元勇者提督 作:無し
「昔、か…」
「まず、初期配備の艦娘は全員沈んでしまいました、最初はここは国の盾で、新しい艦娘の育成施設でもありましたが、全滅した時点で方針は切り替わったみたいです、第二期の配備艦の方は北上さん、明石さんが今は残ってますね…私は第二配備の最後の方でした、他には…ほら、呉に行った球磨型の皆さんと、千代田さんもいましたね」
「千代田さんって、あの?」
「はい、前にも居たんですよ、たまに手紙とか装備を送ってきてくれます、ただ、中々ここを出られなくて…でたのは…まだ1年経ってませんね」
「千代田と言えば…今は佐世保でしたね」
「活躍してる、と聞いてますが、あそこもちょっと前に提督が代わったと聞きました、なんでも憲兵あがりだとか」
「珍しい経歴ですね…」
「話がずれましたね、さて…捨て艦という言葉はご存知ですか?」
「………はい」
「まあ、所謂肉壁です……」
「赤城さん、無理しないでください…ごめんなさい、私達も、それに守られてしまった事があるの…」
「………」
「満潮、そんな顔しちゃダメよ…」
「…当然の反応です、庇われた側が…思い出すのを拒否しているのですから、それに…時が違えば、自分がそうなったかもしれない…」
「私達は……最低な命でした」
「…そうね、犠牲の上に生きてるなんて最低な命だわ…霰と、大潮は…いつ?」
「…最近です、朝潮が呉鎮守府に行く少し前ですか」
「…そうでしたね、立て続けに2人、先に大潮さん、そして霰さん…霰さんが沈んだ次の日、朝潮がここを去ることを決めました」
「………そんな」
「…ただ、2人は…他の方よりは…」
「赤城さん、言葉が過ぎます」
「…ごめんなさい」
「どうやって沈んだわけ?」
「…戦闘の中で……ただ、誰かを庇わなければならなかった、ということはないはずです…あの頃は私達はあまり出撃できませんでしたから」
「…そう」
「…話を戻しますか…?聞きたいことは、多分聞けたと思いますが」
「…ここまで聞いたんだし、全部聞かせてもらうわ」
「第三次配備の際に私がここに編制されました、その頃はまだ食料などは備蓄があり、まともに食事ができました、しかし、相場は劣悪なものばかり、良いものは国防のために回されました」
「…食料があったってどういう意味?」
「……私が配備されてしばらくしてから、補給の頻度が一気に落ちました、時間が経てば経つほど食事は貧しくなりました、最終的には一食で食べられるのはおにぎり一つです、それに塩をたらふくかけて食べました」
「…良く体を壊さなかったわね」
「艦娘ですから…」
「糊みたいになるまで口で噛んだら味がなくなれば塩を足して…いつしかこれが私たちの当たり前になってました、たまに出る野菜や、牛缶が嬉しかった……」
「一航戦スペシャルの謎が解けたわ…嬉しくないけど」
「あの頃はまだ艦娘も多かったのですが…ちょうどその頃ですか、爆発的に深海棲艦が増えたのは」
「…そのせいで、建物ごと全て消し飛びました、大勢の犠牲も出たし…その時の提督も死にましたので、ここで提督が一度変わりました、あとは…憲兵も全滅したりして…憲兵隊と提督との仲が悪いのはこの頃からでしたか」
「そうでした、まだ直接的な暴力はなかったと思いますけど」
「…憲兵が暴力を振るうってこと?」
「ええ、まあ…強いストレスから、と考えれば全くわからない話でもないでしょう?相手も人間な訳だし」
「憲兵も同じような環境な訳?」
「私たちよりはマシでしたよ、休みもあったし、本土に帰ることもできたし」
「食事もまだ良いものでしたね、軍部が違うからでしょうけど」
「涎を垂らしながら見ていた頃が懐かしいですね、秋刀魚の缶詰とか」
