銀の帰還   作:籠谷 蒼

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LEVEL.6 容赦

長い口上が終わり、改めて二人と向き直る。正直に言うと、これほど突飛な物語を、信じろと言う方が無理があるだろう。重い空気が全身に纏わりつく。暫く続いた沈黙を切り裂いたのは、探検隊のような装いをした彼女だった。

 

「私はただ、動物を刺激しないように注意しようとしただけだったが、まさかタイムトラベラーだったとはな。」

 

きれいなブロンドの髪にサファリハットを乗せ、中性的な顔立ちを覗かせる彼女は、微笑を携えながら軽口を飛ばす。反対に魔物の少女は、俯いて眉を寄せ、地面を見つめている。少しして固く結ばれた唇を、丁寧に解いてゆく。

 

「あまり信じられないけれど、そこの坊やが別世界の私に酷い仕打ちをしたっていうのね。」

 

肯定するゼオンの拳には力が入り、少し肩が震えていた。以前のゼオンには見られなかった反応に、俺は狐につままれたような気持ちになる。しかし、確かに彼の成長を感じる。続ける言葉を失った男の子に向かって、柔らかい音色が響く。

 

「その様子だと、嘘はついていないようね。もし本当だとしても、それは私ではない私の出来事。そんなことを気にするほど、私は弱くないわ。」

 

そう言うと、ふたり同時に金色の髪を靡かせ、お互いに目配せし、口の端を持ち上げる。その一連の動作が、宝石のように輝いて見えた。あどけない表情をした彼女は、正面に向き直り、諭すように続ける。

 

「ゼオンの坊や、顔をあげなさい。そうして謝ることができるってことは、あなたの中で何かが変わったんじゃないのかしら。その気持ちを、大事にしなさい。」

 

自信と慈愛に満ちた心を見せられて、彼は静かに涙する。あぁ、こういうことか。ゼオンに必要なものがたった今、分かった。それは、愛されることだ。恋や恋愛などと言う類のものではない。他者を思いやり尊重する心、それを肌で感じることだ。さて、俺も一緒に罪を背負わなければいけないな。

 

「俺も、許してもらおうとは思っていないが、本当に済まなかった。」

 

目を瞑り、頭を深く下げる。すると、あたりの空気が軽くなった気がした。顔を上げると、ふたりが優しい笑みを浮かべている。そして、

 

「君たちは、お互いを信頼し合っているんだな。素敵なパートナーだ。」

 

中性的な彼女が堅い口調で柔らかく語る。当たり前だ、俺達は家族だからな。そうして隣に目を向けると、大きな紫電の眼光がこちらを覗く。小さく笑ってみせると、彼も真似をする。続けて声が聞こえる。

 

「では、この話はもう終わりにしようか。そうだ、私はここらの鳥獣保護区の保安官をしている。初めは君たちを怪しんでいたが、そんなこともなかったようだな。だが、何をしていたんだろうか。」

 

なるほどな。初めに声をかけられたのは、俺たちが自然を荒らす危険がないかを確かめるためだったのか。こんな場所に二人でいたら、確かに怪しまれるな。誤解を解くために俺は、事情を簡潔に説明してゆく。すると、

 

「ずっと野宿をしていたって言うの、信じられないわ。よく見たら、隈ができているわね。あまり眠れていないんじゃ無いかしら。」

 

魔物の少女から憐れむような視線を向けられる。そして俺たちを置いて隣同士、話が弾んでゆく。その様子を呆けて見ていると、漸くまとまったのか此方を見る。まさか、

 

「そうだ、そろそろ仕事も終わりだ。うちに泊まりに来るといい。」

 

なんて結論が出ているとは想像出来なかった。横目で雷帝を確認する。彼も同じように目線を寄越す。こうして意思の疎通が出来るのは、心が通じ合っている証拠かもしれない。いいだろう、ならば好意に甘えるとしよう。白銀の彼が口を開く。

 

「それは助かるな。ぜひ好意に甘えさせてもらうとしよう。ありがとう。」

 

ありがとう、かつて自尊心の塊だった彼が飛ばした感謝の言葉。まさか、お前がそんな言葉を口にするとは。心底驚いていると、気づくと陽が沈みかけていた。見回り中であったらしい彼女が言う。

 

「よし、今日はここらで終わりだな。向こうに馬が停めてある。君たちは歩いてきたのかな。」

 

小さく首肯し、詳しい場所を尋ねる。いざとなれば瞬間移動が出来ることを彼女らに告げる。このくらいではもう驚かないようだ。時間を跳べるなら空間を跳べるのもおかしくはないだろう、と。行こうか、と声を掛けられ、二人の後ろ姿についていく。夕暮れの赤に照らされて、金と銀がふたつずつ光る。それはまるで、宝石のような輝きに見えた。

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