元勇者提督   作:無し

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この戦いは本人たちが望んだから怒った戦いで、それ以上もそれ以下もなく、結果や過程は何かに影響はしません


単話 叶えたかった勝負

離島鎮守府沖

駆逐艦 曙

 

「………」

 

眼前の北上は、AIDAを完全に操る恐ろしく強い敵

対して私はそこらにいる駆逐艦

 

相手になるはずがない

 

「…ずっとやりたかった」

 

「私もよ」

 

「……やろうか」

 

「喜んで」

 

だというのに私の心は、こんなにもワクワクしている

 

 

 

 

これは演習ではない

命をかけた死闘だ、その前提で戦う

つまりなんでもあり、卑怯なんて言葉はないし、やれることは全部やれ

だから北上はAIDAを使ってくるだろうし、私はその前提で戦う

こんなところで手を抜かれては興醒めだ

 

 

 

 

「ま、主砲はね…」

 

「狙ってくるなら、ここしかない」

 

お互い同時に主砲を向け、放つ

私は連装砲、向こうは単装砲

同時に2発放てる此方の方が若干有利かもしれない

 

そして向こうの狙いは標的の沈黙、つまり私を仕留めにくる

私の狙いは自分の身を守ること、つまり北上の放つ砲弾を撃ち落とす事

 

「…!…いいねぇ…!しびれるねぇ…!」

 

自分の放った砲弾を撃ち落とされ、さらに直撃の砲撃を防がなければならなかった

これは北上にとっては驚きだろう

自分がAIDAを使わなければならない、ノーマルの艦娘を相手にするのだから

 

 

 

 

重雷装巡洋艦 北上

 

「本気で行っちゃうからね」

 

艤装を単装砲と足のパーツをのこして全てパージする

自分が水上に立つ事と、主砲での砲撃以外を放棄した、普通の艦娘ならの話だが

 

「かわしきれるかな?」

 

パージした魚雷発射管から立て続けに魚雷が発射される

どこまで深く沈み、どのタイミングで浮上するのかは、向こうにはわからない

正真正銘の必殺技だ

 

「もう見飽きたわ」

 

曙は水面を蹴りながら距離を詰めてくる

お互い主砲の射程は長くない

であれば接近戦となるのは必然だろう

 

「…もらい」

 

ならばその接近戦を咎める

その距離に入った瞬間、曙目の前には水中から飛び出した複数の魚雷

そして私の手から放たれた砲弾が一つを撃ち抜く

 

「っぐ…!」

 

「…ありゃー?バレてた?全然ダメージないね」

 

「当たり前よ…そして次はここ…!」

 

こっちの手はやはりここまで読まれてるか

確かに吹き飛ばして、さっき曙がいた位置に魚雷で追撃を仕掛けるつもりだった

しかし曙は一瞬早く離れ、それからその場所には特大の水柱が立ってる

かわされたが至近距離での爆発、全くのノーダメージとはいかないはず

これでいい

 

「クソッ…攻めるタイミングがない…!」

 

曙の装備は魚雷を捨てて連装砲と機銃のみ

魚雷があれば少しは変わったかもしれない

機銃も恐らく魚雷を潰すためのものだろうが、私の魚雷の挙動は普通とは違う

普通の相手ならよかだかもしれないが、選択ミスだ

 

「じっくり料理してあげるからね」

 

油断せず、確実に仕留めるという意味だ

隙を作れば見逃す様な相手ではない、最後まで確実に仕留めて見せる

パージした魚雷発射管からいくつか魚雷を出す

進路を潰すための魚雷、そして主砲で狙いをつけての砲撃

この砲撃だけは確実に潰してダメージを防いでくるあたりは流石だ

砲弾同士のぶつかり合いで黒煙が視界を潰す

そんな事で逃れられはしないのだが

 

連続しての砲撃の音

私からも、曙からも

黒煙が大きく広がるも、お互いの狙いは正確だ

集中しなくてはいつやられるかわからない

 

「本当に…やるねぇ…!」

 

この戦い、曙は二つ持ってきた砲を今のところ一つしか運用していない

恐らく狙いは長く戦う事

二つあれば片方の弾薬を切らしたとしても関係ない、もう片方の砲で戦えばいい

場合によっては再装填の時間を潰すこともできる、取れる戦術は多い

だから二つあれば十分、と言ったところか

だけどそれじゃわたしには届かない

 

 

駆逐艦 曙

 

種は蒔いた

水はやった

芽が出て、伸びて行く

 

このやり口はもう使い古した手だ

色んな人に教えた、潮にも漣にも、朧にも教えた

みんなが知る、つまりそれだけ有効というわけだ

 

「…ッ!?」

 

やはり狙いがズレ始めたか

向こうの砲弾がすぐそばを通る

もう何十発も撃ち合ってる、ならばこれ以上この体制で魚雷をかわしながら撃ち合うのは得策じゃない

 

足元から飛び出してきた魚雷を一つキャッチして即座に投げる

それに北上の砲撃があたり、軌道が逸れてくれた

代わりに私は0距離の爆発をもらってしまったが

 

水面を腹這いに滑る

北上からの砲撃はやんだ、仕留めたと誤認した?違うか、そろそろ此方の狙いに気づく頃だろう

 

「傘の用意はいい?北上…!」

 

わざわざ砲を二つ用意したのだ、戦い方はもっと自由でいい、みんな使える手段でも、私が考案したものだ

態々砲撃のタイミングを合わせ、何度も砲撃を防ぐという名目で煙幕を作り

曲射砲撃を気取られないように何重もカバーした

 

