元勇者提督 作:無し
Link基地 治療室
軽巡洋艦 大淀
大淀「……」
機材の陰から内部の様子を伺う
…那珂さんを始めとした、怪我人が治療を受けているのが見える
予定とは違うものの、協力を申し出れば快諾はしてくれるはずだ
問題は…
狭霧「…那珂さんの身体を修復するにはかなり無茶な手段になります、破損した内臓を入れ替え、消失した筋肉と皮膚を新しい物と繋ぎ合わせる…拒否反応が起きた場合、程度によっては…」
川内「他に助かる術がないんだから、なんでもやって」
狭霧「わかりました、こちらも全力を尽くします、あとは…那珂さんの気力の戦いです」
大淀(流石に今頼みに行けるほど、イかれてはいません…)
離島鎮守府跡地
教導担当 キタカミ
キタカミ「…割と綺麗に残ってるもんだねえ」
綾波「でしょう?…おかげで、こちらも助かっています」
キタカミ「神通とかは?」
綾波「今は居ません…あなたと私だけです」
キタカミ「ここに連れて来て、どうしたいのさ」
綾波「……設備があるのはここだけなもので」
キタカミ「設備?」
綾波「…あなたの、タルヴォスを抜き出すための設備です」
キタカミ「…タルヴォスを」
綾波「ええ…瑞鳳さんは覚えてますか?」
キタカミ「忘れる訳ないよ」
綾波「それは失礼しました、では瑞鳳さんからタルヴォスの因子が抜き取られたことはご存知ですか?」
キタカミ「…ぼんやりとは知ってる、川内達がそうなったって感じで」
綾波「なら結構、瑞鳳さんは…半分なんです」
キタカミ「半分?」
綾波「…あなたと瑞鳳さんの違いからも、そこは間違いないでしょう…瑞鳳さんは肉体を、あなたは精神を…タルヴォスの加護は二つに分かれ、あなた達に宿っていた」
キタカミ「…精神?」
綾波「私も、最近まで気づきもしませんでした…でも、そう考えると納得がいく…あなたがかつて私を追い込んだ攻撃」
キタカミ「…ああ、あれ?」
呪殺遊戯…ダメージ全てを跳ね返す技
綾波「それは精神に作用していました、外傷ではなく、精神破壊という形です…リアルにその力を顕現させるのは無理だから、と納得していましたが…それもよく考えるとおかしいんです」
キタカミ「おかしいって?」
綾波「瑞鳳さんの戦闘スタイルはご存知ですよね?」
キタカミ「まあ…」
綾波「空母でありながら接近戦もこなす、艦載機を操る際も、場合によっては矢を投げる事まである…以上なまでに肉体が強化されている」
キタカミ「…言われてみれば、そうかもしれないけど…」
綾波「全ての基地に私と通じる者がいます、最近の瑞鳳さんの事を…あなたは知っていますか?」
キタカミ「…いや」
綾波「青葉さんは佐世保に世話になっていたのに、瑞鳳さんの事を何も言っていませんでしたか?」
キタカミ「…特には」
綾波「瑞鳳さんはかつて頼んでもないのにあなたの事を調べ上げ、あなたを助ける為に宿毛湾の艦隊に加わった程の人です…それが何故、離島を追われたあなたに会いもしないのか」
キタカミ「追われる原因作ったのはアンタだけどね」
綾波「…それは申し訳ありません」
キタカミ「で、私が適当に理由を考えるのは簡単だけどさ、多分全部違いそうなんだよね、答えは何?」
綾波「碑文の力を失った影響で…ナノマシンが非活性化し、性格も落ち着いたと」
キタカミ「…へえ」
綾波「異様な筋力、ナノマシンで説明づけることも出来ましたが…徐々に筋力が落ちていったという記録が、碑文の力を失った日からであるという裏付けも取れた」
キタカミ「じゃあ、私はどうなんの?廃人にでもなる?」
綾波「川内さんや那珂さんのように、自分を失わなければ何も起きることはないでしょう…タルヴォスとあなたは別ですから」
キタカミ「……さて、本命の目的を聞きましょうかね」
綾波「碑文の力を集めてるんです、かつてクビアを打ち砕いたのは…碑文の力だけでしたから」
