元勇者提督 作:無し
駆逐艦 狭霧
グラーフ「…この辺りは来たことがなかったな」
タシュケント「……普通だよね?」
狭霧「そうですよ、此処にいるのは基本的には一般人だけですから…さて、此処で私たちが活動するのは少し目立ちます、気をつけてください」
ザラ「どうしてですか…?あ、外国人だから?」
狭霧「違いますよ、あまり表に出てない話ですが…この特区には生体認証チップの埋め込みで監視されてるんですよ」
タシュケント「どう言う事?」
狭霧「例えば監視カメラからでも…リアルタイムでそのチップを読み取り、個人を識別している、今、この瞬間も」
チラリと横目で商店についている防犯カメラを見る
ザラ「…あんな普通のお店のカメラも…?」
狭霧「可能性はあります、何せ此処はサイバー特区ですから」
タシュケント「…なら、どうやるのさ、常に監視されてるなら…」
狭霧「宿毛湾泊地に戻る前に終われば良いんです…慎重に行きますよ」
グラーフ(と言われても…監視されているのにどうするつもりだ?)
タシュケント「あ、あれかな、ターゲットの建物」
見つけた、今回忍び込む建物を
コンクリート作りの四階建てのビル
事前調査の通りの名前を掲げている辺り、間違いない
狭霧「…よし、ではそのまま通り過ぎて…向こうのコンビニに入りましょう、何か好きなものを買って良いですよ」
グラーフ「…おい?」
狭霧「立ち止まるのは不自然です、それにここのシステムに触れておいた方がいい」
グラーフ「システムに…触れる?」
タシュケント「んー…切り詰めておきたいしなあ…」
ザラ「節約してるんですか?」
タシュケント「…まあ、何かあっても良いようにね」
狭霧「好きなものを選んで良いですよ、奢ります」
グラーフ「何?随分と羽振りがいいな」
狭霧「そうでもありません」
三人が思い思いの商品を手に取る
狭霧「…精算が終わりました、出ますよ」
グラーフ「何?」
狭霧「大丈夫、ほら」
3人を連れて店を出る
グラーフ「…万引きにはならないのか?レジで何かをしたようには見えなかったが」
狭霧「非接触リーダー…って言ってわかりますか?」
ザラ「
狭霧「簡単に言えば、さっきレジの前を通る時に携帯決済のバーコードを読み込むようなことをしたんです」
タシュケント「でも、狭霧は何も持ってないじゃないか」
狭霧「それが、チップです」
ザラ「…成る程」
狭霧「私は今、偽造されたチップを埋め込んでいます…調べれば私が偽造チップを使っているという事はすぐわかるでしょうけど…」
グラーフ「おい待て、それは犯罪だろ」
狭霧「元々私なんて日本国籍すらないんです…クローンですから」
タシュケント「…それは、そうかもしれないけど」
狭霧「それに、ちゃんとお金は引き落とされてますし、問題は有りません…だって今から、それ以上の犯罪を犯すのですから」
グラーフ「……そうだな」
狭霧「今これを見せたのは、あくまでここの人達にはこんなに身近にこんなシステムがある、というのを見せるためです…そして、それが今から一切を失われる…一時的にね」
タシュケント「…そういうことか」
ザラ「システムを止める事で無理やり…」
狭霧「計画の第一フェーズを説明します、ここのシステムを落とし、警備員などの情報を取得します…全てが順調にいけば、その段階で目標も達成できるでしょうが」
グラーフ「そううまくいくとは思っていないという事だな」
狭霧「ええ、そこで出てくるのが話していたプランです、タシュケントさんにローカルネットワークに接続できるデバイス…これですね」
機器を渡す
狭霧「それをうまく接続して貰えば、問題ありません」
グラーフ「中に入る必要はあるのか?」
