元勇者提督 作:無し
離島鎮守府跡地
キタカミ
綾波「……」
キタカミ「なるほどねえ…こりゃ会わせたくないわ」
夕立「夕立達が発見したときには既にこうだったっぽい」
ベッドに寝かされた綾波は静かに、小さく呼吸をして生きている
だが、あまりにも無防備すぎる…無警戒に、ただ自身を休め、必要な時に最善を発揮する為に
ただ、ひたすらにその時を待っているように
キタカミ(……)
左手薬指にはめた指輪を意識する
これに触れて艤装を展開さえすれば…
キタカミ「っ……」
うなじに何かが乗った
そして、喉元に拳銃を突きつけられる
神通「邪な考えは捨てる事です、下手に動けばそのまま首を蹴り砕きます」
夕立「その必要はなくて、夕立が撃つっぽい」
キタカミ「…いや、ははは…流石だねえ…」
神通が私の視線に反応し、そしてその神通の反応に即座に夕立が反応したか…
キタカミ「心配しなくても、違うよ」
神通「ではなぜ、武器を意識したんですか」
キタカミ「私が綾波を殺すとしたら、憐れんで…かな」
夕立「…憐れむ」
キタカミ「この前サシで話したんだよ、綾波の事はある程度理解したつもりだけと…確かに、恨みがないわけじゃないけど、世の中、変な方向でうまく回っててさ…」
ジッ…と、綾波の顔を見る
寝ているのに、化粧の跡がある
多分化粧を落とせば目元はクマがあるだろう
肌はニキビができてるんだろう
無理を押し通して生きるものには、誰よりも何よりも、自分自身からストップをかけられる
そのストップなんて、綾波にはなんでもない
気に求めずに突き進んで…もう限界を
キタカミ「…でも、綾波がやってる事を見てると…死に場所を求めてるように見えるわけさ…でも、私は死ぬのに綺麗さも形もないと思っててさ、死んだほうがいいなら死ぬしかないって」
神通「つまり、殺すのは…介錯だ、と」
キタカミ「似たようなノリかな、でも…今はそんな気分じゃないし、心配しなくても殺しゃしないから」
夕立「……」
神通と夕立が顔を見合わせる
どうやら神鷹はかけらもないらしい、当然だけど
キタカミ「…おっ」
綾波の目が開き、気怠そうに此方を見る
キタカミ「よっ」
綾波「……何故、ここに?」
神通「強くなるため、だそうです」
綾波「……」
綾波が起き上がり、大きくため息をついて此方を見る
綾波「私が道を違えた時、殺してくれるんじゃなかったんですか?」
キタカミ「いやあ…それは果たすと思うよ?死んでもやると思う、でもさ、単純に…今の私は泊地のメンバーとしてはダメだなって」
綾波「何があったんですか」
キタカミ「誤射った…って言ったら信じてくれる?」
神通「…誤射?」
綾波「あなたが?いや、それは…なるほど」
夕立「…?…何をそんなに驚いてるの?」
夕立…とはあんま絡んでなかったか…
キタカミ「私が誤射するって相当なんだよ?わからないだろうけどさ」
夕立「暗闇の中とか、接近戦になれば日常茶飯事っぽい」
神通「違いますよ、夕立さん…貴方も話に聞くレベルでは知っているでしょう、宿毛の艦隊の異常な砲撃精度」
夕立「……」
綾波「百発百中どころか、砲弾の数より的の数が多いなら工夫して全てを撃ち抜く程の、イレギュラーと呼ぶべきセンスの持ち主なんですよ、この人は」
夕立「…理解できないっぽい」
神通「ではあのミサイルを全て誘爆したのは偶然だと?……私にはそうは見えませんね」
夕立「……」
神通「視界を潰されても、全く動じずに標的を撃てる貴方が誤射なんて」
キタカミ「タルヴォスが無いからねぇ…別に惜しくなったわけじゃないけど」
綾波「匂いでの味方の位置の判断を、無意識にやっていたと」
キタカミ「そーそー、急にその力無くしたもんだからさあ…」
綾波「今の状態に慣れるまでここに居たい、と?」
キタカミ「っていうか、まあ…そうだね、私を海に出られるようにしてよ」
綾波「……成る程」
綾波は察してくれたか
綾波「どうやら、デリケートな話になりそうです、お二人は出てください」
神通「わかりました」
夕立「了解っぽい」
綾波「まさか、あなたが海洋恐怖症とは」
キタカミ「イムヤ達の手前、発狂したりはしなかったけどさあ…いやあ、怖いね海って」
綾波「…一時的なもの、とは言えませんが…あなたなら克服できますよ、私と同じようにね」
キタカミ「…それは、アンタ同様に、自分の心咬み殺して、進めってことだよね」
綾波「ええ」
キタカミ「アンタのことはある程度はわかってるつもりだよ、未だに…何一つ変わらずにここまで生きて来たことも」
綾波「ええ」
キタカミ「……でも、それは本質的な解決じゃない…人を集めて、逃げ出して…それを繰り返すアンタと、私は違う」
綾波「勿論ですとも…だから、あなたは私と同じように、苦しみながら生きることになる」
キタカミ「……私は、アンタとは違うと信じてここに来た…」
綾波「みんな同じです、大切な仲間を殺したくはない」
キタカミ「私は味方を撃ちたくない」
綾波「同じだ、何一つ変わらない…どうぞ、治るまでここにいればいい…あなたの感じてる海への恐怖は、すべてを殺したところでおさまりはしないのだから」
