元勇者提督   作:無し

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敗北

憲兵団本部

 

「海軍の指示に従うな…ですか?」

 

「ああ、海軍の奴らに何を言われるかは知らんが、海軍は無視していい」

 

「…理由を伺っても良いでしょうか」

 

「海軍と我々は一蓮托生だった、だが海軍の奴等の我々への扱いを考えろ!」

 

(ああ、これがかの有名な陸軍と海軍の不仲か)

 

「具体的にはどのレベルまで従わなければいいのでしょうか…」

 

「その辺は君たちの裁量に任せる」

 

(丸投げだとよ、当局は一切関知しないって訳だ)

 

(誰もやりたくない仕事の理由が分かったな)

 

「以上だ、下がっていい」

 

「失礼しました」

 

「ああ、また、後一つ、報告書はこちらに送るものと海軍用とで分けろ」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

 

「はー、嫌な気分だねぇ…やってらんねぇぜまったく」

 

「そう腐るな、ほら」

 

「……レコーダー持ってたなんてバレたら殺されるんじゃねぇ?」

 

「……考えたくないが…まあ、大丈夫だろう」

 

「しっかし…上もこんなに仲が悪いとはなぁ…」

 

「誰も此処までだとは思わんだろう…俺も想像以上で驚いた」

 

「まあ、海軍の情報流す様にどうこうしろとか言われないだけマシなんじゃねぇ?」

 

「そう思うか、ところでリストはもらってるか?」

 

「ああ、所属艦娘のリストだろ?んー……どのくらいの年代なんだ?この子達」

 

「さあな、わからん…もう適当に甘味でいいだろう」

 

「生菓子は持たないからなぁ…予約だけしていくか」

 

「そうだな、人数は多そうだが向こうは施設も整ってない島だと言う話だ、生菓子は中々食べられないだろう」

 

「仲良くなれるといいんだけどなぁ」

 

「…そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

呉鎮守府

提督 三崎亮

 

「また春雨が出たの…?」

 

「宿毛湾は殆ど壊滅状態だな、救援は出さないで陸路の撤退を選択したらしい」

 

「それって…」

 

「敗北だ、九州の四国側と四国の一部の地域に避難勧告が出てる」

 

「………提督…」

 

「出撃したいって言うんだろ、ダメだ…確かに、お前のここ最近の練度の伸びは凄まじい、それは認める、だが…練度だけだろ…お前は正しく自分を動かせてない」

 

「何がわかるの…!?私は…私は私!提督は人間!私は艦娘!艦娘には艦娘の使命がある、なのに…それを投げ出して大人しく指を咥えてろって事!?」

 

「今行けばお前は死ぬし、犠牲も増える」

 

「………勝てるかもしれないよ」

 

「実力差をよく分かってるんだろ、神通1人じゃない、艦隊で戦って負けてる」

 

「………」

 

「川内、今のお前なら神通に届くかもしれない、だが…その先には届かない」

 

「私は止まらないよ」

 

「……春雨だったか、あいつはお前との戦いを望んでる」

 

「望んでる?私に解体を勧めておいて?」

 

「…お前が解体をしないなら、直接その手でお前を屠る…そのつもりのはずだ…なら、お前はいずれ戦うことになる」

 

「…………いつ」

 

「さあな、片手で神通ひねれるくらいになったらいいんじゃねぇの」

 

「………4日か…いや、3日頂戴」

 

「…は?」

 

「じゃ、三日後用意しておいて」

 

「………本気なのかよ」

 

なんにせよ、今日は止めることができた

宿毛湾泊地は完全に撤収、おそらく深海棲艦の攻撃も苛烈だろう…太平洋側への出口は失われた…大回りをすれば可能だが……まさか一体…いや、二体に此処までやられるとは…

 

「スケィス……」

 

歯が軋む

ムカつきが抑えられない、あいつは何と言った?

力は失っていない、代わりに記憶を奪われている

 

いつの記憶だ?全く覚えがない、いや、記憶が抜けているのなら当然だが

 

力を失ってないならなぜ俺はこんなに無力なんだ

 

よりムカつく、許し難い気持ちが湧き上がる

そして苛立たしい電話の音

 

「こちら司令室」

 

電話の内容は瀬戸内海内部の深海棲艦殲滅の作戦、そして日本海への進行阻止

俺たちにも出ろ、とのことだ、それ自体は構わないが……

 

怖いのは川内だ、防衛に回すなんて言えば暴れるのは間違いない

かと言って前に出すのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

離島鎮守府

提督 倉持海斗

 

「え…?それ、本当?」

 

『ああ、今日の夕刻になるだろうか』

 