狭霧「おそらく、あるでしょうね…背後関係なども洗うとなると、データベースにある情報はどれほど信用できるものか、ダミーばかりの可能性もあるし、そもそもリアルにしか保管しないタイプの人もいます」
ザラ「データセンターなのに?」
狭霧「ええ、綾波さんも同じタイプでしたから」
グラーフ「…確かに、
ザラ「そういえば、書類秋葉兼倉庫の整理、してませんでしたね」
タシュケント「帰ったらやるとか言わないでよ?仕事を終えてまた仕事、その上宿毛湾に撤収して無意味なんて…」
グラーフ「なら持っていこう」
ザラ「それなら無意味にもなりませんね」
狭霧「……それも悪くないですね、よし、じゃあ仕事を始めましょう」
狭霧「…情報処理施設にハッキングして、侵入完了…配置についたらこの施設のメインシステムを一度シャットダウンします、その隙に…タシュケントさん、グラーフさん、お願いします」
タシュケント「わかってる、機械の設置は任せて」
グラーフ「ドローンはまず屋上に回す、調べられるところだけ外から様子を伺ってみる」
狭霧「…最悪の場合、壊されても捕まえられても構いません、そのドローンには私たちの正体を記すものはない…状況証拠的に私たちを疑う可能性はありますが」
ザラ「…随分と弱気ですね」
…痛いところを突かれた感覚だ
いつの間にか、すごく弱気になっていた…
狭霧「……実は、敵が見えてこないんです」
国なのか、それとも企業なのか、組織なのか
ハッキリしない
黒い森とはなんだ?
どこの誰が何のために作った?
単純な電子監獄のはず…でも、それは……
グラーフ「それさえわかれば良いのだから、話は簡単だ…」
狭霧「……」
今になって、綾波さんの気持ちが少しわかる気がする
…巻き込みたくないな…
人は、万に一つの道を踏み外せば、簡単に死んでしまう
そうでなくても全て無事に進むとは限らない
…ああ、わかった
綾波さんは、天才だから…怖くなったんだ
たとえ天才でも、この世の全てをコントロールできるわけじゃない
小さな小石が大きなミスを産む…
狭霧(…作戦を私が判断して、作って、主導したのは…初めて、か…)
…今まで綾波さんは、これと戦ってきたんだ
全ての責任が、私の手に乗っている
全ての可能性を、私が考慮し、最善を選ばなくてはならない
綾波さんの気持ちは今わかった
…私だって、みんなを巻き込みたくはない
ザラ「大丈夫ですよ」
ザラさんが背中をさすってくれる
タシュケント「そんなに震えないでよ、リーダー?」
タシュケントさんが肩に手を置いてくれる
グラーフ「貴様がそんなに不安では、こっちまで不安になるぞ」
グラーフさんが笑ってくれる
…綾波さんと私は違う
綾波さんは1人で戦える
その時その時でメンバーを変えても自分が100%の力を引き出せる
だから綾波さんはLinkを作り、捨てて尚、まだ何かを成すために…屍を築いた
だけど私にはそれはできない
狭霧「……」
狭霧(綾波さん、私は貴方には敵わない、私じゃ貴方になれない…貴方の真似をしていたらいつかみんなを殺してしまう…だから)
大きく息を吐き、笑う
狭霧「大丈夫です、問題なんて一切ありません…動きますよ」
狭霧(弱い私は、貴方の真似はできない…なので、私は私の最善を尽くす…私は、綾波さん、あなたの作った部隊を率いることで、皆んなを生かします)
手元の端末を操作し、メインシステムをダウンさせる
狭霧「復旧までに稼げる時間はおそらく2.3分、タシュケントさん」
タシュケント「充分だよ」
タシュケントさんが建物の裏手に周り、グラーフさんがドローンを飛ばす
グラーフ「…慣れない機器の操作は、難しいものだな…」
狭霧「それほど小さいサイズですと風の影響も大きいですからね」
グラーフ「ああ…だが、この慣れない感じ…っ…?…あのマークは…」
