辺りがはっきりと見えない。
先程の光は何だったのか。
さすがのデュフォーも、いきなりの出来事に頭が混乱している。とにかく情報を得ることが第一だと思い直す。
閃光は収まったが、まだ瞼が重い。だが、必死に目を凝らし周囲を観察する。目の前の分厚い自動扉や、天井に這う無数のダクト。近代的な施設という印象だ。この景色には見覚えがある。すると、アンサートーカーが答えを弾き出す。
「あの時の施設か…なぜ?」
その問いには答えが出ない。イレギュラーが多すぎる、とため息をつこうとしたその時、頭上から聞き覚えのある声が聞こえてきた。顔を向けると、
「さあ、D、お前の持つ才能も円熟期を迎えた。これより君をこの施設から出すことにする。」
映像装置に白衣の男の映像が見える。老いた見た目に小さな眼鏡。あいつがなぜ映っている?まさか、あの時の夢を見ている?いや、眠ってはいないはずだ。だが、考えたくもないが、もしそうだとすると…。
「外に出るまでの扉は七つ。それぞれの扉を開けるには、扉のコンピュータに出された問題を解くこと。」
声は続ける。問題を解く、ありもしない可能性を考えた時、これが何を意味するかが分かる。人殺しの道具を作るための研究、それの手段、答え。そうだ、あの時もそうだった。
「解答の成否は、こちらでモニターしている数十名の学者で判断する。世界最大の難問と呼ばれるものばかりだが、君なら解けるだろう。」
世界最大の難問?ふざけるな。今となっては、あの時は冷静でなかったと分かる。自分の無力さに、怒りが湧く。奴らにこの力を悪用されてたまるか。俺は知っているんだぞ。強い憤りを覚え、画面を睨み返す。
「どうした、D、早く答えないと、出られないぞ。私を殺したくないのか?なにより、母親に会いたくないのか?」
そう、こいつはいつもそうだった。この能力を十分に発揮させるため、怒り、憎しみの感情を煽ってくる。それが一番効果的らしいのだ。研究施設に軟禁されていた時も、様々な形で嫌がらせを受けていた。俺は、噛み締めるように言葉を吐き出す。
「俺は、問題を、解かない。」
瞬間、モニターの彼は表情を激変させた。ふざけるな。何のために研究を重ねたと思っているんだ。罵詈雑言の嵐が起こる。それでも反逆者の意思が固いことを知ると、遂に決断を下す。
「分かった。もう、いいだろう。君の才能は学問に限らない。危険回避、難病の治療、憎い人間の殺し方、全てに答えを出すことができる。まさにスーパーマンだ!君を敵に回したら、これほど怖い存在はないだろう。」
博士の舌が滑らかに動く。そして、かつて俺を絶望に追い込んだ言葉を明瞭に発する。
「そこで我々は…。君をこの研究施設ごと、北極の地にて破棄することに決めた。君の頭なら、もう答えは出ている筈だ。じきに爆発を起こす施設、大自然の前での無力さ。君がここで生き残れる可能性はゼロだよ。」
以前はもう終わりだと思っていた。生きる希望も無くし、逃れる方法も見つからなかった。非情な言葉はまだ続く。
「問題には答えてくれなかったが、特別に教えてあげよう。君のお母さんだがね、彼女はお金欲しさに君を我々に売ったんだよ。1万ドルという端金でね。」
分かってはいたが、この言葉は二度目でも苦しい。もう母に未練はないが、愛情を与えられなかった苦しみは未だに心を蝕み続ける。これからもずっと向き合っていくのだろう。そして最後に。
「死ぬ前に君の最大の謎が解けたね。おめでとう…。D…。」
刹那、爆音が起こる。凄まじい熱風と広がる光線。これでは人は助からないだろう。本当に最低な科学者達だったよ。呑気に目を瞑る。不思議と心は落ち着いている。アンサートーカーを使わずとも分かることはある。アイツは来る。必ず。