元勇者提督   作:無し

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Surprise Attack

みなとみらい

軽巡洋艦 神通

 

…目が合った

正確にはこちらを視認できてはいない筈だ、だが…先程の謎の突風に乗せて、私の匂いを感じ取ったのか…

朧さんの眼は、鋭く私を睨み、そしてこちらへと向かっている

建物に囲まれ、瓦礫の山に身を隠した私の方に

 

神通「……貴方が相手ですか…考えてみれば、今貴方の装備している艤装をベースに私の艤装は作られている…」

 

瓦礫の山の上に登り、視下ろす

 

神通「…こんにちは、良い天気ですね、雷が降ったり礫が降ったり、不思議ですが空は青く、陽が高い…」

 

朧「神通さん…何でこんな事を…!」

 

神通「……さあ、私達のリーダーは、こうなる事を望んでいるのでしょう…本当ならもっとスマートに行ったのでしょうが」

 

朧「…こちら朧、交戦する、みんな、私の方には来ないで」

 

神通「…良いんですか?仲間を呼んでも良いんですよ?それとも……あなたは艤装があるから私には勝てると?」

 

海上警備に出ていた朧さんだけは艤装を装備している

…でも、市街戦ではそれが仇になるかも知れない

 

神通「……民間人がいるかもしれませんよ」

 

朧「……それは無い、辺りには人がいないし、匂いもない…それより…其方の狙いはなんなのか、教えてくれますか」

 

神通「狙いですか」

 

朧「犠牲者、まだほとんど出てませんよね…?だってほとんど血の匂いがしない、でも動いてる人数は100じゃ絶対に効かない数字…」

 

神通「というと?」

 

朧「それだけ居て、銃を乱射するようなことになったら…人がたくさん死んでなきゃおかしい…と、思ってるんです、この騒ぎを起こしておいて…人質を取るわけでもなく、ただ破壊するだけ…避難誘導班は攻撃されて無いし、追撃もない」

 

神通「では、簡単でしょう?」

 

朧「みなとみらいが欲しい?…そんな訳ない、敵基地がすぐそばにあって、守る要塞にもならない、第一ここには…貴方達の欲しいような物はない筈…」

 

神通「では、私を満足させることが出来たら……私の知っている答えを教えてあげましょう」

 

震える手で、カートリッジを握り、起動して艤装に挿し込む

 

朧「…!」

 

神通「…ああ、腕が気になりますか?気にしないでください…完治してる筈なのですが、たまにこうなるんです…どうせ重いものは持てないし、強い衝撃が加われば動かなくなる…」

 

朧「…じゃあ」

 

神通「ええ、私の戦闘スタイルは、かつてと同じ…いや、貴方にはもう見せましたね」

 

片脚を上げ、空を蹴る

カートリッジの影響で周囲の建物に電撃が飛ぶ

 

神通「私の武器、それは蹴りです」

 

朧「……」

 

神通「貴方も知っての通り、この艤装はアヤナミさんの作った、あなたの艤装の改良版…」

 

朧「…わかってます、狭霧、連絡は…わかった、やって」

 

挿入されていたカートリッジが黒煙を上げる

 

神通「おや」

 

朧「…それはアヤナミが作ったもの…遠隔でハッキングぐらい…」

 

神通「やはりカートリッジはダメになりますか」

 

カートリッジを抜き取り、棄てる

 

神通「しかし、何一つ問題はありません…」

 

朧「…やっぱり対策されてたよ、うん…大丈夫、アタシがやる」

 

神通「アヤナミさんなら、私が敵対した時点でいつかこの艤装の力を奪うだろうとは思っていました」

 

瓦礫の山から飛び降り、朧さんから少し離れた位置に着地する

着地の瞬間、アスファルトがひび割れ、土煙が舞う

 

朧(飛び降りただけで地面が割れた…!?…どれだけ重いの…!)

 

神通「…ご覧の通り、これはあなたの艤装より遥かに重い…そして、それは一撃が必殺のダメージになることを意味する…」

 

朧「…だったら、かわし切れば良い」

 

神通「そうでしょうね、そういうと思っていました……あなたに地獄を味合わせてあげましょう」

 

ゆっくりと、歩いて近寄っていく

 

神通(かわす、たしかに一番良い手段です…しかし…私が相手なのは、ついていない)

 

朧(…近づかせる訳には!)

