元勇者提督 作:無し
駆逐艦曙
「残念だが、お前はここの規律を乱しすぎだ」
「………」
昨日まで自分が上官をなんと呼んでいたか
それを思えばわかりやすい話だ
「お前には異動してもらう事にした」
「解体じゃなくて?随分お優しいことね」
「……漣達のことを考えろ、お前がここから大人しく消えるなら、アイツらの安全を保証しよう」
「クソ提督が…」
「自覚はある、だが奴らは駆逐艦だ、戦艦や空母として戦えるわけじゃない、ならばやることは分かるだろう」
「もし弾除けとしてあの子達を殺したら…あんたを殺しに来るから」
「来れるものなら来てみればいい」
漣、潮、朧
この3人とは特に仲が良かった、いつも憎まれ口を叩きながらも
ずっと仲良く、最後の時まで、今度こそ一緒に…
そう信じてやまなかった
「じゃあね、せいぜい達者でやりなさい」
「曙ちゃん……」
「…絶対沈まないから」
「…戦争終わったら、会えますかね」
別れの言葉も、もっと、本音を言えばよかった…
「…じゃあね、また、会えるといいなぁ…」
遠く、もう届かない声をポツリとこぼす
「君の配属先だが、呉鎮守府に移ってもらうこととした」
「呉ですか」
「君と同種の娘によくあることだったのでね、それに目を瞑るくらいの人間がいる」
呉鎮守府
「お前が曙か、よろしくな」
「…よろしくお願いします」
「資料より礼儀正しいみたいだが、あんま前のことは気にすんな、個性だと思ってるから好きにすりゃいいぜ、クソガキ」
「なっ…」
まさか初対面の人間にクソガキ呼ばわりされるとは思わなかった
「こんの…クソ提督!」
数日後には前と変わらず上司をクソ呼ばわり
我ながら情けないことこの上ない
「それでいいんだよ、お前は」
「どういうつもり?さっさと解体に回すため?」
「俺はお前みたいなやつ慣れてんだよ、結局素直に慣れないだけで根はいいやつ、それが俺から見たお前だ」
「…ふんっ…このクソ提督、この短期間で何が分かるって言うのよ」
「そうだな、じゃあもっと時間かけてやるから、お前も好きにしてくれな」
駆逐艦曙
「厄介払いしたと思ったらなんの巡り合わせだ」
「ご主人様、どうするつもりですか?」
「解体だ、曙には用はない、ストレスの元で邪魔でしかない」
「今日、今着任したばかりですよ!?」
「お願いします提督!まだこの曙ちゃんは何も…!」
「……」
ついてなかったなぁ
最近まで私以外の曙がいたみたいで、さらにはかなり態度が悪かったらしい
だから私は解体される…か
「じゃあ解体は免除してやる、ただしどのみち鎮守府からは消えてもらう、構わないな」
「…はい」
話を聞けば新入りが送られる場所があるらしい
そしてそこは地獄のように辛く、生きて戻れるとは思わない方がいい、と
「…せっかく会えたのに…」
「提督、どうにかならないんですか…?まだこの曙ちゃんは…」
姉妹が必死に嘆願してくれる
でも、感情で動くと言うのは、悪い方向にしか物事が進まない
「あまりにも煩いとお前らも解体するぞ、俺はわざわざ寛容にだな」
「じゃあ!私達もそこに送ればいいじゃないですか!」
「ちょっ…漣!」
「ボーロは黙ってて!私も異動にしてくださって結構です!と言うかそうしてくれないなら次は私が噛みつきます!!」
「わ、わ、私も、私もそうします!」
「潮まで………」
なんで初めて会ったばかりのやつのために…
馬鹿馬鹿しいとも思えるが、ただ大事にされたことが嬉しかった
「じゃあ全員異動だ、荷物をまとめておけ」
船上
「なんでわたしのために…」
聞きそびれた疑問があふれる
「そりゃあ、私たちが姉妹だからってんですよ?」
「やらずに後悔するくらいならやってから、痛感したの」
「大丈夫だよ、私たちが沈ませないから…!」
「…ごめん」
「それは言わない約束よぉおっかさん」
