元勇者提督 作:無し
佐世保鎮守府
提督 渡会一詞
「不知火に何か落ち度でも?」
「落ち度以外ないだろう、なぜ他所の鎮守府の艦娘を誘拐した」
「あの北上は離島鎮守府の所属です、呉の球磨型達に誘拐されていたらしいので、救出しました」
「そしてそれを拘束して営倉に詰め込んだ、救出とは言わん」
「アレは情報を持っています、吐かせれば有益です」
「…お前は何を言ってるのかわかってるのか?敵ではなく味方だぞ」
「味方…?競争相手です」
「…お前はこの戦争を理解していない」
「ではあの鎮守府はなぜあの怪物と戦えるのですか、私たちが手も足も出ない化け物と渡り合い、倒したと?なぜそんなことができるのですか、私たちは犠牲を払って負けたのです、黙って指を咥えて見ていろと?」
「…成る程な、そこまで焦らせた事については謝罪する、だがやはりお前は軍規に触れることをした、それについては罰せられる」
「……」
「それと、あの北上は帰してやれ…兵器については上に問い合わせている、まだ新顔の俺では話を聞いてもらえないようだがな」
「ここで言うことを聞くならわざわざ連れてきません」
「……はぁ…お前、この件が上に上がればどうなるか分かってるのか?俺はとりあえずクビだし、お前らも解体になるか、それとも…と、悪い事ばかりだぞ」
「そのような脅しに興味はありません、私は化け物と戦えなくてはならないんです」
「だから何を焦ってるんだ、お前の行動が目に余るなら俺も報告書を書く必要がある」
「私はどんな罰を受けても、あの怪物を倒せる力を求めています、私たちが兵器であるためには必要なことです」
「……じゃあその認識を改めろ、せめて兵器ではなく、兵士くらいの気持ちで考えろ」
「違いがわかりません」
「人か物かだ、わかるだろ?」
「私たちはモノです、船としての記憶と共に高度な策を考え、実行する力を持った、実に有用な兵器です」
「………呆れてものも言えん、とりあえずお前に罰を与える」
「またいつものやつですか、秘書艦一週間…」
「違う、コピー取りだ」
「…はい?」
「お前は1ヶ月の間コピー取りだ、艦娘としての仕事は一切与えん」
「………」
「考え方を変えるいい機会だ、北上を解放しに営倉に行くぞ」
「…わかりました」
「この度はうちの艦娘が申し訳ない事をした」
「…うわ、こんなのの上司だから絶対やばいの出てくると思ったけどマトモそうなのが出てきた」
「…チッ」
「やめろ不知火、自業自得だ」
「で?なんで私を誘拐したわけ?」
「…離島鎮守府の最近の成績の良さに嫉妬した、と言うところらしい」
「……くっだんな…」
「…………」
「睨むな、すまない、此方としても犠牲が出ている、焦っていたんだ」
「アンタさ、強いの?」
「私の練度は59です」
「うわ、思ったより高いね」
「私はここの4番手です、何か文句でも?」
「でも私の練度は79あるよ」
「…なんの冗談ですか」
「いや、事実だろう、高練度の北上の話は聞いたことがある」
「私は信じられません」
「…試してみる?」
「いいでしょう、あなたの化けの皮を剥いで見せます」
「おい、勝手な事を…」
「すぐ終わらせます」
「こっちもそのつもりだから、悪いけどお互い退けないし、14cm単装砲一つと水上移動用の艤装だけ貸してくれれば何も要求しないし」
「貴女は重雷装巡洋艦でしょう?魚雷は使わないのですか?それとも使えないのですか?」
「…ふつーのやつは使わないかなぁ?で、なにか?」
「………はぁ…準備させる、少し待ってくれ」
「あ、あと一つだけお願いがあるんだけどそれもいい?」
「なんだ」
「内容の他言禁止と記録の禁止」
「余程自信がないんですね」
「逆、本気で相手してあげるって言ってるんだよ」
