銀の帰還   作:籠谷 蒼

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LEVEL.15 融合

 

 飛翔する白竜を幾本もの雷が追尾してゆく。もう少し、もう少しだ。紫電に追いつかれそうになったら、奴らは身体強化の術を使ってスピードを上げるだろう。それでもなお逃げられないようにする必要がある。白い巨体は追い立てられるように低く滑空した。

 

「しつこいですね。面倒な術は早く壊してしまえばよかったんですよ。ブラン、心の力はまだ大丈夫ですよね」

 

 巨竜が痺れを切らしたようにまくし立てる。その質問に、無表情であった彼女は満面の笑みを浮かべ頷いた。なんなんだこいつは。感情が全く読めない。情緒が壊れてしまっているのだろうかと俺は強い寒気を感じた。

 その間にもアイボリーの本は強く輝き続け、今か今かとなにかを待ち侘びているようだ。

 

「ゼオン、来るぞ。指示した通りに散らしていくんだ」

 

 雷帝が術を操る合間に位置についた俺たちは、意識をひとつに合わせてゆく。赤い瞳の女がディゴウ・エムルクと唱える。やはり来たな、ここが勝負だ。俺のアンサートーカーは相変わらず機能していないが、問題ない。ガッシュ達のように仲間の力を信じるだけだ。すると別の地点で待機していたウルルがパートナーの少女に発破をかける。

 

「パティ、行きますよ。チャンスは一度だけです」

 

 桃色の魔物は頷くと、右手を前に構える。それを見た白眼のパートナーは覚悟を決めると、アクルガと静かに唱える。瞬間、細く圧縮された水の槍が彼女の右掌から射出される。虚空に現れた青い線が綺麗な糸を引いてゆく。

 

「ゼオン、ここだ。取り囲め」

 

 俺の合図で、純白の魔物は突き出した両手をせわしなく振り回す。すると、紫電の槍たちがぐるりと半球状になって白竜を取り囲んだ。足がつきそうなほど低く滑空していた、いや気づかずにさせられていた彼は驚いた顔を見せるも不敵に笑う。

 

「なるほど、これで上にも逃げられないように追い込んだということですね。追い込んだつもりの間違いですが」

 

 ラシロの声を聞いたパートナーのブランは、ガンズ・ゴウ・エムナグルと唱える。先ほどと同じように雷槍を破壊していくつもりだろう。俺たちが視線誘導をしながら進ませたことで出来た、死角からのパティの一撃に気づかずに。

 

「これでチェックだな。お前たちの、負けだ」

 

 俺は相手の注意を引きつけるように、わざとらしく挑発をした。そのまま巨竜が右腕を振りかぶった瞬間、青の糸が紫の牢をすり抜け、白の竜に着弾した。急速に熱が奪われ蒸気が吹き出し、竜の絶叫が広い草原に響く。予想通り、炎の術に水の術を当てるのは相性がいい。ゼオンとパティが作ってくれた一瞬の隙を無駄にしないためにも、俺は精一杯叫ぶ。

 

「これで終わりだ。ジガディラス、ウル、ザケルガァァァ」

 

 銀の本が心の力に応え眩い輝きを放つと、雷帝の背後に巨大な雷神が現れる。雷神の腹部に付いた大きな砲台が白竜に狙いを定めた。巨大な穴を取り囲むように付いている、大きな五つの雷太鼓が一つずつ輝いてゆく。しかし、予想よりも雷の力が溜まっていない。

 

「まさか、俺は仲間の力を完全に信じきれていないのか。憎しみの力を糧にしないと勝てないのか……」

 

 このままでは勝てないが、これ以上は待てない。最悪だ。ゼオン、パティ、ウルルたちが作った好機を無駄にしてしまった。不意のアクシデントに思考がまとまらない。すると雷帝の怒号が聞こえた。

 

「なにを迷っている。チャンスはまた作ればいいだろう。この一撃を外したらそれこそお終いだ」

 

 チャンスはまた作ればいい、か。ゼオン、やっぱりお前は優しいな。彼なりの優しさを受け覚悟を決める。五つの太鼓を光らせた魔神は、砲台から紫電の雷撃を射出した。巨大な雷神は叫ぶ。俺にできることは心の力を込め続けるだけだ。行け、行け。

