元勇者提督 作:無し
佐世保鎮守府
提督 渡会一詞
「…なんだ?なんでそんなことをいきなり…」
「いえ、陽炎に聞いてこいと…」
「……たしかに俺は憲兵からこの役職だしな…気にもなるか」
「そんな異動は初めて聞きました」
「…言ってなかったか?」
「ええ、瑞鶴さんはご存知ですか?」
「……いや、そういや提督さんって提督になる前からいたっけ…?」
「……所属はここだった、だが夜勤がメインだったな、だから顔を合わせることも少なかった、だが龍田、秋雲とは親しかった」
「へぇ……なんでまた?」
「……夜に素振りをしていてな」
「何の?」
「…憲兵は一応趣味に寛容でな、野球チームとかやってたんだ、俺は興味なかったけど入れられた、だからバットを振ったりしてた…基本暇だったしな」
「よく何も言われませんね」
「……打率が良かった、だが、龍田にあってな」
「何かあったの?」
「うふふふ、こんな時間に素振りですか〜?」
「…失礼、目障りだったか」
「……いいえ、何か武道でもされてたのかなーって…振り方が何かに引っ張られてる感じがして…」
「野球とか見るのか」
「夕食の時にテレビ見たらだいたいそれしか流れてないもの〜」
「…成る程、それは知らなかった……武道はやった事がないが…さすまたなどの扱いには自信がある」
「やっぱり憲兵さんね〜、でも憲兵さんはみんな刀を使うのかと思ってたわ〜」
「基本はそうだろうな…俺は……槍の方が好みでな」
「へぇ〜、理由とかあるのかしら?」
「……まあ、昔色々あった、くらいか」
「…あんまり語りたくないことかしら?」
「…面白い話ではない」
「みたいね〜、槍、持ってみる?」
「………成る程、それか、薙刀に近い気もするが…存外馴染む気もする…さすまたの重量を上げてもらうか」
「……それかなり重いと思うのだけれど?」
「…俺が思い描いていたのは、この重さだ…少し振ってもいいか?」
「いいですよ〜?」
「………ふっ!…成る程…重さに引っ張られるな…ありがとう、参考になった」
「…趣味とかなのかしら?」
「……そんなところだ」
「この日から振るのは特注のさすまたになった、槍をくれとは言えなかったからな…だが、先端を外して、綿を丸めたものを付けて振るようになった」
「……じゃあ私たちに教えてるのは独学な訳?」
「いや、教本などは多かった、全部読んだ」
「…御自宅にたくさん?」
「まあ、本の山がな……一軒家に移って良かった」
「…前は東京の超高層マンションだっけ?」
「……あいつが調子に乗ったからな…」
「……遥さんって地味にすごい人だったんだよね」
「…超売れっ子の翻訳家でしたか」
「あいつと話したければウィリアムバトラーについて詳しくなれ、永遠に話してるぞ」
「……御免ですね、それは」
「私もパース」
「秋雲さんとは?」
「龍田の後にな…あれを振ってると結構な音が出る」
「ああ、訓練場とか音すごかったよね」
「あんなに音が出るとは思いませんでした」
「うっひゃー、すごい音だね」
「すまない、ここまで音を立てるつもりは無かったのだが…起こしただろうか」
「……いんや?アタシは遊んでたところだから」
「そうか…邪魔をした、今後は控える」
「ん、ご協力ありがと」
「…しかし、こんな時間まで起きていていいのか…?」
「まあね、どうせあたしは出撃しないし」
「……何でだ?」
「駆逐艦はお荷物らしいからねぇ…ここの駆逐艦は盾なのさ」
「盾…?」
「そう、空母とかを守る盾」
「……成る程、立派な仕事だな」
「……やっぱそう言われるんだ」
「色んな奴らがお前たちに守られてる、俺もその1人か、いつもありがとう」
「……ん?…なんか勘違いしてない?」
「何がだ?」
「……あたしらは…肉壁な訳」
「…なに?」
「ほら、空母とかって重要な対象なの、だから体張って守る」
「……肉壁と言うからにはそれ以上なのだろう」
「…まあね、アタシらは……まあ、簡単に言えば敵の攻撃から護衛対象を守りきれなければ折檻を受けるし、下手したらそのまま死ぬ奴もいる……」
「……詳しく話せる奴はいるか?」
「…いるにはいるけど……」
「話を聞かせてくれる奴を見つけて欲しい…頼む、何とかしてみせる」
「…できるの?」
「……それが仕事だ」
「ひゅー、かっくいいねぇ〜」
「…もし自分の娘が、と思うとな……」
「え?なに?娘いんのー?写真ある?」
