元勇者提督   作:無し

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記録 管理者

宿毛湾泊地 医務室

駆逐艦 夕霧

 

夕霧「…春雨さんは何ともないんですか?」

 

春雨「えっ…ええ…確かに疲れてるかもしれませんが特に問題は…何故?」

 

夕霧「……いや」

 

…私は、てっきり因子保有者が全滅したのだと思った

朝霧(瑞鶴)、狭霧さん、アケボノさん、川内、朧ちゃん、明石、敷波ちゃん…

ダミー因子の保有者、モルガナ因子の保有者

合わせて7人が体調不良を訴え、朦朧とした意識の中苦しみ続けている

 

…何故春雨さんだけは例外なのか

 

夕霧(…夕霧としては、因子についてあんまり知らないことを装うべき……いや、私ならこの状況を何とかできたり…する、私はダミー因子をカートリッジに移せる…因子カートリッジの製作で、ダミー因子保有者だけは助けられる…)

 

夕霧「春雨さん、少し突っ込んだ話ししていいですか!?」

 

春雨「手短になら」

 

夕霧「…私、特務部に在籍してた経歴があって、因子を安全に取り出してカートリッジに移すことが出来ます!ダミー因子の保有者についても聞いてます!だから…!」

 

春雨「ちょ、ちょっと待ってください…ダミー因子?…特務部にいたとは言ってませんでしたよね…?」

 

夕霧「そんな事より、今苦しんでる人たちを救えるかもしれないんです、やってもいいですか…!成功歴としては、特務部の数見さんとか…!」

 

春雨「……因子保有者に直接訊く必要があります、それに…もしそうだとしたら、朝霧さんについても詳しくお話を伺うことになります」

 

夕霧「構いません…!」

 

 

 

この泊地在籍のダミー因子保有者は5名

第一相を持つ春雨、第三相を持つ明石、第五相を持つ敷波、第七相を持つ朧、第八相を持つ狭霧…

この5名のうち、春雨だけは体調に特に問題はない

 

何故か?

 

可能性としては…既に因子保有者ではない…と言うことがまず第一に挙げられる可能性だ

だけど、私の考えはそれを否定している

 

春雨はダミー因子に強い執着を見せていた

スケィスに強く執着しているのは間違いない

 

そう易々と手放すわけがないのなら、特別な理由もない今、失っているとは考えにくい

そもそも、因子の移動はかなり難しい

どう言う理由かダミー因子は眼に宿る、視神経とかじゃなく、眼球にチップが埋め込まれているような形…

 

だから因子を移動させる時は眼球ごと、もしくは目を覆えるようなデバイスでネットを経由することになる

春雨さんはちゃんと両眼がある

 

夕霧(…とにかく、いまは朧ちゃん達……いや、狭霧さんを回復させるのを優先するべきか…)

 

看病できる人間を増やすことが急がれる

 

夕霧「一つ移すのにもかなり時間がかかります!手を貸してください!」

 

 

 

 

 

正門前

提督 倉持海斗

 

…目の前に、青葉の姿をした何かが、立ち塞がっている

青葉ではないのは確かだ、青葉の姿であることも確かだ

 

青葉が内側に宿した何者か、それが…明らかな敵意を持ってこちらへとゆっくり歩いてくる

 

曙「待ちなさい」

 

青葉「……」

 

降り頻る雨が、曙の体から発せられる炎で地に落ちる前に蒸発していく

 

曙「アンタは、誰?」

 

青葉「……ダレ…?さア…よク…わかンなイ…」

 

曙「…ふざけてんじゃないわよ、アンタ、青葉に何したの…」

 

青葉「…なにカ…シタのは…人間ノほウジャなイか…」

 

海斗「……」

 

青葉の目線が、こちらを捉える

憎しみのこもった目を向けられているのがわかる

 

曙「…コイツが何かしたわけ?少なくとも、青葉にはしてないと思うケド」

 

青葉「……人間みんナ…居ナクなレばイイッテ…思ッテる…このコはネ」

 

海斗「…青葉が…」

 

当然だろう、人を守った筈なのに、気づけば悪役に仕立て上げられている

怨むことは何もおかしくない

 

曙「だとしても!だからって!そんなの…」

 

青葉「……カイト」

 

海斗「……」

 

青葉「忘れチャっタ?……ボクは、自分ノコト、忘レちャったケど…キみは、覚エてルヨね…?」

 

海斗「…君は…まさか…クビア…?」

 

青葉「……そウだ…ボクの名前…クビア…」

 

…クビアが因子と共鳴を起こしていたのか…!

 

曙「クビアって…あの…!?だとしたらなんで青葉に…!」

 

海斗「……クビア、どうして青葉の身体を…」

 

青葉「違ウ…これ、ハ…ボク、ひトりジャ…ナイ…」

 

曙「…なにこれ」

 

海斗「…AIDA…か…」

 

青葉の両眼が黒く染まり、黒い涙を流し、そしてその跡から黒い泡が噴き出る

 

海斗「曙、1人で行ける?」

 

曙「任せときなさい…!」

 

青葉の身体を包み込むようにAIDAが溢れる

 

海斗(クビアは青葉の中に居た…そして、AIDAも同時に存在していた……今、青葉の意識は眠っているのか?それとも…存在しない…のか?)

 

溢れたAIDAを曙が炎で焼き払う

 

曙(…焼いても焼いても減りもしない…!AIDAを潰し切るには…どうすれば…!)