「攻勢逆転!!」

 

 

 

 

重雷装巡洋艦 北上

 

「……成る程ねぇ…!」

 

AIDAで頭上の大粒の雨を防ぐ、こっちも移動してたのにこの正確さ、さすが本家といったところか

入念に作り込まれたシナリオでアタシを仕留めにきてる

 

どうしようもなく滾る

 

やっぱりこの相手は全力で殺しにかかる必要があるわけだ

水面を駆ける

私が詰め寄ることを想定しているのか、進路にもやはり雨は降っている

 

目の前の煙幕を全て吹き飛ばす

パージした魚雷発射管を手繰り寄せる

 

「居ない…どこに…」

 

「此処よ、いい傘ね」

 

真下からの声と共に強い衝撃で吹き飛ばされる

 

「ったはー…!お昼寝の時間かぁ…」

 

水面を転がりながら一つの魚雷発射管を腕に装備し、放つ

 

「いいウォーターベッドでしょ?気に入ってくれたかしら、ああ、小雨になってきたわね」

 

そうか、機銃も曲射砲撃が狙いか

すぐにAIDAで身を守る

 

「…この戦いは一歩遅れた方が負けよ、わかってるかしら?」

 

来ない…違う、前か

 

「………ひゅぅ♪痺れるねぇ」

 

「嘘でもなんでもつくわ、アンタを殺せるなら」

 

魚雷も何もかも読まれている

ならば未知の力しかない

 

「やってあげましょうかね!!」

 

単装砲にAIDAを纏わせる

砲身を大きく伸ばす様に

 

いつかの戦いでやってみせた強化弾

相殺なんて不可能な、対化け物のみを考えた一撃

 

「曙…アンタ凄いよ…私に化け物だって思わせてるんだからさ…!」

 

その一撃を軽く避けてみせるんだもん

本物の化け物に成った

 

天才ってやつなのかなんなのか知らないけど、本当にヤバいね

身体をうまく振って、私の予測を外して射撃をかわし始めた

今までそんなことできた奴なんて1人もいないのに

私の努力を超えられた

 

「曙ぉぉぉぉぉぉ!!」

 

なんであいつは笑ってるんだ、私同様に

なんでこんなに楽しいんだ

 

いつの間にこんなに近づいたんだ、私たちは

 

「ぶっ!」

 

ガードしたとしても衝撃はある程度くる

顔面に叩き込まれた様な衝撃が

 

それでもなお近づく、残り2発の残弾を隠し、肉弾戦に持ち込む

 

「もらった」

 

そこで曙は、更に奥の手を取り出してみせた

 

「…拳銃…?」

 

そうか、隠し持ってたか、まだ秘策を隠してたか

最初から最後までそんな小技を積み重ねてきた

だからそんなリボルバーなんかを隠し持ってた

 

「たしかに艦娘相手に拳銃なんか効かないかもね…でも、艤装の、関節部や機関部に突っ込まれたら…どう!?」

 

素早く6発の弾丸を、私が浮き続けるための艤装に向けて放った

さすが直撃は避けられたが…ダメージはある 

 

「やってくれる…!」

 

「あと何秒でアンタは沈んでくれるかしら…!」

 

「10秒あれば充分!!」

 

推進力をそのままに、勢いを殺さず、曙の砲撃や機銃を全て無視し、タックル

そして体制を崩したところに二度引き金を引いた

 

「ごぼっ…!…まだ…あったわけね…!」

 

向こうもグロッキーだ、水面にうつ伏せ、もう立つことも儘ならない

 

そのはずなのに、なんで立とうとする

水面に膝をつき、顔を伏してもその殺意

 

「……っ…」

 

執念と執念の戦い

 

手元の魚雷発射管から、魚雷を水に落とす

全ての魚雷に浮上信号を送る

 

「……撃って来なくて良いの?」

 

「…もう、撃ったわ、アンタへのとどめは」

 

そう言って曙は天を睨む

まさかと思って空を見上げる

 

じゃぽんっ

 

「……えっ…?…」

 

足元から、魚雷が飛び出した

 

「……2回目よ、言ったでしょ?嘘でもなんでもつくって」

 

そして私は、その魚雷の炸裂に吹き飛ばされた

 

執念と執念の戦い…?違う、執念と理性の戦いだった

 

 

 

 

駆逐艦 曙

 

「…勝った………」

 

勝因は北上のばら撒いた魚雷発射管

その一つを水面を転がる途中で掠め取り、魚雷を沈めた

角度やタイミングの計算くらい私にもできる、扱えない理由なんて存在しない

北上に浮上信号を送らせるタイミングも、魚雷を射出させるタイミングで操作した

 

仕上げに、私を狙う魚雷はこの発射管でガードする

随分小さい盾だが、役に立ってくれた

 

勝った、だが、2度は勝てない相手だ

 

勝った、だが、2度は戦わない相手だ

 

 

「………痛いよ…」

 

傷を撫でる、だけどどこか誇らしかった

 

沈みかけた北上の髪を掴み、鎮守府へと帰る

 

「…痛いなぁ…」

 

「………物足りないわ」

 

「何……?ドMなの…?」

 

「…もっとAIDAを使ってれば、私に負けることはなかったわ」

 

勝つこともなかっただろうけど

 

「…へぇ、勉強しとくよ……次は殺せる様に」

 

「お互い精進しましょ」

 

「……へへ〜…」

 

「…少し良い気分ね…」

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