊びに行きましょうか、私達の仕事を再開するにはちょうど良い」
神通「…まだ調子が悪いんじゃないですか?」
夕立「喋り方に違和感があるっぽい」
綾波「え?…あー…どうやらまだ熱があるようですね…仕方ない、お出かけは次に…っ?」
尻もちをつく
夕立「…本当に死にかけてる?」
綾波「……いや、そこまでではありませんよ、ですが…まだ麻痺が残っていたか…」
神通「言語機能まで麻痺していたんですね」
綾波「その様で……っ…と……それで、私が倒れてる間に何か、大きな進展は?」
神通「いいえ、全ては貴方が主導となって動いてます、だから貴方が落ちている以上、何も動きませんでした」
綾波「クッ…あははっ!マヌケですよねぇ…指示がなければ何もできない奴らが偉そうに踏ん反り返って…!」
夕立「それより、どうするの?」
綾波「ニンゲンを量産します」
神通「…はい?」
夕立「人間?」
綾波「ええ、人間です…」
軽く手を打つと駆逐級の深海棲艦が雪崩れ込んでくる
綾波「よしよし、良い子達ですねぇ…深海棲艦の中でも、駆逐級は特にコストを安く量産できる…とか太平洋棲姫はほざいていましたが…あれは本当にバカです」
一体の駆逐級に触れる
夕立「なにを…」
綾波「人間にするんですよ、神通さん、貴方も手を貸してください」
神通「…データドレインを使えと?」
綾波「ええ、特に手を加える必要はありません、人間に戻しさえすれば良い」
夕立「…なんで人間に戻すっぽい?」
綾波「下準備ですよ、彼女らは皆、私達の兵力になる…いや、多くて半数かな」
触れていた一体が一瞬光を放ち、人間の姿に戻る
綾波「さて、お名前は?」
浦風「う、浦風…」
綾波「そうですか、浦風さん、喋れると言うことは…本能的に身体の動かし方もわかりますね?…ふむふむ…見てる限り異常も無さそうだ…」
神通「…待ってください、貴方は今何を…」
綾波「データドレイン、私独自に作り上げた物ですがね…碑文の力を使わずとも発動できるんですよ」
夕立「…なんでそれを夕立にはくれないっぽい?」
綾波「必要ないからです、これは深海棲艦を人間に戻す力しかありません」
神通「それより、なんで人間に戻したんですか、貴方は…」
綾波「裏切るのか、ですか?……それは違う、心配しなくても私は気が狂ったりはしていませんよ」
神通「では何故…」
綾波「世界で最も恐れられることとは何か…はい、答えてください」
夕立「戦争…?」
神通「……隕石が落ちたり、地震が起きたり…」
綾波「そうですね、両方正解です、個人レベルで恐れている世界的な恐怖…しかし、最もと質問に付け加えたのですから、本質的には間違いとも言える…浦風さん、貴方は何が一番怖いですか…?」
浦風「へ…?あ…こ、怖い…?…し、死…死ぬのが、怖い…」
浦風さんの目を見て、笑う
綾波「正解です、大正解…最近は安楽死など自ら死ぬ者も居ます、でも、生物の本能的に…死とは恐ろしくて仕方のないものなんですよ」
夕立「…それで?」
綾波「深海棲艦は陸上での機動力には欠けます、過去に上陸した際も、数で轢殺する様な行為は行いましたが……結局のところ、遅さのあまりに人命的な意味での被害は多くはないんですよ」
神通「…陸戦部隊を作ると?」
綾波「それも良いですね、まあそれなら最初は空襲で事足りる気もしますが」
夕立「結局何がしたいっぽい…?」
綾波「艦娘の信用を奪いましょう」
神通「信用を、奪う…?」
綾波「貴方は何になりたいですか?」
別の駆逐級に触れて微笑む
綾波「貴方も人間に戻りなさい」
駆逐級が人間になる
綾波「さて、名乗ってください」
山風「や、山風…」
綾波「そう怯えなくて良いんですよ、あなたは私たちと“同じ”なんですから」
山風「お、同じ…?」
綾波「私達は…同じ神の胎から産み落とされた人間という存在です…だから、安心しなさい」
神通「綾波さん、貴方の目的が未だ見えてきません、艦娘の信用を奪うとはどう言うことですか」
