元勇者提督 作:無し
みなとみらい
重巡洋艦 青葉
青葉「…2人を離してください…!」
綾波「お断りします、というか、主導権は私である事を理解してくれますか?質問に答えるなら命までは…となるかも」
青葉(…武器が無い以上、今は大人しく従うしか無い…とにかくタイミングを見て逃げるしか…)
綾波「貴方達、何人で来たんですか?朧さんがいるのは知っていますが」
青葉「…宿毛湾からの作戦参加者は…たしか、16人のはずです…」
綾波「ということは狭霧さんもいるか?Linkとアメリカの方々以外は」
青葉「…Linkとアメリカの人たちだけで動くことになってます…あとは私と、横須賀の人たち…」
綾波「へえ…目的は?」
青葉「さっき貴方が言った通り…都市の炎上を防ぎに来た…それだけです、綾波さん!貴方だって無関係な人を殺して回りたいわけじゃないでしょう…!?」
綾波「ええ、まあそうですね…でも、私には関係ありません……おや?」
綾波さんが空を見上げる
綾波「…私は嘘つきが嫌いです」
青葉「嘘…?」
綾波「…なんだ、本当に知らないのか」
青葉「何を言っているんですか…?」
今の反応だけで、何かに納得したように頷き…
綾波さんがこちらに背を向ける
綾波「処刑用意」
綾波さんの声に従うように、女の子達が懐から拳銃を取り出し、私達に向ける
ガンビアベイ「
フレッチャー「テロリストなら…銃器くらい…」
青葉「綾波さん…!」
綾波「なんですか」
青葉「…私は」
綾波「もういいです、撃ち殺しなさ…」
目の前に何かが降ってくる
大きな音と、振動
舞い上がる土煙…
綾波「…貴方が出てきましたか…なるほど、確かに適任ですが…青葉さん、貴方の話にこの人は居ませんでしたよ?」
青葉「へ…?」
綾波「……本当に知らないのか」
那珂「知らなくてとーぜんっ、今日の那珂ちゃんはオフ!路上ゲリラライブのために遊びにきてただけだからねっ!」
青葉「な、ななななっ!?」
綾波「全隊進路東へ、合流地点Bに進行せよ」
綾波さんの号令に従い、拳銃を向けていた女の子達が隆起した瓦礫の隙間を縫って何処かへと消える
綾波「…追い討ち、しないんですね?」
那珂「したらやられちゃうし〜」
綾波「まあいいでしょう、貴方の相手は私が直接してあげましょう」
青葉(……違和感が、ある…先程の綾波さんの発言、行動…)
これはあくまで勝手な思い込みでしかない
…綾波さんは、私たちを殺すつもりはないんじゃないか?
根拠となりうる点は二つある
一つは先程の処刑用意の号令
綾波さんの性格から考えて、本当に処刑するつもりなら、あんな溜めの時間を作るのかという疑問がある
ノータイムで撃ち殺させる方が合理的なのに…
そしてもう一つはその用意の中で私と会話しようとした事
一瞬私に問いかけて「もういい」と切り捨てた、その直後に那珂さんの登場
私にはこれが殺さなくていいようにという綾波さんの抵抗に見えた
青葉(あのThe・Worldで出会った時、綾波さんは表立って動けないと言っていた…常に監視されていて、直接私達を逃す事ができないから…こんな回りくどい手を?)
だとすれば話を途中で切り上げたことにも説明がつく
綾波さんは話はちゃんと聞く方だし…でも…
綾波「さあ、かかってきなさい」
那珂「……」
那珂さんがボクシングの構えのまま止まる
綾波「一度負けている相手を前にしては…やはり立ち止まるしかないですか?」
青葉(…この皮膚を刺すような殺気…あーだこうだ理由付けて考えてたけど…それを全部帳消しにするほどの…)
那珂「ねえ」
綾波「なんですか」
那珂「…死んだら、ごめんね?」
青葉「え?」
綾波「勝ち目がないと分かっているのにでてきたんですか?…なんとも健気な…っ!」
乾いた音が響く
那珂さんのパンチを綾波さんが受け止めた音…
でも、殴り合いでしていい音じゃない…
綾波(前より数段強い!…拳が早くて重い…!)
