ケモミミだらけの異世界で顔の良い人に拾われた件について   作:疾風怒号

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8:這寄、或いは白黒双杖

 

 

 

 

新しい職場での時間も、一度慣れてしまえば矢のように過ぎるものだ。

 

なんて柄にも無い事を考える程には、ディオニシウス・インダストリーでの時間はあっという間に過ぎていく。ラテラーノに来てから1ヶ月半、何度目かの大きな取り引きを経て、一週間後にイェラグに戻る事が決まった。

 

歓迎会があるのなら送別会もあるのかと密かに期待していたんだが、会社が年に一度開く展覧会……つまりは新作製品の宣伝だったり、他の企業から来賓を招いて、実際の製品を見せながら商談を行ったりするイベントの準備で忙しく、そんな余裕は無いらしい。その代わりという訳では無いだろうが、件の展覧会に『カランド貿易の使者』として招かれる事が決まった。

 

勿論エンシオディス様に話を通して許可を得たし、ディオニシウスの社長直々の招待状を手渡されたので問題無い。場違いな気はするんだが、今更それを言っても仕方ないだろう。仮にもカランド貿易の名前を背負って招かれるんだ、しっかりしろ俺。

 

 

「私も行きたかったなぁ、展覧会」

「エクシアは行かないのか?」

「一般入場券、滅茶苦茶高いんだよね。私の財布には高カロリー過ぎるよ」

「じゃあ仕方ないな」

「ちょっと! そこは奢ってくれる流れなんじゃないの!?」

 

 

現在地は社員寮の一階。誂えられたワンルームの窓から身を乗り出して、真下にいるエクシアと話している。寮自体は至って普通の集合住宅といった風体で、敷地も本社の外にあるのでこうやって話す事が出来る。臙脂色の天使の相手をするのも、コレで両手に余る回数になった。

 

 

「そういえば、今年はアレを見れるの?」

「アレって?」

「"黒錠と白鍵"だよ、知らない?」

 

 

聞いたことのない言葉だった。錠と鍵?なんだそれ。

 

 

「ラテラーノで大昔に造られたアーツユニットで、国とディオニシウスが共同で保管と研究をしてるの。毎年展覧会が開かれるんだけど、状態が安定している時にだけ展示されるっていう……」

 

 

エクシアが言うにはそれは一対の杖で、文字通り白と黒のカラーリングからそう名付けられたらしい。ラテラーノ公民には有名で、その扱いはアーツユニットというよりは博物館の展示品に近いという話だ。

 

正直なところ興味は無い。誰かが扱ってアーツを行使する瞬間を見られるなら兎も角、展示されているだけの杖なんてそこいらの安物以下だ、アーツロッドとしての意味を為していないだろう。武器を含めた全ての道具は扱われるからこそ『良いもの』になり得る、オカンの受け売りだが、ただの展示品に今更興味は湧かなかった。

 

 

「それ、凄いのか?」

「杖自体は知らないけど、一般入場券を買う人は殆どがそれ目当てなんじゃないかな。……私は違うよ?私は新型の銃とか、私の守護銃に合うパーツとか、そういうのが見たいだけ」

「エクシアも守護銃を持ってるんだな」

「うん、ヴァーチェもモスティマも持ってるよ」

 

 

守護銃という概念も、よく分からない。ただ、こちらは俺のロッドと似たような物かと思う。

 

 

「大事にしろよ」

「言われなくても!」

 

 

俺の言葉に、エクシアは眩しい笑みを浮かべてサムズアップを返した。何処となくエンシアお嬢様に似ているような、そんな気がした、名前も一文字違いで似てるし。あの人、今は何やってるんだろうな。…………あのアグレッシヴ雪豹娘の事だし、今日もクーリエを連れ回してクライミングに励んでるか。

 

 

「明日も仕事?」

「仕事だ、缶詰めだよ缶詰め」

「カンヅメ……?」

「朝から晩までって事だ、最後だからな」

 

 

「……そっか、本当に帰っちゃうんだね」

「まぁ、仕事だからな」

「ありがとね、外の話、楽しかった」

「おい馬鹿やめろ、二度と会えないみたいな言い方」

 

 

途端に夕陽に溶けるような雰囲気を滲ませたエクシアに慌てて声を掛ける、そういうしんみりしたのは苦手なんだよ、しんみりされるような事をした覚えも無いしな。

 

 

