元勇者提督   作:無し

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川内

呉鎮守府

軽巡洋艦 川内

 

「解体してくれ?」

 

「うん、私はもう要らないと思って」

 

「…随分軽いな」

 

「死ぬわけじゃないしね、それに夜恐怖症も治るかもしれない」

 

「前向きだな」

 

「…そう見える?」

 

「悪りぃ、みえる」

 

「………」

 

「…考えてるのは神通と那珂のことか」

 

「そりゃね」

 

「…いいのか?2人のことは」

 

「…逆だよ、2人は私なんかもう必要ない、私は荷物」

 

「…そうは思えねぇな、お前がいなくなったらあの部屋は散らかりっぱなし、洗濯物も放り出される…間違いねぇ」

 

「………そう言うのはなし、と言うか2人も自立しなきゃ」

 

「言えてるな」

 

「解体の許可、くれる?」

 

「ダメだ」

 

「…なんでさ…」

 

「………俺の信条なんだがな、関わると決めたら、とことん、関わり抜くって決めてるんだ、もちろん俺はお前に関わると決めた」

 

「…くっだらない…」

 

「そうだ、くだんねぇだろ、でも俺はそう決めてるんだ、たとえお前を傷つけてでもな」

 

「なんで私に関わるのさ」

 

「…単純な事だけどさ、俺はお前らが好きなんだ、嫌いなヤツに関わりたい奴いるか?」

 

「そりゃどうも、で?」

 

「それだけだ」

 

「…そう」

 

「…だけど、お前の意思も尊重したい」

 

「する気なんて無いくせに」

 

「ああ、ねぇよ?だからゲームしようぜ」

 

「ゲーム?」

 

「一週間くれ、俺の指定することをしてもらう」

 

「…それで私が自分を解体するつもりをなくす、と?」

 

「無くならなかったら、お前の好きにしてくれ」

 

「………仕方ない、偽造はできないだろうし…いいよ」

 

「決まりだな、今夜から始める、覚悟しとけよ」

 

「わかった」

 

 

 

 

「…なんでこんなところなわけ?」

 

「酒はいけるだろ?」

 

「…まあ、飲めるけど…隼鷹とか誘えば?」

 

「……お前わかってて言ってんのか?」

 

「モチ、同じとこの出だからね、此処に出てきて、初めて飲んだ酒で痛い目見てたからねぇ…」

 

「なるほどな、アイツが飲み会拒否るわけだ」

 

「んー、しっかし、照明が眩しいなぁ」

 

「こうでもしなきゃ夜は嫌なんだろ?」

 

「うん、ありがとね」

 

「構わねぇよ」

 

「あ、これ美味しい!」

 

「……白ワインか?」

 

「みたいだね、スッキリしてて美味しい」

 

「さて、酒も入ったところで、色んな話するか」

 

「……酔いが覚めちゃうよ」

 

「今しなきゃ俺はお前と向き合う機会をなくす」

 

「………わかった、いいよ、何が聞きたいの?」

 

「最近神通元気だよな、なんかあったか?」

 

「……え?そんなこと?」

 

「悪いけど、人数が多いせいで全員を見れねぇんだよな」

 

「…まあ、そのくらいならいくらでも話すけど」

 

「おう、とことん話せ」

 

 

 

 

 

「でさぁ!その時の神通ったら無いんだよ!?アタシに夜戦しろ!って…私も夜戦が怖くなったところだったのにさぁ…」

 

「なんでそんなに怖いんだ?」

 

「……私だって!夜戦が好きだったのに……!みんな死んじゃうんだよ!?一回当たったらどんどんどんどん……駆逐艦とか軽巡とか関係なくて…みんな一瞬で…」

 

「……」

 

「でも、一番辛かったのはアレだなぁ…」

 

「アレ?」

 

「ほら、私たち艤装がないと…浮けないじゃん、だから1人だけ、身投げしちゃってさ、しかも私のそばにきて普通に話してたら急に笑顔で笑って」

 

「……キッツいなそれ」

 

