元勇者提督   作:無し

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喪失

重雷装巡洋艦 北上

 

「いくよ」

 

ふわふわと浮いた体を傾ける

傾けた方向にゆっくりと進む

 

「スピードが足りない…」

 

こんなノロノロした動きではあの弾幕を交わせない

一方向こう方はいろんなタイミングで急加速しながら動いている

ただし、エンジンなどはついていないし、泳いでる訳でもない

 

「なら…頼れるのはAIDAかな」

 

未知の世界で頼るなら未知のものだ

艤装にとりあえずAIDAを纏わせる

するとどうだろうか、まるで水面を滑るように進み出した

無形のものはこういう時便利だろう

 

「………よし、第一段階完了」

 

大きな音を立てて、空間を滑る、海を走る感覚

これなら戦える…だが、戦って良いのだろうか?

 

「瑞鳳!あの時のことは私が悪かったよ!視界が悪かろうとなんだろうと!間違えて攻撃され、沈んだ、絶対に許せる話じゃないのはわかってる!」

 

「そう、なら死ねば良い」

 

「それでも構わない!ただ、他の…阿武隈や赤城、みんなには手を出さないで!」

 

「………まだわかってないみたいだね、じゃあみんなまとめて…死ぬ?」

 

ダメか、もう呼びかけて解決は諦めるしかない

 

「じゃあ……うん、いいや、気持ち切り替える…一回倒すよ」

 

「…何…この感じ…いや、気圧されるな…殺してやる…!」

 

単装砲で狙いをつける

どのくらいなら死なないだろうか

距離を保ちながら考える

 

「………まあ、反応見て考えればいいや…」

 

放物線を描くはずだった砲弾は、直線的に飛び、遥か彼方へと消えていく

 

「…重力や引力も変わってる訳…?ならこっちで当たるかなぁ…」

 

狙いを下げて、撃ち抜く

ああ、この感じか……

頭叩き込む、感性を作り変えろ…

 

「ぐっ!?…よくもやってくれたな…!」

 

「あんま痛くなさそうだね、とりあえず本気で行くしかないか」

 

もう一度単装砲を向ける

 

「くっ…!」

 

受け止めるつもりか、ガードの体制を取っている、やはり痛いものは痛いらしい

 

「………ああ、そこだね、あとここ」

 

その体制はそこに飛んでくるという前提の元にあるのだが

 

「っっ!!良くも…良くも…!!」

 

「40門の酸素魚雷、伊達じゃないよ」

 

やっぱり魚雷もまっすぐ飛んでいく、上下左右なんてこの空間に存在しないということか

 

「あぁぁぁ!!鬱陶しい!!」

 

鬱陶しい?

 

「…こっちのセリフだよ、駄々こねてくれちゃって…!」

 

あれ?私は何を言ってるんだ?

待って、待て待て、落ち着け私、AIDAは心の闇を増幅する、誰かがそんなことを言っていた気がする

 

「死ね!死ね死ね死ね!」

 

「………そんなこと言ってるうちはまだまだ、だね」

 

ゆっくりとしたエネルギー弾のようなものが迫る、私なら簡単に避けられる

 

「っ!!」

 

考えが甘かった、急加速したりいきなり軌道を変えられてはかわしきれない

 

「これ…ウザイ…!」

 

再び防戦を強いられる

どうする?私はどう戦えば良い?

 

「…………」

 

「なに?もうお喋り飽きちゃった?」

 

瑞鳳はだんまりを決め込んだらしいし、どうするかなぁ

 

このままじゃ勝てない、いや、勝てる勝てないより、死ぬ…

この変な世界をどうにかして外に出ないと…いや、出ても勝ち目はないか

 

「ならここで決めるしかないね…」

 

盾にしていたAIDAを回収し、砲塔に圧縮する

 

「………レーザー…くらえっ!」

 

特大の、いつか放ったレーザーなんてメじゃない、恐ろしい程の威力

やはりこの空間はAIDAも活性化するのかもしれない

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「よし、当たった…!」

 

今なら倒せるかもしれない

ここでトドメを刺せば全て終わるかもしれない…

本当にそれで良いのかわからない

 

「…………もらった…!」

 

一瞬のためらいで動きを止めてしまった

巨人に突き刺さった槍から幾何学模様のソレが展開する

 

