元勇者提督 作:無し
みなとみらい
綾波
綾波「っ…かはっ…こほっこほっ…」
神通さんめ…随分とやってくれたものだ…ガス管に引火させて大規模なガス爆発を起こすとは…
綾波(…艤装を展開して防御姿勢を取らなければ…死んでいたかもしれない…)
頭をなんとか動かしてアヤナミを見つける
深手を負ってはいるが死にはしないだろう…だが、狭霧さんが見当たらない…
立ち上がる為に地震にのしかかっている瓦礫を押し退けようとする
綾波「えっ」
…柔らかい…いや
綾波「…嘘」
狭霧さんが私を庇う様に覆い被さって…
綾波(…心臓が止まっている、体温も低すぎる…いや…嘘だ、そんなはずは…何故私を庇う様な…!)
…ましてや死ぬ様な真似…
狭霧「…ね………さ…」
綾波「っ!?」
…声がした、喋った
ありえない、心臓は止まっていた、息もしていなかった、体温の低下からも…生命活動をしていないのは明らかだった
つまり確実に死んでいた
綾波「…なんで、生きて…まさか」
狭霧さんのアイパッチを外す
そこには無いはずの眼球があり、しっかりと私を見据えていた
綾波(再誕のダミー因子…!あなたが、持っていたなんて…アヤナミから、あなたに…そうか、だからあんな自殺まがいの戦術を取ったのか、自分が助かる確信があって…)
狭霧さんを瓦礫ごと押しのける
綾波「っ…」
綾波(艤装もほとんどダメージなし…防御する必要すらなかった、のか…いや、それより…)
綾波「何故私を庇ったんですか…」
狭霧「……さ…」
綾波「…聞こえませんよ」
狭霧さんに近づき、顎を持ち上げ、自身の耳を近づける
狭霧「…良かった…姉さんが無事で…」
綾波「っ…!」
綾波(なんで…!)
狭霧さんがこちらへと手を伸ばす
狭霧「…姉さん…私の…大事な人…」
…本当に、そう思っているのか?
それだけの為に私の事を庇って死ぬ真似をしたのか?
綾波「…ふざけるな」
…私は全て捨てたんだ
私は…私は、全てを捨てたのに…
綾波「…運が良いですね…もう、私はやる気を失いました」
…この道を歩くのは、とても辛い事だと知っていた
だけど選んだのには理由があった
なのに、なのにどうして…
私の道をみんなが塞ぐ、その程度の障害に今更躊躇うつもりは無いが…
綾波(…だめだ、物事が、悪い方向にばかり進む…)
私は一度だって道を見誤ったりはしていない
進むべき道も、至るべき結末も、見失っていない
だけど、時々わからなくなる
何が正しい道なのか
目の前の、死んでいる、でも生きているこの子は
本当に死ぬべきだったのか
私が結末を求めなければこうはならなかったのではないか
でも、悔やんだ頃には全てが遅い
一度でもそうなった以上、果たすべき責任が発生している
綾波「…全隊に伝達…好きにやりなさい」
駆逐艦 夕立
夕立「夕立、了解」
この指示の意味は簡単
逃げたい奴は逃げ出しても良い
戦いたい奴は戦えば良い
この地を阿鼻叫喚の地に変えろ
すでに黒煙が上がり、崩壊したこの街を、もっと壊せ
それだけの指示
夕立(ここで果たしたい目的…なんなんだろう?)
夕立が聞いている達成目標の意味
この街を崩壊させ、手にして…クビア召喚の実験の第二フェーズを行う事
その為にこの街が欲しかった
そう聞いているけど、実際はそうじゃない
この街でLSFDの実験が行われている時点でおかしい
LSFDの実験ができるならそのまま召喚すれば良い
ましてや
ここが欲しかったのか、それともここを壊す必要があったのか
艦娘システムをなくす以外の他の目的もまだ掴めないし、作戦が被ったせいでどちらなのか判別がつかない
夕立「…?」
レーダーに、生体反応を感知
…敵、だと思ったけど
夕立「…意外と合流が早いっぽい」
綾波「あなたは何をしているんですか」
夕立「好きにしろと言ったのはそっち、夕立は夕立のやりたい様にやる…ダメ?」
綾波(本当に食えない人だ…よくわからなくなってきた…)
夕立「それより…ボロボロっぽい」
綾波「…コピー…2人を、相手取りましたから…あんな結末を迎えてなければ、どうなった事やら」
夕立(…多分、もう1人の綾波って奴…それからLinkの今のリーダー?…だとしたら、もう勝ちの目は潰えたっぽい?)
