元勇者提督   作:無し

609 / 625
第609話

宿毛湾泊地

軽巡洋艦 川内

 

川内「……」

 

つまらない退屈だ、だって青葉は私と話さないし

私も何をするわけでもなく、ただ明るい部屋の真ん中に座っているだけ

 

眠くなったら目を閉じて、眠く無くなるのを待つ

少し部屋が暗いのが気になるけど

 

できるだけ、時計や窓は目に入らないように、静かに過ごしたい

苦しい思いをしなくて良いように、できるだけ…もう、なにもしなくていい…終わりを待つだけで…

 

川内「っ」

 

気配が、近づいてくる

 

春雨「開けますよ」

 

川内「春雨…?」

 

扉が開き、春雨が入ってくる

 

川内「春雨!那珂が…」

 

春雨「聞いた…でも、川内…今、川内が取ってる行動は…間違ってる」

 

川内「え…?な、なんで?ちょっと待ってよ…春雨までそんなこと言うの?」

 

春雨「…仇を討ちたいとか、そう言う気持ちは理解できる…でも責められる謂れのないアケボノさんを標的にしてまで暴れる理由は何?」

 

川内「…アケボノが悪くないって…なんで、みんな庇うの…?」

 

春雨「川内、あなただってそこまで目を曇らせたわけじゃ…」

 

川内「那珂が死んだんだよ!?わかってる?あの那珂がだよ!?…そうそうやられるようなタマじゃないのに…!それの意味がわかる!?」

 

春雨「不意をつかれたとしても、なんだったとしても…悪いのはアケボノさんではない、貴方も奇策の一つや二つ、隠し持っているはず、私にだってある」

 

川内「…でも、それで、味方が死んだ…那珂が…」

 

春雨「なら隠すことが悪だとでも…?川内、私たちのしてる戦いは、簡単なものじゃないってわかってるでしょ…?相手が人間大で、同じように頭脳を持った個体がいる、そうなると私たちは戦術を隠す必要性を迫られる…!」

 

川内「そんなの…寄せ付けないほど強くなりさえすれば…」

 

春雨「…じゃあ、那珂は、弱かったの?」

 

川内「……」

 

みんな、みんな居なくなっていく

 

川内「春雨も、居なくなるんだ」

 

春雨「川内…どうして理解してくれないの…?」

 

川内「神通も私を見捨てた、残ってくれてた那珂すら死んだ…じゃあ、私には…」

 

春雨「……私は見捨てないし、死んでもいない…それに、1人で勝手に諦めておいて他者を否定するなんて、どれだけ傲慢に振る舞えば気が済むの?」

 

川内「…そもそも、生きてても、少しの間だよ…アレが目覚めたら…」

 

春雨「さっきから言ってるアレって何?横須賀で一体何を見たの」

 

川内「……世界を滅ぼす、チカラの塊」

 

春雨「力の…塊?」

 

川内「…私はそれに見られたんだ、それが私を見ていた…「こっちに来い」って、「お前も食ってやる」って…そう言ってた…わかるんだ、アレが目覚めたら、太刀打ちなんかできないって…」

 

春雨(…川内がおかしくなって見た幻覚なのか、それともそれこそが川内がおかしくなった原因なのか…普通に考えて、那珂の死で狂った川内の狂言だけど…)

 

 

 

駆逐艦 春雨

 

川内の言っている事はまるで狂言だ

だけど、この目に宿った因子が…川内の恐怖を…しっかりと伝えてくる

 

春雨(川内は本当に恐れている…それにしても、因子の共鳴でここまで感情がハッキリ読み取れるなんて…今までこんな事はなかった…まさか、何かが変わり始めている?)

 

春雨「っ…?」

 

何かが落ちる音…

即座に音の方向を向く…

 

春雨(コントローラー…?)