「………不知火、大人しくその条件で受けろ」
「…では貴女が負けた場合その条件を破棄してください」
「不知火」
「いや、それならいいよ、と言うか勝っても負けてもあたしをボコボコにした事にしていいから」
「…後悔させてあげましょう」
「人払いは済ませた、もうすぐ夕暮れだ、早いところ始めてくれ」
「では、5分後に開始とします」
「おっけー」
駆逐艦 不知火
相手は1人、そして武器は単装砲一つ
そしてあの自信か…なかなか納得できない
練度が事実なら20離れている、というのもイラつく
「…時間ですね」
セオリー通りの魚雷と砲撃を交えた戦闘をすれば、通常格上との戦いでも問題はない
相手は武器が単装砲一つなら尚更だ
前方に敵を視認する
進路に向け、魚雷を放つ
これで左右どちらかに逸れるしかない
ならばその進路に砲撃を飛ばす
「…構えたか」
敵の砲撃、射角が明らかに低い
私には当たらない
水面に着弾した途端前方に大きな水柱が上がる
「…え?」
単装砲の威力ではない、一体何を撃ったのだアイツは
「…魚雷…!」
魚雷を射抜いたのか?しかしこれは雷跡が残りにくい酸素魚雷、狙って当てた?いや、その可能性は低い
偶然射角が良かっただけだ、この水柱が落ち、お前の姿を捉えれば…
「え…」
その水をかき分けて出てきた一つの砲弾
あんな水柱を通ったのに全く勢いは落ちておらず
そして私の機関部を捉えられた
これは…偶然なんかじゃない
いやでもわかる、針の穴を通す?そんなレベルではないそれをやってのけた
実力の証明
もう動かない私はただの的
演習だと言うのに実践のような異様な冷や汗
「…なに…これは……」
心臓が痛い、心の底から震える
殺気を向けられるのは戦場で慣れたつもりだった
違う、これは殺気じゃない
この恐ろしい何かはなんだ
『勝負あったな、戻ってこい』
「…機関部をやられました、戻れません」
『命令だ、泳いででも戻ってこい』
「…わかりました」
頭を冷やすにはいい機会だ
マニュアル通りの戦いでは、勝てない戦いもある、そういう事なのだろう
「お疲れ、で?わかった?あたしの実力」
「……お見それしました」
「機械より正確な砲撃、お見事だった、わざわざこのような時間を取らせて申し訳ない」
「いーって、気にしないで、ただオフレコでよろしくね」
「勿論そのつもりだが、このような事に付き合わせた上に何もせず送り返すのも問題だ、何か望むことがあればできる限り用意させてもらう」
「…んじゃあ…えーっと?不知火だっけ」
「…はい」
「あたしに佐世保の工廠案内してよ、一応艦としてのあたしの生まれ故郷らしいし?ってもそんな昔の記憶に拘らないんだけどさぁ…」
「…そんな事でいいんですか?」
「何?あたしにどうして欲しいの?」
「……いえ、寛大な対応感謝します」
「え?全然寛大じゃないよ、後でついでに私に攫われるも追加ね」
「明日までに返してくれれば此方としては問題ない」
「…司令…!」
「そんな助けを求めるような目を向けるな、お前の責任だ」
「別に取って食うわけじゃないから、ほら、あたしこの辺知らないからさ、案内して欲しいだけだし」
「………わかりました、仰せのままに…」
「うむ、良きにはからえ」
「んー…やっぱ実感湧かないなぁ、そんなもん?」
「知りません」
「まぁ、人が自分の生まれた病院に行ってもなんも感じないだろうしね、そんなもんかぁ」
「……」
「何考えてるのか知らないけどさ、もっと気楽に行きなよ」
「…何故…」
「だってあたしらあしたには死ぬかもしれない戦いをしてるんだよ?今みたいなオフの時くらい、気楽にしないとね、必要な時に集中できないじゃん」
「…そうですか、貴女は必要な時に全集中をかけていると?」
