元勇者提督   作:無し

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記録 十字架

宿毛湾泊地 執務室

提督 倉持海斗

 

海斗「うん、うまく潜り込めたみたいだよ、向こうのヘルバにも勘づかれてないみたいだったし」

 

ヘルバ『それは重畳ね、でもあなたの狙いはうまくいくのかしら』

 

海斗「…それはわからないよ、でも、フィドヘルの二つの予言の意味を僕は知らなきゃいけない、だから過去に行く必要がある…」

 

ヘルバ『シックザールはネズミの反応があったという報告を鵜呑みにしてるからこそあなたの行動に目溢ししている、でも、事態はそううまくはいかない』

 

海斗「……」

 

ヘルバ『あなたは、過去の世界で何をするつもりなの?』

 

海斗「フィドヘルの予言を、もう一度聞く…それに、境界を超えし勇者…多分、トキオ…トキオが、世界に闇をもたらす存在になるのかもしれないから…そうなったら、僕が止めなきゃ」

 

…フィドヘルの予言は、近い未来を指す

 

何かの終末が近いうちに起きかねない

それを防ぐ為に

 

海斗「…何が起きてるのかは、僕にはとても測りきれないけど…隠れて観測するのは、少し続けてみるつもりだよ」

 

ヘルバ『そう、私から言うことは何もないわ、ただ、気になる事が一つ』

 

海斗「なに?」

 

ヘルバ『…サイバーコネクト社がアカシャ盤の権限を一部何者かに譲渡してる』

 

海斗「……過去に別の敵が出てくるって事?」

 

ヘルバ『さあ、何が起こるかまではわからないわ』

 

海斗「……」

 

 

 

 

 

The・World R:1

Λサーバー 文明都市 カルミナ・ガデリカ

重槍士 青葉

 

青葉「……」

 

このグチャグチャになった世界を見ているほど、心が落ち込んでいく

 

わかってる、わかってるんだ、ここは過去の世界だって

でも、私たちのやった事が…間違っていたのか?

私たちのやったことに自信が持てない

不安を解消するには、真実を知るしかない

それには司令官に聞くのが一番早いのはわかっている

…聞きに行こう、とは思うんだ

でも、足が止まって、口が開かなくなる

 

青葉(…我ながら、ヘタレてるのか、なんなのか…)

 

大きくため息をついてカオスゲートをチラリと見る

 

青葉「あ」

 

カイト「…あ、青葉さん」

 

青葉(…今更だけど、さん付けに違和感出てきたなぁ…でも、司令官と過去の司令官を区別するのに有用っていうか…まあ、訂正するのも今更だしいいか…)

 

青葉「…っ!?」

 

異様な気配を感じ、背後に振り返る

 

青葉「あ、あなたは…ミアさん…?」

 

かなりの前傾姿勢で、がっくりと項垂れたように

そして、ゲームキャラにしては明らかに異様な…虚ろな目

 

ミア「……ああ…キミ達か…」

 

声に生気がない…

 

ミア「今日は随分と人が少ないね…ああ、そうか!今日はお祭りなんだ」

 

カイト「お祭り?」

 

ミア「すべての囲いが解き放たれて、自由に行き来ができるようになる…ステキじゃないか?」

 

ハキハキと、なのに、ゆらゆらと

…不気味な声が、耳から離れない

 

…不安になり、手がミアさんに伸びる

 

ミア「ボクに触るな!」

 

青葉「!?」

 

…はっきりと拒絶した

怒気と、嫌悪感を孕んだ声で

 

ミア「……そうだ、エルクを知らないかい?また置いてきちゃったかなぁ…あるかはどこ?」

 

カイト「どうしたんだミア…?なんか、変だよ」

 

ミアさんは、それに応えることなく何処かへと転送されていった

 

青葉「……っ…」

 

物凄い手汗で、コントローラーが滑る

今の一瞬で、まるでスケィスと戦った時のような疲労感が私にのしかかる

 

カイト「……ミア、どうしたんだろう」

 

青葉「…さあ」

 

わからないけど、不安になる…

 

転送エフェクトを伴って、さらに誰かが現れる

 

トキオ「あ」

 

青葉「……貴方ですか」

 

トキオ「何その反応!?」

 

青葉「いえ…」

 

トキオ「あ、そうだ、ちょうど良かった、聞きたい事があったんだ」

 

青葉「……私に?」

 

この人が私に質問とは、珍しい

いや、そもそも敵対してるのだから会話自体が最低限だ

 

トキオ「…オレたちが気絶してるとき、カイトが2人いなかった?」

 

青葉「えっ」

 

カイト「僕が…2人?」

 