「うん……それから、夜になるとみんな死んじゃう気がしたんだ…まあ、その…あそこって夜間に部屋から出たら罰を受けるから、脱走って事になってるけどね…アタシも言い出せなかったし」

 

「でもお前が気に病む事じゃ無いだろ」

 

「…あの時、気の利いた言葉でもかければ…死ななかったかもしれないよ」

 

「お前の気持ちがわかる、とは言えねぇけどさ」

 

「何?」

 

「お前と俺は似てる気がする」

 

「……口説いてんの?」

 

「…さぁな、でも気が利かねぇ奴ってとこはそっくりだろ」

 

「…そうかもね……はー!…結局洗いざらい吐かされたし……もっと飲む!次頂戴次!」

 

「おう、酒なんてどうせ誰も飲まねぇから、好きなの開けろ」

 

「やったー!」

 

 

 

 

 

 

 

「うぇぇ…頭ガンガンするぅ…」

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫…でも提督、神通達が怒ってたよ、なんでそんなに飲ませたのかって」

 

「別にいいんじゃね?少なくとも今は怒られようが無いだろ」

 

「………確かにね、わざわざこんなところには来ないか…で、いつ大物が釣れるの?」

 

「もう少し待て…と言いたいとこだが………いつだろうな…俺も昼飯は確保したいんだが」

 

「…帰ろうか、美味しいとこ探そ」

 

「後10分だけ粘らせてくれ…お、そっち引いてるぞ」

 

「ん、軽いなぁ…イワシかぁ…」

 

「イワシばっかりか?」

 

「まあね…生き餌にしてみる?」

 

「そのまま突っ込むと逃げられてもしらんぞ」

 

「ちゃんと針かけ直すよ…よし、行ってこーい」

 

「……俺、釣ったイワシをそのまま餌にする奴初めて見たわ」

 

「何?初心者?」

 

「まあな…」

 

「……おっ……この手応え…ヒラメかかったな!?」

 

「おまえ…もしかしてたまにいない時釣りしてんのか?」

 

「まあねぇ…もしかしたら落ちた子が釣れるかもしれないから」

 

「……へぇ」

 

「よし!いい大きさ!」

 

「うわっでっけぇな」

 

「ふふーん、分けてあげないよ!」

 

「おっかかった!……って…アジか…唐揚げか塩焼き…か…一匹じゃひもじいな」

 

「煮付けにしても美味しいよ?生姜効かせたやつ」

 

「……へぇ、やっぱお前料理も得意なのな」

 

「…神通と那珂ちゃんの食生活改善のためにね」

 

「…なんかわかる気がするわ」

 

「ちなみに神通はジャンクフードばかり、那珂ちゃんは忍者食って言って自作の兵糧丸ばかり」

 

「……逆じゃね?…いや、合ってんのか……?」

 

「だから私が最高に美味しいものを作ってあげるのよ、でも…台所にも立たなくなったなぁ…」

 

「せっかくだし今日はお前が作るか?」

 

「いいよ、腕を振るってあげる」

 

「よし、決まりだな、このアジは生き餌だ」

 

「ちょっ!?私のヒラメが狙いだったの!?」

 

「ははは、もう遅ぇ!」

 

「あー、良いサイズのアジが……」

 

「さて、なんか釣れるかな」

 

「ちなみにヒラメを分けるなんて一言も言ってないからね…」

 

「…やっぱアジが食いたくなったわ」

 

「ん?なんかかかってない?」

 

「うぉっ、重てぇ!」

 

「え、なにあれ…お!いいじゃん!大物だよ!」

 

「こいつなんだマジで!」

 

「わかんないから早くあげてって!」

 

「くそっ重…手伝ってくれ!」

 

「情けないなぁ!ほら…うわっ重…!うわぁっ!」

 

「くそっ…切られたか…」

 

「いたたた…ごめーん、起こして」

 

「ほれ…しかし…逃した魚はデカかったな」

 

「昔の人はよく言ったもんだよね…ヒラメ食べる?」

 

「頼む」

 

 

 

 

 

 

軽巡洋艦 川内

 

「ねぇ、後3日しかないよ」

 