「今度は仕事じゃなくて、休み取ってここに来るから。だからそういう顔をするな」

「本当!?」

「いつになるかは分からんが、カランド貿易は絶対にデカくなる、それこそ俺が休みを取っても構わないぐらいにな! だから待ってろ、ってか何ならお前から来てもいい、生きてればまた逢えるからよ、だから…………」

 

 

続く言葉が出て来なくなったところで、エクシアからもう聴き慣れた笑い声が聞こえた。なんだコイツ俺が真面目に励まそうとしてるってのに。だが睨んでも彼女には効果が無いようで、しばらく腹を抱えて笑い転げていた。

 

 

「……お前な」

「あはは……、ごめんごめん、だって、エンシレント、こういう事言うの初めてなんでしょ、……っふふ、だから面白くって……」

 

エクシアが臙脂の髪を掻いて、照れたような顔で俺を見上げる。

 

「うん。でもありがとう、元気出たよ」

「それは良かった、お前はそうしてる方が似合ってるよ」

「何それ、私に落ち着きが足りないって?」

「そんな事言ってないだろ、褒めてんだよ言わせんな」

 

 

すっかりいつもの調子に戻った彼女と、そのまま日暮れ近くまで話し込んでいた。俺は何度も警告した筈なので、夕食後にエクシアから『門限違反でヴァーチェに怒られた』とメールが届いた事に関しては俺は責任を取れない。すまんなエクシア、南無。

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

 

『…………それでは、明日は8時にディオニシウス・ホールに集合で』

「分かりました、俺の荷物はいつものと俺のロッドですね」

『はい、それでは宜しくお願いします。 おやすみなさい、エンシレントさん』

「うす、おやすみなさい…………っと」

 

 

端末の端を押して通話を切り、ベッドに身体を投げ出す。

 

展覧会は明日に迫り、最後の打ち合わせをヴァーチェさんと通話越しに済ませた所だ。明日に限り俺は来賓でもあるが、普段通り『カランド貿易・連絡員及び護衛員長』でもある、よくよく考えれば奇妙でややこしい立場だと自分でも思う。まぁ、今更言ったところでどうしようも無いので、やるべき事をやり尽くすだけだ。某御子の忍だってそう言っている。

 

ロッドをアーツで引き寄せて握り、ぶつけないように注意して軽く振り回すと、久し振りに感じる重さが心地よく腕に馴染む。槍に於ける太刀打ちの辺り、そこに取り付けられた装飾がアーツに呼応して展開し、電波障害を引き起こさない程度に電磁波が走った。

 

 

「アーツも問題無し、ご機嫌だな」

 

 

…………と言いたいところだが、今夜は余計な来客がいるようだった、最近多くないか? 脳に浮かんだ影と形、華奢な体躯に側頭の角を持つそれは…………。

 

 

「モスティマ、決まって夜にちょっかいを掛けに来るのは癖か? それとも嫌がらせか?」

「そんなつもりは無いよ、タイミングを見計らうとこうなってしまうだけさ」

「…………ふん、どうだかな」

 

 

スパイダーマンに似た姿勢で窓枠の張り出した部分に足を置いたモスティマの姿がそこにはあった。腿の付け根までしか覆えていないショートパンツから突き出す生足の所為でストリッパーに見えなくも無いが、カーテン越しに揺らぐシルエットは余りに薄気味悪い。

 

 

「今日は何の用事だ?」

「うーん……何となく?」

「何となくで人のわくわくリラックスタイムを邪魔すんな、蹴り落とすぞ」

 

 

若干凄んでみたものの、当の本人は何処吹く風と受け流して部屋に降り立った。電話口で話した時よりも掴み所の無さが進化している気がする。まるで幽霊のようだった、角とリングを備えた幽霊なんて属性の盛り方が二郎系だな?

 

 

「面白いね、君のリラックスタイムは四方八方にアーツを飛ばす事なんだ? 見た感じ……と言うよりほぼ間違いなく索敵に使える物、一瞬で私だとバレた所を見ると精度も良い、少なくとも温度探知ではないかな。……電磁波か超音波の類だと思うんだけど、合ってる?」

「…………さぁな」

 

 

咄嗟に誤魔化したがバッチリ図星だ、流石執行者様、その手の探り合いはお手の物って言いたいのか?

