元勇者提督 作:無し
宿毛湾泊地
教導担当 キタカミ
キタカミ「つーわけで、連れて帰って来ちゃった」
摩耶「よっ」
曙「東京ぶり?」
摩耶「だな」
キタカミ「……あれ?もう1人は?」
曙「他の連中とクレームの電話の対応してるわ、あたしはつい暴言吐いちゃってクビだけど」
キタカミ「…それは不味いんじゃ」
曙「あ、やっぱり?私もどうか…」
泊地に壁を叩き壊すような音が響く
曙「手遅れね」
キタカミ「だよねえ…」
キタカミ(アケボノは一部のワード出ると異様に沸点低くなるからなあ…)
立て続けに破壊音が響く
後ろの方にいたワシントン達が顔を見合わせて震え出す
曙「あんたらもそんなに怖がらなくて良いわよ、どうせアイツはキレてても誰かに八つ当たりするとしたら…」
摩耶「お前だろうな」
曙「まあね…」
キタカミ(どうせ艦隊の運営方針とか…いや、提督の悪口は確定として、人格否定の線かな、非人道的だとか…)
キタカミ「明日から忙しくなるねえ」
ワシントン「え?」
キタカミ「デモ隊とかにかこまれるだろうからさ、外に出るのも一苦労だろうし」
曙「そうなんの?やっぱり?」
摩耶「…横須賀出るときチラッと見たけど…既に正門前で文句垂れてるやつらばっかだった」
キタカミ「1日経ってるし、なんならここもそうだと思ってたけど…まあ、まだで良かったよ…入るのは簡単だったし?」
ワシントン「ここ、言っちゃ悪いけどかなり田舎でしょ…?」
キタカミ「まあね、でもそんなの関係ないよ、来るやつは来るし、なによりみなとみらいでの作戦に参加してたのがウチだったバレた日にゃ…」
アトランタ「んなのバレる訳ないでしょ」
曙「バレる、100パーセント、人の口に戸は立てられないっていうでしょ」
ガンビアベイ「こ、ことわざわからないです…」
キタカミ「いや、まあ…ウチにまであんだけ問い合わせ来てるんだし…もう手遅れじゃないの?それにさ、雑な対応とかネットに挙げられてみなよ、そういうのに対しては…怖いよお…?」
アトランタ「…最悪じゃん」
キタカミ「…お引っ越し、とか…できりゃ良いんだけど…」
ワシントン「引越しって?」
キタカミ「…ここ捨ててよそに移るとかね…そんなことできりゃ苦労はしないんだけど」
曙「そもそもウチが紹介しなかったらこの辺の漁場全滅だっての、なのにクレーム入れても困るっての」
窓ガラスが割れて受話器が飛んでいく
ワシントン「ひっ!?」
キタカミ「おー、受話器飛んでく勢いで本体ごと……ねえ、あれ新しくするのって経費で落ちる?」
曙「アンタの方が詳しいでしょ」
キタカミ「…弁償させないとねえ…経費削減とかでうっさいし、壁と窓ガラスも…」
アケボノ「ああああああああああッ!」
…アケボノがここまで聞こえるほどの大声で吠える
アトランタ「っ…」
ガンビアベイ「ひぃっ…」
摩耶「…お前ら、アケボノになんかされてんのか?…メチャクチャ怯えてんじゃねえか」
キタカミ「まあ、本能に恐怖心を刻まれてるだろうね」
曙「アイツ自分の思い通りに行かないとめんどくさいから」
割れたガラスからアケボノが顔を出す
アケボノ「聞こえてますよ…!」
キタカミ「あん?なんだって?聞こえないよ」
摩耶「地獄耳だよなあ、マジで」
曙「キタカミも帰って来たし、休憩したら?」
キタカミ「えっ」
曙「帰って来たんだから仕事しなさいよ」
事務室
キタカミ「…よし、受付時間終了って事で」
電話線を抜き、脚を組んだ雑誌を広げ、リラックスする
漣「キタカミサマ〜…あと30分ですぜ…?」
キタカミ「大丈夫大丈夫、繋がらないってなれば諦めるから…それに、アンタも潮も、泣きながら仕事して辛かったでしょうに」
潮「それは…その…」
漣「んじゃ、キタカミサマの優しさに甘えますかー」
キタカミ「そーしな、アケボノは私がなんとかするからさ」
潮「ありがとうございます…」
キタカミ「…ま、ガキが目を腫らしながらやる仕事じゃないよこんなの…提督もこんなことさせたい訳じゃないだろうけど…」
漣「なんかー、さっき呼び出しくらったとかで本部行きましたよ本部、つーか横須賀」
…艦娘による暴動
それが世間に知られているみなとみらいでの事件の全容
ニュースもSNSも、それを正しいと報道し、国からの正式な表明には耳を貸さない
キタカミ(…マズいねぇ…綾波が艦娘を潰したいのはわかってるけど、これは…)
あまりにも平和的とは言えない
漣「うわっ」
潮「どうしたの…?」
漣「…SNS開かなきゃ良かった…」
…今、SNSには私達への攻撃的な意見で溢れてるはずだ
そんなもん見たら…
漣「っ……おえぇっ…」