「ちょっと違う、多分不知火は撃つ時に、集中してると思ってるみたいだけど、もうそれはあたしにとって普通なんだ、確かに習得するまでに死ぬほど努力はしたよ、でも今は当たり前に、それができる、なんでだと思う?」
「…わかりません、その話も、あの技術も」
「じゃあ技術の種明かしと行こうか、先に、あの技術は狙ったところに当てる、すごくシンプルな技術、すごくわかりやすいでしょ?」
「言いたいことは分からなくもありません、ですが、理解できません」
「簡単だよ、いたってシンプル、マトが動くかどうかしか違いはないよ」
「じゃあ貴女はいつ、どんなところにある的でも当てる、と?」
「…それはわかんないかなぁ、だって、今これができてても、次撃った時は微塵も当たらないかもしれない」
「何故?」
「…技術って言ったけど、私はとことん感覚でこれをやってる、一つの怪我でできなくなるかもしれない、体制を崩せば外すかもしれない」
「…理解しました」
「わかりやすいでしょ」
「正直、貴女のその技術は離島鎮守府の切り札なのかと思いましたが、決してそんな事はないのですね、貴女なりの強さの秘訣…」
「物分かりのいい駆逐はまだ嫌いじゃないよ」
「それは重畳です、では私にもその技術を教えてください」
「…イヤだなぁ…だって私が教えた子も習得まで時間かけたし、今からじゃ無理、と言うか私今一応オフらしいから」
「……では今度演習をしましょう、私は1ヶ月艦隊に参加できないので1ヶ月は空きますが」
「組んでみ、相手はしてあげられないかもしれないけどね」
「引き摺り出して見せます、私が貴女より優れてると言う事を教えてあげましょう」
「…優劣にこだわんない方がいいよ、もう一つの話だけど、普段はとことん気を抜いて、必要な時にそのためた気を向ける、わかりやすくない?」
「………気を抜くとはどうすればいいのですか?」
「…とりあえずなんも考えない事だね」
「あ!居たクマ!北上!!お前ぇ!どこに行ってたクマ!」
「あら?さっきの駆逐艦も一緒にいますね」
「…話はまた今度ね、演習期待してるよ?…みんなうるさかったけどなんだかんだ気になってさ、やっぱり生まれ故郷なわけじゃん、案内してもらってたんだよ」
「せめて報告していけよ!提督顔真っ青だったぞ!?」
「私は浮雲なのさー」
「自由気ままな北上さん…アリですね!」
「ばか言ってんじゃねークマ、大井、提督と多摩を2人きりにしてくっついてたらどうするんだクマ?」
「え?なんですかそれ、多摩姉さんが提督を気に入るなんて微粒子レベルもあり得ませんけど不愉快です、提督に酸素魚雷を打ち込みます」
「…え?なに?………もしかして…そこマジなの?」
「…まあ今更だクマ」
「そう言う事らしいぜ、えーと、そっちの…」
「不知火です」
「うちの姉貴が迷惑かけたな、ありがとな」
「あ、待ってね、この子にこの辺案内してもらう事にしたから」
「そうなのか?」
「…まあ、はい」
「……確かにこの辺に詳しくないし、助かるぜ、よろしくな」
「…北上さん、貴女の…弟さん?は随分とかっこいい方ですね」
「……一応言うけど妹だから」
「いもっ…!?…!?」
「まあ制服じゃないしねぇ…ぱっと見そう見えるかぁ」
「よく見てもそう見えますけど」
「…ま、諦めた方がいいよ」
「…事実は小説よりも奇なり、と言う事ですかね」
離島鎮守府
工作艦 明石
「明石、容体はどう?」
「…ごめんなさい、ちょっと良くないです」
「そっか、一応果物を持ってきたんだけど、先に剥いてきた方がよかったかなぁ…」
どうやら私は作業中に倒れたらしい
工廠で棚の下敷きになっているのを発見されたそうだ
「普段から無理させすぎたからね、ごめんね」