「………そう…ねぇ、拓海、今日の夕方は送別会なんだけど」

 

強めの口調で言う

 

『なら歓迎会も兼ねればいい』

 

どうやら伝わらなかったらしい

 

「遅らせられないかな」

 

『無理だ、もうすぐ船に乗り込む』

 

「……もっと早く教えてよ…」

 

『すまんな、宿毛湾泊地が落とされた事で色々忙しかった』

 

「え?」

 

『……人類が深海棲艦に敗北し、拠点を一つ捨てたのだ』

 

「宿毛湾ってどこにあるの」

 

『四国の西だ、九州にも近い、近辺は避難勧告を出している』

 

「………そうか…流石に遠いね」

 

『君の仕事は最前線で艦隊を指揮する事だ、が…そうも行かなくなってきたかもしれん』

 

「どう言う意味?」

 

『……戦線を下げざるを得ない可能性がある、離島、とついているが理明らかにそれでは済まない距離がある、まあ、話は追って知らせよう』

 

「………嫌な感じだね」

 

「クソ提督、何だった訳?」

 

「……曙…うーん……ごめん、気分を悪くするかもしれないけどいい?」

 

「何よ、変な前置きね」

 

「まず夕方に憲兵が着任する」

 

「……明日じゃなかったの」

 

「早まったらしい…」

 

「……最ッ低…」

 

「僕もそう思うよ、連絡を早くしてほしかった……だけど遅れたのには理由があった」

 

「理由?」

 

「半分くらい聞こえてたと思うけど、宿毛湾泊地が落とされた、深海棲艦に取られたんだ」

 

「………うそ…」

 

「………事実らしいよ……」

 

「…パーティーなんかしてる場合なの…?」

 

「………多分違う、だけど…今は伏せる」

 

「本気…?」

 

「連絡が遅れたことにでも何でもする、ただでさえ娯楽のない此処で、こんな暗い話題ばかり告げられても…」

 

「憲兵はどうするのよ」

 

「僕が何とかするよ」

 

「………私も手伝ってあげる、だから2人でどっかに押し込んで、邪魔はさせない様にするわよ!!」

 

「……そうだね、じゃあ憲兵が来ることだけは伝えておこうか」

 

「それが妥当ね」

 

 

 

 

 

 

佐世保鎮守府

 

「と言うことらしい、宿毛湾が落とされた事により、急ぎで住民の避難誘導を行う」

 

「那智より質問です、岩川や鹿屋は何をするんですか、あっちの基地の方が近い、我々が避難誘導を行う必要はないのでは?」

 

「その二つは瀬戸内海への入り口を封鎖し、瀬戸内海内部の敵を呉鎮守府と共に殲滅する様に命令が出ている、そのため我々が避難誘導を行う」

 

「……仕方ないのか…」

 

「そうだ仕方ないことだ、全員制服着用、完全武装で現地に赴け、槍も持て、目に見える武器があることで事態の深刻さは自然と伝わるだろう、現在陸上に深海棲艦が上がる事例は確認されていないが、陸上での砲撃は衝撃などがまるで違うものになると報告が上がっている、もし戦闘をすることがあっても無理はするな、詳しい事は現地の陸軍の指示に従う、何か他に質問はないか」

 

「瑞鶴から質問、有事の際は戦闘行動はどこまで認められる訳?」

 

「敵を殲滅しろ、民間人の危険を全て取り除け」

 

「りょーかいっ」

 

「普段の訓練通りにやってくれ、時間がないので移動を開始する、我々は憲兵隊の車両に4名ずつに分かれて搭乗する、では装備を用意し出発しろ」

 

 

 

正規空母 瑞鶴

 

「この家は避難完了してるみたいね…こっちはどう?」

 

「問題ありません、ただ住民の抵抗が激しい場所もあります」

 

「まあ、そりゃ…東北とかはガラッガラだからあっちに比べたらここは安全って考え方もわかるんだけどねぇ……」

 

住民も何か言いたげだけど完全武装してる私達をわざわざ罵ろうとはしない

 

「瑞鶴さん、我々は海上に出て哨戒にあたれ、と言う指示が」

 

「わかったわ、この槍置いていってもいいかなぁ…邪魔というか何と言うか」

 

「私が持っておきましょうか?」

 

「んー、じゃあお願い」

 

 

「何この量!うっじゃうじゃいるわよ!?」

 

「とても海に出られませんね…陸上からやるしかない……」

 

『瑞鶴〜?こちら龍田だよぉ〜?陸上での戦闘が始まったから手が足りないのだけれど、余裕あるかしら〜?』

 

