元勇者提督   作:無し

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記録 It's still alive

病院

重巡洋艦 青葉

 

春雨「わからない、そう言った後…彼女は今のようにずっと…目が覚めるまでに4日もかかりましたし…」

 

狭霧「青葉さん、聞こえていますか?……声に反応しません、が…覚醒状態ではあります…」

 

春雨「そうですね…意識は有るんです、ですが…外界と完全に遮断されている」

 

…何を、言っているんだろう?

私は、教えて欲しい

 

なぜ私は撃たれなくてはならなかったのか

 

狭霧「それよりも……」

 

…何を言っているんだろう?

 

春雨「本当ですか…!?……そんな、まさか…いや、だって…!」

 

狭霧「検査の結果、間違いないと…それと、できるだけ早く引き払って欲しいとも…」

 

春雨「…何ですって…引き払え…?それでも医者ですか……」

 

どうやら、私はここを出て行かなくてはならないらしい

だけどここが何処かすらわからない

 

狭霧「それでも、こちらにとっても好都合です…事実は公表しないようにいくらか握らせましたが…持って1ヶ月と言ったところか」

 

春雨「……どうします」

 

狭霧「倉持司令官に報告しましょう」

 

青葉「…司令官…」

 

春雨「!」

 

狭霧「青葉さん、聞こえますか?青葉さん?」

 

…そうだ、司令官なら、教えてくれるかもしれない

私にとって、良いと思えることが何なのか…

 

春雨「…ダメですね、私達の声に反応しない…どうせここから去るんです、泊地に行きましょうか」

 

狭霧「ええ…でも…まさか、既に死んでいる…なんて…誰が信じられるんでしょうか」

 

春雨「いつ?何処で…?…もし撃たれた時なら…なぜ先程、発声した?なぜ心臓が動いていて脈拍がある?なぜ体温がある…」

 

狭霧「わかりません」

 

 

 

 

 

宿毛湾泊地 執務室

駆逐艦 狭霧

 

狭霧「倉持司令官が居られない?」

 

アケボノ「ええ、横須賀に出頭命令を受けて…青葉さんの事について…」

 

春雨「……倉持司令官は、なんと?」

 

アケボノ「大変心を痛めておられました」

 

春雨「…貴方、私が聞いている事の意味は…わかっているんですよね?」

 

アケボノ「威圧しないでください、感情の制御のできない子供のようですよ」

 

春雨「子供で結構…!倉持司令官は何故見舞いにも来なかったんですか!」

 

アケボノ「多忙でした、たった1人のために時間を取れないほどに」

 

春雨「たった1人…?1人を蔑ろにする…それでは前の世界の離島と何も変わらない!!」

 

アケボノ「キタカミさんが消え、全体が乱れ、更にはこの事件…貴方達、普段からニュースを見ていますか?」

 

狭霧「……」

 

アケボノ「あの強盗事件…批判されているのは青葉さんの方なんです」

 

春雨「は…?」

 

アケボノ「強盗は2人が骨をおられる怪我をしました、しかし青葉さんは腹部、それから気絶した後に腕と、胸部、肩など、合計5発の銃弾を受けた……でも、それでも…批判されているのは青葉さんだ」

 

狭霧「知っています、青葉さんが先手を取って強盗2人を拘束した部分だけを切り取り、ネットに上げられた、悪意のある動画もあります」

 

春雨「どうして…!」

 

アケボノ「艦娘だから」

 

春雨「…艦娘だから…?」

 

アケボノ「私たちは、海を行けば深海棲艦の砲撃を受け、陸を行けば守るべき人間に石を投げられる…」

 

春雨「だから、どうしてだって、聞いてるんですよ…艦娘だからって、それだけで…」

 

アケボノ「艦娘、そして深海棲艦…それらは今、ある種で同一視されています…人間の職を失う理由になった存在として」

 

狭霧「みなとみらいの事はもちろん、漁業をはじめとした海に関する仕事は軒並み深海棲艦により奪われ、無理矢理強行すれば命を奪われた、なんとか対抗できる存在として現れたのが、艦娘」

 

春雨「そう…感謝こそされど恨まれる筋合いは…!」

 

アケボノ「無いですね、でも…それは人間だったら、に限った話」

 

春雨「…その言い方、艦娘は人間では無いとでも…?…人間でしょう!?」

 

アケボノ「なんともムシのいい話ですよね、自分達のできないことをする我々は…人では無いとみなされる」

 

狭霧「春雨さんはずっとついていてくれたので、知らなくても無理はありませんが…最初は青葉さんに同情的だった世論も、生存が確認された時点で“やはり人並外れた生命力“、と」

 

春雨「……そんなの…」

 

狭霧「銃で撃たれても死なないくせに、2人も骨折させるなんて、と」 

 

春雨「正当防衛でしょう!!」

 

アケボノ「自称専門家や、コメンテーターは…過剰防衛だ、と…そう、口を揃えて言っています…青葉さんがやったのは、間違いなく人道的で正しい行いだったのに」

 

