ケモミミだらけの異世界で顔の良い人に拾われた件について 作:疾風怒号
ディオニシウス・インダストリーの展覧会を一言で表そう、この世界に於けるコミッ●マーケットだ。
凄いよなコ●ケ、行った記憶がまだ残っている……というかこの会場を見て思い出したんだが、あの人の多さと雰囲気は言葉では上手く表せない。その『言葉では上手く表せない』と同じだけの物を感じさせる熱気がホールの中に満ちている。 スタッフ・関係者様にスペースを用意してくれていなければ、こう落ち着いて感想を述べる余裕も無かっただろう。
「…………凄いな」
「一年に一度の大イベントですから……!」
実際の規模はコ●ケより小さいだろうが、それでもほぼ寿司詰め状態の一般ブースを眺めていると陳腐な言葉しか出てこない。隣にいるヴァーチェさんも心なしか誇らしげだ。本人曰く『営業部の一番大きい仕事』らしいので、当然といえば当然でもある。
「来賓用ブースは見に行きました?」
「一通りは。幾らか資料も頂いたので、イェラグに持って帰ります」
「もしかして、シルバーアッシュ氏に?」
「勿論、あの人は割と目新しい物が好きですから」
そう言って指に掛けていた紙カバンを掲げる、その中身を覗いた彼女は僅かに眼を見開いた。
「凄い量…………、コレを全部?」
「一部は今日データを送って、他は持ち帰ってから渡す予定です。 まぁ、最終的には全部眼を通すと思いますよ」
あの人、「資料持って帰ります」って通話したら目に見えてウキウキだったからな、新型のアーツユニットとかレム・ビリトン産の鉱石をフルに使った刀剣とか、源石エンジン搭載の個人向け車両なんてイェラグに持ち込んだら馬鹿売れしそうだ。イェラグでも源石が取れない訳ではないから、源石を採掘業者に上手く取り入って優先的に回して貰えば安定して運用出来るだろうし、嫌でも動力使用なら加工が必要か?うーん、源石の加工自体には詳しくないから分からないな…………。
「あの、エンシレントさん?」
「え、……あー、すいません、ぼーっとしてました」
気付けば、目の前に回り込んだグラサン美人が俺を覗き込んでいた。
「エンシレントさんって、たまにそういう事しますよね」
「あはは……、いや本当すいません許して下さい」
「別に怒ってる訳じゃあないですよ? ただ、まぁ……そういう所あるなーって、それだけです。
この1ヶ月貴方が色々考えてくれて助かったけど、あんまり外で考え込んでたら危ないですよ」
普通に心配されたし褒められた。なんだお前俺を口説き落とす気か?
その辺りやっぱり良い人だよなこの人。営業部の皆さんからの信頼も厚かったし、リーダー気質で生真面目でついでにお茶目で気立ても良くサングラスの似合う美人……なんでこの人独身なんだろ、それが不思議だわ。
「肝に銘じておきます」
「よろしい」
芝居がかった俺の態度に同じような調子で返事をして、ふと彼女が耳に手をあてた。僅かなノイズが走る。どうやら取り付けられた通信機に一報が飛び込んだらしい。
「はい、ヴァーチェです。 …………はい、はい、……分かりました、すぐに向かいます」
「何か問題が?」
「セキュリティシステムに不具合だそうです、復旧するまで人員を増やすと」
「それなら俺も」と言い掛けたところで、ヴァーチェが首を横に振って遮る。
「エンシレントさんは此処にいて下さい。私にだけ通信がきたって事は、ちょっと面倒な事が起こっているかも知れませんから……」
彼女の言わんとする事は理解出来た。要するに『コレはラテラーノの問題だから余所者は首を突っ込むな』という意味だろう。本当ならセキュリティシステムとやらをお目に掛かりたい所だが、流石に国に眼を付けられるのは御免だ。此処は大人しく引き下がるとしよう。
「……分かりました、無理したら駄目ですからね」
「エンシレントさんこそ、イェラグに戻っても三食しっかり食べるんですよ!」
約1ヶ月前の事を掘り返しながらヴァーチェは人混みの中に紛れていった。俺が食堂に顔を出さなかった事をまだ根に持っているらしい。俺の
「雷よ、
それ以外に特に変わった所はないように見える、銃はラテラーノではごく一般的な存在だし、エクシアのように一般人でも所持できる。ロッドも言わずもがな、どちらもラテラーノ公民が持つには申請が必要だと聞いたが、逆にいえばそれだけ管理が行き届いているという事だ、問題は無い。
「…………ふぅ、問題なし、と」