「……それは…ズルじゃない…!?」

 

データドレイン

 

間違いようもない、データドレインだ

 

光弾が迫る

 

ああ、こんなにも動けないのか、体が動かない、恐怖してる

 

「…………ごめん…」

 

誰も守れなかった

 

「う…うぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

身体中が書き換えられる感覚

私は本当にデータだったのだろう

今、はっきりと知覚した、私は元々、電子の世界の住人で…偶々何かの縁で現実に来ただけ

 

少しずつ少しずつ、侵食されていく

壊されていく、バラバラになって逝く

 

私は、私で亡くなって逝く

 

 

 

 

 

「………はぁっ……はぁっ…!?…」

 

何が起きてる?

私は、確かに…死んだはず……

ぐちゃぐちゃになり、全てを壊されて死んだはず…

 

でも私の体はまだ…ある…?

 

 

「あぁ……ああぁぁぁぁぁあ!!」

 

「…ず……ほ…う…」

 

声が出ない

瑞鳳はどうなってる?前が見えなくなってきた

ああ、何だ、死にゆくだけか、まだ、だっただけで…今から死ぬだけか

 

 

違う、だめだ、生きなきゃいけない

 

死ぬのは私が決めた時だ、瑞鳳は今私が死ねばみんなを殺す

それなら私は死なない、生きて、終わってから死ねば良い

 

声は出ない、目の前もよく見えない

 

いいハンデだ、もう私の声は贈った、聞こえないフリをさせないように…

いつまでも墓石にしがみつくのはやめよう、いつまでもおぶったまま進むのもやめよう

 

私は瑞鳳を置き去りにしてでも、先に進み、死のう

 

「……ぃ…ほ…ぅ…」

 

声が出ない、どれだけ大きく叫ぼうとしても

 

「…さ………な…ら」

 

AIDAも出てこない、艤装はギリギリ発射管一つが生きてるだけ

 

ゆっくりと巨人に近づくことしかできない

 

 

 

「…………ごめ…ん…ね…」

 

零距離からの魚雷をとことん叩き込む

死ぬまで、この世界が終わるまで

 

 

 

 

 

 

軽空母 瑞鳳

 

何だこれは何なんだこれは

私の思い描いた終わりじゃない私の思い描いた世界じゃない

私の思っていた奴じゃない私が…私じゃない

 

あの時私は新進気鋭の、みんなと仲良く頑張って生きている新人だった

あの日の悪天候は私を殺すための方便だ

あの日の誤射は私が邪魔だったからだ

絶対そうだ、絶対そうじゃなきゃいけない

 

だから私は同じことをしてやりたかった、引きずり出して殺してやりたかっただけなのに

 

「違う……違う違う違う違う違う!!」

 

こんなの私の知ってる北上じゃない、私はこんな奴知らない!こんなの全部おかしいんだ…!

 

私が吸い取ったこいつの記憶は、全部壊れてる、おかしい、あり得ない

本当にただの間違いで、本当に…?本当にこんなことがありえる?

 

なんで?なんで…

何で私は…

 

 

 

私は、何のために…

 

 

 

 

 

重雷装巡洋艦 北上

 

「ゴホッ…」

 

ベシャッと音を立てて水面に投げ出される

ああ、何とか元の世界に…でもどうなったんだろ…

 

「北上さん!」

 

あれ…えーと…だめだ、わかんない…目の前が真っ暗だぁ…

 

「…ご…め………」

 

意識は続かなかった

 

 

 

正規空母 赤城

 

「北上さん!しっかりしてください!北上さん!」

 

艦隊でまともに動けるのは私だけ、他は全員ボロボロの状態…

今になってようやく演習終了の信号弾が上がる

 

向こうを見れば瑞鳳さんも水面に伏している

 

「………勝ったんですね…一応…」

 

「おーい!無事!?」

 

向こう方の瑞鶴さんも急ぎで救助に来てくれましたが、不信感や、不安感は拭えませんでした

 

 

 

「ぷぁっ!…はぁ…死ぬかと…思いました」

 

「阿武隈さん凄かったわ、あの戦い方…」

 

「イムヤちゃんのお陰です、本当にありがとうございました」

 

「……私、水面の下にいたはずなのに気づいたら宙を舞ってたのよね」

 

