元勇者提督 作:無し
横須賀鎮守府
軽巡洋艦 川内
川内「…那珂が、死んだ?」
大淀「ええ」
…嘘だ
信じられない、本当に?
大淀「那珂さんは、背後から被弾、それも、ナパーム弾のような砲弾を受け、炎に包まれました、その後、脚部艤装なども炎で破損、沈んでしまいました」
川内「……誰がやったの」
大淀「イミテーション、アケボノさんの…ご丁寧に最初の1発だけ砲音を消してましたよ…投げつけるなりなんなり、砲音を消す手段を隠し持っているのでしょう」
川内「……っ…!」
…間違ってるのはわかってるけど、アケボノを一瞬憎んだ
だってそうだ、アケボノが手の内を全部曝け出してくれれば…それでもきっとやられてただろうけど…!
大淀「すみません、私を責めてください、私のせいで、あの時、私は…予言を、未来を見てしまった…なのに、なんともする事ができなかった」
川内「……」
大淀「三崎司令、申し訳ありません」
亮「……いや、わかった、川内、今は行くなよ、探すなら明日だ…海斗、潜水艦部隊を借りられないか?」
海斗「わかった、後で連絡するよ」
つい、壁を殴りつける
ほんの出来心だ、本当に、ついうっかり、意図したわけではない
でも…
川内「…後で?」
海斗「…今は連絡がつかないんだ、問い合わせの電話が集中してるし、携帯の連絡もできない…一応、メールだけは先に送っておくつもりだけど」
川内「チッ…!」
…つい最近の事だ
那珂が生死を彷徨うことになり
そして、漸く生き返ったのは
なのに、なのにこんな…
川内「納得できない…!この襲撃にLSFDを使ったのなら…裏はどこ?綾波?それとも深海棲艦の親玉?誰が悪いの…!」
亮「川内落ち着け!」
川内「落ち着けるわけないでしょ!?…提督は、落ち着いてられた…?大事な人が、居なくなって……私は、目の前で見ていることすらできなかった、手を伸ばしてあげる事すらできなかった…!そばに居てあげられなかった!」
亮「っ…」
…奥歯を噛み締める、痛い気がする
血が溢れてるような感覚がある
でも、那珂は?もっと苦しんでたんだ
これが?痛いわけない
川内「…提督」
今の私は、どんな顔をしてるんだろう
どんな目で、誰を見てるんだろう
川内「私の欲しい命令を、してよ」
亮「…それは…」
川内「…できないの?できるよね?だって…それは、
亮「川内…!」
…なんだっていい、最悪、命令なんてなくてもいい
なのに、欲しい
命令があれば、私は1人じゃないって…信じられるから
仲間に見捨てられたりしてないって…
海斗「間違ってる…と、思う」
亮「海斗…」
川内「…は?」
…なんだ、なんでいきなり割り込んできて…
腰に差した短刀に手をかける
手を乗せた重みにかちゃりと音を立てたそれを、すらりと抜き放ち
そして、眼球にその
川内「なんで、間違ってるって…言えるの?」
海斗「…復讐なんかじゃない、
…真っ直ぐとこちらを見据えてそう言う
海斗「ハセヲとして、戦ってきたことは間違ってない、でも、君が重ねている姿は、間違ってると思う」
川内「……何も知らない癖に…!」
亮「いや、川内、間違えてるのは、お前の方だ」
川内「…提督も…私を、否定するの?」
亮「話を聞け、川内…!那珂はまだ死んだと決まったわけじゃねえだろうが!」
川内「助かるわけ無いでしょ…!艤装も壊れた!全身に火傷を負ってる!…そんなの、素人でもわかる…死んでるって…」
海斗「いや…可能性はある、那珂さんは…確か、深海棲艦のカートリッジを持ってるんだよね?」
亮「ああ…なあ、川内…それがあれば、多分水中でも…なんとか耐えられるんじゃねえのか…?」
川内「っ…!」
まだ、可能性が…?
海斗「今、イムヤにメールを送ったよ、だから、少しだけ待って欲しい」
海斗「…返信が来た」
携帯の画面を見せてもらう
[送信者:伊168
件名:Re捜索隊
OK!今から向かうけど、陸路の方が早いかな?
