元勇者提督 作:無し
離島鎮守府
提督 倉持海斗
「霰、わかる?」
「んちゃ」
「……」
手を挙げ、笑顔で返事を返してくれる
それだけでありがたい事だ
この瞬間が、一番辛く、悔しくなる
自分の罪と向き合う瞬間が
「霰、ごめんね…」
「ん、気にしてない」
「……僕のせいで君たちが沈んだ」
「霰は1人じゃなかったから、気にしてない」
「……大潮はまだ目を覚まさない…か」
「…多分違う」
「え?」
「……大潮姉さんじゃない…と思う」
「…でも、大潮…だよね?」
「うん、大潮姉さんだけど、大潮姉さんじゃないよ」
「…うん?」
「それでいいかも…うん、いいかも」
相変わらず、マイペースな子だ
今ならきっと彼女らしい生き方をさせて上げられる
「司令官」
「どうしたの?」
「……霰、出撃、しなくていいの…?」
「…良いんだよ、今は休んでて」
「……朝潮姉さんは?」
「今こっちに戻ってくるって連絡があったから…多分あと10分くらいかな、すぐに来るよ」
「……まだ……ここにいるの…」
「違うんだ、霰、朝潮は自分の意思でここに戻ってきたんだ、此処はもう、前のような場所じゃなくなったから…」
「……」
霰の目線が刺すようなものになる
信用はされてないらしい
当然か
「……」
「そうだ、霰、お腹減ってない?」
「……すいた」
「よし、食堂に行こうか、立てる?」
「……あっ…力が…入らない…」
「…筋肉が衰えてるのか……」
あれから一週間は経ってる
夕張が帰ってからだとそこまでだけど…
筋力の衰えと、自分の記憶などとのギャップ
思う通りに動かせないという事か
「よし、もうちょっと待てる?」
「……うん」
「…あ、もしもし、朝潮?少し食堂に寄ってきてくれないかな、うん、霰に食べやすいものを……ありがとう」
流石にまだ、霰を背負って食堂に行く事も、食事を持ってくることもできない、自分の移動にも杖を使う始末だ
「……朝潮姉さん…居るんだ…ほんとに」
「うん、霰にとっては複雑かもしれないけど」
「…………正直に言うと、安心した…まだ生きててくれた事……見捨てられてない事…」
「見捨てるわけがないよ、みんな…」
「ほんとに?」
「……うん、誰も見捨てはしない、誰も」
「そう」
廊下が騒がしくなってきた、そろそろかな
「霰!」
「……んちゃ」
「霰ー!」
「本当に霰ちゃんねぇ…」
朝潮達が部屋になだれ込んでくる
「霰……本当に会いたかった…!」
「……」
目に涙を溜めてる朝潮に対して霰は不満気、やはり戻ってきたことに怒ってるらしい
「……ご飯、早く…」
違った、お腹が限界みたいだ
「ごちそうさまでした…美味しかった…かも…」
「霰…?そろそろ良いですか?」
「良い…?…うん、いいかも」
「あの、会いたかったですよ…霰」
朝潮は話の腰を折られたせいでたじたじといった具合か
「霰は、会いたかったけど……会いたくなかった…ここで…会いたくは、なかった」
「霰、それは違います、私たちは自分の意思で此処に戻りました、此処はとても良い場所になりました」
「どう変わったの?」
「えっと……」
「三食、いろんな食事を選んで食べられる、休みもあるし本土に遊びにも行けるわ、それと、みんな沈んでない」
「満潮姉さんよく知ってるわね…」
「ふん」
「………ほんとに?」
「本当です、貴方が恐れることは無くなりました」
「…ふふっ…しってる」
「え?」
「うん、優しいの……とっても」
「……そうですね、優しいです」
姉妹水入らず、かな
工廠
「明石、ちょっといいかな」
「はい、なんでしょうか」
「しばらく此処を任せたいんだ、また代理を頼みたい」
「…そういえば、検査に行くんでしたね……その…」
「気に病まないで、大丈夫、このままでも良いんだけど、こじつけられたら困るからね」
「……提督の留守を守ることが私の役目です」
「ありがとう、ところでそっちのは?」
「あ、これですか……えっと、私用の艤装です」
「眼鏡に見えるけど…」
「はい、距離を測ったり、射撃を助けたりと色々な複合デバイスにするつもりです」
「明石ってアナログ派じゃなかった?」
「夕張とヘルバさんに師事をうけてます、なんとかなってますけど、かなり苦労はしてます」
「そっか、全体に配備するの?」
「……いいえ、これは私専用です」
「専用…?」
「えっと…かなりメンテナンスが難しいので、少なくとも当分量産はできませんし、万が一無くされても困りますから」
「ああ、そうか、ごめんね」
「いえ、提督…改めて申し訳ありません」
「果物ナイフなんだから大事には至らなかったし、気にしないで」
「しかし、今まともに歩行できないのは私のせいです」
「まだ少し痛むだけだよ、時間が癒してくれる、病院に行くのは検査だけだし」
「……本当に、申し訳ありません、万が一歩行が難しいことになれば、私に補助器具を作らせてください」
「その時はお願いしようかな、島風達を送り出したいから、行くのはまだ先にするけど」
「それが宜しいと思います…」
「明石」
「はい、なんでしょうか」
「無理しないでね、君はみんなに必要なんだ」
「………私はお荷物だ、とは言いません…ですが、私は火薬になってしまいました」