那珂「…捕まえた」
綾波「!」
連打
逃げる暇のないまま那珂さんの連撃が綾波さんを囚える
綾波(逃げようとしたら攻撃が飛んでくる…しかも、防がなければ骨が持っていかれるほどの威力で…!)
左右からのフックを綾波さんが防ぎ、互いの両腕を絡ませる
綾波(取った!)
那珂「…ふっ!」
綾波「ぁが…!」
那珂さんの脚が脇腹に突き刺さる
那珂「…手を離したくないなら、那珂ちゃんからも繋いでてあげる…その代わり」
脚を一瞬下ろし、再び綾波さんの脇腹に蹴りが入る
綾波「っ…!」
那珂「死ぬまでこのままね」
2度3度と何度も何度も蹴りが入る
綾波「っ…ゴホッ…が……ぷっ!」
綾波さんが那珂さんの顔に血を吐き捨てる
那珂「汚いなあ…内臓イった?まだ潰れた感触してないケド」
綾波「おかげさまで、大分ダメージうけてますよ…!」
ミシッと…嫌な音が響く
那珂「っ…つぅ…っ!」
綾波「…跪け」
那珂さんが苦痛に表情を歪ませ両膝を折り、地面に座り込む
両腕は絡めたまま、しかし、動けない
綾波「…このまま、腱をねじ切りますか」
那珂「それは…っ…困るかな!」
那珂さんが頭を深く下げ、手を使わない前転のようにくるりと回る
足先が頂点に来た時、それを勢いのまま真下に振り抜き、踵で綾波さんの肩を撃ち抜く
綾波「っ…!」
綾波さんが手を解き、ふらふらと後退する
那珂「…ふーっ…ようやく手が自由になった…」
綾波「……やはり貴方は爆発力がある、素晴らしい…戦闘に関しては天才的なのかもしれませんね」
那珂「そんなことどうでもいいからさ、那珂ちゃんには……でも、もう限界かな…我慢できないよ…」
那珂さんが構え直す
那珂「…神通姉さんを、返して」
綾波「……ふふっ…あははっ」
那珂「…じゃあ、潰すよ」
綾波「勘違いしてるのかもしれませんが、神通さんは自分の意思で私に与している」
那珂「そんな訳ない!神通姉さんは…神通姉さんはそんな人じゃない!!」
綾波「どうでしょうね…あなたが見ている姉というのは、あなたが見たい姉でしかないのでは?…人間って、所詮欲望の塊のような生き物ですからね」
那珂「馬鹿に…」
綾波「馬鹿になんかしていませんよ、だって私自身がそうでしたから…あなた達もそうでしょう?」
綾波さんが私の方を見る
綾波「青葉さん、例えばあなたは…ふふ…知っていますよ?あなたは合理的な考えに従えば済むのに、未だに倉持司令官に話を聞きに行っていないんでしょう?」
青葉「え?」
綾波「自己の探究心が故に、好奇心という欲望を…そして、それを独占したいという欲望を…持っている」
青葉「な、なんで……」
綾波「アケボノさんなんて特に顕著でしょう?人の身を得て欲を持ち、いや…強く現れてから…倉持司令官に尽くすことが喜びなどと言っておきながら…自身が理解できないことが恐怖であると吐露した」
青葉「何で知って…」
綾波「ぜーんぶ、知ってますよ?…あなた達がただの電子生命体だった時とはもう何もかも違うんですよ…那珂さん」
那珂「……」
綾波「あなたは、自身が人間ではないと知った時、どう思いましたか?…仕方ないと受け入れていた筈です、人間という存在に憧れを抱いても、そうなりたいという欲望が出てこなかった筈です」
那珂「…そんな昔のこと…それに今は…」
