すぐ近くで風を切る音が聞こえた。瞼を持ち上げると、忘れもしない、あの白いマントが体を包み込んでいた。懐かしい気配に大きく安堵する。体を低く落とし、正面を見つめる。胸の中に暖かさが込み上げる。
「お前…。その本を読んでみろ。」
吹き荒ぶ風と雪の中、眼前の彼は腕を組み堂々と告げる。白銀の髪と紫電の眼光を持つ、小さな子ども。目の下には二本の線が走り、ロボットのようにも見える。言葉がデュフォーの口から、滑り落ちる。
「ゼオン…。会いたかった。」
つい零れた呟きに、白銀の子どもは心底驚く。なぜ名前を知っているのかと問う。突然呼んだらそうなるだろうな、と心の内で苦笑し、どうしたものかと思案する。アンサートーカーを使うと、最良の方法が弾き出された。
「実は、お前に会うのは二度目なんだ。」
彼は眉を大袈裟に寄せる。俺でもそうなるだろう。しかし、導かれた解答はまだ終わっていない。足元に落ちている銀の本を拾いながら、諭すように続けて声を掛ける。
「ゼオン。お前、他人の記憶が覗けるだろう。俺の頭の中を見るのが一番早いぞ。」
そこまで知っているのか、とさらに驚かれるが、こんなところでまごついている場合ではない。取り乱していた彼も察したのか、俺の頭の上に手のひらを向ける。ゼオンは、他人の記憶に干渉できる能力を持つ。意識を集中させるため、互いに目を閉じた。
…。
彼は今、記憶の激流を泳いでいるのだろう。俺の生い立ちから始まり、ふたりの戦い、ガッシュとの激闘、そして明かされる真実。最後には、必ず果たすと誓った約束。自然と雫が頬を伝う。それに気付き、ふと目を開ける。彼の機械にも見える二本線も、一本多く見えた。
「まさか、そんな…。信じ難いが、魔界の記憶まで…。」
狼狽える少年に、戻った理由は分からないと答える。小さな手が頭上を離れると、ふと睡魔が襲ってきた。先ほどから身体も言うことを聞かない。異能があること以外は、俺もただの人間だ。
「ゼオン、このままだと凍え死ぬ。先ずは何処かに移動だ。そこで話をしよう。」
魔物と人はやはり違うのだな、と思いつつ銀髪の彼に提案する。俺は約束を守るためにも、ここで死ぬわけにはいかない。小さな魔物は外套を広げながら返答する。
「あぁ、そうだな。俺もこの記憶を整理したい。マントに乗れ、目的地は何処がいい。」
青年と子どもは、吹雪の中で邂逅した。そして、絶望の大自然から抜け出した。
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