 

「くっ、よける暇はなさそうですね。ブラン、全力で迎え撃たないと負けます」

 

 パートナーの言葉を聞いたブランは、眉間に皺を寄せ俺たちを睨む。かつての俺たちもこうだったのだろう。激しい憎悪を込めた感情、その力が込められた術。少女の絶叫がこだまする。

 

「ラシロを傷つけるなんて許さない。ディオガ、アムエルクゥゥゥ」

 

 彼女が持つアイボリーの本が輝きを増すと、白竜の右腕から極大の炎が吹き出す。炎は拳のように形成されてゆき、そのまま雷砲に向かって振りかぶられた。なんだと、ディオガ級の術をまだ使えるのか。このままだと押し負けてしまう。くそ、こんなところで負けてたまるか。何か、何か……。

 

 ふと肩に手を置かれる。濃い橙の本が光るのが横目に見えた。

 

「私たちは」

 

「こんなところで」

 

「「負けられない」」

 

 ああ、これが仲間の力か。とても素晴らしいな、清麿……。

 

「行きますよ、パティ。スオウ、ギアクルゥゥゥ」

 

 隣に並ぶパティ、ウルル、そしてゼオン。仲間というのはこんなに心強いものなのだな。少女のかざした両手から噴き出す水の龍は、雷神の砲撃に向かってゆく。龍と紫電は融合し、雷の龍となり進む。無意識に雷帝は呟いた。まさか……。

 

「あれは……。バオウ、ザケルガ……」

 

 彼はバオウを引き継げず、その憎しみを力にしてきた。パティの術が電気を吸収する性質を持つことは知っていた。ただ、バオウ・ザケルガのようになるとは考えもしなかった。この術たちはバオウ・ザケルガに似ているが別物だ。しかし、ゼオンはバオウを使えたように錯覚したのだろう。それは彼にとって大きなことで、大切なことだ。バオウを憎み、父を憎み、ガッシュを憎んだ小さな雷帝には。

 

「「「「行けええええええええ」」」」

 

 雷龍は炎の拳を噛みちぎると、白竜に突撃した。叫び声が響き、爆発音が鳴り、土煙が舞った。仲間を信じることで得られる力。憎しみとは真逆の力。そうか、これがそうなのか。隣の雷帝に視線をやると、柔らかな表情が帰ってきた。似たようなことを思ったのだろうな、と想像すると心が温かくなる。旅をすると決めてよかったと強く思う。

 

 ……砂煙が明けると、白の少女と白の竜は消えていた。瞬間移動が使えるのだろうか。彼らに関してはアンサートーカーが全く機能しないので、真相はわからない。ただ分かることは、奴らは危険だということだ。これからもまた衝突することだろう。それまでに力をつけなければならない。そう色々と考えていると、

 

「私たち、勝てたのよね。やったわ、本当にやったわ」

 

 全身で喜びを表現する桃色の少女と、嬉しいですねと返すパートナーの男。彼女らが共闘してくれたおかげで活路が見出せた。二人には感謝してもしきれないな。ゼオンにそう伝えると、照れ隠しなのか顔を背けてしまった。そのまま雷帝は口を開く。

 

「お前たちもなかなかやるじゃないか。えーと、なんだ。その、助かった。ありがとう」

 

 言葉を受けた二人は驚いた顔を見せたが、すぐに破顔しこちらこそと言葉を返した。幸せな風景に俺も吐息が漏れる。それを見たゼオンも朗らかに笑う。以前の旅では考えられなかった笑顔だ。彼の幸せを心から願っているからこそ、こんなにも嬉しさを感じているのかもしれないな。

 

 これからも俺たちの旅は続いていくのだろう。王を決めるための旅ではなく、確かな幸せを探してゆく旅だ。様々な仲間に出会い、共闘し、絆を深める。どんな時でも仲間を信じる力こそが、本当の心の強さなのかもしれない。ガッシュ、清麿、お前たちにも再会できることを楽しみにしているよ。

 

「見ろデュフォー 。あの雲、ガッシュに似ているぞ」

 

 空を見上げる。

 

 

 銀の帰還 ー終ー

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