唯一気になったのは、俺のいる南側とは真逆、北の別館に存在するアーツユニットの反応だった。他の物とは違う、脈打つような気味の悪い反応。その周りには沢山の人集りがあった。内ポケットからパンフレットを取り出して北館のページを捲ると、見覚えのある文字が派手に躍っている。
「黒錠と白鍵……」
ヴァーチェを含めた営業部の皆も度々話題に出していたな、と思い出す。大昔に製造された、実質的に飾り物の杖、そんな物に価値があるのだろうか。
「……俺が考える事じゃないな」
自分にとっては取るに足らない物でも、他人からすれば何に替えることも出来ない物だって事は珍しくない。だからアレだ、こういう考え方はやめた方が良い、多分。
パンフレットとロッドを仕舞うと、途端にする事が無くなった。ブースは全て見終わったし、唯一残った北館に入るのは別の受付で入場券を買わなければならないから、暇潰しの為にそこまでする気は起きない。まぁ、残りの時間は休憩だとでも思っておこう。
多くの客でごった返す会場は、未だに騒がしいままだ。きっと閉場時刻が近付くまではずっとこのままだのだろう。
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悲鳴と絶叫と火炎、何でもない筈のラテラーノの夜を混沌が満たしていた。
「火が止まらないぞ!」
「消防車はまだか!!??」
「客の避難は護衛隊に任せろ! 職員は離れて!」
……どうしてこうなった? 何の問題もなく展覧会が終わったと思ったら、退場しようとする一般客で一番出入口が混み合うタイミングで大火事? 巫山戯てんのか?
辺りはもう何が何だか分からない状況に陥っていた。呆然とする者、逃げてきた者、半狂乱で泣き叫ぶ者、一般人、職員、護衛隊、子供、大人、野次馬、巣に枝を突っ込まれたアリみたいだ。燃え上がるホールは街灯の少ないラテラーノの街では目立ち、野次馬が続々と増え続ける。
「エンシレント!」
「エクシア」
「ヴァーチェが、ヴァーチェがいない!」
人混みを擦り抜けて飛び込んできたエクシアを受け止める。彼女も騒ぎを聞きつけて此処に来たようだった。
「お前は南口に行け、ディオニシウスの社員はそっちに集合してるから、ヴァーチェさんもそこにいる筈」
「エンシレントは!?」
「俺は此処でやる事がある、中に人が残ってるだろうから、助けに行かないと」
「でも……!」
「大丈夫だ死にやしない、早く行け!」
突然の火事といい、咄嗟に出たセリフといい、嫌に『あの時』を思い出す。『中に人がいる』ってのは殆ど嘘だ、いるかどうかも分からない上に助けに行く気も無い、単にエクシアを離れさせたかっただけ。……何でか消防車は来ないし、一応でディオニシウスで働いてる以上俺が救助してもおかしくはない……よな?
だが、ホールの中に入り込む事だけは本当だ。何故なら
ロッドを取り出すと素早く地面を叩いてアーツを展開。外から見れば既に火達磨になり、一般客の避難も完了している筈のホールだが、その中には複数人の影が見える。その動きに混乱は無く、淀みも無かった。
…………間違いなく一般人ではない、訓練されている。それに、組織的な行動を行える程度には内部の状況には余裕があるようだ。
火の手が届いていない部分、丁度植え込みの陰になる部分から窓を叩き割って侵入すると、予想通りポスターやカーテンが燃えている程度で、火勢も強くはなかった。入ってすぐに数人の姿が確認できる。顔はガスマスクのような物で隠されているが、全員の頭頂にリングが浮かんでいる。……サンクタだ。
「って事は火事を起こしたのはサンクタなのか……? だとしたら何がしたいんだ」
単純なテロ、という訳でもないだろう。それなら態々火災現場に入り込む意味なんて無い上に、奴らの服装はやけに統一されて整っている。この線は無しだ。なら此処に入り込んだ目的は? 何かを探しているのか?
いや、そんな事は今は重要じゃない。今はアイツらの隙を窺ってヴァーチェを…………
「……止まれ、何かいる」
「全隊警戒、6時方向の柱の陰。 アゴー、カウサ、確認次第殺せ」
「「了解」」
…………不味いなバレたぞ、しかも殺す気満々だし。戦闘するのは別にいいんだが、銃を相手取るのは初めてなんだよな。相手の人数は5人、その内2人が俺がいる柱を見に来ている。そいつらは不意打ちで倒すとして、残り3人はどうする?
