元勇者提督 作:無し
The・World R:X
Θサーバー 蒼天都市 ドル・ドナ
カイト「そもそも、今はThe・Worldのサーバーは一般のユーザーには解放されてないけどね」
八咫「それどころか、このサーバーにいるのは我々2人だけだ」
…そう、管理者PCすら居ない
完全にこのサーバーを、The・Worldを放棄した様な状態
CC社は今、表向きには状況の打破に注力している事になっているけど…
八咫「…ネズミの破壊力は恐ろしい物だな、碧衣の騎士団…デバッガーチームがほとんど病院送りにされた」
2件のネズミの出没事件、その2件で調査にあたったCC社のシステム管理者合計30人がフラッシュを直視することになり、入院を余儀なくされた
カイト「…碧衣の騎士団っていうのは、僕はあんまり詳しくないけど…」
八咫「君の思ってる以上の集団だ、プレイヤーとしての腕も一級品、知識と技量を持ち合わせたThe・Worldの番人だ」
…それが壊滅状態になる
その重さはよくわかっている
八咫「…待て、このタウンのデータが…」
カイト「…何かいる?」
八咫「エリア一つ分、膨らんだ…碑文使いPC並の何か…」
カイト「……」
見渡す限りは、どこにも、誰も居ない…
何が潜んでいる?何がここにいる?
八咫「…気をつけろ、たった2人で相手取る事になるやも…」
カイト「!」
画面にノイズが走る
八咫「手遅れか」
カイト「この感じ…八相!?」
八咫「そんな筈はない、The・Worldの時間データを逆行してくるなど…っ…!」
カイト「どこから来る…!」
…背筋が凍る様な感覚
八咫「…ぐ…っ…!?」
八咫がうずくまり、苦しみ始める
カイト「八咫!」
八咫「っ……この感覚…まさか、私を…追って…!」
紋様が八咫に浮かび上がる
八咫「あ…蒼ざめた馬の、疾駆するが如く…疫病の風…境界を越えゆく…」
カイト「これは…フィドヘルの予言…!?しかも、これは…!」
かつてフィドヘルを撃破した時、第二次ネットワーククライシスの予言…
八咫「阿鼻叫喚…慟哭の声…修羅、巷に満ちる…逃れうるすべ…無く…」
カイト「なんで、この予言が今…!八咫!しっかりするんだ!」
八咫「…時、は…不可逆…なればなり…っ…不可…ぎ……ぐ…」
カイト「八咫!」
八咫がよろよろと立ち上がり、虚な目をこちらに向ける
八咫「……境界を越えし勇者、試練の先に真の力識る…闇の帷を、降ろす鍵…」
カイト「さっきと違う予言…!?」
八咫「境界を壊す鍵…終末の鍵となりて、全てを呑み込む…世界、反転の刻にて…」
カイト「終末の鍵…反転の…?」
八咫「……かつての英霊、今に揃いし時、楔を断ち…真なる道進まん…」
それを言い終わると八咫がパタリと倒れる
カイト「八咫!……ダメだ、意識がない…横須賀に連絡しないと」
リアル
宿毛湾泊地 執務室
提督 倉持海斗
大淀『倉持司令、連絡していただきありがとうございます』
海斗「拓海の容体は…?」
大淀『問題はありません、ただ意識を失っただけの様です、しかし…予言ですか』
同時に二つの予言…なんの意味があるのか
海斗「…こっちで少し探ってみます」
大淀『お願いします、こちらも提督が快復次第、連絡を差し上げます、それと、青葉さんにもお礼を伝えておいてください』
海斗「わかりました…では」
受話器を置く
海斗「青葉、連絡してくれてありがとう」
横須賀への連絡は、宿毛湾、横須賀、両基地に居る青葉を通じて行われた
青葉「いえ…でも、現代のThe・Worldで何が?」
海斗「…多分、フィドヘルと八咫が共鳴してたんだ、それで、予言を…」
…でも、なぜ二つ?