綾波「では春雨さんはどうでしたか?なぜ身を投げたのか、逃げて、生きるという欲を追い求めなかったのか!…わかりませんか?…あなた達は微かな生存本能と義務的な強さの探求しかなかった…」
青葉「……」
綾波「人間になってから…私は当惑しましたよ、だってこんなに欲に満ち溢れ、自分の心を満たしたいと心の底から思ったのに……その方法を知らないのですから」
綾波さんがカートリッジを取り出して見せる
綾波「…私は産まれながらに不幸でした、それを呪うことすら知らなかった…でも、今は違う、悪いのが何かを知っている」
那珂「悪い…?」
綾波「ええ、この世界が悪い…悪意に満ち溢れた世界が悪い、個人個人の悪意が固まったこの世界こそが悪だ!」
カートリッジが起動し、綾波さんの周りに電気が弾ける
那珂「だから、世界を壊す…?そんなの前の世界と何も変わらない…!そんなの間違ってる…」
綾波「ええ、だから間違いだらけの世界ごと、消えて無くなればいい…もう再誕なんていらない…完全に制圧され、管理される世界になればいい…私がその頂点に立ちましょう」
那珂「……ふっ!」
那珂さんが背後にクナイを投げ、ガンビアベイさんとフレッチャーさんを拘束していたロープを切る
那珂「逃げるよ!」
青葉「こっちです!」
綾波「逃しませんよ」
周囲に大量の雷が降り注ぐ
それも、地面を割るほどの威力の雷が
ガンビアベイ「ひぃぃぃ…!は、晴れてるのに!!」
青葉「っ…」
那珂「……
那珂さんが隆起した瓦礫に迫り、拳を振るう
那珂「とりゃああぁぁッ!」
那珂さんの拳が、瓦礫を粉砕し、道を作る
青葉「あ……ぁ…っ……!?」
あまりの衝撃に、とても言葉が出ない…
人間の力じゃない…
那珂「綾波ちゃん、じゃあ私は人間じゃなくていいや!欲望はたーくさんあるよ、もっと有名になりたい、みんなに見てほしい、アイドルもやりたいし、艦娘としてみんなで戦いたい…でもさ」
那珂さんがこちらに視線を送る
那珂「ほら、早く逃げてよ…だって…戦えない人が目の前にいる時…全部、ぜーんぶ、どうでも良くなっちゃう」
青葉「っ……二人とも!早く!」
那珂「ねえ、綾波ちゃん、ひとつ教えて?」
綾波「……なんですか」
那珂「貴方は、駆逐艦綾波?それとも…ただの綾波?」
綾波「私は……」
遠ざかり、どんどん小さくなっていく声…
那珂さんの問いかけの答えは、私には聞こえなかった
綾波
綾波「私は、“綾波であり”…“駆逐艦綾波ではない”……私には使命なんてものはない…私は、私のやりたいようにやる、望みを叶えるために」
カートリッジを強く握りしめる
バチバチと電気が弾け、地面を砕く
那珂「それでいいのかもね…那珂ちゃんも、巡洋艦、那珂としての使命なんか考えた事ないから」
那珂さんが地面の感触を足で確かめる
那珂「でもさ、“私”も、“巡洋艦那珂”も、どっちも“那珂ちゃん”だから」
那珂さんが懐から何かを取り出す
綾波「……その瓶は…」
那珂「…ん…」
中身の丸薬を1つ、口に含む
那珂「……やりたくなかったけど…」
那珂さんがカートリッジを起動して見せる
綾波「っ…!それは…!」
那珂「でも、那珂ちゃんもう一つ顔があってさ……ほら、こんな感じ」
肌が白く染まり、茶髪だった髪が黒く染まる
軽巡棲鬼「軽巡棲鬼…それが私のもう一つの力…らしいよ?」