元勇者提督 作:無し
情報処理特区 施設内部
駆逐艦 狭霧
狭霧「…監視カメラ類ダウン、進行します」
ザラ「右クリア」
タシュケント「正面クリア…左良し」
狭霧「グラーフさん」
グラーフ『ああ、今ドローンが一階に降った所だ、このまま地下階に向かわせる』
狭霧「…人の気配は?」
グラーフ『一度も見かけていない、警備員以外がいないのかと思うほどだ、今日は休日か?』
狭霧「かもしれませんね、もしくは…本当に警備員しかいないか…」
端末をじっと見る
グラーフ『狭霧?』
狭霧「熱感知センサ」
ザラ「…反応ありません」
狭霧「…よく聞いてください、私達は今なら痕跡を完全に消して逃げる事ができます」
タシュケント「いきなりどうしたんだい」
狭霧「…ロシア、アメリカ、イタリアフランスイギリス中国ドイツ…計12ヶ国のサイバーコネクト社から…ここにアクセスが集中しています…」
グラーフ「何故CC社が」
狭霧「…わかりません、ただ…私が言いたいのは、世界的に有名な大企業、そして下手すれば政府をも…敵に回す、逃げる場所なんてないかも知れない……祖国をも、追われることになるかも知れません」
このサイバー攻撃への対応からも…明白だ
これは一企業のできる規模じゃない、国が絡んでいる
このまま続ければ私は…
いや、この人達が…
指先が固まる
動け、動かせ
私は私の道を行くと決めた
グラーフ『だとしたら…どこか、人の来ない所に行って見るのも面白いかもしれんな』
ザラ「ええ、南の小島に住むのも楽しいかもしれません」
タシュケント「それはいいね、雪が降らないところがいい」
狭霧「……後悔は、ナシですよ……いや」
確かに私は私の道を行くと決めた、だけど、私の目標は未だに変わりはしない
狭霧「後悔はさせません」
強く目を閉じて、見開く
大きく欠伸をして、脳に酸素を取り込む
…クローンの私にもこんなクセがあるなんて、緊張すると欠伸をするか
狭霧(…酸素が足りないならいくらでも取り込んでやる、だから…働け)
狭霧「…基礎訓練、2-4…キルハウスを実効、順に艤装換装せよ」
タシュケント「…艤装換装、カバー…完了」
ザラ「艤装換装、サポート……完了しました」
2人が順に指輪の艤装の名のマシンを操作し、艤装を換装する
元々今回の作戦は室内戦闘を想定した取り回しの良い武装ではある
でもそれを撤廃して小火器のみにすることで、より効率的な戦闘を可能にできる…
狭霧「よし、進みますよ」
グラーフ『おい、少しいいか』
狭霧「なんですか」
グラーフ『地下階に行ってくれ、狭霧、大掛かりな部屋があるが…まあ、そこが怪しいと思っている』
狭霧「了解しました…と?」
タシュケント「前方の階段から駆け降りてくる音…」
ザラ「1人や2人ではありませんね」
狭霧「処理したください」
タシュケントさんがショットガンを構える
狭霧「……一度スルーさせましょう」
目の前の通路を数人が通り抜け、階段を降りていく
タシュケント(気づかれてない…それにしても、何人…7人か、随分な人数だ…)
ザラ(撃っていたら撃ち合いになっていましたね…てっきり私たちのいる通路を通って非常口から外に出て行くのかと…)
狭霧「どうやら、メインコンピュータの復旧の手伝いに行ったようです…マスクを」
ガスマスクを装着する
タシュケント「どうする、上にもまだいるかもしれないけど」
ザラ「マスクをつけた時点で決まってますよね」
狭霧「ええ、集まっている人たちを一網打尽にしますよ」
ザラさんが先導して階段を降りる
ザラ「…!」
こちらを向かず、手で制止される
指で右側に2人と合図を送り、三つ指を立てる
タシュケント(3カウントで突っ込むか…よし、いける)
タシュケントさんがショットガンを縦に持ち、前傾姿勢に飛び出す用意をする
ザラ「……」
ザラさんの指が一つずつ順に折れ、ゼロになったと同時に2人が飛び出す
タシュケント(気づかれてない!なら!)