「…良いんだよ、これで」

 

「どう言う事?」

 

「……正直言うと、お前の意思をどうこうできるとは思ってない、だから…たとえ俺らを忘れても、俺たちはお前を忘れたく無いんだよ」

 

「勝手だね」

 

本当に勝手だ

 

「…俺は誰かを沈めたことなんてないけどな、大怪我したお前らを見たら、不安になる、目を覚まさない奴がいたら、おかしくなりそうになる……だから、お前が俺の前から消えたら俺は…どうなるんだろうな?」

 

「知らないよ」

 

「俺もわかんねぇ、でもそれでいい」

 

何が良いんだか

 

「俺はお前らを知らなさすぎる、よくいや放任主義、悪く言えば関心が足りてない」

 

「そんな気はするね」

 

「……ダメだな、最後に、ようやくケツに火がついて、必死になってんだ」

 

「みんなそんなもんだよ」

 

「今夜は寝るのか?」

 

「さあ?」

 

「…そっか、夜釣りにでも行こうぜ」

 

「……暗いよ」

 

「ダメか?」

 

「…1人にしないで」

 

「任せとけ」

 

 

 

 

「えー、夜釣りってさぁ……わざわざ海に船浮かべなくても…」

 

「これしかねぇんだよ、そこそこ広いからいいだろ」

 

「…確かにね、でも…暗いよ」

 

「まだ夕方だろ?」

 

「こんな時間に外にいるの…いつぶりかなぁ…ほんとに前の演習以来?」

 

「あの時の那珂は凄かったな」

 

「オンオフの差が激しい子だからね」

 

「あいつらがお前を1人にすると思うか?」

 

「今は1人にされてるよ」

 

「俺がいるだろ」

 

「……そっか、提督、私スクリュー壊して帰って良い?」

 

「せめてスクリューは無傷で帰ってくれ」

 

「にしても物好きだよね、この辺は滅多に出てこないけど、一応どこにでも深海棲艦は出るよ?」

 

「お前がいるだろ」

 

「………私は弱いんだよ」

 

「今のお前はな、でも、神通や那珂はお前を強い強いと褒めちぎってた、那珂のあのスタイルもお前に強い影響を受けたらしいじゃねぇか」

 

「……本人はそうは思ってないの」

 

「心配すんな、お前は強いよ、腕相撲するか?」

 

「負けるのわかってて言ってる?」

 

「おう」

 

馬鹿なのだろうか

 

 

 

「この四日間毎日釣りして、お酒飲んで…仕事はいいの?」

 

「神通と那珂に事情話したらやってくれるってよ」

 

「……言ったの?」

 

「言わずに行くのは許さねぇ、っても…2人とも驚きもしなかったけどな」

 

「…なんで言ってないって思った訳?」

 

「似てるって言っただろ俺もいえねぇかなと思って」

 

「……そう、火が沈むね」

 

「お前にとっては、アレはなんなんだ?」

 

「戦火、それが宵闇に消える」

 

「黄昏の闇に飲まれた……ってことか、やっぱり俺らは主役じゃねぇな」

 

「どう言う意味?」

 

「この戦いの主役はお前らだ、最初から戦ったお前らが……最後まで…」

 

「それが本音?」

 

「かもな、らしくないこと言った」

 

「……暗いね」

 

「ああ、この程度の電気じゃな」

 

「………不思議だよ、久しぶりに、夜なのに…気持ちが落ち着いてる」

 

ああ、夜は…冷たくて、静かで……

 

「お前にとって、夜はなんなんだ?」

 

「……寂しいところかな」

 

1人の世界に…だけど、それを許してくれなくて…

みんなが私を、深い深い夜へと招くけれど、そこには私は居られない

 

「…お前は生きたいのか」

 

「うん、沈んだ子の分も、だから……私は、忘れるけど、忘れない、魂はきっと同じだから」

 

「……やっぱ、止めるのは無粋だったな」

 

「そりゃそうだよ…試しに、死んでみる?」

 

「……こんな中に沈むのも、悪かねぇかもな」

 