青葉「夢でも見たんじゃないですか」

 

トキオ「…そうかな…確かに見た気がするんだけど…倒れてるカイトと、戦ってるカイト……ほら、それにあのあと、フィールドに変な三角形の痕があったけど…」

 

カイト「そうだっけ…?」

 

青葉「みんな戦うのに必死でそんなこと覚えてませんよ」

 

トキオ「……もしかしてオレの気のせいだったのか…?」

 

青葉「そうですよ…ところで…カイトさん、どこかに行く途中ですか?」

 

カイト「えっと…実は、ミストラルから呼び出されてて…」

 

青葉「…あ、そのメールなら確か私ももらってます、マク・アヌですよね」

 

カイト「うん、なら、一緒に行こう」

 

 

 

 

Δサーバー 水の都 マク・アヌ

 

ミストラル「…あ」

 

青葉「たまたま会ってしまったので、3人できました」

 

カイト「用事って何?」

 

ミストラル「…んっと…あのね…」

 

カイト「うん」

 

ミストラル「前から言おうと思ってたんだけど、なかなか言い出せなくて…」

 

カイト「なんか、ミストラルらしくないよ(苦笑)」

 

ミストラル「ごめん…あたし……主婦です!もうすぐ赤ちゃん産まれます!」

 

青葉「えっ」

 

ミストラル「だから…もう、怖いのとか、危ないのとか、ダメなの…ゴメンね、最後まで手伝いたいんだけど…」

 

カイト「そうかぁ…全然気づかなかった…すごいなあ…ミストラルはお母さんになるんだ…おめでとう!」  

 

ミストラル「そんな…」

 

カイト「話はわかったよ、無理しちゃダメだよ」

 

ミストラル「キミたちこそ、無理しちゃダメだよ!…それが言いたくて呼んだんだけど…」

 

青葉「ありがとうございます、ミストラルさん、頑張ってください」

 

トキオ「応援してるよ、ミストラル!」

 

ミストラル「気をつけてね」

 

カイト「うん、ミストラルも」

 

ミストラル「じゃあ…またね( ; _ ; )/~~~」

 

ミストラルさんがログアウトする

 

カイト「……じゃあ、僕も」

 

トキオ「うん…でも、もうミストラルに会えなくなるのか…寂しくなるな…」

 

青葉(思えば、私はそこまで関わりがある方じゃなかったけど…カイトさんたちに取っては、大切なメンバーの1人だったんだろうな…)

 

青葉「……」

 

トキオ(…の、残るんだ…シックザールと2人で残されるのって…凄く気まずいな…)

 

青葉「…あの」

 

トキオ「えっ、あ…何?」

 

青葉「…もう関わらない方が良いですよ、私たちが関わって、時代がおかしくなったせいで…メイガス相手に全滅するところでした」

 

トキオ「…それは、お前たちが時間を滅茶苦茶にしてるからなんじゃないのか…?」

 

青葉「だとしたら、私がメイガスとの戦いで貴方たちを助けた理由は…なんですか?」

 

トキオ「それは…」

 

トキオ(確かに、そうだ…わからない…)

 

青葉「それでは」

 

カルミナ・ガデリカを選び、転送する

 

 

 

 

Λサーバー 文明都市 カルミナ・ガデリカ

 

青葉「っ…」

 

よくないタイミングで、来てしまったらしい

 

カイト「……」

 

ブラックローズ「ああ、青葉、アタシ落ちるから、またね」

 

ブラックローズさんが私を通り過ぎてゲートからログアウトする

 

青葉「……落ちたんじゃなかったんですか」

 

カイト「…うん、なんとなく…落ちられなくて」

 

カイトさんが、此方に視線をやる

 

カイト「…弱音を吐いたら、怒られちゃった」

 

青葉「…そうですか」

 

壊れたタウンのグラフィックを指先でなぞる

 

カイト「なんのために怖い思いをしてきたか、考え直せって…うん…僕達は、オルカのために…未帰還者のために戦ってきた…でも、僕らが何かするたびに良くないことが起こってきた…」

 

青葉「それは、結果論に過ぎません」

 

カイト「…事実なんだ、目を背けられないような…でも…僕は…オルカのためにも、止まれないんだ」

 

青葉「…強いんですね」

 

カイト「みんなが、居てくれるから…今度こそ、落ちるよ、ブラックローズのメール、読まなきゃ」

 

カイトさんがログアウトするのを見届ける

 

青葉「…あれ、メール?」

 

[差出人:ブラックローズ

  件名:ファイト

 

なんだか分からないことだらけだけど、

きっと、うまくいくって!