「陸上…!?嘘でしょ…!悪いけどこっちも大量にいるわ、まだ戦闘始まってないけど、余裕はない!」

 

『じゃあ健闘を祈ってるわ〜』

 

「……すごい音…なに、このグチャグチャって音…」

 

「…お楽しみよ、私たちもやるわよ!!」

 

『うふふふ〜…!……アハっ…アハハハハハ!』

 

「アンタ通信切りなさいよ!」

 

 

 

 

 

呉鎮守府

提督 三崎亮

 

「いいか、全員自身の安全第一だ、瀬戸内海の出入り口は完全に抑えられている、此処にいないメンバーで日本海への進出を阻止する、お前たちは殲滅組だ」

 

「………」

 

「作戦は夕刻を持って中断される、全員無事に戻れよ!」

 

やっぱり川内は日本海の防衛に回すべきだった

妙に血走ってやがる

 

「古鷹その時は任せた」

 

「お任せください、ちゃんと全員連れて帰ってきます」

 

「まあ、うまくやってくれ」

 

気の利いた言葉も言えないが

 

 

 

軽巡洋艦 川内

 

大丈夫、まだやる気はない…

だけど見なきゃ行けない、春雨の強さを

負けないためにも、見て、知る必要がある

 

「前方敵影!」

 

「敵艦載機きます…!対空射撃用意……始め!」

 

「撃ち落としきれない…!」

 

「全員散開!」

 

「川内さん!直上に…!」

 

海面を覗き込む

 

爆弾……

 

距離は?このまま進めばかわせる…訳ないか

どうする?いや、もう飛び出すしかない……

違う、神通なら?かわしてみせるかな、那珂なら蹴り飛ばすかもしれない、あの北上なら涼しい顔で撃ち落とすだろう

 

なら私なら?

 

真似はしなくていい、やれることをやるだけで

 

半身を大きく捻り、それを何事もないように手にとる

焼けそうなほど熱いそれを迫ってくる艦載機に投げた

 

「………なんだ、実戦ってこんなもんか」

 

「姉さん…?」

 

やれる、私は足手まといじゃない

今なら春雨をも………誰だろうとやれる

 

「神通さん!絶え間なく艦載機が!」

 

「………このままでは不味いですね、提督に連絡を、我々では難しいです」

 

違う、そんな事はない、私1人分の時間の切れ目ならある

 

私ならやれる

 

「姉さん!!待って!行かないで!!」

 

聞こえない、今は

 

「罠です!その1人分の切れ目は…!」

 

たとえ罠でも、招かれたら行くしかないんだ

 

「もらった…!」

 

空母型の敵に砲弾を叩き込み、沈める

 

「やれる…!やれる!!」

 

腰の艤装から魚雷を抜き取り、すれ違いざまに巡洋艦級の口に突っ込む、また一つ沈めた感触

 

とにかく空母を一つでも大きく沈めてやる、とことん沈めてやる

上手くいっている、そう、本当にうまく……いってしまった

 

「…誘い込まれてたのはわかってた…けど……」

 

200はいる、20ほどの戦艦が等間隔に並び、そしてその周りを巡洋艦が固め、その後ろに空母、綺麗に陣形を作っているつもりか

ついこの前まで大量の駆逐艦型を逐次投入してきた敵とは思えない

 

『……なんで…解体しなかったの……』

 

「春雨…」

 

背後から、彼女は深海から這い出す様に現れる

 

『貴女は、戦わなくていいのに』

 

「戦うよ、春雨を連れて帰るために」

 

『………自惚れるな…!格の違いを教えてあげる…!』

 

急に恐ろしくなってきた

だけど気丈に戦わなきゃいけない

 

「……あれ?」

 

いつ私の艤装が壊れたんだろう

気づいたら魚雷発射管がひしゃげて、腰に激痛が走っていた

水面に顔をすりおろされる

力が一気に抜ける

 

『………相手にならない…!なんで…貴女は……何でこんなに弱いのに此処にいるの…!』

 

悔しいけど喋る気力もない

 

『……せめてもの慈悲よ』

 

必死に立ち上がったと思ったら、左足の艤装が吹き飛んだ、そして次に腕の艤装が一つを残して全滅した

 

この時点で私が海面に浮けるのは右足と左腕だけ

惨めに溺れ死なない様にもがくしかなかった

 

『生かしてあげる……もう2度と姿を見せないで…お願いだから…!』

 

もがきながら、必死に砲塔を向ける

 

『……さようなら』

 

完全敗北の最中に、私は巨人を見た

黒い、大きな、鎌を持った巨人

 

そこで私の意識は途切れた

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