元勇者提督 作:無し
宿毛湾泊地 近海
秘書艦 アケボノ
アケボノ「二班は左舷の安全を確保しなさい!阿武隈さん!強襲を受けた部隊は!」
阿武隈『合流はしましたが…敵が見えません!』
不知火『海中も爆雷などで警戒しつつ動いていますが…何処にも姿がありません、哨戒部隊をエサにしているのかと思いましたが…』
アケボノ「どうなっている…」
哨戒班は全滅、しかし生存している
自力で動けないために回収部隊が合流した
だが、一番問題なのは合流までに戦闘がなく、今の所深海棲艦の目撃も無いことだ
アケボノ「…哨戒班を拘束した上で搬送してください、何か仕込まれているかもしれない…意識がある人から何か聞き出せませんか」
阿武隈『そ、それが…哨戒班旗艦のアトランタさんが…敵は、人間の姿をしていたって…というか、あたしだったって…』
アケボノ「は…?」
…何を、言って…
アケボノ「…貴方、本当に阿武隈さんですよね?本物はすでに海の藻屑なんてオチ…」
阿武隈『ホンモノです!ねえ不知火ちゃん!?』
不知火『さあ、一度撃って確認してみますか』
アケボノ「それは妙案ですね」
阿武隈『2人とも遊ばないで下さい!?』
アケボノ「冗談はさておき、考えられるのは瑞鶴さんのイニスによる幻影ですね、コンパスは持ってますか?すでに術中にある可能性もあります、方向を見失わないで」
…予想通り幻覚なら、なんとも悪趣味な話だ…
いやそれ以外手段はない
朧『アケボノ!アケボノ!こちら二班!敵と交戦してる!今すぐ来て!』
アケボノ「朧…?」
朧が救援を求めるような敵…
海面を蹴り、速度を上げて朧の方へと移動する
朧『敵は…ぁっ!?』
アケボノ「朧!…チッ!二班!応答できる人間は!」
ガングート『おい!どうなってる!何故貴様が無線を使ってる!』
アケボノ「…何?どういう意味…」
ガングート『私の前にいるのはなんだ!』
アケボノ「次は私の幻覚か!趣味の悪い…!」
アケボノ「チッ…!」
辿り着いた時には、全滅、そして…
アケボノ「…逃げた、いや…」
敵の姿はない
アケボノ「…どうなってる…?いくら私の幻影だったとして…偽物だったとして…いや、たかが蜃気楼に朧達がやられる?」
倒れている朧に駆け寄り、観察する
アケボノ「!…これは…」
朧の太腿にある傷、間違いない、レ級の尻尾についた大顎による咬み傷
ガングートさんの艤装の破壊の痕からも、喰らった砲撃は戦艦級の砲弾であることは間違いない
アケボノ「…ただのレ級にやられる様なメンバーじゃない…チッ…何処に行った…!!」
薬瓶から薬を取り出し、飲み込んでレ級へと姿を変える
レ級「…水中なら、逃さない」
水中に潜り、周囲を確認する
アケボノ「…なんで、何もいない…!」
…深海棲艦も、私も
蜃気楼を操るはずの瑞鶴さんすらも居ない
アケボノ「…なんでだ…どうなっている…!!」
わからない、それが無性に腹立たしい
わからないままでは何をどう報告するべきか…
アケボノ(いや、落ち着け…情報は朧達が持っている、焦ることは何もない)
アケボノ「こちらアケボノより全隊へ、急ぎ撤収せよ、泊地に帰還ののち防衛体制に入れ」
…敵の正体は綾波達で、私や阿武隈さんと錯覚されたのは、行方不明で綾波と合流したであろう瑞鶴さんの仕業である
そう考えるのが自然なのに
なんだこのモヤは
視界を曇らせる様なモヤが払えない
宿毛湾泊地 工廠
キタカミ「…交戦した部隊は全滅か、一番ヤバいのは、朧が一方的にやられてることだよねえ…うちの主戦力の1人がさ」
アケボノ「ええ…未だ目を覚ましていませんが、断片的な情報から私の偽物と出会った様で…」
キタカミさんが杖を私に向ける
キタカミ「…それなら一応、拘束されといてくれる?」
アケボノ「……」
キタカミ「もちろん違うのは知ってるよ、わかった上で言ってる…だって匂いが違うからね、朧からしてる匂いは、少し違う」
アケボノ「なんの話です」
キタカミ「……すごーく、悪い話」
アケボノ「悪い…?」
キタカミ「…朧から、いろんなやつの匂いがする…アケボノは勿論、私自身や、川内とか、青葉とか、瑞鳳とか、本当にいろんなやつの匂い」
アケボノ「…どういう事ですか」
キタカミ「人間の匂いってさ、もちろん体臭はあるんだけど、何をしてきたかでその素の大衆も多少なりとも変化したり、もっと言えば明石なんて2、3日工廠から放り出していても機械の匂いがする」
アケボノ「…それで?」
キタカミ「朧からする匂いは、それがないんだよ、血と汗と、乾いた皮脂、素の体臭…それだけ」