「…私もよ…というか、一瞬で全滅させられてた」

 

「…………執拗な攻撃でしたね、あまり褒められたものではありませんでしたが、何が起きたのか、私にもわかりませんでした」

 

「あ!それより北上さんは!?」

 

「……意識がまだ戻ってないそうです」

 

「…え?」

 

 

 

 

 

提督 渡会一詞

 

「はい、この度は…」

 

『…もういいです、謝ってもらっても意識は戻りませんし、そのまま寝かせておいてください、直接迎えに行きます』

 

「…申し訳ありません」

 

『……』

 

「切られた、か……はぁ………何か釈明はあるか?瑞鳳」

 

「……ありません」

 

瑞鳳といえば普段はおとなしく、真面目だった、つい先日から稽古はサボったりと問題のある行動も目立ったが、それでも…

 

「今日の件は…明らかに異常だった、お前の話を聞く必要がある」

 

「…………」

 

「瑞鳳!黙ってたらわからないわよ!」

 

「瑞鶴、脅すな……俺の目には、お前は力に振り回されてるように見えた」

 

俺にはわからない何か、強力な力に

 

「…………」

 

「俺が解決できるとは思えんが、話くらいは聞かせてくれ」

 

「…さっさと処刑でもなんでもして…もう、放っておいて…」

 

「…アンタ…!」

 

「やめろ、とりあえず…営巣行きだ、しばらく時間を置け、ゆっくり考えを改めろ」

 

それしか言えなかった、長い付き合いではないが、屈託のない笑顔でみんなと接しているのを何度も見て来た

それがこうなるのだ、それを体裁や外面を気にして処刑しろ?解体しろ?あり得ない

解決にはならない、何かを抱えているならば、解決するのが俺の仕事だ

 

 

 

 

重雷装巡洋艦 北上

 

「………ぅ…」

 

「北上、目が覚めた?」

 

声が聞こえる

 

「…大丈夫?」

 

「北上さん!!よかったぁ…!」

 

「……こ……は…?」

 

声が、出ない…何かがないみたいに…

 

「ここって言ってるのかな…?ここはまだ佐世保の医務室だけど、ちょうど今から帰るところだよ、陸路になるけど…難しいなら数日おこうか?」

 

じゃあこの人は…医者?それとも…うーん、わからない

 

「……れ…?」

 

「え?なんて?」

 

「提督、あたしが聞き取ります」

 

「…だ…れ…です…か…?」

 

「…………え…?」

 

「阿武隈…?どうしたの?」

 

「…北上…さん…?」

 

北上って…私なのかな…

さっきからそう呼ばれてるし…?

 

「て…提督…北上さんが…誰ですか?って…」

 

「……待って、ちょっと退いて、北上、僕がわかる?」

 

「………」

 

首を横に振って見せる、なんとか体は動く

 

「…い、いや、嘘ですよね?北上さん…遊んでるだけ?あはははー…意地悪いんだから…も、もう!ダメですよ?そういう事しちゃ!」

 

そう言ってツインテールの方が詰め寄ってくる

怖くて、少し逃げてしまう

 

「……や、やめてくださいよ…北上さん…ねぇ!わかるでしょ!?あたしですよ!阿武隈…!お願いだから…!」

 

「……………!」

 

泣きながら詰め寄られても…わからない…

必死に声を出したくて、わからないって言いたくて口を開けても、音が出ない

 

「阿武隈…やめよう」

 

「ッ〜〜!提督!!なんでですか!?北上さんはふざけてるだけで!」

 

「………阿武隈」

 

男の人が、声をかけたら…女性の方は崩れ落ちて泣き出してしまった

 

「なんなの!こんなのっておかしい!あり得ない!!」

 

「………北上…いや、待って、まずそれすらもわかってないのかな…君の名前は北上だ、そこまでは良いかい?」

 

「…………」

 

口をパクパクする、声は出ない

 

「…わかった、今から首を振って答えて欲しいまず、君は自分のことがわかる?」

 

横に振って見せる

 

「……じゃあ、僕らのこともわからない」

 

縦に振る

 

「………何か覚えてることはある?」

 

覚えてる事…?

 

何か…何か………

 

両手に何かをつけられていた気がする

なんだろう、怖い…

 

あれ?違う……あ、そうか、私は北上…軽巡洋艦北上…

あれ?でもなんで私は…今人の形で…なんで……?