綾波「…2人とも、立ってください」
浦風さんと山風さんを立ち上がらせる
綾波「神通さん、どう見えます」
神通「…どう、とは…?」
綾波「人間ですよ、2人とも」
夕立「…まさか、人間が人間を?」
綾波「大正解、流石夕立さん、変な所鋭いですねぇ」
神通「……その人達に、襲わせると?」
綾波「いいえ、私達も加わって…いや、もっともっと大規模にやりましょうか」
神通「…本気ですか」
綾波「今更、怖気がつきましたか?」
神通「……いいえ」
綾波「よろしい」
夕立「…確かに、武装してる女の子がいたら、艦娘だと考えるのは当たり前っぽい…でも、それで信用が落ちるなんて…」
綾波「簡単に落ちますよ、なんで私がサイバー戦争してたと思ってるんですか、世界中のニュースサイトにこんな記事を仕込んできました…「人の死体が深海棲艦になる、深海棲艦とはゾンビだ!」ってね」
神通「…それを見た人達は、襲撃した艦娘が深海棲艦を増やそうとしていたと思う…」
夕立「深海棲艦が居ないと戦争の相手が居なくなる…から?」
綾波「そうですね、きっと一般の人はそう思うことでしょう…だって私がそう誘導しますから…深海棲艦が減ったから自分達で増やして、戦争を続けようとしてるって…どんどん非難が増える」
神通「それでは、艦娘は…」
夕立「大衆にそんな刷り込みをしたら続けるのが難しくなるっぽい…って言うか、そんなレベルじゃない、国の世論が動くっぽい…」
綾波「ええ、最終的には艦娘が居なくなる…世界が無防備になる…それが私の狙いですよ、これを各国で行うとどうなるか、楽しみですね」
神通「…確かに、普通ならただのテロで済むでしょう…でも、それを年端も行かない少女が先導することで“艦娘がやった”と言う強い印象をつけられる…」
綾波「敢えて生存者を出すことで一気に情報が広がりますよ、艦娘という商売はもうできません」
夕立「商売…?」
綾波「ええ、商売として続けることはできないんです…お金が絡んでいないという証明をした上で深海棲艦と戦う事でしか、艦娘は続けられない」
神通「…利益ではなく、正義のために戦うと示さなくてはならない…」
綾波「はい、そうなると…どれだけの人が残るでしょうねぇ?…いや、無理やり残らざるを得ない状況にさえして仕舞えばそらも容易いことなのですが」
神通「…それで、最終的にどうなるんですか」
綾波「小回りの効く力…要するに特殊部隊…これの代わりが今は艦娘ですが…それが失われると、国は特殊部隊を再編成したり、艤装ではなく兵器に技術を転換したり…まあ、てんやわんやですね」
夕立「兵員も募る必要があるっぽい」
綾波「そして、再構築してる途中に…クビアが世界に産み落とされる」
神通「…クビア」
綾波「対抗する術が無ければ、クビアをどうこうすることは不可能です、陣を一度自ら崩したら…再構築するまでの過程はとんでもなく脆い」
神通「…核ミサイルは?」
綾波「ああ、そんなものもありましたね…しかし、それが通用する相手ではないんですよ、だから、私たちはそれにあぐらをかいて眺めてるだけで良い…世界の終焉をね」
夕立「じゃあ、夕立達の仕事は…」
綾波「お察しの通り、クビアが出てくる場を整えることですよ…と言っても、あと数手で詰みのパターンに入ることになりますから…御安心を…おや」
装甲空母鬼「御快復、オ喜ビ申シ上ゲマス」
綾波「どうも、何か用ですか?」
装甲空母鬼「東雲様ガ御不在ノ間ニ我々モ少シ、進展ガアリマシテ」
綾波「……聞かせてもらいましょうか」
装甲空母鬼「アカシャ盤…トイウモノヲ御存知デスカ?」
綾波「ええ、知っていますよ」
装甲空母鬼「ソレニアクセスシ、記録ヲ再生スル事ガデキルヨウニナリマシタ、故ニ…」
綾波「何をするつもりかは興味はありません、私の邪魔をしたらあなたの頭が飛んでいくので気をつけなさい、以上です」
装甲空母鬼「ハ、ハッ!」
綾波(……思ったより、まずいかもしれない…歩調を合わせるつもりが、そうもいかない…か?)