綾波「……流石に疲労が溜まってしまいました、私は休みます、あとは任せましたよ」
夕立「…夕立でいいのかしら?」
綾波「神通さんは戦闘においてはエキスパートです、しかし戦争は知らない…」
そこについては同意できる
香車や桂馬の様なタイプ…運用の仕方によっては素晴らしい戦果を挙げられるのだが…想像力が足りてない気がする
綾波「……夕立さん」
夕立「ぽい?」
綾波「あなたは、過去の記憶…というか、前の世界において…艦としての記憶を、しっかり刷り込まれた方ですか?」
夕立「…夕立は、そんなの興味ないっぽい、結局あるのは今だけ、過去の事にもあんまり興味ないっぽい」
綾波「そうですか…しかし、あなたはそうでも、他の方はどうでしょう?」
夕立「…他?」
綾波「たとえば、アメリカの艦娘システムには…こういう特徴があります……過去の戦争の記憶を徹底的に叩き込む」
夕立「なんのために?」
綾波「先を見据えてるんですよ、この戦いが終われば、疲弊した各国はその疲弊が悟られる前に資源を集め、回復に専念する必要がある…それには、自国の力だけでは到底足りない」
夕立「…それで?」
綾波「例えば、あなたのことを恨んでいる人もいるかも…」
夕立「……もしかして、馬鹿?」
綾波「…ああ、少し疲れてるのかもしれません…いや疲れてるんですよ、そこそこにね」
夕立「……」
綾波「ほら、向こうから…敵が来てる気がするでしょう?」
夕立「…たしかに」
レーダーに敵部隊の感あり…
綾波「…全員アメリカ人」
夕立「さっきの話、これを読んでって事っぽい?」
綾波「さあ、どうでしょう」
…でも、よく見てみると…
夕立「避難誘導中の部隊っぽい」
綾波「どうします、潰しますか?」
夕立「……いや…」
ハッチから小型のヘリが飛び立つ
夕立(…ロック…オン)
ミサイルハッチから極小型のミサイルが射出され、後方へと飛ぶ
綾波「おや」
激しい爆発が響く
夕立「…威力は本物並み…っぽい」
綾波「何かいましたか?」
爆発の起きたあたり
煙の中から折れた標識が飛んでくるも
小型ヘリの機銃掃射でそれが撃ち落とされる
夕立「…それは武器じゃないっぽい」
レーダーを使い、狙いを定め、撃ち続ける
綾波(…誰だ)
砲撃をかわされ、瓦礫を盾に塞がれる
まさかここまで戦い慣れてるとは思わなかった
夕立「…あ」
弾切れ…
砲弾を装填するために砲撃が止んだ瞬間にザッザッザッと走る足音が近づいてくる
夕立(来る!)
青葉「やあぁぁぁーーッ!」
青葉の足元の瓦礫を拾い上げての投石をかわし、装填の終わった主砲を向ける
夕立「…せっかく逃げるチャンスをもらったのに、なんで死にに来たっぽい?」
青葉「…これ以上の被害拡大を防ぐために」
綾波「果たして本当にそうですか?」
綾波が立ち上がり、青葉を見据える
綾波「…狼は群れで狩りをする…獲物を弱らせ、あえて逃がし、追いかけ続けて弱ったところを喰らう…今のあなたの様ですね」
青葉「何が言いたいんですか」
綾波「弱った私を喰らいに来ましたか」
青葉「或いはそれも正しいのかもしれません…でも、私はこの戦いが終わりさえすれば…」
綾波「そうはいきませんよ、私は中途半端な終わりは望んでいませんから」
青葉「……なら…ここで止めてみせます」
綾波「…あとは任せましたよ」
夕立「りょーかい」
青葉「待って!」
夕立「そっちの相手は、夕立っぽい」
小型ヘリを操作しようとした瞬間、撃ち落とされる
アトランタ「ユウダチ…?
夕立「…離島にいた奴…?」
アトランタ「…
夕立「……なんか、睨まれてるっぽい?」
アトランタ「あんた、夕立って奴なんだ…?じゃあ、アカツキってやつもいんの?」
夕立「…何言ってんのかよくわからないけど…」
主砲を向ける
夕立「遊びたいってこと…?相手してあげるっぽい…!」
青葉(消えっ…!?)
アトランタ(今、どこに…)
夕立「ソロモンの悪夢…見せてあげるっぽい!」
青葉「っ!?」
アトランタ「撃ってきてる…!」
綾波(試製の迷彩カートリッジはちゃんと動作してるな…レーダーを誤魔化すことはできないだろうけど、視認はできないはず…いや、激しい動きをしたら…)
青葉「!そこか…でも、攻撃手段…いや!破魔矢の召喚符!!」
夕立「そういうのは、お断りっぽい!」
光の矢と夕立のミサイルがぶつかり、爆炎が周囲を包む
アトランタ(見えない…!)
視界が悪い状況なら…一方的に撃てる
アトランタ「見えてないはずなのに…!クソッ!」
青葉(一方的に認識されてる…!)
夕立(…砲撃じゃ仕留められないっぽい…)
ミサイルハッチからミサイルを射出し、撃ち込む
アトランタ(遅い!これなら!)
夕立「…へー…」
…ミサイルを今の一瞬で全て落とした?
信じられないけど…
夕立「…面白いことしてくれるっぽい」
青葉(…武器になるもの…武器が無いと、勝ち目がない…!)
夕立「…じゃあ、これはどう!?」
魚雷発射管から魚雷をありったけ抜き取り、空中に放つ
青葉「えっ…」
アトランタ「何…」
夕立「撃ち落とさないと…」
地面に落ちた魚雷が、片っ端から炸裂する
青葉「っ…!?…こ、こんなの…」
アトランタ「Fuck…!」
夕立(動きが止まった!)
主砲をそれぞれ1発ずつ撃ち込む
青葉「っ…」
アトランタ「うぁ…!」
夕立「…2人撃破…ぽい?」
綾波「お見事です」
腹部を抑え、地に伏した2人を見下ろす
青葉「…かはっ…あ…!」
アトランタ「なん…なんだよ…」
夕立「ここにどんどん敵が集まってくるっぽい」
綾波「そうですね…動きましょう」
綾波(…狭霧、あなたのせいで…犠牲者は増えるばかりですよ)