みんなとは連絡とれないけど……

アタシはどうにか平気みたい。

いつでもよんでよね]

 

青葉(ブラックローズさん…)

 

[差出人:青葉 

  件名:Re:ファイト

 

送る相手、間違えてますよ…。]

 

青葉「…明日は、みなとみらいに行かなきゃいけない…か…」

 

槍の切先を地面に突き刺し、天を仰ぐ

 

青葉「…リコリスさん、私…戻って来られますよね…?」

 

…結局、まだ何も掴めていない

リコリスさんのことも、槍のことも

 

青葉「…また、メール?ブラックローズさんかな」

 

[差出人:ワイズマン

  件名:NPCについて

 

これは確証のある情報では無いのだが、碑文について探っていた時に耳にしたものだ、それでもよければキミに伝えたい。

 

Σサーバー、談笑する 謀略の 双子

 

ここの最奥部にはかつて謎の英文の綴られたアイテムがあったという、もしかすれば…。]

 

青葉「英文のアイテム….cyl…か…?」

 

…関わるべきではないはずだ

だけど

 

青葉「…リコリスさん」

 

リコリスさんのことを投げ出すのは、違う 

 

青葉「行きましょう」

 

 

 

Σサーバー 空中都市 フォート・アウフ

 

青葉「…談笑する、策謀の、双子…よし!」

 

転送する

 

 

 

Σサーバー 談笑する 策謀の 双子

 

青葉「…このエリアも、壊れてる…いや、アレは…!」

 

かなり遠くに見えた、白い立ち姿

 

青葉(バルムンクさん…!?なんでここに…)

 

目的が異常なアイテムの調査なら、衝突の可能性すらある

 

青葉(最悪、戦うかも……?)

 

転送案が背後から鳴る

 

青葉「あれ」

 

カイト「あ」

 

青葉「…なんで、ここに?」

 

カイト「…BBSに、ここのワードがあったんだ、オルカが調査してたエリアだって」

 

青葉「そうなんですか」

 

カイト「…それより、どうやって?」

 

青葉「どうやって…というと?」

 

カイト「ここ、プロテクトエリアなのに…」

 

青葉「え?」

 

カイト「どうやって入ったの?」

 

青葉「…普通に転送して…」

 

カイト「…ゲートハッキングしないと、入れなかったのに…」

 

…チラリとリコリスさんの方を見る

どうやら、ここには何かがあるらしい…

 

青葉(貴方はルールを破ってでも…ここに来たかった?)

 

カイト「もしかして…その子が?」

 

青葉「かもしれません…行きましょう」

 

ダンジョンへと踏み込む

 

カイト「…モンスターがいない」

 

青葉「あ…実はさっきバルムンクさんが居て…」

 

カイト「バルムンクが?…何か、声が?」

 

空間に響くように声がする

 

ハロルド『人には、物理的に避けがたい限界がある…しかし、AIには成長の限界がない…私は、その行き着く先を知りたい、そこにあるものを見たい』

 

青葉「…ハロルド・ヒューイック?」

 

カイト「かもしれない…」

 

青葉「……モンスターも宝箱もないエリアか.」

 

バルムンクさんの後を追いかけるのは実に簡単だ

モンスターはウイルスバグを除いて全滅、最低限の戦闘だけで進める

 

カイト「そうだ、このウイルスコア…」

 

青葉「ありがとうございます…あ、また声が」

 

ハロルド『究極AIは人と同様に過ちを犯す…過ちを知らずして、成長はありえない……違いは、同じ過ちを二度と繰り返さないことだ、ハロルド、ここが正念場だ』

 

青葉(…間違いを犯すAI…)

 

ハロルド『大地は死と再生の母胎であるがゆえに、母なる女神であると同時に死者を受け入れる死の女神でもある、かくて、母性とは生と死の両面性をもつ、ならば彼女の顕現は必然であったのか』

 

青葉「彼女?」

 

エンデュランスさんも彼女彼女と言っていたけど…

 

ハロルド『モルガナ・モード・ゴン…彼女は私の介入を拒絶する』

 

違うらしい

 

カイト「この先が最深部…」

 

気づけばダンジョンの最深部…

 

カイト「っ…!」

 

青葉「ウイルスバグ…!」

 

中では、バルムンクさんと巨大な機械系モンスターのウイルスバグが戦っていた…

戦況は当然とも言えるが、ウイルスバグを倒す手段のないバルムンクさんが劣勢

 

何度斬撃を叩き込んでも、バルムンクさんの攻撃はダメージにならない

 

バルムンク「くっ…!」

 

カイト「バルムンク…逃げろ!!」

 

