元勇者提督 作:無し
みなとみらい
駆逐艦 狭霧
狭霧「このような格好で申し訳ありません、まともな衣類の替えも、用意していなかったもので…」
あの戦いのせいで私の衣服も艤装も、何もかもボロボロ…
だけど、それでも…どこか心は満ち足りていた
…正直、あの時何をしたのか、何が起きたのかすらはっきりとは覚えていないが…綾波さんがこちらを見ていた時…
ぼんやりとだけど、不安そうにこちらを見ていたあの姿…
…私は綾波さんの心が死んでいない事を確信できた
私は綾波さんが堕ちたわけではない事を確信できた
それだけで満ち足りている
青葉「…すみません、私から言い出した事なのに、私が途中でブレたせいでこんな事になって…」
狭霧「青葉さんのお気持ちは理解できます、今回の件は仕方なかった…としましょう、それよりも、今宿毛湾と連絡がついたのですが…その…とても芳しいとは言えない状況の様です」
青葉「それって…」
…各種報道機関では、艦娘による暴動として色んなニュースがすでに流れていた
となると、各基地に問い合わせが相次ぐ
それだけではない
SNSには、みなとみらいから生きて脱出した人達の投稿が溢れている
みんな口を揃えて、年端も行かない少女達が銃器を持って暴れている、と言うのだ
中には画像や動画付きのものも多くある
青葉「…じゃあ、やっぱり警察達が踏み込んでこないのって…」
狭霧「ええ、我々を信用していいのか悩んでいる、と言うところでしょう…」
川内「…怪我人だけでも」
狭霧「それも拒否されました、ですので、私達で処置の方は済ませました…」
川内「…ちょっと待ってよ、那珂は?本当に大丈夫なんだよね?」
狭霧「…朧さんにも言いましたが……ハッキリ言って、ここの施設では延命処置のみです、それも…正しい意味ではなく」
…このままでは、あと2日以内に…おそらく亡くなる
だって、カートリッジの力で患部を無理やり深海棲艦にして生かしている状態だから…
傷の広がりなどを防いでいるだけで、決して治療しているわけではない
治すのは、ハッキリ言ってもう不可能なラインを超えている
川内「……病院なら?この辺なら大きい病院の一つくらいあるでしょ!?」
狭霧「…搬送できないんですよ、そもそも、向こうは私たちに懐疑的、一歩間違えれば敵視されているかもしれない…扱いとしては怪我人を抱えた立て籠り犯なんですよ」
川内「なんで…!同じ人間でしょ!?」
狭霧「……人は、自分以上の力を嫌いますから」
川内「同じでしょ…!?同じ人間じゃないの…!」
青葉「川内さん」
青葉さんが川内さんを諌める
然し、当然簡単に引き下がれるわけがない
大事な人の命がかかっているのだから
川内「こんな理不尽を喰うためにあんな苦労をして、こんな危険を顧みないで!今まで戦ってきたの…!?そうじゃないでしょ…!?」
青葉「ええ…そうですよ、私たちはようやく掴んだ世界を守るために戦ってきたんです…」
…私には、この人たちの言っていることはわからない
綾波さんやこの人たちが語る前の世界…知識としては存在するが、それ以上にはならない
作られた記憶の様にしか感じない
だから、本質的には…存在しない、理解できない
青葉「…川内さん?」
狭霧「どこに行こうとしてるんですか」
川内「…那珂のとこ」
狭霧「連れて行くつもりですね」
川内「…当たり前でしょ…ここに居たら那珂は死ぬんだよね?じゃあ黙って指咥えてそれを見てろって?それともここで助ける手段があるの!?」
狭霧「…それは…賢い手段ではありません」
青葉「なにかあったんですか?」
狭霧「…警察隊に接近した人が威嚇射撃を受けたそうです、一般人だったのですが…保護を受ける前に、一般人相手にも武装を解除できているか入念な確認をされたらしく…」
川内「…武装さえ解除すればいいんでしょ」
狭霧「那珂さんは今カートリッジで何とかその命を繋いでいます、武装を解除しなくてはならないとなると…」
川内「っ…!じゃあどうしろって!?」
狭霧「…まだ、待ってください、私たちで各方面に連絡して…一箇所でも受け入れてくるところが見つかったら動きましょう…」
青葉「でもそれじゃあ、いつになるか…!」
川内「…海から帰る、ぐるっと回れば…」
狭霧「無理です、艤装は何処にあるんですか?それにもし泳いで帰ると言うのなら…深海棲艦に襲われたら?」
川内「船が何処かにある!それなら…」
狭霧「一度捕まれば終わりですよ…!」
川内「ああぁぁぁ!!じゃあアンタは!同じ立場ならどうするんだよ!!」
川内さんが怒鳴る
狭霧「ここから出る手段がないのなら…詰みです」
川内「…出られれば、助かるって?」
狭霧「可能性はあります」
青葉「どうやって…?」
狭霧「……那珂さんの体は一部が消失している状態です、それを作って補う…人工的に体のパーツを作り出します」
川内「どう…あ」
川内さんが私を見て目を丸くする
狭霧「はい、私は人のクローンですから…勿論、1から作ればそれは別人と呼ぶべきでしょうが…Linkの基地には未だクローンの生成装置が眠っています、本来は破棄する予定でしたけど…使い道があったので」ら
