元勇者提督 作:無し
佐世保鎮守府 近海
軽空母 瑞鳳
『無理するな、撤退しろ』
「できません!我々が退けばどうなるかはご存知でしょう!」
『それでも退け、後方に別部隊展開している、合流して被害を受けたものは高速修復材と補給物資を受け取りに来い』
「できるだけ早く戦線に戻ります」
『ああ、無事に戻れ』
「皆さん聞きましたね!撤退戦に移ります!」
不知火の号令でゆっくりと進路を変える
目の前に映ってる敵はそれを許してくれるのか?
そんな事を考える余裕なんてない
「不知火さん!左からきます!」
「退路に潜水艦型…!隠れてたようです…!」
「統率をとっている可能性があるとは聞いていましたが…此処まで正確に連携をとるのは予想外ですね…瑞鳳!」
「もう発艦した、けど…叩き落とされた…どうやって…」
あんな平面のセロテープみたいなヤツに…
イライラする
「全部ですか…!?不味い…撤退戦の策を練り直さないと…!」
こうなった不知火はダメ、頼りにならない
「龍田さん、前に出てください、私が殿を」
「前に出るのは良いけど…殿なんてできるわけないじゃない…艦載機も全滅してるのに…」
「このままでは犠牲が出る事は避けられないので、艤装を盾にでもなんでもします、だから早く」
「そうねぇ…仕方ない、か、不知火ちゃん、後ろに下がってて?羽黒さん、陽炎さん、輪形陣を組んで突破するから両翼に展開、行きますよ?」
これで良い、とりあえず私が盾となる位置を取れば問題はない
全員連れて帰る事ができるのが今の鎮守府、なんで素晴らしい事だろう
嵐の中を貫くように敵を蹴散らして進めば良い
「…ぁ…」
私はあの化け物にばかり気を払っていた、周りの深海棲艦は気にせず
あまりにも迂闊だったのだが
足の艤装を砲弾が掠める、体制が崩れた
右足だけ半分海に浸かっている
海ってこんな感触だったっけ
まるで足首を掴まれて引き摺り込まれるような感覚
沈む感覚
「龍田さん!瑞鳳さんが…!」
「え…どこ…!?」
「もしかして1人だけ囲まれた!?」
「反転して助けに行かなきゃ…!」
声は聞こえる
でももうダメかなぁ
海の匂いは、死の匂いかもしれない
手に持っていた弓を投げる
これが私の合図、もう戦いようのなくなった私が、全てを諦めた合図
ドクン
…なんだろう…
ドクン…ドクン…
全部スローモーションになって、心臓が、強く響いて
あぁ、この、魚雷が近づいてきてるから?
私の、死が近づいてるから?
…ドクン…
違う、まだ死なない
死なない、死んでたまるか、アイツをこの手で沈めてやるって決めたから
だから、私は…
提督 渡会一詞
「瑞鳳はどうした」
「…それが、1人取り残され、沈んだものと思われます」
「…これ、最後にこっちに投げた弓…」
「…そうか…む…別部隊から連絡だ、無事保護したと」
「本当ですか…!?」
「ああ、右足の艤装が破損し、航行できなくなったがなんかとか助かったらしい」
「一体どうやって…でも、本当によかった…」
「そうねぇ…1番練度も何もかも新しい子だったから…本当に心配だったけれど」
「瑞鳳…心配しましたよ…!」
「また誰が沈むのかと…思いました…!」
「うん、ごめん…ちょっと囲まれたけど、何とか抜け出せたから…」
「瑞鳳」
「ん?なぁに?提督」
「…雰囲気が変わったな」
「…そう?でも、提督からも似た匂いがする、紛い物の匂い」
「…瑞鳳…?どうかしました?」
「何にもないよ、さー!入渠してこよー!」
「いいのですか?」
「…敵も退けたようだし、構わん、行ってこい」
「多数の残骸の中に右足だけを浸けた瑞鳳、か…考えられない話だが、一人で殲滅したことになる…」
瑞鳳は武器となる弓を投げ捨て、艦載機を全て撃ち落とされた状態だったらしい
つまるところ、普通の戦闘手段は取れなかったことになるが
「…紛い物か、俺が紛い物…何を指しているのか…いや、何か匂うか…?」
今日はまだ汗をかいていない筈だが…
「ん…瑞鶴か」
「やっほ、提督さん、何してんの?」
「…いきなりで悪いが、匂うか?」
「…いや?別に…?…どしたの」
「…なんでもない、気にしないでくれ」
加齢臭には自分では気づかないと言うしな
気をつけるか…?そんな話ではないかもしれんが
離島鎮守府
駆逐艦 朝潮
「本日より此処に再び配属される事になりました!朝潮です!よろしくお願いいたします!」
「同じく荒潮です、よろしくねぇ」
「2人とも平均以上の実力がある、今後はすぐに主力として戦ってもらうことになる、よろしくね」