ザラ(頭を狙って…)
ごすっ…と、鈍い音が響く
狭霧「……死にましたか?」
タシュケント「いや、心臓は動いてる…」
ザラ「しっ…まだ意識を失っていません…」
ガスマスク内の無線を起動し、小声で喋る
狭霧「制御施設はこの先です、メインシステムは今、再起動を繰り返し続けているので一切の動作を受け付けていませんが、ローカルで接続を切られては面倒です、急いで制圧しましょう」
グラーフ『こちらがラーフだが、今ドローンはお前達のいる通路の先の物陰に隠してある、10人は中にいるぞ』
狭霧「では、ここはもういいので地下二階を目指してください」
グラーフ『それがな、大掛かりな扉があった、電子ロックのような…あー…なんだ…そう、金庫みたいに巨大な扉だ、だから進めなかった』
狭霧(制御室の扉は普通の鍵付き扉なのに、それ以上に厳重…となると、メインコンピュータ以上に隠したいものがある…?)
狭霧「なら、上階を」
グラーフ『了解』
タシュケント「…ザラ、配置について」
ザラ「はい…ガスグレネード、準備できてます」
狭霧(…とにかく、今は制圧することが最優先か)
タシュケント「行くよ」
タシュケントさんが扉を小さく開けると同時にザラさんがグレネードを投げ込む
そして2人がかりで扉をロック…
狭霧「…大丈夫ですか?」
タシュケント「…平気……!」
ザラ「ふぬ…ぬ…!」
狭霧「……」
タシュケント「…そろそろ、大丈夫かな…?」
狭霧「…開けてください」
扉が軋む音を立てながら開く
狭霧「…意識がある者も居るかもしれません、もう一度ガスを放り込んでください」
ザラさんがグレネードを放り込んで扉を閉じる
タシュケント「…狭霧、致死量って知ってるかい?」
狭霧「ええ、しかし今見えた限りでは換気扇もありましたし…死にはしないでしょう」
ザラ「それなら効果もないんじゃ…?」
狭霧「換気扇は天井部にありましたし…そのガスは空気より重いです、大丈夫大丈夫」
タシュケント(適当だ…)
狭霧「先に下を制圧しますよ、タシュケントさん」
タシュケント「わかった、階段に向かう、ザラは上階を警戒して」
ザラ「上階段クリア…キープします」
タシュケント「徐々に降りるよ…っと…?」
狭霧「これが、グラーフさんの言っていた…」
確かに金庫のように巨大な扉だ
狭霧「…開閉の履歴も取られるな、流石にそこまでは隠蔽できない…」
この中に何があるかを知れば、敵は死に物狂いで私たちを始末しようとする筈だ…
狭霧「…っ……?」
肌が、一瞬ピリつく
タシュケント「…何か、嫌な感じがする…!」
ザラ「……レーダーが、完全にダウンしました」
狭霧「…ダメです、タブレットが…まさか、外界と遮断された…?」
タシュケント「…っあ!?」
タシュケントさんが壁に叩きつけられる
ザラ「え…なんで…!」
狭霧「……そういう事か」
今の肌がピリつく感覚…これが、LSFDの感覚か
アケボノ「……」
狭霧「よりによってこの人を選ぶ辺り…個々の重要性が窺える…!」
武器を構え、即座に発砲するも…
狭霧「っ…!本当にここまで再現するとは…!」
ザラ「…レ級…!」
タシュケント「なるほどね…馬鹿力も納得だ…」
アケボノさんがレ級に姿を変え、こちらに歩きながら近づいてくる
タシュケント「これでも…」
タシュケントさんがショットガンを向ける
タシュケント「喰らえっ!!」
レ級「……」
ザラ「効いてない…!?」
ザラさんが小型のマシンガンを向けて撃つも、ダメージにならない…
レ級「……」
一歩も動く事なく、尻尾を伸ばし、2人を打ち払う
タシュケント「かっ…!」
ザラ「っ…普通の弾じゃダメ…」
2人の銃器が床を滑る
狭霧「対深海棲艦弾を持ってきておくべきでしたね」
カートリッジを取り出し起動する
そして…拳を振りかぶり…
狭霧(私でも身体強化のカートリッジの力を使えば…っ…!?)