川内「じゃあ、ここから出れば…」
狭霧「可能性はあります、ですが強い拒絶反応が起こる可能性もあるのは事実です」
青葉「…ここから、抜け出すには?」
狭霧「…今、我々には“人間”の責任者は居ません…艦娘を人間と定義してくれてるなら、話は変わりますが…彼らには知能を持った野獣の様に見えている様で」
川内「そんなもん、叩き潰して通ればいい」
青葉「ダメです、そうしたら余計に…そうだ!司令官は!」
狭霧「ええ、連絡を取ろうとしていますが…宿毛湾にも問い合わせが殺到しているのか、繋がりませんでした」
川内「呉は」
狭霧「同様です、試しますか」
スマホを渡す
川内「……話し中…!大井!……出ない…球磨…多摩も木曽も北上もみんなダメだ…!出てくれない!」
青葉「佐世保!佐世保は!?私連絡先知ってます!」
川内さんが青葉さんにスマホを渡す
青葉「………ダメです…」
狭霧「…知らない番号、と言うのもあるのかもしれません、対応するなと言われてるのかも」
川内「留守電も入れたけど…反応ない…」
狭霧「…どう、すれば……」
グラーフ「おい、狭霧」
狭霧「グラーフさん、どうかしましたか」
グラーフ「保護した民間人だが、責任者に会わせろとうるさい奴がいてな…「私は偉い」だとか、言ってる奴がいるんだが…」
狭霧「…黙らせてもいいのですが、ここで下手な対応をすると後が面倒ですね…」
川内「もうイメージなんて落ちるとこまで落ちてるんだろうし、放っとこうよ」
青葉「それよりも今は目の前の命です」
狭霧「…ですね、グラーフさん、黙らせてください」
グラーフ「ああ…お、おい!タシュ!何故連れてきた!」
タシュケント「いや、連れてきたかったわけじゃ…」
秋津洲「お邪魔するかも!ここの責任者は何処かも!」
狭霧「…私ですが?」
秋津洲「所属を言うかも!」
狭霧「…はあ?」
秋津洲「だーかーら!所属は?って聞いてるかも!」
狭霧(私が聞かれてたんですか…?…宿毛湾というべきか、Linkと名乗るべきか…)
青葉「宿毛湾泊地所属の駆逐艦、狭霧さんです、私は同じく重巡洋艦青葉です」
狭霧「…どうも」
秋津洲「宿毛湾…あそこ…?…あー…離島潰されたっけ…」
川内「…もしかしてこっち側?なんか詳しい?…っていうか、見たことある様な…」
秋津洲「…特務部の秋津洲かも!」
青葉「特務部!?どうしてここに…!」
グラーフ「…特務部というのは軍内に本当に存在するのか?」
タシュケント「さあ…」
秋津洲「だーかーら!するかも!」
グラーフ「するのかしないのかハッキリしろ!」
秋津洲「するって言ってるかも!…あんまりうるさいとクビにしてやるかも」
タシュケント(絶対語尾が悪いのに…)
狭霧「…そうか、思い出した、あなたが秋津洲さん…!」
秋津洲「…会ったことあるかも?」
狭霧「いえ、しかし…私は綾波さんのクローンでして、記憶もある程度…なので貴方のことは知っています」
秋津洲「なら話が早いかも、さっさと帰らせて!仕事があるかも!」
狭霧「秋津洲さん」
秋津洲さんの手を取る
秋津洲「か、かもっ?あたしそういう趣味は…」
狭霧「お願いします!二式大艇を貸してください!」
秋津洲「…へ?」
秋津洲「またあたしの大艇ちゃんが寝取られるかもぉぉぉ!!」
狭霧「そんな事はしません、直ぐに返します、緊急搬送が必要な人たちがいるんです!」
秋津洲「そんな事言って!綾波は返さなかったかも!」
狭霧「…Linkの基地に眠ってる二式大艇は返却しますから…」
秋津洲「本当?なら許すかも、じゃあさっさと取りに行くかも」
狭霧「そのための移動手段として、もう一台少し貸してください」
秋津洲「まあ、大艇ちゃんが帰ってくるなら許すかも……カモン!大艇ちゃん!」
秋津洲さんがスマホを操作する
川内「…何やってんの?」
秋津洲「ハイスペックなうちの大艇ちゃんはスマホ操作でここまで来てくれるかも!」
青葉(事故に遭いそう…)
狭霧「…そんな簡単に飛ばしていいんですか?」
秋津洲「その辺は心配ないかも、周辺基地とも連絡を取ってあって、ちゃ〜んと管制塔も緊急出撃を知ってるかも」
青葉(問題なければいいんですけど)
秋津洲「ここからだと、20分もかからないかも、それより基地の場所と周辺の着水地点とか、教えるかも」
狭霧「は、はい」
川内「…これで、那珂が助かる…」
青葉「良かったですね」
狭霧「グラーフさん、今のうちに包囲。解除してもらう様に交渉に行く人を決めますよ」
グラーフ「ああ、でも誰が行けば…」
ワシントン「私たちが行くわ、私たちは立場があやふやだし、もう無いけど…アメリカ籍を主張すれば話くらいは無理やりさせられるでしょうし」
狭霧「…そうですね、私たちは要請を受けてアメリカから来た、と、必ず言ってください、今の問い合わせが混雑してる状況なら簡単にはバレないはずです、上手くいけば話し合いにはできるはず…そうしたら朧さんに繋いで、宿毛湾か横須賀に回してください」
ワシントン「わかったわ」