キタカミ「……」
多分そうなんだろう
どうやっても、私はつい、ミスをして味方を撃つんだろう
…それが、怖い
綾波(……キタカミさんの心も弱っている、ということか、鼻が潰れたくらいで誤射なんて、正直未だに信じられないが…何か、別の要因があるのではないか?本質的な恐怖、狂気に触れるような何かが)
本土
重巡洋艦 青葉
青葉「まだ買うんですか?」
ワシントン「そう、ついでに買っておきたいものがあってね…」
青葉「…あ、私も買い物したいんで銀行寄ってもいいですか?」
ワシントン「コンビニもそばにあるでしょう?」
青葉「…ATMの無料使用可能回数超えちゃってて」
ワシントン「倹約家なのね」
青葉「…なんだか街が騒がしいような」
ワシントン「そうね…どうかしたのかしら」
銀行
青葉「そういえば、ワシントンさん達は…ちゃんとお給料出てるんですか?」
ワシントン「一応ね…あなた達よりは少ないらしいけど」
青葉「危険手当とか出ないんですか?」
ワシントン「その辺は私じゃわからなくて…でも、基本給がそもそもはいらないって言われたわ、正式に雇われてるわけじゃないからって、だから毎日の出撃がなくなるとお金はほとんど出ないみたい」
青葉「それは…ちょっと不味いですね…」
ワシントン「でも、国籍とかももうそろそろ発行できるって」
青葉「なら、そこでちゃんと雇ってもらえれば…」
ワシントンさんは首を振る
ワシントン「もし国籍を貰えたら、この仕事は辞めるわ、何処かでゆっくり暮らそうと思う…日銭を稼いで貧乏暮らしになるだろうけど…」
青葉「…どうしてですか?」
ワシントン「国に見放されてから、一緒に戦ってきた仲間だけが唯一の心の拠り所だった、帰る場所だった…だから、それを失うのは嫌…なのにみんなを置き去りにするなんて…って思うかもしれないけど、誰かが最初に抜け出さないと、みんな抜けづらいでしょ?」
ワシントンさんは俯きながらそういう
青葉「……もし、そうなったら、皆さんは私たちが守ります、だから安心して…」
銃声…
青葉「っ…?」
ワシントン「強盗…?」
銃を持った覆面姿の人間が3人…間違いなく、銀行強盗…
強盗A「動くな!動いたら撃つぞ!」
強盗B「金を持って来い!早くしろ!」
ワシントン「…日本でもこんなことがあるのね」
青葉「みたいですね…止められるかな」
周囲をじっと見る…使えそうなものは…あの細長い棒のオブジェクトくらいか?…取りに行く前に撃たれるか
ワシントン「何しようとしてるの?」
青葉「こんな事止めないと」
ワシントン「やめた方がいいわ、無視して…私たちは無関係よ」
青葉「そうはいきませんよ…」
ワシントン「…撃たれたら、死ぬのよ」
青葉「いつも、そうです…そうだ、それ、借りてもいいですか?」
ワシントン「え?」
ワシントンさんのスカートのベルトを抜く
ワシントン「え、ちょっ」
青葉「後で返します!」
強盗の方に飛び出し、金具のついてない方の先端を握り、振るう
強盗A「ぐっ!?」
拳銃を持った手に金具部分が当たり、落としたのを確認し、さらに接近する
強盗B「てめえ!っ…!あだだだだっ!?」
別の強盗の手にベルトを巻きつけ、締め上げ銃を奪い取る
青葉「動かないでください、残りはあなた1人です」
強盗C「お、お前…艦娘か!」
1人を拘束したまま奪った銃を向け、狙う
青葉「今ならまだ余罪はつきませんよ」
強盗C「黙れ!元はと言えばお前達のせいで…!」
青葉(私達のせいで?)
強盗C「お前達があの街であんな騒動起こしたせいで!オレ達はこんな事しなきゃなんねえんだよ!!」
あの街であんな騒動…みなとみらいの事か
青葉「…みなとみらいの事は、防げなかった私たちに責任があります、しかしこれは犯罪です」
強盗C「知るか!海のバケモンの所為で食うにも困ってんのに…」
青葉(…最悪、撃つしか……っ?)
引き金に指をかけようとして気づく
青葉(安全装置がかかったままだ…そうだよね…当たり前だけど、この人たちも苦しくて、止むを得ずにこんな事をしてる…でも、だからって…)
銃声が一つ鳴る
青葉「っ…」
痛い、熱い、お腹から、血が出てる…
なんで…?そっちには、少なくとも強盗は居ないはず
ゆっくりと振り返る
民間人が、銃を私に向けて…仲間?なんで?
民間人「わ、分け前をくれ!俺も協力する!」
青葉「…え?」
理解ができないまま、ばたりと倒れる
身体が、痛い、冷たい床に、体温が奪われて…
強盗C「そ、そうだ!金は山分けにする!だから!協力しよう!」
青葉(なにが、どうなって…)
病院
青葉「……っ…?…」
春雨「目が覚めたようです、誰か人を呼んできてください」
…ここは、何処だろう
なんで私は寝ているんだっけ
ワシントン「青葉、良かった…」
…ワシントンさん…?
青葉「……そうだ、私…」
撃たれて…
春雨「…病院が近くて良かったですね、危うく失血死でしたよ、はい」
青葉「…なんで…?」
春雨「どうしました」
青葉「なんで…私は、人間に撃たれて…?」
…わから、ない