海斗(…ヘルバにメールしよう、The・Worldだけで済めば良いけど…そうもいかない気がする、対策はしっかりしないと)
海斗「…何が起きるんだ…?」
The・World R:1
Θサーバー 高山都市 ドゥナ・ロリヤック
重槍士 青葉
青葉「…あ、メール…ログイン前に見ればよかった……あ、でもこう言う時に…」
メーラーを呼び出し、閲覧する
青葉(便利、助かるな〜…)
[差出人:ワイズマン
件名:黄昏の碑文
約束の碑文の一節だ。
禍々しき波の何処に生ぜしかを知らず。
星辰の巡りめぐりて
東の空
分かつ森の果て、定命の者の地より、波
行く手を疾駆するはスケィス
死の影をもちて、阻みしものを掃討す
惑乱の蜃気楼たるイニス
偽りの光景にて見るものを欺き、波を助く
天を摩す波、その
こはメイガスの力なり
波の
希望の光失せ、憂いと諦観の支配す
暗き未来を語りし者フェドヘルの技なるかな
禍々しき波に呑まれしとき策をめぐらすはゴレ
甘き罠にて懐柔せしはマハ
波、
いやまさる過酷さにてその者を滅す
そは返報の激烈さなり
かくて、波の背に残るは虚無のみ
虚ろなる闇の奥よりコルベニク
されば波とても、そが先駆けとなるか
君たちが遭遇したモンスターは、
碑文に記されている「スケィス」「イニス」
である可能性が高い。
これ以上は安易に推測するべきではない。
伝説のハッカー、ヘルバとコンタクトを取ることを勧める。
ヘルバはネットスラムを拠点としている。
東北南西北
楽園への扉開かん。
ネットスラムに行くためのまじないだ。
君に夕暮れ竜の加護があらんことを。
本来はカイトにしか送らないつもりだったが
友好の証としてこれを君にも送ろう]
青葉「…成る程?…ヘルバさんの居場所なら、私はわかる、逢いに行ける!すぐに知らせないと…!…あれ?もう一通ある…」
[差出人:カイト
件名:ネットスラム
Λサーバー、動脈する 最悪の 中心核
このエリアワードからネットスラムに行けるみたいです。
バルムンクがプロテクトを解除するのに必要なウイルスコアをくれたので、先に行っています。]
青葉「え…?」
バルムンクさんが、ウイルスコアを?
おかしい、腕輪も何もないのになんでウイルスコアを手に入れられた?
…おかしい、明らかにおかしい
なんであんなに敵対していたバルムンクさんが…!
青葉「いかなきゃ、ネットスラムに!」
ネットスラム
青葉「…まだ誰も来てないか」
先回り…ではないけど、私はかつて司さん達と共にネットスラムに来たことがある
だから、直接来る方法も知っている
青葉「…みんな、来てないのなら…少し待つしか無いかなぁ……」
…頭部だけが顔文字になったへんなキャラクターや薄っぺらい2Dキャラ
頭をテレビに置き換えていたり、赤黒いシノビ装束の剣士がいたり
青葉(前来た時よりも賑やかだなあ…いや、それよりも…なんだか、薄暗さが増した…)
賑やかと言っても騒がしいわけじゃ無い
ただ、静かに鎮座しているだけのPCが増えただけの話
ヘルバさんのプログラムにより、イリーガルな存在が集められた場所、ネットスラム
ここにいるのは全て、AIなのか…
カイト「…あれ?青葉?」
青葉「あ、どうも、先に来ちゃいました」
ブラックローズ「アンタどうやったのよ…?」
トキオ「そ、それより…ここ」
青葉(あれ?トキオさんが居るなら…)
青葉「トキオさんも直接転送できたんじゃ?」
トキオ「え?…いや、オレはここの転送の仕方、知らないし…」
ブラックローズ「ってか、なんなのよここ!変なのばっか…きも悪ぅ…なんなのコイツら…!」
カイト「うん…ここがネットスラムみたいだね」
頭がテレビのキャラがこちらを向く
シーア「そう言う言い方をする人もいるわね…わたしたちは楽園と呼んでるわ」
青葉(喋った!)