 

川内「青葉っ!」

 

青葉さんが、椅子から落ちて、倒れる様子が視界に映った

 

 

 

 

 

 

医務室

 

川内「青葉は?どうなの」

 

春雨「気絶しただけ…ただ、もしThe・Worldが原因なのなら…目を覚さない可能性もある」

 

ゲーム中の意識不明、つまり…未帰還者になったのだとしたら

復帰は絶望的だ

 

狭霧「パソコンを調べようとしたんですけど…未知のセキュリティがかかっていて解除できませんでした…」

 

春雨「青葉さんはそんなにパソコンに強い方ではない…と、思っていましたが…」

 

狭霧「…何者かにアクセスをブロックされているとしたら、かなり危険な状態だとも言えます…」

 

…どうする、か…

ヘルバ様に協力を仰ぐのはまず確定として…

 

川内「…みんな居なくなってく」

 

川内をこのままにしておくわけにも…

 

夕霧「川内さん」

 

川内「……アンタ、誰?」

 

夕霧「新入りの夕霧って言います、少しお話ししませんか?」

 

春雨(…任せました)

 

夕霧さんが此方にオッケーサインを見せる

 

春雨(とりあえず、川内のことは一度頭から追い出して、優先すべき事をやるしかない)

 

今優先するべきは、青葉さんの回復か

 

 

 

 

 

駆逐艦 夕霧

 

夕霧「川内さん、貴方はカートリッジ、持ってますよね」

 

川内「カートリッジ?」

 

夕霧「夕張に渡された、深海化(ダイバー)カートリッジ」

 

川内「ああ…あるけど」

 

川内さんがカートリッジを出す

 

夕霧「……今は、その時じゃないかもしれないけど…それを使えば…ネットの中に行けます、那珂さんが死んだとされる時、そのカートリッジを使っていて、なおかつ…LSFDが近くにあったのなら」

 

川内「…那珂がネットの中にいるって言いたいの?」

 

夕霧「可能性はあると思うんです」

 

川内「それで、何?ネットに入るにはLSFDが必要で?いるかもわからないネットに探さないかって?」

 

夕霧「行きたければ、お手伝いはします」

 

川内「…LSFDを取ってきてくれるって?」

 

夕霧「ここにあります」

 

川内「…それ、腕時計?」

 

夕霧「小型化に成功したLSFDです、どうですか、使いますか」

 

川内「…そんなもの持ってるなんて、アンタ何者?」

 

夕霧「さあ…行方不明の、天才科学者とか…なんちゃって…」

 

川内「……まさか夕張…?」

 

夕霧「どうしますか、答えは今じゃなくても良い」

 

川内「……考えさせて、悪いけど…そんな話…」

 

夕霧「怖いんですよね」

 

川内「……」

 

夕霧「貴方は夜が怖い、暗闇も怖いし、死ぬのも怖い…怖いものだらけ、何か違いますか」

 

川内「だったら何」

 

夕張「それは、ダイバーカートリッジの影響だと思います、それを持っている事でAIDAに感染したのに近い影響を受ける…黒い感情の増幅、恐怖の増大、憎しみや攻撃的な言動」

 

川内「…それって」

 

夕張「貴方自身、おかしいと思ってるはず、でもそれはカートリッジの所為…克服したはずの恐怖に呑まれそうになったのも、やり場のない怒りも、苦しくて、辛くて、悲しくて、寂しくて…それも全部、カートリッジのせい」

 

…そうはいうものの、実際カートリッジのみの影響であそこまでの暴走は起こさない

もともと抱えていた心の闇がそれほど大きいという証…

 

川内「……私は、どうすれば」

 

夕霧「そのカートリッジ、一度預かります、それで…落ち着いて、どうしたいか考えてください、きっと暗い心に支配されそうになる、だけどそれでも自分を信じて」

 

川内「…うん」

 

手放したところでおそらくほとんど変わりはしない

要するに、プラセボ効果だ

 

“今の私はカートリッジに心を支配されていない”そう思うことこそが肝心で、あとは川内さん次第

 

夕霧(綾波にはやいとこ連絡しないと…)

 

 

 

 

 

The・World R:X

Δサーバー 忘刻の都 マク・アヌ

那珂

 

那珂「…っ…はぁ…はぁ……何、あいつら…」

 

砂嵐三十郎「シックザール…とか言うらしい、ま、なんにせよ…厄介な奴らだったが…無事に凌げてよかった」

 

…眼帯のやつ、早かった

私と同じ近接格闘スタイルで、私以上に早くて…

 

砂嵐三十郎「…どうした」

 

那珂「強くならなきゃって…思っただけ、今よりももっと、もっと…だって、そうじゃないと…」

 

いつも、いつもみんな強くなっていく

私じゃ足りないようになってしまうのが怖い

 

砂嵐三十郎「…む?」

 

那珂「……誰か来てる」

 

構え、気配のする方を意識する

 