 

朧さんが主砲を構える

 

神通「砲身がない?…いや、確か戦闘中につけ外しできるんでしたか…」

 

カートリッジを起動し挿入する

そして発泡の動作を視て即座に蹴りを放つ

 

朧「え…」

 

神通「どうですか」

 

放たれた散弾は全て、弾き返された

風圧によって

 

朧(今の一瞬で、周囲の空気を艤装が取り込んで放った…?アタシの艤装でも同じことはできるけど…威力が段違いだ…)

 

朧さんの腕を血が伝う

 

朧「っ!」

 

神通「良かったですね、脳天に当たらなくて」

 

朧(これで、アタシは遠距離攻撃の手段を失った…いや…隙を見て使うことはできる、でも…)

 

神通(来る)

 

朧さんがこちらへと走り、距離を詰めてくる

 

朧「やあぁぁぁぁッ!」

 

神通(拳打主体のスタイルか)

 

主砲をメリケンサックのように扱いながら放つパンチを艤装を盾に受け止める

 

朧(くらえ…!)

 

神通「っ!」

 

発砲音と共に強い衝撃を受け、二歩下がる

 

神通(砲口をくっつけて直接撃ち込むのか…しかも、威力も抑えてない…)

 

朧「…壊せるくらいの威力があったと思ったのに」

 

朧さんが砲身に詰まった砲弾を主砲を振って抜き捨てる

 

神通「特別製ですから、しかし…こんなに傷つくのは…さすがとしか言いようがない」

 

朧「……」

 

神通「来ないんですか?せっかく待っているのに」

 

朧「…行きますよ、でも…」

 

朧さんがボクシングのように構え直し、目を瞑る

 

神通「煙幕」

 

朧さんの主砲から煙幕弾が放たれ辺りを白煙が包む

 

神通「こんな煙でなにを…っ!」

 

慌てて蹴りで煙を吹き飛ばす

 

神通「催涙効果も有るか…!」

 

目が開けていられない…!

 

朧「もらった!!」

 

神通「忘れましたか!私は目を閉じていようと…!」

 

飛びかかってきた朧さんを蹴りで近くの建物まで吹き飛ばす

 

朧「ぁが…」

 

神通「……加減はしています、意識は保てているでしょう?」

 

朧「っ…ふーっ…!…はーっ……っ…よ、し…」

 

朧さんが膝をつき、立ち上がろうとする

 

神通(馬鹿な、あの威力で壁面に叩きつけられてまだ立てる?…加減はしたと言っても、骨は砕けてる筈…!)

 

朧さんが拳銃を取り出し、向ける

 

神通(主砲じゃない?……まさか…)

 

蹴りを受けた時、空に投げた?蹴りもわざと受けた?最初からガードしていたからダメージも最低限だった…

では、主砲はどこに…

 

朧「タルヴォス!!力を貸して!」

 

銃声が3度、そして背後から主砲の発砲音が3度

 

神通「っ!!」

 

慌てて飛び退き、砲撃を全てかわす

 

神通(危なかった…いや、朧さんが正面にいない!)

 

朧「…これで…!」

 

首に横から靴底がめり込む

 

神通「か…は…」

 

朧「りゃああぁぁぁぁッ!!」

 

首への、全力の、一切の容赦のない跳び蹴り

その勢いのまま頭部をアスファルトに叩きつけられる

 

神通「っ……」

 

朧「っ…はぁ…っ…はぁ…!…さ…流石に、しばらく動けない筈…」

 

…普通は死ぬ

 

朧「増殖で、死にませんよね…?…いや、死なない筈…」

 

目を開く

 

朧「っ…よ、良かった、生きてた…」

 

神通「…最高です」

 

朧「え?」

 

神通「これはとても素晴らしい…地獄の釜で煮詰められているかのように…熱い、痛い」

 

朧「…あの」

 

神通「終わったと思いましたか?」

 

ゆっくりと上体を起こす

 

朧「せいッ!」

 

上半身を起こしきったところに蹴り

顔面目掛けた、容赦のない蹴りを右腕を犠牲に受け止める

 

神通「っ…ふ…はは…痛いですね…笑える程に」

 

朧(お、おかしい…こんな状況で笑えるなんて…狂ってる…!)