「……」
「…ボーノが言い返してこない!ウッシー怖いよ!ボーノが静かなオーラを発してるよ!」
「ひょぇっな、なんで私に来るの!?朧ちゃーん!」
「…曙、何も気負わなくていいんだよ?」
「……そうじゃないの、私は私なのよ」
「…そっか、やっぱりそうだよね…」
離島鎮守府
「ーー以上四名が着任しました」
「僕がここの提督です、至らぬことも多いですが何卒よろしく」
「「「「はい、よろしくお願いします」」」」
「以前いた場所に比べ、ここは大変危険な場所で、何よりいろんなものが違う、慣れない環境だと思うけど、どうか、無事に生き残ってほしい」
ここにきて数日でパワーバランスが見えてきた
練度が上であればあるだけ、発言力が増す、それはここが練度を上げれば抜け出せる場所だからだろう
そして現在一番高いのは雷巡、それに空母2人が続いている
しかし聞けばその3人は抜け出せるはずの練度をとっくに超えている
なぜまだ居るのか、それも聞いてみたが…
「私がここに残って誰か助けられるなら、その方がいいじゃん?」
「まだ、と言うだけです、いつか出ていくつもりですよ…ですけど私がここを出るまでは1人でも多く助けます」
「赤城さんと同じです、北上さんのように高尚な事は、とても言えません」
さらに時間が経つ
「ねぇ、曙、君は随分と大人しいみたいだけど」
提督か
「同型の私のことですか」
「資料を見たら気になってね、もし何か我慢してるなら、言ってほしい」
「気にしないでください、私は、私はこうなんですよ」
だから、共にきた姉妹も、少し離れた位置を取る
必死に話しかける漣を、苦笑いで追い返したのは何度目だろうか
用紙が同じだとしても、私たちは別人なのに…
なんでわかってくれないのかな…
「ねぇ、曙…」
「何?朧」
「ごめん、今まで」
「なんで謝るのよ」
「私は、私たちは曙にこうあるべきと言うことを押し付けていた、前の曙を求めてた」
「……」
「もう、理解したから、今まで通り曙は曙らしくして、本が好きで、ただ静かにしてるのが好きで…1人でゆっくり…」
「違う、1人は嫌、本もみんなで感想を話したり、みんなで海を見たりする方が好きなの」
「…そっか、全然わかってなかったね、ごめん」
「今から、いやと言うほど教えてあげるわ」
この日初めて、姉妹と姉妹になった
駆逐艦の役割とは何か
現代においては囮から盾までなんでもだ
私は自分の仕事をよく理解している
だから赤城さんと敵の間に割って入り…そう、割って入って敵の雷撃をモロに喰らった
「曙さんが不味いです、こちらの判断で引き上げます」
目も開かない
「曙ちゃん!曙ちゃんってば!起きて!」
「やめときなウッシー、このまま引っ張って帰るしか…」
「大丈夫、大破だからまだ沈まないよ…」
好き放題言っちゃって…もうちょっと休めば簡単に動けるんだから
半分を海につけながら、波の音を聞いていた
それと同時に風切り音も
「…にげ…」
着弾、ギリギリ至近弾で済む
「敵襲!どうしますか…」
「とりあえずこのまま逃げ続けます!曙さんを真ん中にして囲むように輪型陣形を組んで!」
おっかしいなぁ…
空母や戦艦の盾になるはずの私がなんで守られてるのか、まるでわかんない
私さえ捨てていけば、もしくは戦闘していれば被害はないに等しいはずなのに
結局2人も中破が出た、私のせいだった
「…ごめんなさい、私のせいで」
「何を言ってるんですか、私があの雷撃を喰らったらその時点で負けでした、身を対して守ってくれた仲間を責めるような人はいません」
優しい、けど逆にそれが辛いのだ
「なんで私を連れ帰ったんですか?あの時…」
「…それ以上先を言うなら、私はあなたとは出撃できませんよ」
やはり沈むと言うのはよほど、心に深い傷を残すのだろうか?
