元勇者提督   作:無し

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月の樹 楢

The・World R:2

Δサーバー 悠久の古都 マク・アヌ

             中央地区

トキオ

 

那珂「あ、いたいた、トキオ君」

 

トキオ「あ、ええと…那珂だっけ……何か用?」

 

那珂「…元気ないね?」

 

トキオ「え?…そうかな、確かに少し疲れてるのかも」

 

彩花ちゃんはオレのことほったらかしだし、シックザールには負け続きだし…

…オレ、勇者になれたはずなのに…

なるはずなのに…!

 

最初にこの世界に来た時、カイトを見捨てて逃げるしかなかった

そして、R:1でもカイトを助けられなかった

結局何もオレの力で解決できなかった

 

那珂「何か悩んでる?」

 

トキオ「…那珂は、どうしてそんなに強いの?やっぱり艦娘だから?」

 

那珂「え?…うーん、それはまああると思うけど……経験もそうだし、艤装の強化とかもあったしね、急にどうしたの?」

 

トキオ「…強くなりたいんだ」

 

那珂「なんで?」

 

トキオ「…2回も、オレの目の前でカイトがやられた……それに、オレはこの世界に来てまだ何もできてない…カイトはオレに勇者になれって言ったのに、オレはそれに応えられてない…」

 

那珂「…それじゃダメ、それは使命感に駆られてるだけだよ」

 

トキオ「え?」

 

那珂「それで強くなるのは難しいんだよ、もっと心の奥底の声を聞いて?トキオ君の心はなんて言ってる?」

 

……オレの、奥底?

 

那珂「那珂ちゃん…私はね…強くなる前…こう言ってた……悔しいって…辛いって……守りたいって…!」

 

トキオ「…守りたい…」

 

那珂「トキオくんが青葉ちゃんのことで悩んでるの、苦しんでるの、私…少しだけど知ってるよ、青葉ちゃんがどういう子なのかもよく知ってる、でも…何が正しいとか、何をするべきかなんて、どうでもいいの」

 

那珂が一瞬険しい顔つきを見せてから笑う

 

那珂「この世界って、トキオ君にとって……ただのゲームなの?」

 

トキオ「え?……そんな事ない…!オレは…この世界を…」

 

那珂「じゃあさ、数字(レベル)なんかより、大事なものは…」

 

那珂の拳に左胸を叩かれる

 

トキオ「いっ…!」

 

那珂「アハハッ、ちょっと強かった?…でも、大事なものはずっとここにあるから」

 

トキオ「……わかった」

 

那珂「じゃあ、それがわかったら…ただ、ひたすらに意識すればいい…強くなりたいって想いを後押ししてくれる気持ちが、いつの間にか体を動かして、トキオ君を強くしてくれるからさ」

 

トキオ「…オレの気持ち…わかった…!」

 

那珂「うんうん、新しい弟子ができて那珂ちゃん嬉しいよ!せっかくだから男子アイドルデビューしてみる!?」

 

トキオ「え?アイドル?」

 

那珂「そう!アイドル!興味ない?」

 

トキオ「い、いや…無いけど…」

 

トキオ(な、なんか…頼りになりそうだったのに一気に印象が変わったぞ…)

 

トキオ「…那珂はアイドルになりたいの?」

 

那珂「え?…うーん……なりたいっていうか、元々アイドルだったんだけど、艦娘の間は休業中?」

 

トキオ「へ?」

 

那珂「あれ?知らない?那珂ちゃんずって名前でやってたんだけど」

 

トキオ「…なんか、名前だけ聞いたことあるかも」

 

那珂「センターやってます!那珂ちゃんですっ!…て感じだよ!」

 

トキオ(お、思ってた以上に凄い人だったのか…)

 

那珂「……あれ」

 

那珂が振り返り、ギルドショップの人混みをじっとみる

 

トキオ「…どうかしたの?」

 

那珂「しっ……来るよ」

 

トキオ「え?」

 

…少しして、こちらを向いたキャラが1人歩いてくる

白髪の老人男性のキャラクター…

 

那珂「…知ってる顔だ…確か、月の樹の」

 

トキオ「月の樹?」

 

那珂「うん、The・Worldには幾つか大きなギルドがあるでしょ、ケストレル、月の樹、カナードみたいに」

 

…どれも名前だけは聞いたことがある

 

那珂「PKもなんでもOKな自由なスタイルって言えば聞こえはいいけど、無法地帯とも言われてるケストレル、それとは逆に…規律を守り、PKから守る…自警団みたいな立場なのが月の樹…だよね?」

 

楢「はい、そして、その月の樹には複数の隊があり、私はその中の四番隊の隊長職を勤めております、(なら)と言います」

 

ゆっくりとした柔らかな口調で自己紹介を済ませ、楢が那珂の方を向く

 

那珂「隊長さんがわざわざ出てくるなんて、なんの用?」

 

楢「用だなんて事ではありません、が…立ち話もなんです、よければ如何ですか、月の樹の内部にご招待いたします」

 

那珂「用もないのにギルドエリアに招待するの?それって変じゃない?」

 

楢「…強いて言えば、あなた方を付け狙う不届き者から身を隠し、心を休められればと思ったのですが」

 

楢がチラリとあたりを見る

 

トキオ「…うわっ」

 

トキオ(いつの間にかガラの悪いPC達に囲まれてる…)

 

那珂「ケストレルから?…確かに相反するギルドだけど、積極的に関わる様な相手でもないよね、というか月の樹だってケストレルと関わりたくはないよね?」

 