キタカミ「なるほどね、神通には?」
綾波「話していません、必要になれば話しますが…彼女は口が軽いので」
キタカミ「ああそう」
…碑文の力をぶつけて、クビアを完全撃破、か
キタカミ「他に手段はなかったもんかねえ」
綾波「…どうでしょうか、
キタカミ「それはアンタの独善的な最善、それに…あんたのやり方は強引すぎる」
綾波「…艦娘なんて、存在しなきゃいいんです、あなたも、誰も戦わなくていい世界を作るには…それを悪とする必要がある」
キタカミ「綾波、それでどれだけの人が傷つくと思ってんの?」
綾波「……死なないことが大切なんです、辛くても、悲しくても、生きている…どんな事も、生きていなければ、味わうことすらできない…苦しみの中に生きるのが辛いのは知っていますけどね」
キタカミ「……」
綾波「
キタカミ「…敷波は?」
綾波「…ああ、敷波…です、か……」
キタカミ(……)
綾波がカートリッジを取り出し、見つめる
綾波「実は、脳がやられてましてね…殆ど覚えてないんですよ、妹だってことくらいしか」
キタカミ「…嘘でしょ?」
綾波「さあ…今の私は、いろんな記憶と、意識を混ぜ合わせた存在です…私は、綾波です…でも、それは体だけなのかもしれません…いや、体すらも…これも作り物か」
キタカミ「……確かに、綾波だ」
綾波「え?」
キタカミ「綾波って言葉の意味、知ってる?綾ね連ねる波…重なり合ってくる波…小さな波がたくさん綾なった…あんたにぴったりな名前なのかもね」
綾波「…そうですか…なんだか…嬉しいですよ、これは、絶対に忘れないようにします」
キタカミ(…敷波のこと、本当に忘れたのか、忘れたことにしたいのか、どっちにしろ…)
キタカミ「…それじゃ、救われないよ」
綾波「それはあなたの考えです」
キタカミ「互い様だよ」
綾波「…そうですね…タルヴォスさえ差し出してくれれば、帰っていただいて結構ですよ」
キタカミ「…好きにすればいいよ、そんなに欲しいってなら、くれてやる」
綾波「…では」
…抜け落ちた感覚はある
だけどそれだけ
思っていたよりなんでもないものだった
キタカミ「…てっきり、廃人にでもなるのかなって思ったけどね」
綾波「そんなことする訳ないじゃないですか…でも……協力してくれて、ありがとうございます」
キタカミ「…私の力は私のもの、タルヴォスに頼り切って生きて来た訳じゃない」
綾波「…お近くまで送りましょう、そのあとは自力でお願いします」
キタカミ「わかった…ただ、これだけは言っとく」
杖を持ち上げて、綾波に向ける
キタカミ「アンタの考えが…今より更に気に入らないと思ったら…もし、敵対すると決めたら…アンタを叩き潰す」
綾波「タルヴォスも無いのに?」
キタカミ「有利になったと思った?…イーブンになっただけだよ、アンタも私も、碑文の力はない…ね?」
綾波「そういう事にしておきましょう」
横須賀鎮守府 客室
キタカミ「っと…?」
瞬きの間にソファに座った状態で転移させられる
キタカミ(ほんっと便利だな…っていうか、近くどころかダイレクトすぎ…)
キタカミ「さて、帰りますかね…っと?」
ドアが開いてワシントン達が入ってくる
アトランタ「マジでどこ行きやがったアイツ…」
ワシントン「本当に来てたの?この作戦には参加しない予定だったんでしょ?」
フレッチャー「勘違い、という事も…」
キタカミ「誰探してんの?」
ワシントン「えっ!?」
アトランタ「…なんでここに居んの…?」
キタカミ「…適当に、フラ〜っと」
ワシントン「本当に来てたなんて…」
キタカミ「…さて、帰りますかね」
アトランタ「…は?」
キタカミ「ここにいるよりやる事あるでしょ」
…綾波との話で想像はしてた
ここにいても電話の音が聞こえてくる
…仕方ない、今はやれる事をやるしかない
キタカミ「他所様に手を貸してる暇、本当にあると思う?」
