元勇者提督   作:無し

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Link基地

駆逐艦 狭霧

 

狭霧「全員無事に戻れましたか」

 

グラーフ「…とんでもないことになったな」

 

狭霧「…ええ」

 

タシュケント「あれは…」

 

狭霧「あれが黒い森の正体です、人間のカプセル詰め…脳だけを保管して機能させるなんてできるわけがない、だから人間そのままはを保管していた…」

 

…のだと、思う…

私にはそこまでだ

 

足りない、何が足りないって証拠が足りない

あそこで正確に何を行っていたのかを私は知らない

あそこが何なのかを、示すものは無かった

 

結局のところ、私は見たものから想像を語っているに過ぎない

 

ザラ「あの」

 

狭霧「…なんですか?」

 

ザラ「これ」

 

ザラさんが紙束を押し付けてくる

 

狭霧「……これは?」

 

チラリと紙を見ると、CC社のロゴ

 

狭霧「!」

 

書類だ、色々な種類がある、レポートや帳簿、求めていた証拠が…

 

ザラ「逃げる時に端の方に積まれてたのを見つけたんです、それで…すごく気になって…つい持ってきてしまって」

 

狭霧「出癖が悪いですね、然し……今回ばかりは称賛します」

 

書類を並べ、読み込む

 

狭霧「……え…?」

 

…ああ、何と愚かなことか

私は何も分かってなどいなかった、理解していたのは上辺だけだ

 

狭霧(…あの人間…全部、売られてるんだ…)

 

…言葉が出ない

あのカプセル詰めの人間は、人間としては認められていない

いつでも必要になったら殺せる存在…

 

グラーフ「どうした、なんなんだ」

 

狭霧「……あの人達は、黒い森です…ああ、そういうことだったなんて…」

 

ザラ「…わかるように、説明してくれませんか」

 

狭霧「ドナーですよ…望んでそうなってるわけじゃないですけど」

 

タシュケント「ドナー?」

 

狭霧「彼らは、あのカプセルで健康的に生かされている…そして、常に脳はフル稼働させられている…人体丸々保管するのは、鮮度を保つため…と思ってたら、実は正しいけど、違った」

 

グラーフ「違うだと?」

 

狭霧「売られてたんですよ、脳から肺や心臓、なんだって残さず売られてた」

 

帳簿を見せる

 

タシュケント「!…これ、ロシアの病院だ、行った事ないけど、凄く有名なところだよ」

 

グラーフ「こっちはドイツの医大だ…」

 

ザラ「イタリアの病院の名前もあります…」

 

狭霧「……ドナーバンク、のようなものだったのかも知れません…あそこに繋がれた人達は、臓器売買の被害者…」

 

グラーフ「…助けに行こう」

 

狭霧「いいえ、行けません」

 

ザラ「……」

 

もう遅い、もう手遅れだ

あそこの施設は処理されるか、すでに仲間を運び出しているはず…

 

狭霧「…ここに長居するのも危険です、出立の準備を」

 

タシュケント「…わかった」

 

…これをどこにどう報告するか

私1人でこの秘密を呑み込むのが良いのか

 

グラーフ「…どうする」

 

狭霧「ええ…そうですね、どうしましょうか」

 

私1人の問題じゃない、私たちの帰る家は宿毛湾泊地になった

となれば…このまま秘密を抱えて帰るわけにはいかない

あそこで私達も権限の余波に巻き込まれて吹き飛んだと思ってくれればどんなに良いのか…

 

狭霧「書類は即刻焼きます、ここにあった痕跡は残さない…私は念の為逆探知を防げてるか確認します…物理的に吹き飛んだので、詳細なデータも回収できないはずですけど…」

 

タシュケント「戻るんだね?宿毛湾泊地に」

 

狭霧「…ええ、迷惑をかけないようにしないと……」

 

…ああ、綾波さんなら…

完璧に終わらせて見せたのだろうか?

それとも私同様にミスをして狼狽えるのだろうか

 

あんな状況下でも綾波さんならアケボノさんを圧倒し、何事もないように先に進んでみせたのだろうか?

私はそう思う、だって彼女は私の憧れだから

 

私にできない事を、たった一人でやってのけたはずだ

 

私が手汗や震えを隠しながらしてきた道を涼しい顔で通り抜けたはずだ

 

なら私もそうするべきだ

私もそうしなくては

 

奥歯を強く噛み締める

 

狭霧(…いつまでも憧れてはいられない…少なくとも、綾波さんに誇れる私でありたい…!)