脳が揺れる
膝がガクガクと震え、尻餅をつく
狭霧「えっ…なっ…?」
顎が痛い…小突かれた程度なのだろう…なのに…
立てない、動けない
これほど効果的に弱点をつき、立ち回れるのなら、朧さんもガングートさんも歯が立たなくて当然ではないか…
目の前のこの人に抱くこの恐怖心は…間違いなく綾波さんに似通ったソレだ
レ級「……」
狭霧(…平衡感覚が、おかしくなっている……でも…)
ガタガタと震える足を、自身の骨で支え、立ち上がる
狭霧(…綾波さんなら、アケボノさんなら、今の瞬間に間髪入れずに攻撃をしてきた…)
…隙をわざと見せてくれているのなら
その期待に応えてやる
狭霧(これで…)
先程起動したカートリッジとは別に、もう二つカートリッジを取り出し、起動する
狭霧「綾波さんも、コルベニクの力を持っていたことがありましたが……これはやったことがないでしょうね…」
眼が熱い…力を吸われるような感覚に襲われる
狭霧「…大丈夫…だから、全部…」
私だって、出来損ないだろうと綾波さんのクローンだ…
そして、今は…もう一つの眼を手に入れた事で
ダミー因子を扱う事で…
カートリッジの力を操作し、周囲に結界を張る
レ級「……」
狭霧「…わかりますか?……貴方では、もう私を倒せない」
アケボノさんがこちらに詰め寄り、獣のような爪を突き立てる
タシュケント「…狭霧の周囲に、何か、光の壁みたいなものが…?」
狭霧「絶対防御…これが、第八相の力の一つ、そして…」
両手のカートリッジを落とす
落下したカートリッジが破裂し、霧散する
狭霧「…貴方の全てを、喰らい尽くす…!」
植物の根が床を突き破って伸び、アケボノさんに突き刺さる
狭霧「貴方のエネルギーを全て…!……え…」
がくりと、膝をつき、地を睨む
何故だ、無茶をし過ぎたか?
体力が尽きたか…?
いや…
レ級「……相手が悪い」
ザラ「喋っ…!?」
狭霧(…まさか…)
アケボノさんの方を、見る
アケボノさんの体の周りに、紋様が…
レ級「…来れ再誕…」
狭霧「っ!…ダメ…!」
レ級「コルベニク」
タシュケント「けほっ…かはっ…」
狭霧「…無事ですか」
ザラ「なんとか…」
…酷い有様だ
絶対防御が解かれていなくてよかった
おかげで2人も、私も無事だった
でも、周囲の土地が抉れ、建物が倒壊している
狭霧(…今のが、コルベニク…)
コルベニクが顕現した一瞬で、私達がコソコソとしていたのが全て無駄になった
ただ、その影響でLSFDが破損したのかアケボノさん自身も居ない
おかげで何もかも吹き飛んだ…
狭霧(まさか…根から逆に碑文の力を吸い出そうとするなんて……いや、早く逃げなくちゃ……あ…)
部屋の中身が、目に入る
ザラ「これが、中身…」
タシュケント「……なんなんだこれは…」
タシュケントさんがソレに近づこうとする
狭霧「触らないで!」
タシュケント「え…?」
狭霧「それに、触れてはいけません……これが、答えだとするのなら…」
…これが、真実なら…
綾波さんもこれを知らないことになる
狭霧(これが、黒い森…かつて脳だけで作られたといわれた森…!)
その実態は…
タシュケント「…このカプセル、何が……っ…」
ザラ「何を見たんですか…?……これは…」
タシュケント「カプセルに詰められた人間が、こんなに…」
ザラ「…出してあげないと…!」
狭霧「いいえ、早く逃げましょう…すでに警察が近くまで来ている」
…今は自分の身を優先しなくてはならない
狭霧「それに警察が真っ当なら、ここにいる人たちは警察が保護してくれる」
タシュケント「…真っ当ならね」