調べたら横須賀周辺は電車が止まってるみたいだし、近くまで行ったらタクシーで行くから!
もちろん経費でよろしく!]
川内「……間に合う、かな」
大淀「海上の捜索を先に始めましょう、横須賀の艦娘を動員します」
亮「いいのか?」
大淀「ええ、那珂さんは失うには惜しすぎる人材だ…と、私は思っていますので…それに、貴方達には借りがある…前の世界で何もかも託して消えてから、私は何一つ、返せていません」
川内「…ありがとう」
海上
夜の海は、荒々しい波をたてていた
まるで私を誘うような、誰かの泣き声のようにも聞こえる
地獄の門が開くような音にも聞こえる
大きな生物の唸り声?それとも世界の終わる音?
そのどちらもが正しい気がしてならない
世界は私を喰おうとしている、この海はその大口に過ぎないのだと…そんな気がして
大淀「…大丈夫ですか」
川内「……うん」
大淀「現在登録されている艦娘の中で1.2を争う強者…と聞きましたが、その見る影もありませんね」
川内「っ…」
耳を塞ぎ、目を凝らす
必死に、必死に視界を巡らせる
あそこか?こっちか?向こうなのか?
いつしか、那珂を見つけたいと言う心に、邪念が混ざり始めた
早く、終わりたい
この心臓を掴まれるような恐怖から逃れたいと
最低だ、一瞬自分を否定して奮い立たせても、その悪感情は消えてはくれない
川内「…那珂…那珂!どこにいるの!那珂ぁ!」
自分の言葉が、信じられない
心配して、那珂を案じての言葉だと信じきれない
この嫌味な隠れん坊を終わらせて、早く夜から逃げ出したいと、ずっと思っている
川内(違う!違う!違う!!)
そうだ、前の世界で克服したんだ
春雨と再開して、終わった話なんだ
夜は、もう怖くないはずなんだ…
だけど、私は知っている
夜は何より非情で、一度捕まえたものを、返してはくれないと
夜は冷たくて、一瞬で何もかも奪い去っていくと
夜は、私の大事なものを、何もかも奪っていく…
川内「っ…」
何かが、波に乗って何かが、脚部艤装に張り付いた
白いそれを、拾い上げ、広げる
大淀「…それは」
川内「……那珂の、手袋だ…」
所々焼け焦げているが…間違いない
那珂は私や神通と違い、1人だけ白手袋をつけていた
スポットライトへの、アイドルへの憧れだろうか
この世界に来てまで、かつての様に艦娘になろうと言わなければ…那珂は、未だにスポットライトの下にいられたのに
川内「……私の、せいだ…」
那珂は、きっと…私を恨んでいるはずだ
怨んでいるべきだ
夜は残酷だ、私の好きなものを、全部奪っていく
大淀「絶望するのはまだ早い…貴方は全てを失った訳じゃない」
川内「失ったよ!全てだよ…!神通も、那珂もそう!2人が私の全て!でも神通は私を見捨てた!那珂は…私が夜が嫌いなのを知っていたから…外に出るのが怖いのを知っていたから、護衛に残る様に言ってくれて……!」
大淀「だとしても、まだ…」
川内「死体が見つかるのを待てって…!?嫌だよ…!私は…私は……っ…!?」
俯いて、海を睨んでいた
光が見えた気がした…
上を見上げる
大淀「……月か…」
川内(…今の、海の中が光った様に感じた…本当に月が反射した…?)