アケボノ「……すみません、意味がわからないです」
キタカミ「たとえば、明石が今まで工廠に一度も立ち入らなければ機械油の匂いなんて絶対つかないよね、それと同じなんだよ、不純な匂いが一切無いんだわ」
アケボノ「……では、いろんな奴の匂いがする…というのは」
キタカミ「…あのさ、一つ思い当たる節があるんだけど…アヤナミと狭霧連れてきてくれる?」
アケボノ「…まさか、朧が出会ったのはクローン、だと…?」
キタカミ「結論を急ぎ過ぎ……でもないか、私はそう考えてる」
アケボノ「…可能性はあるのか…」
綾波は、自分のクローンを複数体生成している、不可能ではない…
キタカミ「…でも、気になるのは、血と汗の匂い…乾いた血の匂いがベッタリついてる、私は綾波と
アケボノ「というと」
キタカミ「綾波なら身なりは整えさせるだろうよ、管理してるのは他所かな」
アケボノ「…ふむ」
キタカミ「で、提督は?」
アケボノ「そろそろ戻られるはずです」
キタカミ「…弱ったなぁ…今日の哨戒班が全滅ってなると…明日から誰動かそう、少し強いやつにしないとなあ」
アケボノ「…呑気ですね」
キタカミ「私は私の仕事してるだけだよ、それ以上に首突っ込む気は、まだ無い」
アケボノ「…今動けば、被害は抑えられるかもしれませんよ」
キタカミ「提督が言ったら動くさね、あんたもそうでしょうよ」
アケボノ「……」
キタカミ「それに、朧がオチてるのにこれ以上主戦力を差し出してどうすんのさ」
アケボノ「…哨戒のルートを狭めますか」
キタカミ「いや、人数を増やす」
アケボノ「え?」
キタカミ「哨戒の範囲はそのままに人数を増やす形を具申してくる、これで哨戒網を狭めさせるのが狙いだったらどうなるよ」
アケボノ「…もし、海を自由にするのが狙いだったら…狭めた時点で向こうの思い通りに」
キタカミ「じゃあ、もう一つは?」
アケボノ「もう一つ?」
キタカミ「哨戒範囲を狭めて、基地のそばにいる奴らを…一網打尽」
アケボノ「…成る程」
キタカミ「哨戒班はサブの部隊として考えなよ、基地が襲撃された時にすぐに戻れる素早い、なおかつ弱くは無い奴らが適切さね、常に基地の外に人間を配置しておく事で…全滅は防ぐ」
アケボノ「それはわかりましたが…」
キタカミ「相手の狙いがなんであれ、少しでも逃すよ…私はただの面倒見ぃだから、私は最終的に、艦娘なんて無くなって、みんな普通の生活すりゃいいと思ってるからさ」
アケボノ「…ええ」
キタカミ「……不知火!走るな!」
アケボノ「…どうしました」
キタカミ「不知火が走ってこっちに来てた…ほら」
背後の戸が開き、不知火さんが入ってくる
不知火「報告します、朧さんの意識が回復し、至急お二人、もしくは倉持司令にお会いしたいと」
キタカミ「…行くよ」
アケボノ「はい」
病院
アケボノ「あ…提督、お戻りになられてましたか」
海斗「うん、ごめん、先にそっちに行くべきだったのかもしれないけど…」
青葉「さっき阿武隈さんから連絡があって…」
キタカミ「……その様子だともう話は終わってるみたいだね」
海斗「まあ…ね……朧、もう一回話せる?」
朧「…敵は、アケボノでした、私は不意をつかれて側頭部を蹴られて、尻尾に噛まれて振り回されて、そのままやられたんですけど…ものの20秒で全滅させられて…」
アケボノ(あの変なタイミングで無線が切れたのは、噛まれた時?)
朧「一応意識はまだ残ってて…その……消えたんです」
キタカミ「消えた?」
朧「はい、風に吹かれて消えるみたいに、そのアケボノは一瞬で消えました」
アケボノ「…だからどこを探しても居なかった」
でも、そんな事…
朧「レ級の力とアケボノとしての力、それだけじゃない、アケボノの誰のスタイルでも真似る様な動きも、してた……だから一瞬迷った…本物かもって…その…それだけです」
キタカミ「……」
青葉「あの…いいですか?」
アケボノ「なんでしょうか」
青葉「ペナンの方に呉の方が向かった際のこと、覚えてますか?川内さんが私と同じ戦い方をする人を見たって」
アケボノ「……ああ、確かに聞いたことが」
キタカミ「…そういう事か、あの白い服のやつら、服を脱げる様になったってわけ?」
アケボノ「…中身は、コピー元そのままか……ふざけた真似を」
海斗「そのコピーは、どこの誰が操ってるのかな」
アケボノ「そんなの、綾波に…いや」
キタカミ「うん、私も綾波ではないと思ってる」
青葉「……嫌なタイミングに、どんどん問題が重なりますね…」