正直、このザラザラとしか世界の一つのシステムに触れるくらいで、恐怖なんて…
「ごめんなさい」
全くないわけじゃないのかな、少し、ゾワリとした
心臓がしめられるような感覚、これは嫌だなぁ…
「あなたが私を守ってくれた事は大変立派です、でも、第一に自分が生き残ることを大事にしてくださいね」
「はい」
果たしてその時私がどう動くのかは想像がつかないけど…
「曙ちゃん…ほんとに良かった…」
赤城さんに謝ったばっかなのにもう囲まれてる…
「曙、別に責めるつもりはないから…ただ心配だっただけで…」
「やっぱりボーノはボーノなんですよ、自分の仕事のためなら自分のことなんてなんのその!って感じがまんまボーノっていうか」
「…私は美味しくないわよ」
「あっ!調子出てきちゃったねー!いいじゃないですかー!」
「曙、みんなちゃんとわかってる、だから安心して、私たちは曙を、あなた個人として大好きだから」
「…朧…」
「提督、何か用?」
「次の演習に参加して欲しいんだ」
「…演習に参加したら、ここから出ていける確率が下がるって言われたけど」
「逆に勝てばみんな揃って出ていける」
「編成は?」
「君たち綾波型4人と北上の5名で5対5の形になる」
「水雷戦隊って訳ね…」
「ただ、この編成は向こうの強い希望で、相手は球磨型4と綾波型1の編成になってる」
「…わざわざ負けにいけっていう話?」
「いや、連携さえしっかり取れば十分に勝てるさ」
「…そう、信じてあげるわ」
呉鎮守府
「そっか、あいつら代わりの私がいるんだ」
「代わりにはなんねぇだろ、お前はお前、そいつはそいつだ」
「ふんっクソ提督、あんたに何がわかんのよ!」
「…いや、俺も仲間がいなくなった時、よく似たやつにそいつを求めた、だからわかる」
「…へぇ?本当にクソ提督だったわけね」
「ちゃんと和解したっての!お前の仲間もちゃんとお前をお前としてみてくれる、次の演習まで大人しく待ってろ!」
「ぼのたん久しぶりー!」
「久しぶりだね!曙ちゃん!」
「だぁぁぁ!離れなさいったら!そっちにも私がいるんじゃないの?!」
「曙は曙なの、どっちも曙だけど別人なんだから…」
「わーかった!わかったから!で!そいつは!?」
「私、よろしく」
「口数少ないわねぇ…あんたほんとに私なの?」
全くもって瓜二つ
だけど、どこか大人しいような
そして別人であるとはっきり認識できるような
「ベースに近いのはあんたかもね、私は提督にクソをつけたりしないし」
「へー?ハーン、喧嘩売ってるわけ?」
「好きに取ればいいじゃない」
「じゃあ私が勝ったら漣以外引き取るわ!」
「は!?ちょっと待ってぼのさま!?」
「私が勝ったら漣を引き取りなさい!」
「ボーノも!?私もしかして嫌われてる!?」
「…仕方ないわね、負けたら漣で我慢してやるわよ」
「…やっぱやめ、私が勝ったら漣も譲らない」
「ボーノぉぉぉぉ!信じてたよぉぉぉ!」
漣ともこんなに仲良くして…羨ましいな
きっとこの子は、私より素直なんだ
「私が勝ったら、あんたも連れてってやるわ、あんたもうちの鎮守府で死ぬほど働かせてやる」
「…へぇ?私は呉鎮守府から動くつもりなんてないわよ」
でも負けたらみんなでまた…
「どうするの?受ける?」
「待ってなさい、話を通してくるから」
ニャーニャークマクマキタカミサーン!
