来賓用のベッドに案内され、挨拶もそこそこに泥のように眠る。疲労が滲む脳裏には、先刻の夕食での出来事が去来する。
……。
長方形の台の上には、所狭しと皿に盛られた食事が並んでいる。椅子が長辺に二つずつ並び、それぞれ隣り合って座っている。木目調の机を挟んで、先程まで仕事着を着ていた彼女がこちらを伺う。
「どうだ。少し多めに作ってしまったが、口に合っているかな」
初めて目にする食材も多いが、ここ数日は木の実や野生動物ばかり食していた為、躊躇なく口に運んでゆく。味は然る事ながら彩りも豊かで、料理上手という印象を受ける。頭に浮かんだ感想を素直に伝えると、
「そうなの。ニコルは料理がとても上手なのよ」
斜向かいに座る少女は嬉しそうに微笑みながら、咀嚼をしている彼女の代わりに返事をする。言葉に続けて肉をフォークで拾い、口に運んでゆく。すぐ左隣でゼオンも頷きながら、黙々と皿に手を伸ばす。不意に、彼がこちらに顔を向け尋ねてくる。
「おいデュフォー 、この漬物はお前の目の模様にそっくりだな。面白いこともあるものだ」
彼の持っている根菜には、木の年輪のように濃い桃色の円が連なっている。これはビートルートだな。品種改良で渦巻き状の模様のものが出来たらしい。持ち前の能力が出した答えを伝えてやる。小さな雷帝は、略称でビーツとも呼ばれるこの野菜を気に入ったらしく、何度も口に運ぶ。その様子を向かい合うふたりが、微笑を湛えながら見つめていた。好物が増えてよかったな、と内心で語りかける。少しして、向かって左手側の少女が唐突に口を開く。
「そういえば、私はさっきの保護区域からスタートしたけれど、ゼオンの坊やは何処に飛ばされたのかしら」
少し頭を働かせる。魔界では千年に一度、王を決めるための戦いが行われるらしい。魔物には本が一冊与えられ、人間界に送られる。そして戦い、本を燃やされると魔界へ強制送還される、と言った形だ。先程の言葉は、推察するに彼らが初めに送り込まれた場所ということだろう。俺は勿論知っているが、坊やと呼ばれた少年の話を楽しみに待つ。
「俺のスタートは北極だ。全く、俺じゃなかったら即リタイアだ。なんせ、パートナーの居る極寒の研究所がいきなり大爆発したからな」
その発言に衝撃を受ける二人、その記憶にため息をつく一人、そしてその様子を涼しげに眺める俺。三者三様の反応を見せるが、中でも料理上手と讃えられた彼女は、突飛で大仰な話を丁寧に切り分けていく。
「それは驚いたな。そうか、瞬間移動ができるからこそ助けられたんだな。しかし、爆風からは如何にして守り切ったのだろうか」
僅かな情報をも見逃さない洞察力に感心をしていると、特別に見せてやろう、とゼオンは白いマントの胸元あたりに手をかける。口笛のような短い音が鳴り、布地が勢いよく伸びてゆく。そして、机ごと彼女達を影へと閉じ込める。反射的に出た短い悲鳴も少しして感嘆に変わる。各々が零した音は、綺麗な純白に吸い込まれる。
「このマント、こんなに硬いのね。自由に操れるのも、すごいわ」
少女から透かさず賛辞がおくられる。マントの持ち主はそれに満足したのか、己の手足のように形を戻してゆく。3歳から王宮で厳しい稽古を積んでいたらしい、と俺が補足してやる。先程から忙しなく表情を変化させる彼女らを遮り、雷帝が話を切り出す。
「それよりチェリッシュ、お前はテッドに会いたくはないか。なんなら連れてきてやってもいい」
唐突な彼の提案に、俺は目を丸くする。向こうににも似たような顔つきを二つ認めた。お前、そんな気も遣えるようになったのか。いや、元々こいつは優しいやつなのかも知れない。なんせ、あのガッシュの兄だからな。内心を見透かされたのか、何かおかしいか、と紫電の目が睨んできた。
「テッドのことまで知っているのね。それもそうよね。でも、大丈夫よ。私はテッドに頼るほど落ちてはいないわ」
少し頬を染める彼女は、自信に満ちた挑戦的な笑顔を見せる。本当にチェリッシュは強い心を持っているな。俺は心から尊敬の念を抱く。彼女は前の世界で、追い詰められながらもこの俺たちに痛手を負わせた相手でもある。あの土壇場での狙撃の腕も、この精神力が成せた技だったのだろう。
「それに、旅をしていればいつかは会えるわ。そんな出会いこそ、素敵じゃないかしら。」
白銀の彼の口角があがり、吐息が漏れる。それもそうだな、と会話を締め、食事に戻る。俺も視線を戻すと、一つの食材と目が合う。俺も試してみるかと、親近感の湧く模様の漬物に手を伸ばす。口に運ぶと、程よい酸味が口一杯に広がった。