 

曙が双剣を抜き、AIDAの塊に剣を突き立てる

 

曙「っ…!これも効かないってわけね…!有効な攻撃手段が無い…」

 

曙の攻撃はまるで雲を掴もうとするようで、まるで届いていない

まるで、ダメージになっていない

 

曙「だぁぁぁッ!!何で当たんないのよ!!」

 

川内「そりゃそうだよ、実態がないんだもの」

 

川内が曙の隣に降り立つ

 

曙「川内…!」

 

川内「30秒、それだけあれば終わる…よく見てて」

 

曙「…何言って…」

 

川内が右腕を持ち上げ、腕時計のようなものに触れる

周囲の空気がピリッと肌を焼くような感覚が走る

 

海斗(これは…?)

 

曙「…!炎が…」

 

曙が自身の体から発せられる炎を注視する

 

曙(…安定してる、今までこんなに思い通りに動いたことなんてなかったのに…)

 

曙「川内!アンタ何を…」

 

川内「LSFDを起動しただけ……そして、この中なら…」

 

曙「っ…!」

 

海斗「あれは…!」

 

川内の右腕に紋様が現れる

 

川内「…曙、春雨によろしく言っておいて」

 

曙「アンタ、何を…!」

 

 

 

 

 

…何が起きたのか、一瞬、眩い光と瞬きの間に、AIDAは消え失せ、青葉は倒れていた

 

曙「…今の……って、川内は…!?」

 

海斗「…居ない、消えた…!?」

 

…どうなっている

これは…

 

海斗「……とにかく、青葉を運ぼう!」

 

 

 

 

 

The・World R:2

Δサーバー 隠されし 禁断の 聖域

            グリーマ・レーヴ大聖堂

青葉

 

青葉「…はぁ……私はてっきり、リコリスさんの事をお父さんの元に返してあげられると思ったのに…ねえ?」

 

リコリス「……」

 

何よりも、声を手に入れたからと言って会話ができるわけじゃないのに

 

先に聴力が欲しかったなぁ…

 

青葉「……ま、ないものは集めればいい…私が集めてみせます…」

 

…不思議だ、あの、ハロルドとの会話の後から心が軽い

 

ハロルドの言った、「なんじを解き放とう」

 

その意味はいまだにわからない

でも、私は

 

青葉(解き放たれる、か…)

 

随分と気楽に生きられている気がする

今は、何にも縛られていないような…

 

ただ、笑って生きることが出来るような感覚に満ちている

もう少し、寄り道をしてもいいだろう…

 

青葉「……リコリスさん、行きたい場所はありますか?いろんなところを巡りましょう、私は少し、疲れちゃったから…ゆっくりと、旅がしたい」

 

ふと、ゆっくりと聖堂を見渡す

 

台座にあった鎖で縛られた少女の像はどこにもない

その代わり、台座には赤く光る、三角形の傷痕が残されていた

 

青葉「……」

 

それをただ、じっと眺めていた

理由は無い、強いて言えば…不思議と惹かれたくらい

 

だから、私はあまりにも無防備で…

 

青葉「っ…?」

 

背後から迫る閃光に、全く無警戒だった

 

 

 

悲鳴すら上がらなかった

ただ、静かな教会の中心で金属音を立てて戦斧が落ちた

 

その持ち主は、虚な目でその影を見たのだろう

 

不定形の、確かな形すら持っていない…その影を

 

青葉(…あれ、は…)

 

私の中をめぐる、微かな思考回路はこう考えた

罰なのだ、と

 

一時の感情に突き動かされた罰なのだと

 

閃光を放った影の足音がゆっくりと、ただ、ゆっくりと近づいてくる

 

かつん、かつん、聖堂に木霊する音が私の意識を覚醒させていく

 

青葉(…私は、もう…やられたのに…どうして…)

 

視界が反転し、台座の赤い傷を背にした少女の姿が目に映る

持ち主を失った戦斧を抱えた少女

そして、それに迫る影

 

青葉(…狙いは、リコリスさんだった…?)

 

あの閃光は…私を貫いた閃光は、リコリスさんに向けてのものだった…?

 

青葉「…逃げ…て…」

 

…耳の聞こえないリコリスさんに、それを言ってどうするのか、ただ、口の中で小さく呟いた

せめて眼が見えれば、耳が聞こえれば…そう思っても、もはやどうにもならない…

 

…ならないはずだった、聖堂の扉が開け放たれ、大きな声が聖堂の空気を振動させる

 

ハセヲ「トライエッジィィィィィィィイイ!!」

 

視界の端で、黒い錬装士が影に向けて双剣を抜き放ち、斬りつける

しかし、影は錬装士の乱撃を片手でいなす

…まるで相手になっていない

 

武器を換装し、大剣を振り下ろした瞬間…大剣が砕け散る

テクスチャが剥げ落ち、ポリゴンが砕ける…

 

大鎌を振り抜こうものなら、蒼炎に吹き飛ばされる…

 

ハセヲ「ぐッ…!」

 

…圧倒的

実力の差は明白だった…

 

だけど、それでも、錬装士の意図せぬところで私は救われた

 

青葉(…リコリスさんを…転送、できた…)

 

聖堂にはもうリコリスさんが居ない…

彼と私はキルされてお終い…

 

…私は…一度ゲームをやめよう

落ち着くために、一度リアルでお茶でも飲んでこよう

 

…あれ…?

 

…ダメだ、体が動かない、疲れすぎたのかな…なんだか、もう…

 

閃光と、ハセヲさんの悲鳴だけは聞き取れたが、そこからは何もわからない

 

ただ、私は目を閉じ、眠った

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