 

「……ゔっ……!」

 

「北上!あー、洗面器か何か…」

 

胃に何も入ってないみたいだけど、リバースした

気持ち悪すぎた、アレのせいだ、回天

 

うん、そう、私は軽巡洋艦北上、そして重雷装巡洋艦北上…あの戦争を生き残ってしまった…

 

「…………」

 

人の死ぬ感覚、焼ける感じ、血の匂い

全部、自分がそうなんだ

 

 

 

 

「落ち着いた?」

 

首を縦に振る

 

「…字は書ける?」

 

差し出されたメモ帳とペンを受け取り

[書けます]と書いてみせた

 

「……君は何か覚えている事はある?」

 

[船だった頃の事を…]

 

「…艦の記憶、という奴だね…君は艦娘、それもわからない?」

 

縦に振る

 

「…艦娘っていうのは、簡単に言えば艦として活躍した君たちの記憶や魂を人の形に宿し、深海棲艦と言う敵と戦う存在だ」

 

…つまり、私はまだ戦うのか

私は、まだ戦争の中にいるのか

 

「……北上…」

 

私は…まだ、人の生き死にに関わり続け、殺し続け、死に続けるのか

 

 

 

 

提督 倉持海斗

 

まさか北上にこんな目で見られる日が来るとは思わなかった

殺意の乗った目で睨みつけられ、言葉が続かない

 

「…………」

 

何も言わない、いや、言えない北上は、ペンを力強く握りしめている

 

「……詳しい話は、帰ってからしよう…みんな待ってる」

 

[みんな、って誰ですか]

 

「…曙や、明石とは仲が良かったよね」

 

首を振ることもしない、考え耽っている様子から…

 

「…覚えてない、か」

 

首を縦に振ってくれた

 

「提督、帰りましょう…」

 

「そうだね、阿武隈、みんなに声をかけておいて」

 

[阿部くまって、わたしがぶつかった子?」

 

「あー、僕はあんまり詳しくないからわからないかな…後で直接聞いてみようか」

 

正直僕は艦の事は学校の歴史でやるくらいにしか知らない

つくづく、この子達と共に戦って…いや、上から物を言ってるだけか…何にしても、僕にこの仕事は向いてないのかもしれないな

 

「…あ、そうだ……一応聞いておかなきゃいけないんだけど…瑞鳳はわかる?」

 

少し悩んでから首を縦に振ってくれた、果たしてそれは艦娘の方なのか

 

「わかる事を教えてくれるかな」

 

 

 

 

 

 

軽空母 瑞鳳

 

「………」

 

退屈だ、暗く、狭く、やれることもない

別になんでも良い、あの時はとことん殺したかった、理由とか事情とかどうでも良かった

 

いや、事情や理由ではいそうですか、なんて…夢物語も良いところだ

私は悪くない、ただやり返しただけ…

 

そう言い聞かせても良心はチクチクと私の心を抉るのだ

 

ドンドンドン と、3回鋼鉄の扉が叩かれる

 

「北上が目を覚ました」

 

「何?謝りに来たって?」

 

「…喋れないそうだ」

 

「…喋れない?」

 

「…声が出なくなったらしい」

 

なんとまあ、それでは戦闘で連携を取ることすらできない

 

「その上、記憶喪失らしい」

 

完全に、艦娘としては死んだか

もう戦えないだろう

 

やった事の取り返しはつけようがない

口から出た言葉は消せない、やった行動も取り消せない

良い教訓だ、活かされる日は来ないが

 

「…それと、帰る前にコレをと」

 

扉の隙間から紙が差し込まれる

 

[ごめんなさい]

 

綺麗な字でそれだけ書いてあった

まだ私の心をいじめたらないらしい

 

「…瑞鳳、まだ許せないか、お前が北上を恨んでいる理由は千代田に聞いた」

 

「……余計な事を」

 

「…確かに、殺された以上許す事はできないかもしれない…だが…」

 

「…………」

 

もう聞く気も失せた

私が悪い、それで良いじゃないか

 

「瑞鳳…」

 

「………反省はしておきます、処罰は受ける覚悟です」

 

「ならば良い、よく反省しておけ」

 

私の心はずっと痛む

チクチクと、ずっと

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