潮「何を見たの…?」
漣「…人が、深海棲艦になるとこ…」
キタカミ「…なにそれ」
漣の携帯を引ったくる形で奪い取り、画面を見る
…死体のが変色し、駆逐級になる様…
でも…
キタカミ「いやこれフェイクだよ」
漣「ひょえ…?」
キタカミ「私深海棲艦にされた事あるけど、こんな風にはならないよ」
潮(す、すごいパワーワード…)
漣「ほんとに…?こんなにリアルですよ…?」
キタカミ「リアルもクソもないよ、ほら、ここの最初の部分、死体に継ぎ目があるでしょ、人形っぽい」
漣「……あ、マジだ…じゃあ本当にフェイク…?」
潮「これが本当だったら利用規約にも反してるからすぐに削除されるよ…」
キタカミ「こういうときに悪ノリしてるやつ、ほんと勘弁してほしいとよねえ…」
…でも、これが出回るってことは相当マズい
“人間が深海棲艦になる”
これが知られてる可能性がある
深海棲艦は今のところ世間では出所不明の生物、核実験の影響だとか宇宙からきたとか、海の底が汚染されて現れたとか…
そういうレベルの存在、なのにそれが人間の成れの果てだと知られれば、より艦娘に向けられる目も厳しくなる
だって、それは人殺しと何も変わらない
死体を痛ぶって遊んでるのと、側から見たら何も変わらないんだ
キタカミ「…さて、どうしたもんかね」
…状況は悪化の一途を辿るだろう
ここからどんどん酷くなる…
キタカミ(…こんな子供相手に、悪影響だねえ…)
綾波は“生きてさえいれば良い”、という考え方だ
それもまた正しい、死ぬよりは良いだろう
だから死ぬ可能性を排除したい
でも、その為に…みんなに辛い思いを強いるのは、間違ってる
起きた事はもう取り返しがつかない
漣「…そーいや、キタカミサマって漣達をガキとかチビって言うことありますけど」
キタカミ「んー?」
漣「実際のとこ歳変わらんでしょ」
キタカミ「そりゃね、みんな同じようなもんさね…最年長は一応長門じゃない?確か二十歳すぎたって聞いたけど」
漣「の割にはガキとか言われるの不満なんですけどー」
キタカミ「そりゃあまあ…前の世界でアンタらよりずっと長生きしたからねえ」
生まれるのが早かった、というだけだけど
キタカミ「……」
だから、私は謂わばお姉さんだ
私はこのクソガキどもを護ってやる必要がある…と、思う
キタカミ「明日の電話番は誰にさせようかねえ…」
漣「それよりも…どうにかこんな混乱を止める方法…」
キタカミ「ないよ、ある訳ないじゃん、人の思い込みをどうこうするなんて無理、深海棲艦に襲われてる奴を助けたところでな〜んにもかわらない、どんどんどんどん、私たちは悪者にされる」
潮「そんな…」
扉を乱暴に叩かれる
キタカミ「あーい?」
アトランタ「キタカミ、話が…」
キタカミ「行儀が悪い」
アトランタ「…っと、失礼します…」
キタカミ「よろしい、で、何?」
漣(今更だけど絶対歳上なのに、完全に上下逆だぁ…)
アトランタ「…SNS見た?」
キタカミ「ちらっとだけ」
アトランタ「…じゃあ、他所もやばいの、知ってる?」
キタカミ「そりゃあ、呉も横須賀も、多分佐世保とかも酷い事に…」
アトランタ「
キタカミ「…ちょっと見せて」
アトランタが差し出した端末からSNSを見る
キタカミ(…スラングキツすぎて…読めないのばっかだけど……)
キタカミ「他の国でも、同じことが起きてる…?」
アトランタ「そう、
キタカミ「艦娘を、排除…?」
日本とは少し違う…
アトランタ「調べてみたんだけど、ドイツで生きたまま人間が深海棲艦になりかける事例があって…それが、艦娘のせいだって…」
キタカミ「根拠は?」
アトランタ「わからない…だけど…みんなそれを信じてる…」
アトランタの誘導する記事を読むが…
キタカミ(文献は全部ドイツ語か…中途半端に理解したつもりになって広まってんの?…いや、焦るな、時間をかければ…)
キタカミ「とりあえず1日寝かせな、そしたら翻訳した記事とか出てくるはずだから…そうすれば間違いかどうかはわかる」
アトランタ「もし、本当だったら…?」
キタカミ「…そん時はそん時だけど…もしそれがマジなら、他の国でもそうなってるって…大丈夫、落ち着きな…」
…焦って手を間違えるのだけはマズい…
ここで対応を間違えて反感を煽るのは避けなきゃ…
キタカミ(…でも、これって…)
キタカミ「……ハワイ挟み込む作戦が、潰れてない?」
漣「え?」
キタカミ「…全世界で艦娘を悪とするなら…私たち、作戦を遂行できない…」
潮「そ、それじゃあ…」
キタカミ「あ、ダメだ、ヤバイヤバイヤバイ…ごめん、1人で考えさせて…」
…完全に、手が詰まった