 

 

「ま、そんな事はどうでも良いよ。私が聞きたいのはそんな事じゃないからね」

「さっきは『何となく』って言わなかったか?」

「申し訳無いけど覚えてないかな」

 

 

「自分の発言に責任を持て」と言い掛けたのを無理やり呑み込む、コイツに何を言っても無駄だ。いつも通りのらりくらりと交わされるだけ。それよりも自分が口を滑らせないように気を付けろ、見た目友好的でもコイツは公証人役場の人間だ。

 

 

「君、明日の展覧会には行くのかい」

「答えないと駄目か?」

「いや別に、顔に『行く』って書いてあるよ?」

「…………何で分かるんだよ」

「あ、本当に行くんだ」

「……」

「あっはは、面白いね」

 

ケラケラと笑うモスティマの首に杖を突き付けて、一瞬唸った。

 

「何一つ面白くない、さっさと帰ってくれ。主に俺の精神衛生の為に可及的速やかに」

「ふむ……君が苛立っているのは私が執行人だからかな、それとも前職が気になるから?」

「両方だよモスティマ、お前の事は嫌いじゃないが信用出来ない」

 

 

彼女はそれを聞いて頷くと、突き付けられた刃など存在しないかのように一歩進む、思わず杖を引いた俺の手を包むように握って、その顔を肉薄させた。意思の読めない二つのブルーホールに引き込まれるような錯覚を覚えた。

 

 

「良いね、好都合だよ」

「何が」

「こっちの話さ。 エンシレント、腕に覚えはあるかい?」

「……ある程度は」

「なら良い、完璧だよ」

 

 

さっきから何の話をしているのかさっぱり掴めない、だがモスティマが笑みを深めるのを見ていると、それがとても良くない事のような気がしてくる。握られた手を杖を捨てて握り返し、身体を捻ってベッドに投げ倒す。モスティマが体勢を立て直す前に杖を引き寄せ、細く白い首に添えた。

 

 

「もう一度言うぞ。帰れ、モスティマ。これ以上されるとお前の事を嫌いになる」

「なら今は嫌いじゃないんだ?」

「いい加減にしろ、三度目は無い」

「ちょっと待ってよ、何でそんなに怒ってるのさ」

「自分が人の神経を逆撫でしてる自覚あるか!?」

「んー……、無いね」

 

 

……もう駄目だ、相手してるだけで滅茶苦茶に疲れる。もうやだコイツ、嫌いじゃないけどマジで苦手、椎茸みたいだ。この世界で椎茸食った事ないけど。関係ないけどヤーカのシチュー食べたい。

 

 

「分かった、分かった帰るから、コレを退けてよ」

 

 

何故か呆れたような声を上げて、モスティマが穂先を摘む。何か言う気力も起きずに素直に杖を引くと、軽快な動きで彼女が跳ね起きた。

 

 

「本当に大した意味は無いんだよ、ただ君の顔を見に行こうと思っただけ」

「そのせいで俺は疲れた」

「ごめんごめん。でも君、もう少しで帰るんでしょ、そう考えたら……ね?」

「そう思うなら、龍門に行かずにここにいれば良かっただろ」

「それは出来ない、龍門に行ったのは大事な準備の為だから……」

 

 

何の準備かを聞こうとは思えなかった。思ったとしても聞かなかったと思うが、結果として俺は聞かなかったし、それ以上は何も言わずに窓から跳び降りるモスティマを見送った。「それじゃあまたね」なんてニヤついた顔で言いながら去って行ったのが妙に腹立たしい。

 

 

「……疲れた、今からもう疲れた」

 

 

誰に伝えるでもなく、半ば諦めたような声。あんまり気が抜けている物だから我ながら笑ってしまう。窓の先にはディオニシウス・ホールの周りに、準備の為か機材搬入用の車両が集まっているのが見えた。……とにかく、明日を乗り切れば出向先での仕事はほぼ終わりなんだ、頑張れ俺、負けるな俺。

 

気休めのように自分に言い聞かせ、バンドを外しててベッドに潜り込む。すっかり慣れた筈の低反発マットが今夜ばかりは寝苦しく、妙な胸騒ぎだけが蟠っていた。

 

 

 

 

 

 








この話を書く為に喧騒の掟をアホほど見直した俺を褒めてください(半死

皆さん危機契約はどうですか、俺は育成サボってたので12等級止まりです。理性が足りないのでニアールさんにハグしてもらって理性を回復させたい。ラテラーノ編は此処からちょっと傾いていきます、お楽しみに。

たくさんの感想、誤字報告有難うございます。誤字に関しては今度から減るように努力するのでどうか許して下さい…………。




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