元勇者提督 作:無し
宿毛湾泊地
提督 倉持海斗
「……酷い有様、だね」
「んー、ここの復旧が私達の仕事か…」
「提督、これ見取り図です」
「………この部屋は?」
「保管庫らしいですが、もぬけの殻でした」
「……ゼロからの、スタートか」
僕たちの拠点は、今、この瞬間からここに成る
数日前
『作戦の成功、おめでとう』
「そんな事より、この鎮守府に多数の侵入者がいます、それも海軍の軍服を纏って、彼らについて何かご存知ですか?」
『全く知らん、侵入者などさっさと殺せ』
「……10名の侵入者のうち、2名だけ生捕りにしました、定期船に乗せ、本土で取り調べをしていただければと思います」
『良いだろう』
「そして、先の作戦の成功の暁には、我々は拠点を宿毛湾泊地に移す、と言う話でしたが」
『…確かにお前たちの戦果もあるだろう、許可する、2日待て、正式な書類は追って用意する』
異常なまでにうまく行った
だけど向こうとしても管理しやすいなどの利点が多いのだろう
だけどこれは、あの場所を放棄するチャンスだった
僕らが離れた彼処はきっと、また同じ形で運用されるのだろう
そしてそれは別の誰かの手によるもの
「みんな、できるだけ敵を引きつけるだけでいい、必要なものは先に移そう、彼処は完全に放棄することになる」
「…お墓はどうする?」
「前から思ってたんだ、あのお墓は、故人を偲ぶものであるけど、海から帰ってくる子もいる、それなら次の場所に何かシンボルを立てよう、お墓としてでも良いし、帰るための目印としてでも良いから」
「つまり、捨て置け…と?」
「……どうしても気になるなら、墓石を運ぶのは手伝うよ」
「まー、アタシは……良いかな、瑞鳳のことも、そろそろ割り切らないと」
「私は翔鶴が帰ってきましたから」
「みんな、帰ってくる事を信じてますから」
「………なら、最後に敬礼を」
「んー、この辺他にも灯台あるよねぇ」
「大丈夫、許可は取ってるよ、一応戦時下ってこともあって灯台の管理は軍だからね…」
「ならいいか、どでかいの建てちゃいましょ」
「明石、どう?」
「うーん、妖精さんと協力して行うつもりなので割と早く終わると思います、ほら、家具職人の妖精さんが」
「お、いるいる、いいねー、仕事早くて」
前から思ってたけど、僕には妖精は見えない
実際にいるらしいけど、果たしてそれってどう言う生物なんだろう
前にこっそり拓海に聞いてみたことがあるけど、「私にも見えない」と、「それを気取られないようにしておけ」と言われた
艦娘、妖精、調べることは多い
そしてそれを本人たちに頼むわけには行かないのだろう
「提督、これ、手紙です」
「……手紙?」
二通の手紙、一つは大本営から、一つは宛名も何もない手紙
とりあえず大本営のものを開けてみる
内容は何枚かに分けて簡単に綴られていたが、宿毛湾泊地への移動についてや、離島鎮守府に深海棲艦が押し寄せた事など
ここまでは予定通りだった
そして最後の一枚に、僕は膝をついた
「提督?」
「どうしたんですか…?大丈夫ですか?」
「………手紙に何か…待ってこれ…」
「火野拓海…って横須賀鎮守府の……」
「そうじゃない、提督の友達」
「………亡くなった…?」
拓海が死んだ、殺されたそうだ、明日の朝に全国ニュースになるらしい
何でも、反戦争派の人間に殺されたと、犯人は既に捕まえた、と
わかる、この手紙は違う、これは、大本営の手で行われているシナリオなんだと
「………提督、大丈夫…じゃないよね、ここは冷えるし、ほら、建物の中行こう」
僕は今までわかってなかったんだ、本当に仲間を失う悲しみ、苦しみ、痛み
彼女達を仲間だと口で言いながら、なんだと見ていた?
なぜ拓海の死と、こんなに違う
こんな感情が湧き上がるんだ……
僕は、何故…
「明石、アレある?」
「えっ……あ、はい」
首筋に痛みを感じて、僕の意識はそこで途切れた
重雷装巡洋艦 北上
「……別に誰も責めやしないって…私達より大事な仲間が死んで、そんな感情になるのを」
誰も文句は言わない、言えない、一言だって
「…とりあえず、医務室に寝かせましょうか」
「………最悪ですね」
「どうしたの?」
「横須賀鎮守府に居た艦娘ですが、戦意喪失の為に全員解体して、各地より招集、再編成するとのことです」
「……絶対提督の耳に入れないで」
「わかってます、こっちの手紙は?」
「開けよう、検閲しとこ」
「………これ、火野さんからのものです」
「…死を予感してたって事?唐突な殺しだったんじゃないの……?」
気づけば全員作業をやめ、集まっている
「待ってくださいね…頭が混乱する……どう言う事なのかわからないんですよね…あは…あはは…」
「……明石?」
「………」
「私が見るわ」
「曙さん……その…冷静になって見てくださいね…私もよくわからないので」
「…………なんだ…そう言う事だったのね…」
「…見せて」
その手紙には、いろいろなことが綴られていた
字は震えていたし、紙の変色は涙の跡なのか
謝罪や、感情の吐露、会ったことは数回しかないが…イメージが崩れるような、そんな感じだった
そして、何枚目だろう、私たちについての記述
『艦娘とは、AIだ』
「………は…?」
『いつ産まれたか、そこから探っていったが、結論から言おう、艦娘とはAIだ、基本的に二種類に分けられるのだが、まず誕生したのは2005年、この時の艦娘は機械だった、自分でモノを考えるシステムを宿した機械、そして数ヶ月後にはそれを人間に当て嵌め、人間にAIをインストールして作られたシステム…それが初期の艦娘だった』
非人道的な手段で作られた艦娘、それが私たちだったのか…?