砂嵐三十郎「いや…どうやら敵じゃなさそうだ」

 

トキオ「あ!砂嵐三十郎!……と、誰だ…?」

 

ブラックローズ「お前…呉の那珂か!?」

 

那珂「その声、宿毛湾の摩耶ちゃん…?」

 

トキオ「…もしかして、知り合い?」

 

砂嵐三十郎「…ブラックローズは意識不明になったと聞いたが」

 

ブラックローズ「誰だ…オッサン」

 

 

 

 

 

砂嵐三十郎「成る程、そう言う事情があったのか…しかし、カイトがまだ無事なようで何よりだ」

 

ブラックローズ「ああ…ってか、オッサンも間に合わなくて助かるなんて、ツイてんな」

 

砂嵐三十郎「……頷き難いところだが」

 

那珂「それより!それよりさ!摩耶ちゃん!」

 

ブラックローズ「摩耶ちゃんって呼ぶなよ!アタシはお前と仲良くないだろ…!?」

 

那珂「姉さん達は!?みんな無事?私が生きてるって、みんなに教えてあげて欲しいな!」

 

ブラックローズ「だー!うるっせえ!ンなモンあとでまとめて伝えるからいいだろ!?」

 

那珂「…纏めて?」

 

ブラックローズ「もう1人、居るんだよ、リアルデジタライズってヤツをしたやつが」

 

那珂「……それって、もしかして電ちゃん?」

 

トキオ「えっ、電ちゃんと知り合いなの?」

 

那珂「やっぱり…!?そっか!そうなんだ!行方不明になった人がネットで見つかったって事は佐世保の瑞鶴とか横須賀の夕張も、みんなきっとネットに飛ばされたんだ…!」

 

トキオ「そんなにリアルデジタライズに巻き込まれてるのか…!?」

 

那珂「ねえ、トキオくんだっけ…私は行方不明になった人達を探したい、だから…連れて行ってくれない?」

 

トキオ「そ、それはいいけど…危ないと思うよ」

 

那珂「あー、大丈夫大丈夫、那珂ちゃん強いから!」

 

ブラックローズ(の割にはボロボロだけどな)

 

ブラックローズ「つーか、手袋片方だけしてんの気になるからやめろよ」

 

那珂「んー……片っぽリアルに置いてきちゃったし、当分このままなの、許して?」

 

トキオ(…また濃い人が加わったなあ…)

 

トキオ「…あ!」

 

ポザオネ「キシッ!?」

 

トキオくんが物陰に隠れた道化を指差す

 

那珂「…知り合い?」

 

トキオ「あ、あいつはシックザールって組織のメンバーで…」

 

那珂「ふーん…要するに敵でいいの?」

 

トキオ「え?…はい」

 

道化の方に歩いていく

 

ポザオネ「お前のことは知ってるアル!」

 

那珂「えー?!もしかして、那珂ちゃんのファン?サインとかいる?」

 

まさかこんなところでファンに会っちゃうなんて!

敵だと思ってたけど、わかりあえたり…

 

ポザオネ「ありえないアル!前に会った重槍士は仕留め損なったアルが…今回は逃さず徹底的に叩きのめしてやるアル!」

 

那珂「前に会った重槍士…神通姉さんの事?」

 

ポザオネ「確かそんな名前だった気がするアル、あの時は邪魔が入ったアルが…へぶっ!?」

 

顔面に拳を叩き込む

 

那珂「ねえ、神通姉さんに手を出したって?」

 

ポザオネ「へ?…あばっ!?」

 

捕まえて、もう一度殴りつける

 

トキオ(こ、この人もおっかない……)

 

那珂「神通姉さんが“お世話”になったなら、“御礼”しなきゃね…たっぷり…と」

 

ポザオネ「な、何を言ってるアル!ワタシはシックザール、道化のポザ…ぎゃんっ!」

 

那珂「え?何?聞こえない…もう一回言って?」

 

 

 

 

那珂「…さて、行こっか!」

 

ブラックローズ「…なんてむごい事しやがる…」

 

トキオ(さっきアンタがやってた事とほぼ変わらないよ…)

 

ブラックローズ「じゃ、さっさと進もうぜ…アカシャ盤とやらを」

 

那珂「このでっかい塔?を登れば良いんだね!」

 

トキオ「えーと…はい」

 

トキオ(オレ、勇者のハズなのに…全然何もしてないよ…)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。