元勇者提督   作:無し

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記録 新緑色

みなとみらい

重巡洋艦 青葉

 

青葉「…っ…」

 

ゆっくり、体を少しずつ動かしてやっと起き上がろうとしたところに手のひらが差し出される

 

青葉「……あ…」

 

フレッチャー「すみません…見てることしかできなくて…それに、私たちを庇うために飛び出してくれたんですよね…?」

 

ガンビアベイ「Are you okay(大丈夫ですか)…?」

 

青葉「大丈夫は大丈夫…夕立さんが最後に撃った弾、どうやら…非殺傷弾だった様で…」

 

手を借りてなんとか起きる

 

青葉「…追いかけないと…」

 

フレッチャー「武器もないのに…?」

 

青葉「…それは…そうなんですけど…いや、無いわけじゃないか…」

 

立ち上がり、瓦礫の中を漁る

 

ガンビアベイ「な、何を…」

 

青葉「…あ、あった」

 

フレッチャー「…それは?」

 

青葉「壊れた道路標識です…他に使えるものがないので」

 

普段払ってる槍よりやや長いが、気にする余裕はない

 

青葉(今ならまだ追いつけるはず…)

 

フレッチャー「…あの」

 

青葉「はい?」

 

フレッチャー「…行かないほうがいいと、思います…拾った命を、捨てる様な真似…出直したほうが…」

 

青葉「……いいえ、やるなら今、この場です…綾波さんが疲弊している今仕留める…いや、捕らえる…」

 

青葉(でも、勝機はないに等しいな…だから、私ができるのは時間稼ぎ…綾波さんを一時的にその場に留めておくことくらい…通信でわかってる限り、今回作戦の主要メンバーで綾波さんに喰らいつけそうなのは…)

 

青葉「聞こえてますか、ガングートさん……ダメだ、無線機も死んでる…アトランタさんが位置情報をアップロードしたって言ってたけど、それもダメなんだろうな…」

 

Linkのメンバーに頼りたかったのに…

 

青葉「……いや、フレッチャーさん、ガンビアベイさん、お二人はLinkの人達を探してください、私は綾波さんを見つけて足止めします、できるだけ派手に戦います、だからそこに来る様に…」

 

ガンビアベイ「ええぇぇ…?」

 

フレッチャー「…もう一度言います、死にに行く様な真似は…」

 

青葉「…私は死ぬつもりはありません、まだやることがたくさんありますから…」

 

それだけ言って走る

 

青葉(…絶対に捕まえる、綾波さんの本心とか、そんなものは私はわからない、ここで止める事だけを考える…)

 

折れた標識はいやに軽い

これではおそらくすぐに壊れるだろう

補充できる様な武装も転がっているわけがない

 

となると、頼りになる可能性があるのは呪符…いや、これも無いのと変わらない

 

青葉(…今、一瞬見えた!あの2人だ!)

 

綾波さんと夕立さん…捉えた…

 

青葉「わっ!?」

 

足元の何かに躓いて転がる

 

青葉「っ…たた…何に引っかかって…ロープ…?…っ!」

 

その場を飛び退いたと同時に砲音が鳴り、さっきまでいた場所が吹き飛ぶ

 

青葉「誰……艦娘…!?」

 

…横須賀の訓練生だろうか…?

艤装を持った数人の少女達が…

 

青葉(いや、そんなお花畑な考えしてる暇ない…間違いなく敵だ!)

 

道路標識を強く握り、槍のように構える

普段使う槍より太く長いそれは、やはり使い勝手が悪い

 

浦風「あかん…かわされた…」

 

戦い慣れてない

表情の辿々しさ、1発外した程度で一喜一憂する姿から簡単に推察できる

 

青葉「待ってください!私は貴方達と戦いたいわけじゃ…」

 

山風「…あなた、綾波さんを追いかけて…どうするの…?」

 

青葉「…捕まえます!こんなことやめさせないと…っ!」

 

返答した瞬間、撃ち込んでくる

 

山風「…じゃあ…敵」

 

浦風「んなもん元からわかっとるわ!…やれるとええけど…!」

 

青葉(交渉の余地なし!ああもう!半分くらいわかってましたよ!)

 

ポケットの呪符を引っ掴み、ばら撒く

 

青葉「鉄崩水の呪符!炎殺球の呪符!伊吹の呪符!」

 

ガングートさん達とやった時と同じ

召喚した水を炎で蒸発させ、暴風で急冷して霧を作る

簡単な視界封じ…

 

青葉(いや、威力がおかしい!)