『この艦娘は現在は淘汰され…正確には全滅しただけだ、2010年、第二次ネットワーククライシス…私たちが体験したあの事件、覚えていると思う…あの瞬間、偶然が起きてしまった、デジタルがリアライズした……AIが形を持ってしまったのだ…ネットから出てきたAI、それは無尽蔵に生み出すことのできるものだ、ただしネットに穴埋めとして色々なデータを送り込む、これが所謂建造、そしてその結果出てきたモノを軍事利用したのが艦娘だ』
つまり、私たちは、人間じゃない…?いや、私は2010年より前の記憶がある…第二次ネットワーククライシス…みなとみらいのことも覚えてる
「この中にみなとみらいの事件を、覚えてる子いる?明石は覚えてるよね」
「……その…私、記憶があります」
「天龍…本当に覚えてる?知ってるじゃなくて」
「………はい」
『艦娘の解体、改装についてだが、おそらくこれはネットへと還っている、失敗しても、解体してもな…ネットから取り出した存在なので、当然と言えば当然だろう、一般人に成るなどと言っていたがそれも嘘でしかない、改装の失敗して消える理由がネットに還る事というのも納得が行くはずだ、轟沈についても…恐らくは似たようなものだろう、前の記憶を引き継ぐものも居るのでな』
つまり天龍は解体とか改装の経験者?轟沈した事がある?
『君が気にしていた、艦娘について分かっている事はここまでだ…私の死後、おそらく指揮下の艦娘は皆消される……どうか、救ってやってほしい。君達の元にいた3名の駆逐艦と、大淀は現在逃亡を図っている、電は言うことを聞いてくれなかった、最期まで私のそばにいてくれるそうだ。可能であれば、皆を頼む、勝手な話だが、今となって漸く君の作戦に賛同する、そして今更掌を返す以上…私は最初の死者となろう』
3名の駆逐艦……響、暁、雷、そして、それと共に逃げた大淀
早く確保しなくてはならない
『夕暮れ竜の加護があらんことを』
この手紙を提督に見せて良いのかはわからない
AIだった、としたら?提督は私達をどう見る?
いや、私達を見放したりはしない
分かってる、信じてるから
「……一部の駆逐艦を除いて見ても良い…いや、全員見ようか……覚悟は決めなきゃだね…ちゃんと受け入れよ」
「…本当に?間違い無いんですか?」
「…わかんないよ、もう……何も」
でも、AIDAがこんなに順応してて、扱えるんだし…
納得?理解?近い何かはある
「………はははっ…」
誰かの渇いた笑い声
啜り泣く声も聞こえる
「…提督を寝かせたの間違いだったかな」
「……わかりません、でも…提督に拒絶されたら……私は立ち直れません」
「…自分の存在が揺らぐ事ってこんなに怖いんだね」
「そりゃ怖いでしょう……」
あー、そっか…先に私は気づいてたんだ…きっと
だから、私はこんなに依存してたのかな?
「……明石、薬ってどのくらい効くの?」
「……2時間ほどでしょうか」
「そう、2時間か…皆、覚悟決めようね、もし提督に何を言われても、恨まない、約束できる?」
皆何も言わない
私だってそう聞かれて答える勇気はない
「……金剛を旗艦に離島鎮守府跡地に向かって、多分あの3人が帰りたい、と思うならあそこだから、2時間で戻ってきて」
「無茶デース…やりますケード……」
「ほら、さっさと行って……」
頭が痛い
私たちは面と向かって拒絶される覚悟をする必要があるのだから
呉鎮守府
提督 三崎亮
「…死んだ…だと?」
「提督…」
「……………クソッ…何も分かってない奴らに殺された…?本当に…?」
「……」
「ダメだ…納得いかねぇ…大井!何人か連れて横須賀に行ってこい!」
「無理です、あの戦いは昨日ですよ?みんな疲れ果てています」
「…なら俺が直接行く」
「今の状況で?自分も殺されたらどうするんですか」
「関係ねぇよ…俺はこんなの納得いかねぇ…!」
「失礼します、春雨です」
「……春雨?なんだ、用件をさっさと言ってくれ」
「艦娘が保護を求めてます」
「保護……?」
佐世保鎮守府
提督 渡会一詞
「ああ、しばらく帰れない……大丈夫だ、俺もそこまでヤワじゃない」
「…遥さん?」
「……そうだ」
「私達は大丈夫かなぁ…?」
「わからん、だが、近隣の方とは深く付き合って事は事実だ、しかしそれをよく思わない連中もいる」
「……私達は軍事力かぁ…」
「…………瑞鶴、いいか、俺が恐れてるのはこれにより事実を見逃す事だ」
「わっつはーぷーん?」
「俺は、火野拓海という男を詳しくは知らん、だが……これは民間人による殺しではないと思っている」
「何々?訳わかんないんだけど」
「………粛清だと考えてる」
「…殺したのは大本営…?」
「かもしれん…何か重大な事に首を突っ込んだ、だから消された……勘だがな」
「……勘って経験とかからくるって言うよね…で?なにかあった?」
「これだ」
「……何?その…壊れた機械みたいな奴」
「盗聴器だ、昨日、俺たちが出払った隙に仕掛けられていたらしい……」
「そんな…」
「…………瑞鶴、俺は提督を辞める」
「…そうだよね」
「俺は家族を守らなければならない立場だ…万が一があれば、俺は…」
「うん、でも……多分もう遅い…」
「分かってるつもりだ、守るものがある奴は…こう言う時とことん弱い…間に合うかどうかは、賭けだ」
「………間に合うと良いね」
「…そうだな」