「司令官、少しだけお時間いいでしょうか」
「うん?どうしたの?」
「司令官は私の、あの騎士を知ってるようでした」
「トライエッジの事?」
「はい、詳しく教えてもらえませんか?」
「悪いけど…僕もそこまでは詳しくないかなぁ…向こうの提督には聞かなかったの?」
「え?」
「……うん、今度電話して聞いてみてね」
「…わかりました」
鎮守府遠洋
工作艦 明石
「うーん、これがそうなるのなら…」
「明石、そろそろ戻らない?」
「いえ、あと一度だけ発射します、再度展開します」
右腕の手法を前に向けると同時に肩と腰に追加でつけた脚が水面に張り付く
「…物々しいですね」
「………観測お願いします」
「艦載機発艦しました、いつでもどうぞ」
「…はい…!」
引き金を絞る、バシュンッと音がしたかと思うと青白い光が通り抜けた
やはりこの発熱は問題だ、手が焼けそうになる
「目標に着弾…これ本当に効果あるんですか?対象にした岩は全くの無傷ですよ」
「そういうものですから」
「標的はアタシのAIDAじゃダメかなぁ…」
「丸ごと消滅して北上さんも消し炭になるかもしれませんよ」
「うーん、最近軽んじられてない?アタシ、強くなってる筈なんだけどなぁ…」
「慢心してるからじゃないですか?自分を強いと言うのはその証拠です」
「……確かに、そろそろ不味い時期だよねぇ…」
「そうですね」
「不味い時期、ですか?」
「加賀さんは知りませんか?練度が90を超えた艦娘がどうなるか」
「…いいえ、そういえば見たことありませんね」
「みんな沈むんですよ」
「…そこまで強くなって、何故…?」
「簡単にいえば慢心とかさー、責任感で庇ったり?」
「あとは成長の速度が著しく落ちるらしくて、自身の限界が見えてつらくなったりして、スランプとか」
「何にせよ死ぬんです、それもどうやっても逃れられない死に方とかじゃなく、ただ失敗する感じで」
「………嫌だねぇ、みんなそれをわかってて、それでも沈むんだもん、不安になるよねぇ」
「…北上さんでも不安なんてあるんだ」
「あるよ、でも、1番不安なのは…阿武隈かなぁ、あーいう自分が強くなったと思った時にあっさり沈むってこと、多いよね」
「ふふ、北上さんは後輩想いですね、でも他の心配はいいんですか?」
「他?あー、駆逐は心配さね」
「じゃなくて、明石さんとか曙さんとか…朝潮さんも帰ってきましたし」
「…私が何か?」
「…何の話してるの?赤城」
「あれ?意外とそんなことなかったんですか…?翔鶴さんなんてこの前割とアピールしてたのに」
「…あぁ…」
「おや、加賀さん…もしかして?」
「なんでしょうか」
「あらあらうふふ、と言うヤツです」
「…赤城さんウザイ」
「ちょっとそれ私のなんだけど」
いったいなんの話をしてるんだろう、赤城さんは
「明石さん明石さん」
「なんですか?」
「今の所1番リードしてるのは朝潮さんですから負けないでくださいね、提督を取られてしまいますよ」
「……は!?」
そっちかぁぁぁ
「さて、戻りましょうか」
「え!?って事は…あれ…加賀さん!?」
「此処は譲れません」
「……マジかー…」
「え、マジで何の話?」
「此処までの流れで分からないなんて意外と北上さんもウブですねぇ…」
「………なんか赤城にバカにされてるんだけど、やる?」
「せっかくですし4人でやりましょう、私は強いですよ、麻雀」
「あ、そっち!?」
「絶対名前だよそれ…」
佐世保鎮守府
「もう発つのか」
「ああ、世話になったな、提督さん」
「…上司相手にその言葉遣いはやめろ、礼儀を叩き込まれただろ」
「構わないさ、友人として接していたかったのは俺の方だしな」
「いやー、楽しみだ、向こうはどんなとこなんだろうな」
「あんたと話ができなくなるのは残念だ、詩人の方にも言っておいてくれ」
「おいおい、もうフラグメントの話はいいだろ!?何年前のことだよ、いつまで話す気だ!?」
「…確かにな、だがこれからも話す事は尽きないさ」
「今から行っても着任の日まで時間はあると思うが」
「快く受け入れてくれる筈です、何せ友達ですから」
「だな!」
「友人とはいえ不正はするなよ」
「わかっています、しかし、そう言うことをするような奴ではありませんから」
「信頼しているんだな」
「コイツ同様に」
「ははは、そいつは嬉しいな!」
「まあ、向こうでも頑張ってくれ」
「では失礼します」
「お世話になりました」