春雨「…何故…?」

 

アケボノ「提督は、それについての呼び出しを受け、横須賀へ行かれました、デモこそ再開されていませんが、私たちに向けられてる目は良いものではありません」

 

春雨「……強盗達は」

 

狭霧「捕縛されました…が、春雨さん、今の質問は、よくないです」

 

春雨「何故ですか」

 

狭霧「今、貴方は冷静ではありませんでした、もし…ここで、万に一つも無罪にならないとしても、軽い罪で釈放された…と、私が言えば」

 

アケボノ「聞く耳を持たず、ここを出て行くでしょうね、最悪人の命を救うその手を人を殺めるために使うかもしれない」

 

春雨「……手は、人を殺めることも、救うこともできる……でも、それは人“間”の一部です…“人間”は人を殺せる、だから人間が発する言葉も、人を殺めることも救うこともできる…なのに」

 

アケボノ「今、貴方は危険な状態です、いっときの感情で…」

 

春雨「“馬鹿な真似はするな”…とでも?…青葉さんは何故撃たれたのか、わからないと言いました、私にも分かりません、今の話を聞いたところで、納得どころか理解すらできません!!」

 

アケボノ「……」

 

春雨「私は、今の私には…力が……っ…」

 

春雨さんの首を、レ級の尻尾の大口が挟み込む

 

アケボノ「……もし、それ以上先を言うなら、その喉を喰らい、2度と喋れなくします…もし行こうとするなら、両足を食いちぎります、それでも這うというのなら、真の臓腑まで喰らい尽くします」

 

春雨「…あなたには、わからない…私の、気持ちが…」

 

アケボノ「ええ、わかりません、かつて貴方が身を投げた理由も、その時の心境も…理解する気はないし、わかりたくもない……だが…」

 

アケボノさんの肌が、白く染まる

 

レ級「仲間をやられて、こんな事になって、私達が何も感じないとでも思っているのなら、大間違いだ」

 

春雨「なら…なら動け!青葉さんのために…!」

 

レ級「…提督からの命令は、ただ、待て…それだけです」

 

春雨さんの首元からレ級の尻尾が引く

 

アケボノ「……余計な事はしない事です」

 

春雨「それが正しいと信じているんですか」

 

アケボノ「私は提督を信じています」

 

狭霧「……少し、良いですか?」

 

アケボノ「なんでしょう」

 

狭霧「先程アケボノさんは私達が深海棲艦と守るべき人間、両方から攻撃を受けていると言いました」

 

アケボノ「ええ」

 

狭霧「倉持司令官はどうでしょう」

 

アケボノ「…意味が分かりかねます」

 

狭霧「倉持司令官は、果たして守れているのでしょうか?貴方が守りたい存在は今、どうなっているのでしょうか」

 

アケボノ「……」

 

狭霧「おそらく…この件、表向きには責任を問われる事態にはなりません、だって、青葉さん正しいですから…ですが、もし…」

 

アケボノ「青葉さんが間違っているという声が更には高まった際は、責任を問われると?」

 

狭霧「ええ、道徳心を世論が呑み込めば、処分されるのは倉持司令官でしょうね」

 

アケボノ「……チッ」

 

狭霧「それと、さらに悪い話が一つ」

 

アケボノ「…なんですか」

 

狭霧「あなたは知っているかもしれませんが…艦娘は、いや、どうやらシステムに深く入り込まれた艦娘は…人間と呼べない身体になっている」

 

アケボノ「…存じ上げています、ナノマシンの影響でしょう」

 

狭霧「ええ…青葉さんは、詳しい検査の結果、そして私の判断で…死んでいる、と断定できます…そしてそれは殆どの旧式艤装使用者全員がそうだとも言える」

 

アケボノ「そんな事、ずっと前に綾波が既に確認していたでしょう」

 

狭霧「…そうですか、では、これは知らない事だと思います…青葉さんは、もう、老化しません」

 

アケボノ「…老化しない?」

 

春雨「青葉さんに限らず言えば、たとえば漣さんや潮さん、朧さん、曙さん…貴方も、第二次性徴期を迎えておかしくない年齢です」

 

アケボノ「……まさか、不老不死にでもなったと?」

 

狭霧「少なくとも、不老…そして、この話を聞いて、私の頭にはあるものが浮かんだ」

 

アケボノ「……」

 

狭霧「艦娘を、完全に人間ではなくす手段…血と肉を、油と鋼鉄に置き換える、人智を超えたソレが、可能かもしれない」

 

春雨「…狭霧さん?」

 

狭霧「大丈夫…私は、そんなことしません……が、わかりますか、政府はソレを可能としています、今はまだ人の形をして、人の心を持っている艦娘が、鉄と油の入った皮袋にされるかもしれない」

 

アケボノ「……」

 

狭霧「倉持司令官とこの話をしなくてはならない、と…私は思います、だって、何も知らないまま利用されたら、悪いのは倉持司令官になってしまうから…」

 

アケボノ「…分かりました、取り継ぎましょう」

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