カラスの商店 作:ニック
「あっ……上を見ろ!!」
困惑している中プレーヤーの一人が上に何かを見つけたらしく俺も上を見る。
そこには【Warning】、そして【System Announcement】つまり GMからのアナウンスだと思われる。
安心している人もいるが俺はただずっと黙りこんでいた
強制ログアウトがされていないことだからおそらくこのゲームの説明をされることであろう。
俺はただずっとその様子を見つめていた
しかし次に起きた現象はプレイヤー全員の期待を裏切るものだった。
空を埋め尽くすパターンの中心から、まるで血の様な赤い雫が高い粘度を持った液体の様に滴り、しかし落下することなく空中でその形状を変えて20メートルになろうかという、フード付きの巨大な真紅のローブを来た巨人恐らくGMだろう。
β版の時にみたことがあるのでそれは間違いはないはず
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』
何?《私の世界》か。GMとしてもいや。GMでもおかしなものだろう。不安が現実に変わってくるのがわかる。
そしてアカロープの男はこう続いた
『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』
息を呑む他のプレイヤー。だけども俺はそれよりもその後が気になっていた
今やこの世界をコントロールできる唯一の人間
これは明らかにおかしな発言なのだ。アーガスの運営の元このSAOは動いている。
でも、それを個人でコントロールするってことは即ちどう言うことなのかと思ってしまう
『プレイヤー諸君はすでにメインメニューにあるログアウトボタンが消滅していることに気付いてきると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これはゲームの不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』
仕様。確か設定だっけ?
そんな考えが浮かんでいた。思っていたよりも冷静らしい。
いや。別のことを考えていたのだ。ログアウトできないのに、何で外部からログアウトさせないのか。
それがずっと気がかりになっていたのだった。
『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、自発的にログアウトすることはできない……また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合」
少し時間が空く。そして思っていた通りの言葉が告げられた。
「――ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』
高出力マイクロウェーブ
確か電子レンジで使われている最近授業で習った単語。
でも確かそれを動かすには大きなバッテリーを使うことが条件だったはずなのだが
……いや。一応可能だ。
重さの3割ほどがバッテリーセルを内蔵していたはず。
そう考えていると
『より具体的には、十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク回線切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試み――以上のいずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される。この条件は、すでに外部世界では当局およびマスコミを通して告知されている。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、その結果』
その一言は俺にとっても聞きたくなかったことだった。
『――残念ながら、すでに二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』
……脅しではないことはわかっている
実際このゲームから強制ログアウトできないのはこのせいだろう。
俺は妙に冷静だった。
いや。恐怖がなかった。
怖いとも何も感じないただ冷静に真実を受け止められている。
『しかし、充分に留意してもらいたい。諸君にとって、《ソードアート・オンライン》は、すでにただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ。……今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは消滅し、同時に』
それは、現実の終わりと共に、
『諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』
その一言がこの世界のあり方を大きく変えた
『諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。先に述べたとおり、アインクラッド最上部、第百層まで辿り着き、そこで待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう』
「百層?」
俺が覚えている限り9層しかクリアできなかったはずだ。安全マージンを取るには合計13〜15は必要なはず。
確かに MMOに詳しい人であるならば……β版をやっていた人の方が有利だろう。
でも反対に俺みたいなβ版出身ながらMMOをしたことがないのであったなら
『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。証拠のアイテムストレージに、私からのプレゼントを用意してある。確認してくれ給え』
すると俺は瞬時に右手を下に振る
メインメニューから、アイテム欄のタブを開くとそれはあった。
《手鏡》。それがアイテムの名前だ。
若干警戒しながら、アイテムをオブジェクト化して持つが、特に何も起こらない。
そして一瞬の光に包まれると
いたってどこでもいるアバターより少しだけ背の低い男性が。いや自分の姿が手鏡に写っていた。
「……っ!!」
そう現実の自分の姿だ。すると周辺の人も多くざわめき始める
『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は----SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか? これは大規模なテロなのか? あるいは身代金目的の誘拐事件なのか? と。私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら……この状況こそが、私にとっての最終目的だからだ。この世界を創り出し、観賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』
ほんの短い間をおいて、無機質さを取り戻した声が響いた。
『……以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の……健闘を祈る』
そういって赤ローブは頭、胸、腕、足と順番に赤い血の色をした水面に沈んでいき、最後に波紋を残して消える。
ようやくプレイヤー逹が反応を示した。
「嘘だろ……なんだよこれ、嘘だろ!」
「ふざけるなよ!出せ!ここから出せよ!」
「こんなの困る!このあと約束があるのよ!」
「嫌ああ!帰して!帰してよおおお!」
と騒ぐ声。そんな中俺は少し落ち着いていた。
そして自然とフィールドへと足を伸ばしていた。
これから生きるために俺はβテスターとして明らかに動きを早めなければならない。
即ち俺の知っている知識をプレイヤーに無料で公表する。
そのために金が必要だ。
生きるためにそして俺自身が力を持つ為に。
そうしながらも俺はフィールドへ向かう。
これから起こる狂気の沙汰と向き合う為に。