アトランタ「でも…」
キタカミ「残りたいなら残っていい…でも、ここに居たら、後ろ指を指されるだけだよ、アンタらは“外国人”なんだから」
ワシントン「……」
キタカミ「優しい奴ほど傷つきやすいんだから、今は自分を大事にしなよ…嫌なもん見て来たとこでしょ」
Link基地
駆逐艦 狭霧
川内「…うん、わかってる、今治療を受けてるとこ……多分、そんなの、わからないけど…わかってる、また連絡する」
青葉「呉ですか?」
川内「うん、巻き込まれてないかって…まあ、モロに飛び込んでいったけど」
狭霧「……川内さん」
川内「…何」
狭霧「この通りです」
那珂さんの体を見せる
傷口は縫合してあるものの、色の違いから一目でわかる…血が通っていない
狭霧「…那珂さんはナノマシンタイプの艤装も使っていた跡がありますね」
川内「…まあ、一応ね」
狭霧「ナノマシンを注入してもいいですか?…生命活動をサポートする目的で」
川内「お願い」
狭霧「待ってください、これにはリスクもあって…」
川内「お願いだから、なんでもしていいから…助かる可能性を上げて」
狭霧「……後でちゃんと説明を聞いてくださいね」
機器を操作し、ナノマシンを注入する
那珂「……っ…」
那珂さんの体が大きく跳ねる
狭霧「……」
ナノマシンが全身に回るには20分
そして患部の神経などの修復の為に…
新たにつけた部位にさらにナノマシンを注入する
川内「…ねえ、本当に…」
狭霧「今更不安がらないでください…ほら」
新しくつけた部分が血色良くなり始める
川内「…これなら…治る…」
狭霧「川内さん、血液型は同じでしたね、輸血をお願いしても良いですか?」
川内「勿論…!」
狭霧「これで、十分か」
川内「…那珂」
那珂さんはカートリッジを外してもなんとか生きていられる状態
…これなら大丈夫…あとは、那珂さんの気力と、拒否反応が起きるかどうかの賭け…
狭霧「…私は他の方の治療に向かいます、それでは…」
青葉「あ、はい」
川内「…ありがとね」
…でも、でも、結局は…まだ5分と言ったところか…いや…
助かる見込みはあるが、完治は不可能というべきか…
奇跡でも起きなければ、戦える身体にするには…
狭霧「…ようやく片付いた…」
仕事が完全に終わった頃には深夜になっていた
深夜の遅い時間、みなとみらいでの戦いが終わって、みんな疲れ果てて…泥のように眠っている時間…
狭霧「……?」
なのに、おかしい
気配を殺し、周囲を探る
肌のピリつくこの感覚…
狭霧(…っ!)
今、カーテン越しに見えたシルエットは…
長身、長髪の女性…
狭霧(誰かいる、誰だ…)
気づかれないように近づき、跡をつける
狭霧「!」
一つのベッドの前で止まった
那珂さんのベッドの前で
そして
神通「出て来てください、戦う意思はありません」
狭霧「……何故、ここに来たのですか」
神通「妹の見舞いに来る事がおかしい事ですか?」
狭霧「……」
神通さんから、新緑色のオーラが…
狭霧(な、なんで…幻覚?いや…)
神通「…メイガス」
新緑色の巨人が、一瞬だけ見えた
そして、眩い光に目を閉じてしまう
狭霧「っ……!」
目を開いたときには、神通さんは居なかった
大淀「狭霧さん」
狭霧「っ!…貴方は」
大淀「大淀と申します、あなたにお願いがあって来ました」
狭霧「…なんですか」
大淀「クローン生成の機械を、お借りしたいんです」
狭霧「…え?」
那珂「那珂ちゃん!完!全ッ!復!活ッ!」
川内「…ナノマシンさえあれば一晩で治るものなんだね」
狭霧「いえ…」
違う…
完全に違う
これは、増殖だ
川内「私もなんだか体軽いし…血抜いたからかな?」
狭霧(川内さんの方にも、使ったのか)
……神通さんは、何故二人を
いや、答えは明白だ
大淀さんの話も合わせて…
狭霧(…綾波さん…)
まだ、信じていますよ