 

…視界封じのつもりで使ったのに、異常な威力…

いつもの倍近い威力のせいで服が濡れるわ髪の先が焦げるわ風で肌が切れるわ…

 

青葉(…威力が上がってる?コントロールできないとかそんな話じゃない、何かが原因で威力が…)

 

浦風「山風!どうなっとるんじゃ!見えんぞ!」

 

山風「…こっちも…!」

 

青葉(いや、今はこの2人から逃げて…)

 

青葉「っ!?」

 

前方から突風が吹き付ける

…それも、一瞬で霧が吹き飛ぶ程の

 

青葉(タイミングが悪い…いや…)

 

神通「ダメじゃないですか、人を無視しようとするなんて」

 

青葉「神通さん…!」

 

神通さんの蹴りの風圧で吹き飛ばされたのか…!

 

夕立「まだ起きてこれないと思ってたっぽい」

 

綾波「騒がしいので引き返してみれば…」

 

青葉「っ…」

 

青葉(覚悟はしてたけど、5人ともいるとなると…完全に勝ち目は潰えた…!)

 

綾波「…しかし、青葉さん、貴方も無茶をする人だ」

 

青葉「私にはそれしかできませんから」

 

綾波「いいえ、そうではない…貴方は違和感を感じていないんですか?そんなものを振り回そうとしているのに」

 

手に持った道路標識に意識が向く

 

綾波「それ、重くないでしょう?」

 

青葉「え…?」

 

綾波「だから、重み、感じてますか?」

 

青葉(…いや、これは…軽いだけ…)

 

綾波「ああ、やっぱり気付いてないんだ、あなたの体はかつて化け物に呑まれた、そのことをお忘れですか?」

 

青葉「…忘れてなんかいません」

 

確かに私はかつてAIDAと深海棲艦に呑まれて…でも、今はもう…

 

綾波「まさか今は関係ないとか思ってます?…原因、覚えてますよね?あなたの艤装のナノマシンが元凶なんですよ?…そんな物を持って、まさかナノマシンの働きが何もないとでも?」

 

青葉「…え?」

 

標識が手から滑り落ちる

重たいソレが落ちた音が響く

 

確かに、いつもの槍より長くて太いのに、重くないのはおかしい…のに…

 

綾波「あなたはナノマシンを抜いてもそのまま艤装の運用をしてたんでしょう?…まあ、表に出て戦うことは減ってるし、免疫もついてたが故に発症も遅かったんでしょうが」

 

…手のひらを見る

いつもの私の手だ、何が違うんだ、私の身体は何もおかしくなんてない

 

ブラフだ…!

 

青葉「……あれ…?」

 

身体が、動かない

 

綾波「…あなたとLSFDは致命的に相性が悪いみたいですねえ…この中ならあなたのナノマシンのハッキングも容易だ…簡単に指示を上書きできる…」

 

青葉(指示…上書き…?)

 

綾波「…ああ、何のことかわかりませんよね、そもそもナノマシンは神経から伝達される簡単な指示に従うことしかできません、疑似的に筋力を増強させるとかね…それを、硬直に書き換えれば…あなたは動けない」

 

青葉(…じゃあ、今動けないのは……これじゃあどうしようもない…!)

 

綾波「…でも、面白い発見でした、第二次ネットワーククライシスの再現をこの場で行なっているせいでここは携帯の電波はおろか、無線通信すら阻害されてるのに…やはり私が開発しただけあって、生きてるチャンネルもまだ有るんですねえ…」

 

夕立「レーダー類も死んでないっぽい」

 

綾波「私が作ったものは影響を逃れた様です」

 

青葉(…だから呪符も発動できる…呪符さえ取り出せば…いや、たとえ効果が出なくても…!)

 

なんとか、必死に体を動かす

 

神通「…まだ何かをするつもりの様ですが」

 

綾波「何もできませんよ」

 

片手をポケットに突っ込み、呪符を握ろうとする

 

綾波(また呪符か、無駄な事を…)

 

青葉(え…?…これって…な、何?これ、固い…?)

 

ポケットの中の何かを掴む

身体が少し、楽になった気がした

 

綾波(…?…ナノマシンの反応が一部消えた…何かをした?いや、わからないが…おかしい)

 

綾波「神通さん」

 

神通「ええ」

 

神通さんがカートリッジを起動し、空を蹴る

雷を纏った真空刃が迫る…

 

青葉「っ…!……あ、あれ…?」

 

目を閉じて、衝撃に備えたのに…届かなかった…?