楢「ふぉっふぉっふぉっ……確かに、輩の相手をするのは年寄りにはちとしんどい事ですが…(わっぱ)のしつけは年長者の役目、それに、困ってる方を助けることに何も問題ありますまい」

 

那珂(これ以上話しても無駄だね、本題を知りたければ来いってことか)

 

那珂「いいよ、行く…でも、トキオ君は別だよ」

 

トキオ「え?」

 

楢「それは構いませぬ、しかし…ケストレルは執念深い、万が一ということもあります、トキオどのと言いましたか」

 

トキオ「は、はい」

 

楢「これは月の樹の連絡先、何かあった際にはいつでも頼ってくだされ」

 

トキオ「わ、わかりました…」

 

トキオ(なんかつい畏まっちゃうな……)

 

 

   

 

 

 

Δサーバーくれなずむ 無窮の 夕月

           月の樹専用エリア

那珂

 

まるで神社やお寺、和風の建物と、玉砂利の庭

美しいが、どこか古臭い

 

武家屋敷の再現というべきなのか…

 

所々にある灯籠や、小さな川にかけられた橋、ワープポイント

…広すぎる、そしてこの広さなのに、何処を見ても人がいる

 

楢「お気に召しましたか?」

 

那珂「んー…那珂ちゃん京都ってあんまり好きじゃないんだよね、アイドルが浮いちゃうから」

 

巨大な鳥居を潜ってようやく人気が落ち着いたところに出る

…白い玉砂利に石で作られた模様

 

一つの本筋から左右に三つずつの丸い縁

そして、本筋の先にも一つ…

 

さらにその奥には、小さいながらも煌びやかな寺の様な建物

 

那珂「へー…」

 

楢「ここは、七枝会(しちしかい)が集まる場…本来客人はおろか、隊員ですらここまで入れません」

 

那珂「で、そんなところに特別に連れてきた理由は何?……いや、人がいないからかー…」

 

…大きくため息をつく

 

那珂「はぁ……楢さん、率直に聞きたいんだけど、何者な訳?」

 

楢「…四番隊の隊長、とお伝え致しました…不足ですかな?」

 

那珂「全っ然足りないよ」

 

楢「ふぉっふぉっふぉ……四番隊の役目は情報を管理する事…」

 

那珂「情報を?」

 

楢「カナード…というギルドについて探られている様でしたので…是非、お答えしたいと思いまして」

 

那珂「待って、それだけ?……なら、なんでこんなところに…」

 

楢「…カナードは、現在ギルドマスターが代わりまして、シラバスというキャラクターが長を務めております…そして、他に団員は1人…」

 

那珂「1人…?」

 

楢「そう…カナードは合計2人で構成された、小さな小さなギルドでございます……私の意図が、伝わりましてかな?」

 

那珂(…カナードは、私がThe・Worldを始めた頃には誰もが知る巨大ギルドだった…だから、私はなりふり構わず聞いて回った…なのに)

 

楢「…たった2人しかいないギルド、構成員も特に変哲も無く、優れたプレイヤーでもない、無名であるが故に人伝に聞くことも珍しい、だというのに、どうやって知り、どうして探っておられたのか…」

 

那珂「……」

 

楢「意地悪な意趣返しに聞こえるやも知れませぬが…あなたは、何者なのですかな?」

 

那珂「……さあ、ねぇ…」

 

楢「…まあいいでしょう、深くは問い詰めますまい……カナードは頻繁にギルドショップを開いております…宜しければ、中央地区で露店を探すと良いでしょう」

 

那珂「…那珂ちゃん何にも答えてないよ?なんにも肯定してないし、否定もしてない、なのに…なんで教えてくれるの?」

 

楢「あなたと同じです…知りたくば、相手の懐に飛び込むことをも厭わない…私としてはこの情報に価値を見出せずにおりました、だというのに、あなたが危険を顧みず相手の懐に飛び込んだ」

 

那珂「…私にとっての価値を、測りたい…って事」

 

楢「お好きに受け取っていただいて結構…しかし、悪事を働く事になれば月の樹があなたを追いかける…夢夢忘れなさるな」

 

那珂「…ありがとう、この世界に来て人に助けられたの初めてかも」

 

那珂(助けようとしてくれた人はいたけどね)

 

楢「それは良かった、ついでに、これを」

 

那珂「…ギルドのゲストキー?」

 

これがあればギルドの客人としていつでも出入りできる…

 

楢「私は大体此処に居ります、困ったことがあればいつでも尋ねなされ」

 

那珂「……それを受け取る代わりに、もう一つ教えて」

 

楢「ほお?受け取る代わりに、ですか」

 

那珂「怪しい宗教団体の鍵受け取るんだから、そのくらいいいでしょ?」

 

楢「…あまり、人のギルドに強い言葉を使うのは感心しませぬな」

 

那珂「クーンってキャラのこと、知ってるよね…教えてよ」

 

楢「…クーン、ですか…わかりませぬな」

 

那珂「……そう、鍵はありがたくいただくよ、それじゃ」

 

那珂(…今、隠した…クーンがカナードの元ギルマスなら絶対に調べがついてるはずだし、私に接触してきたのも調べがついてるはずなのに……)

 

楢「……」

 

那珂「あと…ロールプレイもいいけど、次はそういうの無しで話してみたいな」

 

楢「ふぉっふおっふぉ……考えておきましょう」

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