「…ああ、ほら」
「お!かっわいーじゃん!名前は?」
「リコだ」
「リコちゃんかー、いいねぇー!可愛い!」
「…ありがとう」
「…こんな小さな子達のために頑張ってる!うん!やる気出るなぁ!」
「……こんなことしか言えないが…」
「ん?」
「……必ず変えてみせる、そんな環境を」
「……期待してるよ!よし!じゃあ前払いで良いもんあげる!」
「…なんだ?」
「ほら、これ…一般人の友達がさ、最近出した絵本…何冊かあるから、良かったらもらって?」
「…ありがとう、いただいていく…」
「……頼んだよ」
「任せてくれ…必ずやり遂げる」
「へぇー、だから提督さん、滅茶苦茶やったわけだ」
「…そんなにメチャクチャか?」
「……私は在籍前なので詳しく知りませんが、鎮守府の邸宅を叩きのめすなど…前代未聞です」
「まぁ…みんなもっとやれやれ!って感じだったけど!」
「……いや、そうでもなかっただろ」
「そうでもないって言うか…止めに入った娘は提督さんが仕留めちゃったもんね」
「人が艦娘を……ですか…?」
「…鍛錬の賜物だ」
「こう言うのも何だけど……化け物だったよ」
「まあ、そうなる原因は陽炎だったんだが…」
「あなたが…話を聞いてくれるって憲兵さん?」
「…そうだ、大丈夫か?」
「……ごめん…1人でくるの怖かったから…」
「なんかしたら容赦なく爆撃するからね」
「……自己紹介をさせてくれ、俺は渡会一詞、この通り憲兵だ」
「…駆逐艦、陽炎」
「一応私もしておくね、正規空母、瑞鶴よ」
「俺は間違いようもなく君たちの味方だ、他の憲兵のことは知らないがな」
「仲良くないんだ?」
「悪くはない、だが腹を探れば勘繰られる…俺単独で動くことにした」
「……瑞鶴さん…」
「…悪人って訳じゃないのかもね」
「……俺には妻子がある、子供は女の子だ、陽炎、と言ったか…君よりもまだずいぶん小さい、俺たちを常日頃から守ってくれていることに深く感謝している」
「…頭を上げてください…その、話します…」
「…頼む、音声を記録するが構わないか?」
「むしろこっちも記録するつもりだったわよ」
「成る程、それで?」
「はい…もうすでに何人か沈んだ子も…」
「沈んだ…というのは…まさか……」
「…死んだと思ってくれて良いわ、変わらないし」
「…………そうか」
「…あの…顔が怖い…です…」
「……すまん、ちょっと至急本部に向かう、直談判してくる」
「え!?いまから!?」
「…時間をかければ次は誰になるかわからん、君たちは俺から見れば子供のような年頃だ…そんな子達が、くだらない人間のせいで死ぬだと?とんだ冗談だ…許せるわけがない」
「え?それで本部に直談判に行ってどうしたの?」
「秋雲…いつのまに…」
「あ、ごめん、私もその辺知らないからさぁ」
「話を取り合ってもらえなかったな、だから本人を連れてこようと思ってな」
「それであのボッコボコ事件と…」
「…まあ、連れて行って、録音した音声と本人から喋らせた情報で解任させた」
「それだけじゃないでしょー?知ってるんだよ?昼間に来てここの戦闘記録全部読んだんでしょ」
「…まあ、証言だけでは証拠にならん」
「それを1人でやってのけた優秀さから…提督に大抜擢…か」
「…コレがまだ2ヶ月くらい前の話なんだがな」
「驚きだよねー、でもみんな今の提督さんで嬉しいよ」
「………そうか」
「でも、提督になった理由は分かったけど、何で憲兵に?」
「………前の会社を辞めてな、それからしばらく仕事はしてなかったんだが…遥に養われてるみたいで嫌になった」
「え?養われてたんじゃないの?」
「…俺の貯金で生活してたんだ…なにぶん、使う暇がなくてな」
「…ふーん……そっちの話はおいおいとして、それで?」
「娘がいるから、その…俺も守る側としての仕事をしようとな、それで憲兵になった」
「何で東京からきたの?」
「…何の質問攻めだ……何かの縁だよ…たまたまだ」
「よっし、良い話たくさん聞けたけど、後一つだけいい?」
「…なんだ」
「まだ籍は入れないの?」
「………何処から…」
「え!?提督さんって結婚してないの!?」
「…している…事実婚みたいなものだがな…」
「それはしてないって言うんですぅ!よし!不知火!アンタみんなに言ってきなさい!」
「喜んで」
「…なんのつもりだ」
「……ふふふ…明日から楽しみだなぁ?提督さん」
「………秋雲、恨むぞ」
「てへぺろ」