 

朧さんが嫌悪感と恐怖心を露わに一歩下がる

 

神通「狂ってると思いますか?…今の私には、この痛みだけが現実であり、信じられるものなんですよ」

 

地面に左手をついて、起き上がる

 

神通「…さて、朧さん…退がりましたね」

 

朧(…来る…)

 

神通「貴方の手番は、終わったということでよろしいですね?」

 

片膝を上げ胸元まで引く

 

朧「っ!」

 

神通「まずは一撃」

 

突くような蹴りを朧さんがサイドステップでかわす 

 

朧(神通さんはまだ目が開かない…なら勝機は十分ある、だって、神通さんは目を閉じている時…正面しか視えてないはずだから)

 

脚を引き、低めの回し蹴り、それも引いてかわされる

 

神通(やはり回り込む隙を窺っているのか)

 

踏み込んで右足で前蹴り…に、見せかけて右足でさらに踏み込み、左の回し蹴り

どうかわされようと関係ない、朧さんはこの蹴りを受け止められない

振り抜いて素早く構え直せば問題ない

 

朧(狙いがバレてる、直線的な攻撃を待ってるのにも気づかれてるせいでサイドを固められてる!)

 

神通(次は…)

 

朧(早い!)

 

一瞬で迫り、高めの回し蹴り

朧さんはそれをのけぞることで避ける

 

神通(ですが、これならどうです?)

 

艤装のブーストにより、もう1回転…次は低めに

 

朧「!」

 

神通「…後方回転でかわしましたか…良い判断です」

 

朧「どーも…!」

 

朧(中途半端に戻ろうとせず、バク転してよかった…あのままだったら死んでた…!)

 

神通「…しかし、次は如何ですか!」

 

踏み込み、前蹴り

 

朧(来た!)

 

朧さんが傍に飛び込むことで蹴りを交わす

これで完全に背後を取られたことになる

 

朧(待って、こんなに簡単に取れるわけ…)

 

前蹴りに出した脚の艤装のブーストで反転し、さっきまで背後だった位置を全力で踏み抜く

 

朧「っ…」

 

神通「…かわされた?…殺すつもりでしたが…よくかわせましたね?」

 

朧「……」

 

神通「……おや」

 

朧「……」

 

神通「……」

 

…無音、何も、動かない

 

神通(…当たっている?)

 

朧(…まさか、動かなければ…視えない?)

 

神通「……」

 

脚を引き、一歩下がる

 

左手で目元を拭う

 

朧(今しかない!…いや!)

 

朧さんが立ち上がる瞬間に回し蹴り

…空振り

 

神通(…生きているなら、立ち上がると思いましたが)

 

朧(…確認しようとしてた、アタシが死んだのか、生きてるのか…その為にわざわざ瞼を拭う動作まで見せた…)

 

神通(…もう、いいか)

 

振り返り、歩いてその場を去ろうとする

 

朧(…やるなら、この状況で、一撃で!)

 

神通(案外骨がなかった…前に見た時はもっと強かったと思ったのに…)

 

神通「…はっ」

 

背後に、ノーモーションで貫くような蹴りを放つ

 

朧「かっ……ぁえ…?」

 

朧さんの腹部に浅く突き刺さる

 

神通「…私の視力を見誤っていましたね…ええ、私は眼を閉じているとき、正面の動いているものだけしか視えない…確かに貴方はそれを読み切り、二度もブラフをかけ、見事私を術中にハメた」

 

朧「…なん…で…」

 

神通「…貴方がそうしたように、私もそう見せかけた…正面しか視えないと言うのは、正しくない…背後ですら、視認できますよ…ただし、狭い距離にすぎませんが」

 

足を引き、地につける

朧さんが膝を突き、崩れ落ちる

 

朧「が…ぁ……ゴホッ…!…ぁ…ひっ…はっ…」

 

神通「非常に満足いく戦いでしたが…こんな結果、私も望んではいませんでした…たった一撃で勝敗全てが決まるような体格と力の差なんて…」

 

朧(…だ、ダメだ…い、息が…動けない…!)

