元勇者提督 作:無し
駆逐艦電
横須賀鎮守府
私がここにきたのは随分前のことです
私は私達の待遇改善を訴える活動をしようとし、現状をメディアに流そうとしたことで拘束されました
しかし、今となっては横須賀でなんの不自由もなく働ける
不思議な話としか言えません
「提督さん、これ、今日の報告書なのです」
「ふむ、戦果はいつも通りだが、弾薬の消費が著しい、何があった?」
「敵の強襲部隊がいたので、交戦、撃退した際に消費したのです」
「なるほど、燃料の消費が普段通りな点はとても素晴らしいが、敵の構成は」
「空母と思わしき敵が2人ほどいました、対空射撃で艦載機らしいものを撃ち落としたところ、撤退されました」
「空母か…まだ、報告の上がってない敵か…大本営及び呉への通達を頼む」
「了解なのです」
「あと大淀を呼んでおいてくれ」
「失礼しましたなのです」
とても練度が高い人で構成された、凄い場所
そこに私みたいな法を侵したような…
「どもっ電さん、青葉ですっ」
「どうも青葉さん、恐縮なのです」
「おっと、セリフをとられてしまいましたか、相変わらず暗いですけどどうかしましたか?」
「新聞の記事に使うつもりなのですか?」
「不愉快な話でなければ!」
「じゃあダメなのです」
「うーん、残念ですね、それではまたっ!」
みんな人当たりも良く、何をするにも不自由がない
だが、何もできない
「私だけ幸せにはならないのです」
解放の日を目指して
「大淀さん、提督さんがお呼びなのです」
「そうですか、一緒にきますか?」
「私は呼ばれてないのです」
「離島鎮守府の件なのですが…」
「っ…それは、私と何の関係があるのですか?」
「興味がなければ構いません、好きにしてください」
「……お供させていただくのです」
それを持ち出されては弱い
狡い、私が今もずっとあの場所を気にかけているのが
今もあそこをどうにかしたいのが筒抜けなのも
「電も来たか、構わんが、大淀、次の話だが」
「補給物資は用意が済んでいます、明石の方はどうしますか?」
「…船上で考えたい、どうにもまだな、うまく思いつかん」
とうとう明石さんも連れ出す気でしょうか
私はあの鎮守府に最初からいました、そしてあそこはいろんなところからの寄せ集めで戦い続けた…
そして優秀だと判断された人は国防のために根こそぎ連れて行かれた…
最近では提督も頻繁に入れ替わるという話です
今の司令官さんは存じ上げませんが、私の司令官さんは、1人で逃げて、死にました
だから私は他のみんなを救わなきゃいけないんです
「電、君も来るか?」
「送り返すということなら、従うのです」
「違う、今あそこの提督は私の友人が着任していてね、彼が苦しんでいるので、少しでも手助けをするつもりなんだ」
「………」
私たちの苦しみには興味がないのですね
「彼は、君たちのことを大事に思ってくれている、だから彼に手を貸すことは…」
「そうですか、私には関係のないことなのです」
どうせ人なんて信用する価値も何もないのです、期待しても、何があっても
「電、君に見せたい物がある」
「何でしょう」
「私なりの、人なりの努力の成果だよ」
チクリと刺さる言い方で紙を差し出す
「…これは…」
「離島鎮守府における戦果だ、ここしばらくは調子がいいだろう?」
「…そうですね」
「これを今から改竄して大本営に提出する」
「…何でそんなことするんですか」
「あそこがなぜ未だに苦しいのか、いい戦果をあげたら端から端まで引き抜かれる、つまり、育った艦がいないからだ、虚偽の報告がいるんだ、今だけでもね」
「…何でそんなことを私にいうのですか」
「君のバカな目論見は知ってる、やめたまえ」
「っー…」
「言い方が悪かったな、だが、その目論見が露呈してないと思っていたのか?青葉ですら知っている、だがあいつは私に黙っていた、なぜだと思う」
「……強請るためですか」
「違う、君を純粋に心配していた」
「嘘です!内地でぬくぬくと生きていたやつにそんな事…!」
「そう思うのも無理はない、だがぬくぬくと生きていたから他人の辛さに敏感になる者も出てくる、私にはわからなかったが…」
「……結局のところ何なのですか、私をどうしたいのですか」
「君に笑って貰いたい」
「はははー、これで満足ですか?」
「ああ、冗談が通じるのなら満足だ」
掴めない相手なのです
「青葉に礼を言っておいた方がいいだろう、君のことを広めるという簡単な話を、やらなかったんだからな」
「この誉ある横須賀鎮守府にそんなのがいるなんて誰も信じないのです」
「…だといいがな」
「……わかりました、大人しく従うのです」
「そうか、話を聞いてくれて助かるよ」
「私からもお願いがあるのです」
「離島鎮守府に行きたい、か?」
「……あくまで見学なのです、あそこに骨を埋めるつもりはないのです」
「花くらい用意していくといい、墓地もあるそうだ」
「…わかりました、こちらこそ感謝いたしますなのです」
「ついでに呉に寄って欲しい、其方には手紙を届けて貰いたい」
「ネットを介してはいけないのですか?」
「……ハッカーというのは我々の想像を超える者でね、アナログも趣味なんだ」
呉鎮守府
「失礼します、横須賀より参りました、電なのです」
「ああ、時間通りの来訪助かる、聞いてたモノは?」
「こちらなのです」
分厚くもない封筒
何が入ってるのか気にはなる