「じゃあ曙を怒らせたら大変だね、小さな火種でも火がついちゃうから」
「アオボノさんの方ですか…… 」
「うん、頑張り屋だからついつい無理したりやりすぎる」
「……そうですね」
「明石、君もだからね」
「へ?」
「君も無理や頑張りすぎが多いんだよ?負担になるくらいなら代理は北上か曙に任せても良いけど」
「……何故?」
「3人ともみんなを引っ張る側だからね……いや、ごめん、言葉の選び方が悪かったな…こんな言い方をしたら君の負担になるか…そんなつもりはなかったんだけど」
「…いえ、そんなことは」
「僕は明石に負担をかけたくないんだ」
「……提督、私は大丈夫です」
「うん、君がとても頑張り屋なのは知ってるから、だから頑張りすぎないでね」
「頑張りすぎない…?」
「うん、元気を有り余らせて出迎えてね、約束」
「…わかりました、じゃあ、達成できたら何かご褒美をください」
「え、うーん…まあ良いか、何が欲しいの?」
「提督が帰ってきてから伝えます」
「そう?わかったよ」
駆逐艦 朝潮
「霰、疲れましたか?」
「うん、でも…アリかも…」
あれからいろんな方がお見舞いに来てくださり、休む暇もなかったです
なんだかんだで霰も少し疲れ、ぐったりしてきたのでみんなにはお引き取り願いました
「…霰、何か言いたいことが?」
「なんで戻って来たの?」
「貴女と、大潮と、みんなと過ごしたかったからですよ」
「やめて、早く出て行って…」
「霰、心配ありません、みんながお見舞いに来るなんて前だったらあり得ませんでした、それを今なら可能にしているんですよ」
「……」
「…霰、リハビリついでに、いろんなところを周りましょうか」
「……立てない…」
「肩を貸してあげます、松葉杖の使い方は分かりますか?」
「…わかる…けど…」
「少しの間でも使うことになります、覚えましょう」
「…お姉ちゃんは…スパルタ……」
「嫌いになりましたか?」
「そんな事ない…」
「…食堂…?」
「そういえばお腹減ってませんか?」
「……なんでこんなに…賑やかなの…?」
「ご飯は明るく食べるべきですからね」
「…信じ…られない…」
「せっかくだし食べますか?何が食べたいですか?」
「…ドリア?食べてみたい…」
「あると良いのですが…」
病室
駆逐艦 ???
ーーごめん…!絶対に元に戻すから…!ーー
ーー話は、元に戻ってから聞く…!…だから…帰ってきて…!ーー
「……ぁ…ぇ……?」
此処はどこだろう?
あの苛烈な戦いは私の中で何度もリピートされた
「………」
やっとの思いで体を起こして周りを見る
誰も居ない、だけど此処にはもう1人、いや、2人いたらしい
シーツの崩れたベッドと、その横に、私のベッドに挟まれるように置いてある椅子
「………」
寂しい、悲しい
忘れられた?
誰を呼べば良いんだろう、誰に縋れば良いんだろう
誰を求めれば良いんだろう…
「……ー…!」
部屋の外の声、誰だろう?
「満潮!機嫌がいいですね!」
「そりゃそうよ、霰が目を覚ましたんだから…この調子できっと…っていうか、大潮姉さん、何食べる?」
体が跳ねてしまった、心臓がキュッと音を立てる
「そうですなー、何食べましょう!あ、朝潮姉さんを呼ばないと!」
扉が開く気配に咄嗟に私は横になり、目を閉じてしまう
「…居ませんね…まだ目も覚めてませんかー…仕方ないですね…」
「霰も居ないじゃない、抜け駆けは良くないわね、行きましょ」
「そうですねー!」
「…あれ…私……?」
多分私だ…でもなんで私が…
また人の気配がする
「入るよ」
夢でリピートされた声が響く
「…居ない、か」
この人も私を求めてくれないのか
独特な音が近づいてくる、私のベッドの隣に来たかと思えば、椅子をずらす音、そしてそれに座ったからであろう、椅子の軋む音
「………」
何故何も言わないのだろうか
そう思っていると、額に温かい感触がした
ゆっくりと、割れ物を触るような手つきで頭を撫でられた
むず痒くて、くすぐったくて
たまらなく、暖かくて
「………」
なのに何にも言ってくれない
目を、ゆっくりと開く
こちらをじっとみていたらしく、目が合う
「…おかえり」
意味がわからなかったけど
「ただいま…」
様式美というものだろう、私は自然とそう答えた
「わかる?」
「…司令…ー…」
声が途切れた
多分違う、でも、そう、受け入れなきゃ
「…司令さん」
「うん、そうだね、僕は此処の司令官だ」
「…私は…誰?」
「……大潮…君は大潮だった」
「うん、でも…違うと思う」
「…そっか」
「………山雲、呼んで」
「山雲」
「…これで良い、です」
「本当に良いんだね」
「…うん……きっと私は…そう成った」
「山雲、君が起きたことをみんなに伝えなきゃ」
「大丈夫、立てます…っ…」
「無理しちゃダメだよ」
「…できます」
「じゃあ、手を繋いでいこう、みんな食堂にいるはずだからね」
「…はい、司令さん」
「どうしたの?」
「…髪を束ねたいです」
「…随分と伸びたからね、後で何か用意してもらうよ」
「…司令さんが用意してください」
「うーん…わかったよ」
今日は、良い日
みんなが祝い、喜ぶ日