カイト「ヘルバはどこに…?」
ブラックローズ「青葉、アンタなんか知らないの?」
青葉「た、たぶん、中心とか?」
青葉(全然わかんないけど…)
カイト「…ここの人達、一応話せるみたいだし…居場所を訊いてみようか」
クルフフ「本物の偽物、偽物の本物、どっちが本物?」
ドリン「君たちは今本当に起きているかい?頬っぺたをつねったってダメさ、僕らの夢は本当にリアルなんだ」
カイト「えっと…」
ブラックローズ「ヘルバの居場所…」
ドリン「君たちは本当に起きているかい?」
トキオ「ま、またおなじこと言い始めた…」
スコンク「知らない、知らないよぉっ…ほんとに何にも知らないよっ…うふっ」
ブラックローズ「ゲーセンにある古いゲームみたいなグラフィックね…」
青葉「今時2Dのゲームは逆に新鮮ですよね…」
カイト「ヘルバについて聞きたいんだけど…」
スピリタス「物事を突き詰めて考えると言う作業は自問自答を繰り返すことによって、完成度が高まっていくものである、それは蒸留酒を作る作業に酷似していると言え無いだろうか、私の名前もそうした理由でつけたのだ、安直に他人に救いを求める前に、自らが考え答えを導き出すべきである、よって、私は貴方達の質問、“ヘルバについて聞きたいんだけど”に答える意思は無いと答えよう」
ブラックローズ「……長っ」
トキオ「早口すぎて何言ってるかわからなかった…」
青葉「半分くらい聞き流してましたけど」
カイト「…個性的な人たちばかりだね…」
青葉「ま、まあ…」
青葉(吹き溜まりですし…)
タルタルガ「ヘルバをお探しか?」
カイト「っ!」
全員が声のした方向に振り返る
緑色の杖をついた老人…
青葉(…醜いマスターヨーダ…いや、自分で思ってなんだけど失礼すぎる…)
でも、その細長い量の手足で支えられた不釣り合いに大きい頭…
どうしても綺麗な格好とは言えない蓑の様な衣、伸びっぱなしのあご、口周りを覆うヒゲも、やはり清潔感はない
カイト「…はい、ヘルバを探してます」
タルタルガ「ヘルバから多少は聞いておる、黄昏の碑文な……ざっくり言って、それ自体は精霊の時代がいかにして終わりを告げるかを語る物だが…」
カイト「終わりの、物語…?」
タルタルガ「さよう…しかし、テキストも散逸してある上に、これがえらく難解でな…一筋縄ではいかん」
ブラックローズ「あの……さっきから気になってたんだけど、ここの人達って他では見かけない姿ばっかりだけど?」
タルタルガ「ここは元来、失敗作と呼ばれるNPCの集う、データの吹き溜まりだった、それを面白がり、キャラデータをいじくり回して失敗作をロールするプレイヤーも集まる様になってな」
トキオ「なんでそんな事…」
青葉「楽しみ方なんて、人それぞれなんですよ」
タルタルガ「さよう、今となって、その境界も曖昧になって自分がPCかNPCなのかもわからなくなっているようなヤツもおる…もしかすると、既に肉体はなく、キャラデータのみが動き回ってる様なやつもおるかもしれん…そう……ハロルドの様にな」
カイト「ハロルド?」
ブラックローズ「な、なにそれ…怖い話…?」
声が大きく響く
ヘルバ『どうしても……モルガナと話し合う必要がある』
ブラックローズ「ひぃぃーっ!?な、なんなのよ!」
ヘルバ『彼女のところに行くには、生身の身体が邪魔になる、だとしても、行かなくては…私達のアウラのために…エマ、私にあと少しの勇気を…』
声と共に、ヘルバさんが空中から降りてくる
カイト「ヘルバ!」
青葉(…今のは…)
ヘルバ「この世界の創造者、ハロルド・ヒューイックの言葉よ」
青葉(じゃ、じゃあハロルドは生身でこの世界に…!?)
ヘルバ「で、私に何の用?」
ヘルバ「黄昏の碑文…ぼうや達もそこまで辿り着いたのね」
青葉「っ…?」
羽ばたく様な、音…
ヘルバ「あら、珍しいお客さんだこと、ネットスラムを代表して歓迎するわ、楽園へようこそ」
カイト「バルムンク…」
青葉「バルムンクさん…!やっぱり…!」
ネットスラムの廃屋の上から、バルムンクさんが羽ばたいて降りてくる
ヘルバ「あなたはリョースについた訳ね、偉そうに言ってた割には、脆いもんね」
バルムンク「俺はお前らとは違う!」
青葉「…そうか、ワイズマンさんが言っていたリョースとバルムンクさんの密会…そしてカイトさんに渡したウイルスコア…システム管理者ならウイルスコアを取得する方法があってもおかしくはない…!」
ヘルバ「ぼうやの跡をつけ回すなんて、フィアナの末裔の名が泣くわよ」
カイト「バルムンク…僕たちを利用したのか…?…僕は、ウイルスコアをもらった時、和解できたと…」
ブラックローズ「だから言ったでしょカイト!こんなやつ信用するなって!」
バルムンク「秩序を取り戻すためには仕方のない事だ…!」
ヘルバ「秩序?世界が欲する秩序とあなたの欲する秩序……あるべき姿はどちらかしら?」
バルムンク「……」
リョース「無論!私が望む秩序だ」
全員が空を見上げる
大量のポリゴンが商人NPCの形を作り上げる
青葉「リョース…!」
ヘルバ「真打登場、役者が揃ったわね」
青葉「…どうして同じシステム管理者でも、こうも違うのか…!」