本当にそれだけなのだろうか…
大淀「…潜水艦部隊が到着した様です、川内さん、一度陸に戻りましょう…そのままでは風邪をひいてしまいますよ」
いつの間にか、服はずぶ濡れだったけど…別にそんな事はどうでも…
川内「……待って…何か」
何か、本能に呼びかける様な何かが、ここに居る
大淀「どうしました」
川内「……ダメだ!ここに居ちゃだめだ!これ以上集めたら、ダメだ…!目覚めちゃうんだ…そうだ、そうなんだ…!」
大淀「だからどうしたと…」
立ち上がり、大淀の腕を掴む
川内「逃げよう!早く!!」
横須賀鎮守府
亮「…で、全員無理矢理撤収させた上に…潜水艦部隊も行くな…ってどう言う事だよ」
川内「あそこは危険なんだよ…怖いところだ、みんな、喰われちゃう…だから、駄目、行っちゃダメなんだ…何か、いるんだよ…」
大淀「…那珂さんのことは」
川内「那珂はもうダメ…きっと食べられたんだ…ああ…夜じゃなければ…夜が、私の大事なものを…」
亮「おい川内!いい加減にしろ!」
川内「っ…!」
声に反応して体が大きく跳ねる
目元が熱くなって、涙がこぼれ落ちる
亮「…お、おい…泣くなよ…」
川内「だって…きゅ、急に…怒るから…」
…ダメだ、涙が、止まらない…
怖い…目の前にいる人すら、怖くて怖くて仕方ない
海斗「…川内さん、イムヤ達に那珂さんの捜索を任せてもいい?」
川内「ダメって…言ってるじゃん……!アレが、起きたら…世界が終わっちゃう…」
大淀「先ほどから、何に怯えてるんですか…?」
ああ、胎動が聞こえる
そうか、あれは眠っていたんじゃない、産まれようとしているんだ
力を、栄養を得て、成長し続けて…ようやく産まれるんだ…
私達は、それに何もできず…蹂躙される…
川内「…そんなの……嫌だよ…」
亮「おい…」
大淀「極度の恐怖から…心を閉ざしてしまった様ですね…」
私のそばに、今、誰がいるの…?
神通は?那珂は…?
提督は、私に怒ってるし…周りも、何も、怖いものしかない…
川内(夜なんて、なくなればいいのに…夜が、那珂を…全部を、奪っていって…)
The・World R:X
Δサーバー 忘刻の都 マク・アヌ
アカシャ盤前
???
……
全身が痛い
涙がとめどなく溢れてくる
だけど、目を開くことすらままならない
ザッザッと、こちらへ歩いてくる足音が一つ…
???「おう、無事か?…ダメだな、返事もできんほどと見える……回復アイテムはロクに持ってはいないが…っと、良いのがあった」
何かを振りかけられる感覚
体がスゥッと楽になる
自然と空気を吸い込み、酸素が肺に満ちていく
死んでるのか生きてるのかわからない状態だった自分が、生き返るのが…ハッキリとわかった
砂嵐三十郎「おお、目を覚ましたか…どうだ、加減は」
…侍?
砂嵐三十郎「プレイヤーか?それともこれは何かのイベントか?お前さん、名前は」
私?……私は…
那珂「那珂…」
いつもの様に振る舞う気力までは…まだ戻っていない
砂嵐三十郎「なか…ナカってぇーと…漢字はアレか、横長の口の真ん中に縦線引いた…」
那珂「違う、那珂って文字は…ええと、左側がちょっと変な月って字で、右はおおざとへん、これがな、それでかは、玉部に可能の可、わかる?」
砂嵐三十郎「ちょっと待ってくれ…ええとおおざとへんが…?これか、で、玉部……可能…那珂…って事か?」
那珂「そうそう、声おじさんなのに、部首でよくわかったね」
砂嵐三十郎「日本語を勉強し出したのも、おじさんになってからだ」
那珂「…外国人?」
砂嵐三十郎「そうだ、中々上手いもんだろう?」
…驚いた、流暢に喋るし漢字にも対応できるなんて
那珂「…ところで、ここはどこ?」
砂嵐三十郎「マク・アヌだ」
那珂「……マク・アヌ…?…じゃあ、The・World…!?」
砂嵐三十郎「…お前さんは他の奴らと毛並みが違うとは思ってたが、どうやら間違いないらしいな」
那珂「あ、まさか…」
これが、噂の…リアルデジタライズ?
そうか、あの最後に見たチカチカ…あれはリアルデジタライズの光…
那珂「…傷も治ってる!服も…手袋は片方ないけど…ね、ねえ…ええと」
砂嵐三十郎「砂嵐三十郎…三十郎でいい」
那珂「三十郎さん!…私、リアルから来たって言ったら…信じる?」
砂嵐三十郎「へっ…ついこの間までそんなこと言ってるヤツと組んでた、2人目だろうが3人目だろうが、信じようじゃねえか」
那珂(時代劇風…?)
那珂「…とにかく、リアルに帰らないと…そうだ、The・Worldなら青葉ちゃんにも助けを求められるはず…!」