「いえ、そんなことはありません、私にできるのは…アレだけなので」
できるだけ、みんなの装備をいいものにして、全体に貢献する
それしか私にはできない
「君が頑張ってるのはみんな知ってるんだ、お願いだからそんなに背負い込まないで欲しい」
そんな声をかけないで欲しい、私は
「……提督…」
「何?」
ワタシは…
「…いえ…」
「…ごめん、仕事が残ってるから、一度戻るね、また後でくるから」
あぁ…なんでだろう…なんでこの人は私のものにならないんだろウ…
みんナが羨まシイな…私だっテ…私ダッて………
「明石…?」
「…っはい、なんでしょう」
「…大丈夫、目が虚ろだったよ、やっぱり寝不足とかもあるんじゃないのかな」
「いえ…決してそんな…」
ノックが言葉を遮る
「誰?」
「司令官、おられましたか…その…青葉です、ちょっとお話が……」
「ごめん、明石、行ってくるね」
「…ぁ……」
重巡洋艦 青葉
「どうしたの?」
「ごめんなさい、その…さっきそこを通りかかった時に…すごいものを感じたもので……」
間違い無いと思う、けど確信が持てない、司令官なのか、それとも明石さんなのか…
恐怖による緊張で口がうまく開かない
「え…すごいもの?」
「その……」
「提督!ご無事ですか!?」
「え?翔鶴、そんなに急いでどうしたの?」
翔鶴さんも感じ取った?って事は…間違いなくどっちかに…
「…無事そう、ですね……提督、青葉さんから離れてください」
「…え?」
「…翔鶴さん…?」
「提督、先ほどこの辺りからAIDAを感じとりました、それも…身の毛がよだつ程に強力に」
「AIDA…!?」
「違います…翔鶴さん、私じゃありません…!私も通りかかったら…」
「…すいません、無条件に信じるわけには行きません、一度提督から離れてください」
……だめだ、冷静なことを示さないと話も聞いてもらえない
「わかりました、この辺でいいですか…?」
「はい、それで、何が言いたいんですか?」
「多分AIDAに感染してるのは……っ…やっぱり…」
病室の中から、さっきよりも、重苦しいプレッシャーが…
「…なに…これ……敵意…?」
病室の扉が開く
トスッ
「…え?」
「提督!」
「…司令官…!」
工作艦 明石
「……あ」
提督が持ってきてくれた果物が目に映る
少し食べて、落ち着こう、そう思っただけだった
扉の向こうが少し騒がしい
この向こうに、提督はいるのに…私は顔すら見れない
アレ?デモ…アケレバイイノカ
ペタペタと裸足のまま、扉に向かって、歩く
手にはフルーツナイフを握ったまま
扉を開けて、提督にもたれかかるように
トスッ
「あれ?」
自分で何をしたのかわからない
目の前で提督が倒れた
何故?そうか、この二つの敵が、そうしたのかなぁ?
後退りしながら、こっちを睨みつけてきてる
よくも提督を…よくも…
正規空母 翔鶴
「明石さん!止まって!」
「翔鶴さん…!無理です…!AIDAに完全に支配されています…!」
「ちょっと!?何よこの騒ぎ…え…なにこれ…」
「霞ちゃん見ないで!…加賀さんを呼んで!急いで!」
「あぁぁっ!」
正面をみれば青葉の腕から血が流れている…本当に、殺すつもり?
私たちを認識できていない、と言うことなのか…
霞ちゃんも呆然と立ち尽くしたまま…
私が動かなきゃ…
「青葉さん!霞ちゃんを連れて逃げて!」
明石さんの背中に飛び付き、地面に組み伏せる
あり得ないほどの力で簡単に押し返されそうになる
「か、霞さん…!はやく…!」
「ジ…ジャマ…スルナァァァァ!」
壁に叩きつけられた…?この体勢から…?
思いっきり頭を打ったせいで目の前がグラグラする
なんとか意識を繋ぎ止めて、前を向いたけど
もう刃は迫っていた