「誰でしたか、出撃中に鰯の群れを見つけたと、空腹のあまり魚雷を使って漁をしたのは」
「……北上さんじゃないですか?たしか一度営倉に入れられてたのをみた事があります」
「…その時の鰯、結局憲兵と提督で焼いて食べてましたね…」
「……なんていうか、割とわかってたけどひもじい話なのね」
「…まあ、補給が1番苦しかったですから…」
「燃料と弾薬があれば、私達の体自体は劣化しない…そんな与太話を信じてました、その時の提督が逃げ出さなければ私たちの食事は完全に無くなるところでしたから」
「……嫌な話ですね…」
「でもその時を経験してるから、今、皆さんの前にいられるんですよ、散った仲間の事も受け止めて私は前に進む、そのためには振り返れないんです」
「お墓参りは欠かしませんけれど」
「…そういえば、今の提督っていつ来られたのでしょうか?」
「ちょうど逃げ出した提督の後ですね」
「この時は荒潮さんと朝潮さんもまだ居ました…あ、えっと…もう1人、前の朝潮さんが」
「もう1人いたの?」
「…此方は、ここを出る直前に、荒潮を庇って沈みました…正義感が強く、優しい子でした…言い方は悪いけど、そこ以外は朝潮らしくない感じもしましたけど」
「…そう」
「そうだ!良いニュースがあります!」
「どうしたの、急に」
「朝潮さんと荒潮さん、こっちに配属されるみたいです!」
「え…?許可出たのかしら、それ…」
「待遇とかは良くなくなるんですけど、少しでも姉妹と居たい、と…」
「…朝潮…」
「…霰さんと大潮さんの事もあるんでしょうね」
「……彼女にとっては一生物の負い目ですからね」
「庇って沈んだわけじゃないんでしょ…?」
「ええ、ただ、2人とも練度自体は20を超えていました、朝潮と3人で抜け出す、という約束のために報告書を偽装して残ってたんです」
「2人とも、朝潮の同期でした…仲も良かった、だけど、場所と時期が悪かった」
「…なによそれ…」
「だからこそ、今、その仲を取り戻したいんですよ、彼女達は…」
「…ねぇ、今ならわかるんだけど…提督と艦娘の間に溝とかなかったわけ?」
「ありましたよ?もちろん今の提督とも」
「最初の頃の提督はラジコンって呼ばれてましたから」
「ラジコン?」
「…本部の命令通りにしか指揮を出せませんでしたから、力もなかったですし」
「今思えば、提督としての才能はなかったんでしょう、ただ、リーダーとして、現場での指揮は…優れてると思います」
「それが良くあんなに慕われてるわね…」
「…失礼ながら不思議ですね…」
「…提督は、もともと軍学校を出たわけじゃないんです、当時中将でしたっけ、そんなくらいのお偉方が連れてきたんです、ほら、横須賀の提督」
「あの人そんなに偉いの…?」
「お金と権力のある勝ち組というやつでしょう」
「…おかげでまず、食事はマシになりました、一般的な三食を取ることが出来ました、涙が出るほど嬉しかったですね、ただし装備などはそのままでしたが」
…
「ただ、提督の腕には落胆したものですね、期待した私達も愚かでしたが」
「……ただ、真剣に私たちを見ていてくれましたね、怪我をしたら気にかけてくれて、沈んだ子には涙を流して」
「お墓を作る許可、というか、指示をくれたのも提督でした…ただ、簡素な物だし、火葬もできない、なにより憲兵が反対するので秘密裏に、でしたけれど」
「だからあんなに目につきにくいところにあるのね」
「あれでも整備されたんです、憲兵が引き払ってから…みんなでそれぞれ」
「…そういえば、何回も言ってたけど、憲兵はなんで引き払ったの」
「横須賀の提督が引き払わせてましたね、人材不足とかで…あの時はただそれを聞いてこんなところに人員を割か必要もない、と納得してましたけど…今の報告書の偽造量を見れば、その為なのは間違い無いでしょうね」