「通してきたわ、ただし、あんたが負けたら全員まとめてうちに来なさい、勿論あんたもね、うちのクソ提督が全員面倒見るってきかないのよ」
「…素直じゃない奴」
「いい度胸ね、そんなに怒らせてどうしたいのかしら」
「ボーロ、ウッシー、これは…」
「どっちが勝ってもいいことしかないけど…」
「私は勝ちたいよ、曙に、こっちの曙はすごい子だって教えてあげるんだ」
「ktkr!そうこなくっちゃ!」
「わかった、私も頑張るよ!」
「水雷戦隊、いっきまっすよ〜」
「旗艦が本当に私でいいんでしょうか」
「向こうも旗艦は曙、要するにあんたらが納得しなきゃ意味ないの」
「信じてるからね、曙ちゃん!」
「さあ!泣きっ面みせてもらって飯ウマですぞー!」
「さあ!行くわよ!」
「北上がおそらく前に出てくるから、それを挟み込んで潰せるように、方位を45度ずらした輪型陣形を提案するクマ」
「距離はお互いをサポートできるギリギリまで広げて!向こうが突っ込んできたら一気に仕留める!」
「了解ニャ」
「北上さん、ここは私が出ます、4人がかりで迂回してください」
「本気?旗艦がそんなことするなんて、正直狂ってるよ?」
「北上さんと潮で北から切り込み、後方から朧と漣が、私は部隊後への曲射砲撃を試みます、質問は」
「いや、私の作戦は読まれてるだろうからそれに乗っかるよ、でもまさかこっちを積むとは思わなかったなぁ、渋いねぇ」
「私も構いません、潮がそっちなのも納得がいくし」
「ボーノは私たちのことを一番に考えた編成を組んだ、なら答えるまでよ!」
「頑張るからね!」
「絶対に勝ちます!散!」
「敵艦発見…1…北上さん…じゃない!曙のみです!」
「…変だクマ、曙!如何するクマ!」
「陣形はこのまま!方角は南北を中心に索敵!東の曙に先制雷撃を!」
「敵甲標的接近!着弾まで5!狙いは多摩!」
「かわしきれんニャ!ちぃっ…どこから来るニャ!」
「敵砲撃!かなり高高度へばら撒いています!」
「牽制…?」
「北から来るぞ!北上と潮!」
「さっきぶりー!とりあえず雷撃いっくよ〜」
「当たれ!」
「全体減速して撃ち返して!南側の2人は砲撃で攻撃を!」
『漣、いける?目視不可な位置だけど、北上さんは接敵してる』
「任せてボーノ!ボーロ!仕掛ようぞ!」
「進路変更!北東へ!」
『敵に被害はないけどこっちは少しもらってきたねー、次の魚雷はまだダメ?』
『もう一度進路にお願いします、それで減速したところに潮の雷撃を合わせてください』
『了解、打ち上げた方は』
『間もなく落下します、火薬が多かったかもしれないので若干遅いかもしれません』
「んじゃ、もう一回行きますよ〜」
「速力戻すな!進路魚雷!」
「完全に足止めされてるクマ、あの打ち上げたやつはここに落ちるのかクマ」
「後方から接近!漣と朧!」
「しまった!狙いはそっちかニャ!」
「ッ!じゃあ曙は完全に1人!後方は雷撃で牽制!東に全速力で突っ切って旗艦を叩く!」
「北上が接近!潮は東へ進路を変更してる!曙の護衛に戻ったようだ!」
「じゃあ予定通り北上から潰す!」
「予定通り挟みにきたよ〜減速するね〜」
『後方からの砲撃当たりません!』
『朧ちゃんは射角を上げて!漣ちゃんは包囲をもっと東に!』
『修正完了!発射!』
『至近弾!そのまま狙って!』
「砲撃の精度が偉いことになってるクマ…まさか…」
「前方!多数の落下物!」
「進路を南へ!迂回!」
「まさか駆逐艦を使って弾着確認とは恐れ入りますね…」
「被弾!チッ不味いな…速力が落ちた、切り返して別働隊を叩く!」
「木曽!落ちるなよクマ!」
「来たね、木曽が浮いた、仕掛けるよ」
「漣ちゃんはそのまま!朧ちゃんは包囲を南東に!」
「先に潮を落とさないとまずいクマ!」
「無理です!間に砲撃されています!近寄る余裕がありません!」
「木曽がやられたニャ!北上後方から接近!」
「前方曙!?こっちに近づいてきます!」
「一瞬で決めて…しまった!魚雷!」
「酸素魚雷をわざわざ曙に持たせていたとはね」
「そりゃあ私が普通の魚雷を使ってるんだもん、違和感を探さないとねぇ、それとももう歳で気付かなかったぁ?」
「お前ー!姉ちゃんに言っていいことと悪いことがあるクマ!」
「頭にきたニャ」
「これからよろしくね、曙」
「あんた、本当に連れてく気なのね」
「勿論よ、私の分まで働かせてやるわ」
「…ふん、まあいいわ、折角だしクソ提督が戻る前に遊んでいきましょう」
「勿論みんな誘ってね、内地を歩くなんて初めてだから楽しみね」
「わーい!ぼのたんの奢りだー!」
「漣はお金持ってるでしょ、潮、いくよ」
「待ってよー!置いてかないでー!」
「「大丈夫、待っててあげるから」」