「……なるほどな、離島鎮守府にそのまま回してくれ、ただし、中身に触れない方がいい」
「指紋ですか?」
「いや……」
手を広げて見せる
指先は朱色に染まっている」
「色付きののりだ、だと思う、しかも乾いてない、触れたらすぐわかるぞって事だろうな」
どこまでもアナログなことだ
「了解なのです」
「見送りをつける、それから向こうによろしく頼んだ」
随分丁寧な話だ
一礼した後部屋を出る
「久しぶりだね、正直生きて会えるとは思ってなかったよ!」
「川内さん、お久しぶりなのです」
「元気そうでよかった……いまは横須賀なんだって?」
「はい、何とかやっていけてるのです」
「友達とかいないの?向こうどんなところがあるの!?それから…」
「さすがにちょっと困るのです、はわわなのです」
「電、私今なら向こうに帰れるんだ、そのくらい向こうは良くなってる」
「こんなところに居るから言えるのです」
「演習とかで色んな子に会うんだ、赤城さんや加賀さんも、随分明るくなってた」
「あの2人がですか」
「もう誰も鎮めないって気持ちは変わってないから安心して、でも本当にあそこは変わったんだよ」
「あの屠殺場がどう変わったのかよく見学させてもらうのです」
「ひどい言いようだね」
「事実なのです」
「……まあ、大丈夫、きっともうすぐ何もかも変わる、私が変えるんだ」
「…私に変える力はなかったのです、それはあなたも同じなのです」
「そうかもね」
「もう夜戦はいいのですか?」
「……夜ほど怖いものは無いんだよ、暗く、孤独に沈む夜程」
「……傷つけるつもりはなかったのです」
「またね、電、次はもっと明るい顔で、もう一度寄るでしょ?」
「そのつもりなのです、それじゃあまた」
離島鎮守府
「らっしゃい〜、とりあえずなんか食べてく?」
「…いつから食堂になったのですか、北上食堂…?」
「間宮さん来たあたりからまともに動き出したよ〜」
「……そういえば運動場が整備されているのです」
「人数が増えてきたから余裕が出てきてね、みんなで頑張って毎日広げてるんだ、次はバスケットのゴールとサッカーのゴールとゴールテープを作るつもり〜」
「そのゴールへの執念は何なのですか…」
「終わりなき闘争には飽きたということなのだよ…!」
「いつの間にか色んな子が着任してるのです」
「でもさー、朧達、あの子らが来たときはすごかったよ」
「なんでですか?」
「なんでって…あの子ら外の話たくさんするからね」
「それで?」
「その話をみんな聞きたがって、みんなの話を聞いて、まあ娯楽だよねー」
「初雪ですら眠れない鎮守府に娯楽が来たのですか」
「ちなみに今は加古も眠れない鎮守府にゲームが来ました」
「ゲーム?」
「提督の趣味でさぁ…結構古いんだけどこれが面白いんだよねぇ…明石が量産しちゃって…でもサボるといけないからって赤城さん達が島内通貨を作って、頑張った子だけが買えるようにって」
「……ある程度文化的にはなったのですね」
「寝る以外は戦うだけの場所だったからねー」
「北上さんも、それは改なのですか?」
「……ふっふっふ…これは…改!二!」
「改二と言えばどこでも通用するとても希少な大規模改装なのです!なんでこんなところに…!」
「演習だとわざと下手打ってるんだよね、どこにも行きたくないしさー」
「なんで…」
「だって私とかいないとここで沈む子が増えるじゃん」
「強いのですね」
「そりゃハイパー北上さまだもん」
「わざわざご足労感謝します、何もないところですが寛いで行ってください」
「提督さん、別にあなたは遜った態度を取る必要がないと思うのですが…」
「監察官という立場で来る、と伺ってますので」
「……え?」
「その書類にもその旨のことが書かれていると聞いています」
「拝見しても構わないですか?」
「先に僕が見て判断してもいいのなら」
書類には私が監察官として離島鎮守府を視察するという内容が確かにあった
「……あのクソ提督なのです…」
「まあいいんじゃないのー?せっかくだしみんなに会って行ってよ」
「そうさせてもらうのです、わずかな期間ですけど滞在させていただくのです」
「ここがお墓ですか、挨拶くらいしていくのが筋ですよね……皆さん、私は今も元気にやっていますよ、まだ沈んでません、でもいつか、またそっちで……」
「ねぇ、電さん、向こうで何かあった?」
「……何もなかった、というより何もできなかったのです」
「心配いらないんですよ、もう私たちは、誰も沈ませません」
「お二人と北上さんが苦労するだけじゃないですか」
「でも、それでみんな助かるならいうことはないわ」
「鎧袖一触です」
「……やっぱり強いのです」
「以前と変わらないと報告させていただくのです、ご協力感謝するのです」
「ありがとうございます、それでは」
「…また来るのです、それでは」
「…提督、よかったですね」
「うん、雰囲気が良くなった、君達のおかげだよ」
「電さんも元気そうでした」
「肩の荷が降りたみたいだね」
横須賀鎮守府
「司令官さん、戻ったのです」
「入りたまえ」
「これ、報告書なのです」
「……ふむ、君にとってもいい経験になったようだな」
「あと、向こうの提督さんから頂いたモノです」
「……なるほど、これはお宝だ」
「こんな古いカードの束がですか」
「言わば思い出の写真のようなモノだよ、ところで、私は「提督さん」ではなかったのかね」
「私も前に進むのです」
「それは重畳だ」
私も、もう大丈夫なのです