 

狭霧「降りかかる火の粉は、全て私が払います…行きましょう、宿毛湾泊地に」

 

 

 

 

 

 

 

宿毛湾泊地 事務室

教導担当 キタカミ

 

キタカミ「…やー、今日も今日で…うるっさいねえ…」

 

電話線はすでに引っこ抜いたのに、わーわーわーわー、正門前があの騒ぎで買い物にも行けない…

艦娘に対する反対デモは昨日からずっと続いてる

外出しようとした加賀達は袋叩きのごとく囲まれたって話だし

 

阿武隈「…私達、悪いことしてませんよね…?」

 

キタカミ「不安になんなって…大丈夫大丈夫…と?」

 

何か、航空機の音が…

 

阿武隈「あれは、二式大艇…?」

 

キタカミ「青葉達か…帰ってくるなら連絡くらい…って、電話線引っこ抜いたのは私か」

 

阿武隈「…海に着水するみたいです、あたし、行ってきます!」

 

キタカミ「ん…」

 

阿武隈を見送り、窓の外を見る

 

キタカミ「早く帰ってこないかなー…提督」

 

どうにも話が進まなくて、その上に今しがた新たな嫌疑をかけられて帰るに帰れないらしいし

 

その新しい嫌疑ってのは、青森で起きた大規模爆発

建物の地下階が急に爆発し、綺麗に深さ10メートルのクレーター状の穴が空き、上部の建物は吹き飛ばされて近くの林に倒れてるとか…

死者もかなり出たとかで、近隣の監視カメラに艦娘と思われる人間が映っていたとも…

 

キタカミ「…詳細なこと知りたくても、まだちゃんとしたニュースにすらなってないし…」

 

テレビやネットからは今説明した通りのことが起きて、爆破テロの可能性があるとだけ

 

キタカミ(…にしても、不思議だな…)

 

タルヴォスが抜けた私は、どんどん嗅覚が衰えた…というか、一般レベルに落ち着いたのだろうか

特に人を察知するほどのことはもうできない

壁を隔てた先に何があるかもわからない

 

それが不思議と怖くない

落ち着いている…やっと解放されたとも思っている

 

…過ぎた力を持っていたのだろう

私には、強過ぎた…

私がその力の使い手であることに自信を持てなくて

 

みんなの前で戦う事のプレッシャーに呑まれ過ぎて

 

疲れ果てていた私の肩の荷は、ようやく一つだけ降りた

 

キタカミ(さて、電話番のフリしてサボるのもそろそろ限界かなあ…アケボノがうっさいし、めんどくさい事するのも仕事なのはわかってるけど…)

 

読んでいた漫画雑誌を机に投げ捨て、電話線を電話機に突き刺す

 

キタカミ「わっ!?…いきなりかよ…」

 

喧しく鳴り響く電話をいやいやに取る

 

キタカミ「あーい、こちら宿毛湾泊地…」

 

海斗『キタカミ?もしもし、聞こえてる?』

 

キタカミ「わ、提督じゃん、どしたの?」

 

海斗『よかった、ようやく繋がった…これからそっちに戻れると思うんだけど…そっちにもし青葉がいたら、悪いけど執務室の机の上のUSBを渡して置いて欲しいんだ』

 

キタカミ「なんかあんの?」

 

海斗『…みなとみらいの事件が発生した時、僕は過去のThe・Worldを調査してたんだ、その記録だよ』

 

キタカミ「おっけ、渡しとくよ、お土産よろしく」

 

海斗『ありがとう、じゃあね』

 

キタカミ「ん……」

 

受話器を置き、再び喧しく鳴る電話機を無視し背もたれに寄りかかる

脚を机の上に乗せて組み、漫画雑誌を開いて顔の上に乗せて寝ているフリをする

 

キタカミ「また、青葉かぁ…」

 

…力を捨てたのが、今になって惜しくなってきた

もう役に立てないのかもしれない

 

誰かがドアを乱暴に開けて入ってくる

 

不知火「キタカミさん!……寝てる…?いや、起きてください!」

 

不知火が漫画雑誌を取り上げる

 

不知火「っ……泣いてるんですか…?」

 

…嫌なものを見られた

目を開き、大きく欠伸をして見せ、如何にも「寝てましたけど何か?」と言った態度をとって見せる

 

キタカミ「何の様さね」

 

不知火「ニュースを見ましたか」

 

キタカミ「…どれの話?ニュースったって死ぬほどあるでしょうが……って、その前に」

 

部屋の入り口に視線をやる

 

狭霧「失礼します、倉持司令官、アケボノ秘書艦が御不在のため此方に帰還の報告をしに参りました」

 

キタカミ「…だけ、じゃないでしょ…わざわざ手下連れてきてんだから、何?クーデター?」

 