バルムンク「だめだ…こいつの方が動きが早い…逃げられない!」

 

モンスターがバルムンクさんへと突進する

 

青葉「っ…ああぁぁぁ!」

 

一歩二歩と踏み込み、跳び上がる

 

青葉「ダブル…スィーブ!!…うぁっ!?」

 

金属製の体に槍ごと弾かれ、地面を転がる

 

バルムンク「馬鹿な!何をやってる!死にたいのか!」

 

青葉「早く逃げてください!カイトさん、カバーをお願いします!」

 

カイト「わかった…!リグゼイム!」

 

HPが継続回復を始める

 

青葉「リパルケイジ!…堅い…攻撃が通らない!」

 

カイト「…物理で削り続けるしかない…夢幻操武(むげんそうぶ)!」

 

青葉「トリプルドゥーム!」

 

2人で合わせ、攻撃を叩き込むも、足りない…

 

バルムンク「…チッ!…クロススラッシュ!!」

 

バルムンクさんの斬撃を受け、モンスターが一歩、下がる

 

青葉「バルムンクさん…逃げなくて良いんですか…!」

 

バルムンク「…ここで逃げては、蒼天のバルムンクの名が泣く!」

 

 

 

 

3人係でボロボロになって、やっと…ウイルスバグを倒した…

 

カイト「無茶だよ、1人でなんて…」

 

バルムンク「しかし、放ってもおけん……それより、なぜオレを助けた…必死に戦うお前たちを批判し、卑劣な手段にまだ手を染めた、このオレを」

 

カイト「なぜって…そんなのあたりまえじゃないか」

 

バルムンク「当たり前か…」

 

青葉「ウイルスバグを倒すために戦ってるんです…襲われてるのに、見捨てるような真似はしません」

 

バルムンク「……オレは、おまえのその腕輪の力を憎むあまり、自分を見失っていたようだな…力そのものに悪意はなく、あるのは悪しき心のみ…身勝手なのは、オレだったのかもしれん」

 

カイト「“強い力…使う人の気持ち一つで、救い、滅び、どちらにでもなる”」

 

バルムンク「それは?」

 

カイト「女の子…アウラは、そう言って腕輪をくれたんだ」

 

バルムンク「なるほど…その力、おまえにこそ相応しい…これまでの無礼を詫びる、すまなかった」

 

青葉「バルムンクさん…」

 

結局のところ、バルムンクさんに必要なのは…冷静になるきっかけだったのか

この世界を愛するがあまり、イリーガルを憎むばかりに…

 

バルムンク「オレはこの世界を守りたい…そして、おまえと同じように…オルカを助けたいと思っている…だが、オレ1人の力ではどうにもなりそうもない…力を貸して…いや…」

 

バルムンクさんがハッとしたように俯き、考え込む仕草を見せる

 

バルムンク「…ムシが良すぎる話だったな…すまない、笑ってくれて良い」

 

カイト「…僕からもお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」

 

バルムンク「なんだ」

 

カイト「僕はオルカを助けたい、それに壊れてない“The・World”で普通に遊びたいと思ってる…だけど、僕一人じゃどうにもならないんだ、手伝ってくれる?」

 

青葉「カイトさん…」

 

バルムンク「おまえ…もちろんだ!」

 

バルムンクさんが鞘から剣を抜くのに合わせ、カイトさんが片手の剣を掲げる

2人の剣が交差し、十字架を作る

 

青葉「……」

 

ぼうっと見入ってしまったが…これで、2人は和解できたのだろう

The・World最強のプレイヤーの一角が、仲間となってくれたのだ

 

 

 

バルムンク「…オレがオルカと噂を調べていたのは、その真相を突き止めるためではなく、噂は噂でしかないと証明するためだった」

 

バルムンクさんが部屋の奥へと歩いていく

 

バルムンク「しかし、あるとき奇妙な部屋を見つけた…異質で、異様な空間だった…オルカは言った、モルガナ・モード・ゴン」

 

カイト「モルガナ…」

 

バルムンク「その先は今度話すと言ったきり、オルカとの連絡は途絶えた」

 

 

 

白い部屋、赤い絨毯の上に、無数のアゲハ蝶のような蝶のオブジェクト…

同じ蝶が浮かんで静止しているだけの、狭い空間

 

『系の改変、(あた)わす、我ら、その機会をすでに失してあり、残されし(とき)の、あまりに少なさゆえに我ら道を誤てり、今にして思う、我らが成すべきは、系の変更にあらず、個の変化なりしかと』

 

 

 

 

リアル

宿毛湾泊地 正門前

重巡洋艦 青葉

 

青葉「……行きましょう、災害を、止めるために」

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