狭霧「どうかしましたか」
グラーフ「……今屋上に着陸させたが…カーテンが空いてる部屋があるのがわかるだろう?」
狭霧「ええ」
確かに上の方の階はカーテンが空いている…
グラーフ「…ちゃんと撮れているか分からないが、カメラで撮った写真を確認できるか」
狭霧「待ってください、海外のサーバーを経由させているので…」
ザラ「そんなにかかるものなんですか?」
狭霧「普通はかかりませんけど…痕跡を消しながらなので……ええと、戻ってきました」
グラーフ「携帯に転送したか、よし……見てくれ、これを…
ザラ「あ、本当ですね」
狭霧「ALTIMIT社…?」
グラーフさんが信じられないという顔をこちらに向ける
グラーフ「……貴様、冗談で言ってるのか?今一番ベーシックなOSだろう」
狭霧「…あ、ああ!ALTIMIT社ってその…?ごめんなさい、医療機器メーカーと結びつかなく…て……え?」
ザラ「どうかしましたか?」
狭霧「…この写真の奥」
グラーフ「…このロゴは、CC社か…」
ザラ「The・Worldを運営してる会社ですね…」
狭霧「……なんで?何故ここに…ALTIMIT社はまだパソコンとかで納得できるけど、CC社…いや、でもここはゲーム開発以外にも福祉に手を出してるのか…」
ネットで検索をかけながら思考を巡らす
狭霧「…CC社はALTIMIT社の役員が設立した…つまりCC社の親会社がALTIMIT社…だからALTIMIT社の仕事の仲介?…いや…」
タシュケント『狭霧、セットできたよ』
狭霧「……あとは、虎穴に入るしかないか…」
おおきな欠伸がついでる
グラーフ「フッ、緊張感が足りていないんじゃないか?」
狭霧「いえ……いや、そのくらいの方がいい…タシュケントさん、下がって」
ローカルネットワークに侵入し、主導権を握り…
狭霧「グラーフさん、屋上の扉は電子ロックでした、今解錠します」
グラーフ「頼む、周囲に人の気配は…いや、まて、音が聞こえるな、階段を上がるような音だ」
狭霧「…今内部から解錠されましたね、やはり施錠します、換気用の窓がこちらで開閉できるのでそこから侵入を、二階南西方向です」
グラーフ「了解した」
タシュケント『狭霧、警備員たちが外に出てきた、どうやらドローンを探してるみたいだ…』
狭霧「見つからないでくださいね」
タシュケント『いや、それよりも…銃を持ってるよ、拳銃、多分グロックだね、安いヤツ』
狭霧「え…?警備会社の名前などは見えますか」
タシュケント『…視認できないな…目は悪くないんだけど…ついてないみたい』
狭霧(これは、きな臭くなってきた…私は、もしかして思っている以上に危険な所に足を踏み入れているのでは)
ザラ「…どうしますか、予定通り私とタシュケントさんで侵入…」
狭霧「……」
銃を持っているとなると、これは殺す事を躊躇わない可能性がある
命を賭ける覚悟はあった…でも、それは…私の命じゃなかった
2人の命を勝手に賭けるような作戦だった…
それじゃあ足りないのか…?
なら、レイズする…
狭霧「タシュケントさん、警備員は何人いますか」
タシュケント『6人、固まってるから、アレがいけると思うけど』
狭霧「了解、無線などを一切使えなくしますので、その後ガスグレネードで制圧、出てきた通路を確保してください、私とザラさんも同行します」
ザラ「狭霧さんも?バックアップは…」
狭霧「現地で行います、行きますよ…!」
通信回線を遮断、監視カメラの電源をオフ…作業を進める
ぼふん…と、くぐもった破裂音がする
タシュケント『…このガスって中身どうなってるんだっけ』
狭霧「……死にはしないので大丈夫です」
ザラ(綾波さんもですけど、死ななければ何でもいいと考えてる節がありますよね…)
狭霧「さあ、侵入しますよ」