グラーフ「いや、そういう訳じゃない、そのだな…」

 

狭霧「どうしても、お話ししておかなくてはならないことがありまして」

 

キタカミ(めんどくさい事になりそうだなあ…不知火も待たせてんのに…)

 

キタカミ「それ人に聞かれちゃまずいやつ?」

 

狭霧「…ええ、かなり」

 

不知火「では、不知火の用事を先に済ませても構いませんか?」

 

キタカミ「…どんくらいかかる」

 

不知火がスマホを取り出し、弄り始める

 

不知火「…あった、2分30秒だそうです」

 

キタカミ「何、動画?…YouTubeとか?」

 

不知火「ええ、その…これがこのサイトに挙げられたのはつい先程なのですが、これのおかげで私たちに対する反対感情が抑えられるかもしれないんです」

 

キタカミ「勿体ぶらずにさっさと見せてみ」

 

不知火「…いえ、その…広告が」

 

キタカミ「残り1分40秒ね」

 

不知火「ま、待ってください…どうぞ」

 

不知火がスマホの全画面で動画を流す

 

キタカミ(ニュース番組?)

 

キャスター『先ほど入ったニュースです、青森県の情報処理特区に指定された津軽市で発生した原因不明の爆破事件ですが、事件の少し前に監視カメラに映っていた艦娘らしき人物を映像付きで公開し、情報提供を求めるとのことです』

 

キタカミ「…!」

 

狭霧「っ…」

 

キャスター『事件に関与している可能性が非常に高く、爆発が起きた事から危険物所持の疑いもある為、見つけても決して近寄らず、即座に通報する様にお願い致します』

 

狭霧(…甘かった…考えが甘過ぎた…!)

 

キタカミ(何で不知火はこれで反対感情が抑えられると…)

 

キャスター『今から流す監視カメラのVTRが…はい?……すみません、速報です、確認された艦娘は特務部、またはいずれかの鎮守府所属する工作員で、陸上型の深海棲艦による爆破テロを未然に防ぐ為に急行していた、との事です』

 

狭霧「え?」

 

キタカミ「…へえ?特務部…」

 

キャスター『この4名は爆破に巻き込まれ、死亡が確認されたとの事です』

 

狭霧「…死んだ?」

 

不知火「これがニュースとして流れたのはつい10分ほど前のことで、現在SNSでは悪意のない艦娘にまで攻撃するのは間違っているという、デモに対するネットデモが発生しています」

 

キタカミ「…なるほどね」

 

狭霧「すみません、いいですか」

 

キタカミ「ああ、ごめん、待たせたね」

 

狭霧「いえ、そうじゃなくて…その、私達です、死んだ事になってるの」

 

不知火「え?」

 

グラーフ「いいのか?」

 

狭霧「ええ、元々言うつもりでしたし…私たちが、その爆破事件の現場に居た艦娘4名です」

 

キタカミ「……詳しく聞こうか」

 

 

 

 

キタカミ「また、随分と…厄介なこと引っ張ってきてくれたもんだね」

 

狭霧「約束します、迷惑はかけません」

 

キタカミ「…無理でしょ、迷惑かけないなんてこと…特務部が気を利かせてなかったらアンタら指名手配だよ?」

 

狭霧「…ええ」

 

キタカミ「狭霧」

 

狭霧「はい」

 

キタカミ「私はさ、ワシントン達みたいな比較的仲の浅い奴らも仲間だって認めてる…だから、アイツらがハワイに帰りたいって気持ちも尊重したいと思ってる」

 

狭霧「……」

 

狭霧が少し俯く

 

キタカミ「迷惑はかけて当然だよ、迷惑かけずに生きてられる奴なんていないんだから、ウチにいるならウチのやり方も学んでもらわなきゃね、みんなでミスをカバーし合うのも、組織だからさ」

 

狭霧「良いんですか」

 

キタカミ「提督なら、良いって言うだろうしねえ…ま、それに…アンタらを受け入れたい奴らも居るだろうからさ…」

 

キタカミ(アヤナミや敷波は一足先に帰ってきてからずっとLinkを心配してたしね)

 

一つため息をついて天井に視線をやる

 

キタカミ「あと、もしウチが拒否ってもなんか聞き耳立ててる奴らが引き取ってくれるでしょ」

 

天井が外れて川内と那珂が降りてくる

 

狭霧「わっ!?」

 

那珂「命の恩人に恩を返したいしね!」

 

川内「全然、呉に来ても良いからね」

 

キタカミ「ま、アンタらの帰る家は、ひとつじゃなくなった…って事で?」

 

狭霧「…ありがとうございます」

 

狭霧(特務部にもお礼をしないと)

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