「…………私を置いていかないんじゃないの?」

 

「俺は我が儘なんだよ、なんかあっても生きてくれよ、お前は…優しいんだから」

 

「…また強いって言われるのかと思った」

 

「弱くて、吹けば倒れるハリボテみたいなやつだったよ、お前は」

 

「そっか、骨組みに皮だけ貼った女の子は嫌い?」

 

「……綺麗だよ」

 

「…ありがとう」

 

「頑張ったな、今まで」

 

「………これからもだよ」

 

「ん?」

 

「なんでもない、ねぇ、提督」

 

「おう」

 

「お墓参りに行って欲しいんだ」

 

「……誰の墓だ?」

 

「……私しか、死んだことを知らない子」

 

 

 

 

「この岩か?」

 

「うん、呉からそんなに離れてないから出撃の時にね」

 

「なるほどな……たまには俺も来るか?」

 

「そうだね、一緒に来よう」

 

「………」

 

「月が綺麗、か」

 

「どうした?」

 

「…最後の言葉、あの子の…春雨のね」

 

「そういや、白露型って見た事ねぇな」

 

「そう?私よく演習で見るけど」

 

「悪かったな、ついて行かなくて」

 

「…どんな気持ちで沈んだんだろう」

 

「……最悪な気分だったろうな」

 

「そっか、お酒持ってる?」

 

「……いや、飲酒運転すると思われてんのか?」

 

「船はアウトなの?」

 

「アウトだろ、なんでセーフだと思ったんだ」

 

「……勘!」

 

「そうか、お前馬鹿だろ」

 

「へへ、次は持ってこよう、明日また来て……3人で飲もう」

 

「…俺は飲めねぇよ」

 

「うん、麦茶振っとくからそれ飲んでね」

 

「小学生か!……はぁ、帰るぞ」

 

「うん」

 

『…………』

 

 

 

 

 

提督 三崎亮

 

「……なんだと?」

 

「特殊な個体が出てきており、とても太刀打ちできないのです」

 

「神通…お前がか…」

 

「はい、私と軽空母のお二人、そして駆逐隊で戦闘になりました、しかし全員中破に……」

 

「敵は」

 

「ほぼ無傷かと、被弾はしていましたが、効いている気配はなかったです」

 

「………おい、このデータ」

 

「…はい…昼戦は一切こちらを無視、夜戦のみでの戦いとなりました」

 

「………それもだが、この録画映像のここだ」

 

「…これは、件の…」

 

「スケィス…行動を共にしてる、って事なのか?」

 

「……少なくとも先頭には絡んで来ませんでした、もし手を出されていたら…私たちは…」

 

「落ち着け、悪いな……今は慎重にならざるを得ないか……戦闘場所は?」

 

「太平洋の地図に記録してあります」

 

「……日本海側での戦闘は少ない、そっちに遠征部隊を派遣してくれ、旗艦は2番から那珂、球磨、木曽で各艦隊に配備、最低限の資源で運営するのはそろそろ辛い頃だ」

 

「わかりました……その…」

 

「……川内のことか、俺を恨め」

 

「…いいえ、姉さんは……もしここを去ったとしても、きっと…」

 

「あ、すまん、聞き取れなかった」

 

「いえ、蠅が飛んでいたので撃ち落としただけです」

 

「そうか?まあ良い」

 

「では、失礼します」

 

「………スケィス…か」

 

俺の最大の力にして、俺自身と言えるそれ

ソレを抜き取られ、今や自分に価値など見出せない、ここにいるものを守ることも救うこともできず、ただ現状に落ち着いている

 

「川内のことも大事だが…何より、俺のことだな…自分のことは自分でやらねぇと」

 

 

 

「よっ提督、どこ行くの?」

 

「お前が墓参りに行く用意しろって言ったんだろ」

 

「…ありがとね」

 

「川内…何が起きても良い覚悟はしておけよ」

 

「どういう意味?」

 

確かにあそこは交戦の記録の場所よりもずっと内側

だが、嫌な予感がする

 

違う、確信だ

 

スケィスがいる、向き合う時だ

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