「…ねぇ、次の憲兵の配置って相当まずいんじゃ……」
「そうですね、本部が少し規制を緩めてきたと言っても、私たちは…あまり良く思われてませんから」
「………そうですね」
「憲兵の撤収から一気にここの設備は改善されました、備蓄も増えました、ですから…皆んな憲兵の配備を恐れてると思います」
「………」
「赤城さん?」
「あ、いえ、そうですね…」
「…情けない話ですけど、私たちでさえ、頭を抱えることしかできません…」
「…こんなこと聞いて良いのかわからないけど、2人はなんでまだここにいるのよ」
「正規空母って、結構必要ないんですよ、それにいろんなところにもうすでに配備されてますし」
「…配備されてない場合は大抵軽空母でどうにかなっている場所です、つまり…私たちは生まれるのが遅すぎた、だから代わりになれるのを待つしか無いんです」
「…嫌なこと聞いてごめんなさい」
「北上さんに聞いてたら沈められてましたね、ふふ」
「あの人そんなにコンプレックスとかなさそうだけど…」
「意外と気にしてるんですよ…重雷装巡洋艦の北上、ここ以外にも結構配備されてて」
「呉に行こうとした時、呉の方で別の北上さんが建造されて、呉行きが無くなったんです」
「だから呉は球磨型が北上だけ…あれ?その北上は?」
「解体されたそうですよ、戦績が悪かったとか、自分の意思、とか聞きましたけど…」
「……私は他の姉妹から責められたとも聞きましたが、あの人たちはそういうタイプではありません…差し詰め、対応の仕方がわからなくて…気まずくなったのを重く取りすぎたんだと思います」
「…沈んで無いのが救いね」
「何ー?アタシの話してた?今」
「北上さん…」
「…昔話を、少し」
「昔話かぁ…どんなの?」
「………あまり…良い話では」
「あ、なるほど、そういう話か…なんで?」
「私が…霰や、大潮が目が覚めた時…少しでも寄り添えるようにって思って……」
「……そっ…かぁ…どうなんだろ、あー、やばい、わっかんない……」
「…北上さんも何かあったんですか…?」
「………アタシアレルギーなんだよ、瑞鳳アレルギー」
「…あぁ…」
「瑞鳳アレルギー…?」
「……普通轟沈って、敵との戦闘でおこる、それも敵からの攻撃で、庇うとか…普通にやられるとかあるけどさ」
「まあ、そうですね…」
「……アタシが瑞鳳沈めたんだよね、雷撃で」
「…どういう事か、お伺いしても?」
「……嵐の酷い日でさ、視界最悪だった、隊列も何もなくて、前後もわからなくなって、しかも連合艦隊だったんだよねその時、頭数だけ多くて多くて…いや、ごめん、方便並べてるだけだね…とりあえず、私は、戦闘中に瑞鳳を敵だと勘違いして魚雷を撃った…そしたら、一瞬見えたんだよ、瑞鳳のさ、死ぬほど驚いた顔…あの子は艦としての記憶を大事にしてたから…艦としての記憶もあって、より辛かったんじゃ無いかなぁ…」
「…でも、わざとじゃ無いんでしょ…?」
「しってる?事故って罪になるんだよ?…アタシはちゃんと全部、包み隠さず言った…だけど、罪として裁かれることはなかったんだよねぇ…あの頃は空母ってまだ重要視されてなかったからさ…」
「……誰も救われませんね…」
「…ま、あの時のことは皆んな暗い話しかできないよ」
「…聞かせてくれてありがとう」
「…伝えるのも、償いの一つだと思ってるからね…ただ、許されたいのかなぁ…やっぱ私まだまだ弱いわぁ…」
「…十分強いですよ」
「赤城、嬉しいこと言ってくれたとこに悪いけどさ、着いてきてくれる?」
「なんでしょう」
「…提督がお呼びだよ、今後の報告のことで」
「…………わかりました」
「赤城さん…?」