 

神通「…私達の目的でしたか…良いですよ、教えてあげましょう、艦娘を消すことです」

 

朧(え…?…艦娘を…)

 

神通「この騒動は艦娘が主導した事になる、いや、国が主導した事になる、どんな上等な復興シナリオが作れても…そうなる手筈です、すると…日本から艦娘が消える…次は別の国でも」

 

朧さんの肩に片足を乗せる

 

神通「艦娘が消えた世界…それが私達の望み…らしいですよ?」

 

艤装のカートリッジを起動し、力が溜まり始める

 

朧「…っ…ぁ……」

 

神通「……」

 

目元を強く拭い、眼を開く

 

神通「…おや」

 

飛来物に向かい、蹴りを放つ

人間大のそれは建物の外壁を突き破り消えていく

 

神通「……ヒト型?」

 

神通(何が飛んできた…)

 

綾波「那珂さんですよ」

 

神通「…綾波さん」

 

綾波「すみませんね、弾き飛ばしたのが飛んできてしまったようで」

 

神通「そうですか…では、あれは那珂ちゃんでしたか…いや」

 

瓦礫の中から、禍々しい其れがゆっくりと現れる

 

軽巡棲鬼「ウウウ…ウゥゥ…!」

 

血走った眼、鼻も口も血を垂れ流し続けてる

胴体なんてもっとひどい、両肩の肉は吹き飛び、骨が丸見え

腹部は大穴…

 

神通「随分いじめたんですね?」

 

綾波「ええ、構わないでしょう?第一…ほら、私の顔もボコボコに殴られましたから、おあいこです」

 

神通「……思うところはありますが」

 

今更、何を思うつもりもない

 

綾波「しかし…面白いものを見られそうですよ?」

 

神通「…何を…」

 

那珂ちゃんが瓦礫の中からこちらへ一直線に飛び出す

 

神通「っ!」

 

飛び上がり、突進をかわしたつもりだったが…

 

神通(狙いは私じゃない?……朧さんか)

 

綾波さんの隣に着地し、見下ろす

 

綾波「…深海棲艦の力を使っても私に手も足も出なかった上に…どうやら、意識まで呑まれた様で」

 

神通「…ああ、痛そうだ」

 

朧さんの肩を、食らっている

 

綾波「……ここはもう良いでしょう、致命傷は与えましたし」

 

神通「また出てきても、あれでは…相手にもなりませんね」

 

 

 

 

 

 

駆逐艦 朧

 

…痛い

全身痛いし、何より…肩が…

 

朧「……っ…」

 

喰われてるのか

深海棲艦が私の皮膚を歯で切り裂き、肉を喰いちぎろうとしている

 

ダイレクトに死の感覚が迫ってくるのに…もう動けない

 

…私の最期は、深海棲艦のエサ…か

 

血がどんどん流れているような感覚…

少し、寒くなってきた…

 

深海棲艦が一度口を離し、こちらを見下ろす

 

軽巡棲鬼「……行ったかな」

 

朧「…その、声…」

 

軽巡棲鬼「…あ…」

 

ばたりと深海棲艦が隣に倒れる

 

軽巡棲鬼「…えへへ…負けちゃった」

 

朧「…那珂さん…」

 

さっきまで襲ってきていたのは…

 

軽巡棲鬼「…大丈夫…2人とも…もう居ないから…でも……全然敵わなかった…」

 

…きっと演技だったのだろう

私を助けるための演技…

 

軽巡棲鬼「…あ…」

 

近づいてくる二人分の足音…

 

朧(…もう、戦える様な状態じゃ…)

 

川内「…大丈夫?」

 

軽巡棲鬼「あ……うん…だめかも…」

 

朧「…川内さん…?」

 

アヤナミ「朧さん…大丈夫、朧さんは問題ありません、それよりも那珂さんです…」

 

朧「アヤナミ…!?…っ…い…」

 

アヤナミ「那珂さん、絶対に力を抜かないで、もしそのまま人間に戻れば一瞬で死んでしまいます」

 

軽巡棲鬼「…はー…い…」

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