 

神通(塞がれた?いや…何かおかしい)

 

青葉(…あれ?…体が、動く…)

 

青葉「……あ」

 

綾波(…あれは…そうか、まさかカートリッジにも耐性を発揮するとは…)

 

青葉「ま、マクスウェルのデータの入った…USBメモリ?え?でもこれ…なんで…?」

 

カートリッジでもないこれがなぜリアルで力を…

 

綾波(…待て、という事は、そういう可能性があるのか…!これ以上の情報を見続けるのはまずい!)

 

綾波さんが踵を返す

 

綾波「私は先に引き上げますよ」

 

神通「どうかしましたか」

 

綾波「…長居したくなくなりました、合流ポイントで会いましょう」

 

夕立「了解」

 

神通「わかりました」

 

青葉「待ってくださ…っ!」

 

神通さんが迫り、私の首を掴んで壁に叩きつける

 

青葉「かひっ…」

 

神通「黙りなさい、どうやら、口出しはしないほうがよさそうです」

 

青葉「…神通さ…貴方は…!」

 

神通「私はこの道が“正しい”と信じています、あなたが何をいってもそれは変わりません」

 

夕立「そうそう…大いなる目的のためっぽい、知らないケド」

 

神通さんの手を掴んだ瞬間、顔がこわばる

 

神通「っ…!」

 

青葉(!…手を痛めてる!)

 

掴む手の力を強める

 

神通「っー…!性格の悪い人だ…!」

 

青葉「…お互い様です!」

 

神通さんの腹部に前蹴りを放ち、押しやり距離を取る

 

神通「…やはり、痛めた手を動かすのは良くないか」

 

青葉(…格闘戦…は、不利だし…どうすればいいんだろう…このままじゃ一方的に嬲られる…!いや、とにかく呪符で!)

 

青葉「閃矢の呪符!」

 

神通「っ!…その程度!」

 

神通さんが蹴りの構えに入り、空間を蹴る

 

青葉「…け、蹴り…?」

 

青葉(蹴りでどうこうするとか…バトル漫画の世界じゃないんだから…!)

 

青葉「いや、呪符使ってるこっちも大概か!!地獄蟲の召喚符!」

 

地面に呪符を貼り付け、その場を離れる

 

神通(呪符はThe・Worldのものの再現、名前さえ分かっていれば私は効果と範囲が予測できる…)

 

青葉(多分神通さんは威力とかもそこまでじゃないと思ってるんだろうな…でも!何故かさっきから威力が増してる…ならこれで!!)

 

地面から現れた闇の蟲の多足が神通さんに伸びる

 

神通(捕まったら不味い…!……こうなれば…やむを得ないか!!)

 

新緑色の光が視界を塗りつぶす

 

青葉「っ…!?な、何が…」

 

 

 

 

 

青葉「……っ…?これ、は…」

 

拘束されてる…さっきの光の後、意識を失ったのか…

 

神通「流石に姉さんに土をつけるだけのことはある、槍なしでこうも手こずるとは…まさか、あなたに先に使うことになるとは思いませんでした」

 

青葉「…何をしたんですか…」

 

神通「メイガス」

 

青葉「…え?」

 

新緑色に輝く巨人…

一瞬だけ見えた…

 

これが、あの瞬間に…?

 

神通「LSFDのエネルギーを利用すれば…眠っていた力を無理矢理引き摺り出せる…!これは…何者にも劣らない力…!」

 

青葉「…神通さん…」

 

神通「…失礼、取り乱してしまいました…しかし、この力の前には、あなたも無力という事です」

 

青葉(でも、碑文使いなら…川内さん達が…)

 

神通「ああ、それと…一応言っておきますが、姉さん達は碑文の力を失っています、取り戻したのは私1人の様でしたから…あの聖堂で失って以来…取り戻す機会もなかったのでは、仕方ありませんけどね」

 

青葉(…碑文使いの力を神通さんが使える…この情報は、絶対に持ち帰らないと…)

 

神通「帰って皆さんに伝えたいんでしょう?…構いませんよ、でも…そんな暇があるでしょうか」

 

青葉「え?」

 

神通「…艦娘システムは終わりです、もう、この場所での戦いは終わった…逃げ帰って構いませんよ、辛いのは、今からですから」

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