「…………って、考えてる暇も無いか」
「ぎゃ……ッ」
柱を覗き込んだ1人目に石突を突き込んで喉仏を破砕、続いてその後ろにいた2人目を尻尾で殴打。脳を揺さぶられフラついた隙に襟を掴んで盾代わりにし、数メートル離れた3人に向かって突撃する。
「撃てッ!!!!」
「悪く思うな、人命救助の為だ」
リーダー格が叫ぶと同時に火花が咲き乱れ、掲げた男の体に銃弾が突き刺さっていく。だが貫通するまでには至らないようで、俺が痛い思いをする事はなかった。そのままリーダー格の顔面を蹴り飛ばし、蜂の巣になった死体を残った2人の内、ガタイが良く距離が空いていた方に投げ飛ばすとアーツを起動、近場にいたもう1人を電撃を纏った杖で横薙ぎに殴り付ける。
頽れるサンクタの身体にスライディング、素早く掴んで引き起こすと、先程のように無数の銃弾が叩き込まれた。死体を投げ付けられた男が弾丸をばら撒きながら走り込んでくる。
「馬鹿だな、お前」
まぁ、そんな事をしたら弾切れを起こすのは当たり前だ。がちんと金属音が鳴った瞬間に二つ目の死体を投げ捨て、逆手に持ち替えた杖を投擲、土手っ腹に突き刺さると同時に電撃を解放して焼き殺した。これで全員が戦闘不能、……思ったより上手くいったな、一発や二発喰らうつもりだったんだが。
まだ伸びているリーダー格に歩み寄り、引き寄せて握り直した杖で浅く斬りつけると、奴忌々しげに俺を睨む。おお怖え。
「貴様…………、何者だ……!」
「……ただのヴィーヴルだ。ディオニシウス・インダストリーの味方だよ」
「こんな事をして……、ただで済むと…………、ぐあッ!」
「アンタこそ、火災現場に入り込んだんじゃ焼け死んでも文句言えないよな」
男の胸を踏み付け、体重を掛ける。
「アンタら、何が目的だ」
「私がそれに応えるとでも…………?」
「質問を質問で返すなよ、聞いてるのは俺だ」
「…………貴様などには教えんよ」
「あぁそう、なら別に良い」
これ以上は話しても無駄だろう。アーツをもう一度起動して辺りの様子を探ると、北館に二つ人影が見えた。
「成る程な、そこにいるのか」
その通りだ、俺のすべき事は元からは一つ、俺の目的はヴァーチェさんを探す事だけなのだから。男の顔面を踏み付けて気絶させ北館に向かう。展示物が滅茶苦茶に散乱していて苦労したが、スタッフとして地図を頭に叩き込んでおいたおかげで迷う事はない。
……ヴァーチェは営業部長として、展覧会の運営に責任を感じているようだった、だから彼女は、多分黒錠と白鍵を回収しようとしているんじゃないかと、そんな確信があった。2人の反応はさっきから動いていない、だからきっと、2つある影はヴァーチェともう1人の社員だ。
「ヴァーチェ!」
熱で歪んでいた扉を蹴り飛ばし、展示場に入り込んだ……………………その瞬間。
ずどん、と重く、無慈悲な音が奔った。
俺の眼に飛び込んできたのは二つの杖が納められたガラスケース、祭壇のようなそれを挟んで立つ2人の天使。片方は青く、ちらつく炎に黒曜石のような角を光らせる、もう片方は、その胸に赤い血の花を咲かせ、黒い髪を乱したまま呆然とした顔で後ろに倒れようとしていた。
スローモーションの世界で青い天使が振り返る。黒ずんだ翅とリングを揺らし、眼の前で、その黒く褪せる範囲が僅かに広がるのを見せびらかすように、鷹揚に両手を広げて笑った。右手には単純故に高威力な、中折れ式の大型拳銃。
「っはは、君なら来ると思っていたよ。 エンシレント」
「……モスティマ、お前…………ッ!!!!」
どしゃ、と濡れた音を立ててヴァーチェが倒れる。大量に振り撒かれた血の量から推測して……即死。『妙な胸騒ぎ』は最悪の形で俺の前に現れた。
誰も待ってないかも知れないけど
お ま た せ ( 大 迫 真
一応の用事が終わりましたので連載ペースが以前までの状態に近くなると思います、更新を待たせる形となってしまい申し訳ありません。これからはまた暫く(ほぼ)日刊投稿頑張ります。
モスティマが持っていた銃のチョイスは完全に俺の趣味です、元ネタは分かる人は簡単に分かる筈。