ケモミミだらけの異世界で顔の良い人に拾われた件について   作:疾風怒号

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10:激突、或いは天使と雷竜

 

 

 

「お前……どうして…………」

「君になら分かるだろう? この杖だよ」

 

 

根本から折れたバレルから薬莢を摘み出しながらモスティマが言った。

 

 

「『ディオニシウス・インダストリーと国の共同管理』なんて建前に過ぎない、黒錠と白鍵をたかだか大企業の手元に置いておくなんてとんでもない、取り上げよう。……と考える輩がこの国には一定数いるという事さ」

「そんな事は聞いてない……」

「じゃあ、君は何を聞いているのかな?」

 

 

いつも通り調子の変わらない声、今はそれが一々神経を逆撫でする。頭の奥で何かが切れる音がして、気付けば怒鳴っていた。

 

 

「どうしてヴァーチェを殺した!?」

「彼女が私の障害になったからだよ」

「…………あぁ、そうかよ、なら……!」

 

 

ロッドを構え、装飾を展開する。穂先から放たれた()()は、モスティマがその場から飛び退いた事で不発に終わった。彼女はそのまま祭壇に近寄り、ガラスを銃撃で破砕して双杖を掴み取る。白鍵の先端が素早く掲げられた瞬間、追撃の火球が青白い閃光とぶつかり合った。

 

 

「君も障害になるのかい?」

「察しが良いな、……覚悟しろ」

 

 

制御を失ったアーツの余波が飛び散り、辺りの壁面が砕かれ燃え上がる。赤く染まる光をバックに杖を構えるモスティマの姿は、天使というよりも『悪魔』と言った方が正しい気がした。

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

 

 

ディオニシウス・ホールを包む火勢は。火災発生から一時間程が経過した今なお酷くなる一方だった。比較的型式が新しく、耐火性能も高い筈の建造物が轟々と燃え盛り、僅かな隙間も無い。その上消防車が一向に到着しないのだから、辺りは混乱を超えて暴動に近い有様だった。

 

 

「どうして消防車が来ないんだよ!?」

「……駄目だわ、繋がらない! もしかしたら回線が混み合ってるのかも…………」

「にしたってこんなのはおかしいだろ! 悪いエクシア、お前も掛けてくれるか?」

「うん、分かった! あ、ミネラさん!消防局に行くなら5番通りから六つ目の路地に入れば早いよ!」

「ありがとうエクシア!」

 

 

エンシレントの言いつけ通りに南口に辿り着いたエクシアもまた、その只中にあった。取り出した端末から消防局の緊急通報を呼び出すも、数秒間の待機音の後に無情な『暫くお待ちになられてから、再度掛け直し下さい』とアナウンスが流れる。

 

 

「……駄目、繋がらない…………」

「クソ、直接呼びに行った奴らを待つしかないか……。 部長もどっか言っちまうし……何だってんだよ…………!」

「ヴァーチェとエンシレント……大丈夫かな…………」

「大丈夫よ! ヴァーチェさんもエンシレントさんも、私達よりずっと強いんだから!」

「……そうだな! 安心しろよエクシア、お前だって部長がそこいらの男よりタフなのは知ってるだろ?」

 

 

顔見知りの社員に励まされるも、エクシアの顔は晴れない。当然と言えば当然だ。

 

端末を握り締めて眼を伏せた彼女に営業部の社員がどう声を掛けたものかと顔を見合わせた瞬間、ホール北館から爆煙が噴き上がった。凄まじい衝撃と轟音、人集りに恐慌が伝播する。

 

 

「…………北館に爆発物なんて置いてた……?」

「置いてたら大問題だろ!?」

 

 

爆発は一度ではない、二度、三度、四度と次々に壁と天井を突き破る。それに応えるように火勢が増し、北館側は巨大な一つの火柱のようになっていた。これでは消防隊が来たとしても消火に手間取るだろう。

 

辺りは完全に気圧され、ただただ深刻な気配がその場を支配する。不気味に静まった夜の街に火花の爆ぜる音だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

ほぼ同時刻、ディオニシウス・ホール北館。

 

 

都合十度目になる爆発……もとい火炎のアーツが巻き起こり、それをモスティマが持つ白い杖から迸った群青色の閃光が弾き返す。来た道を辿るように戻って行く火線を、今度は電撃を纏った杖が跳ね飛ばし、行き場を失った炎は壁の一部を抉って虚空に混じる。

 

 

「……ッは、クソ、意味不明なアーツ使いやがって…………」

「『使う』という表現は誤りだよ、この杖は少しじゃじゃ馬過ぎる」

「という割には随分と余裕だな!」

「君がそう思うのならそうなのかもね」

 

 

吐き捨てながら打ち出した電撃と火炎を先程と同じように青いアーツで弾きながら、モスティマはもう片方の黒い杖を掲げた。丁度サンクタの光輪のように正方形の光が浮かび上がり、対応するように俺の頭上にも同じようなものが浮かぶ。

 

 

「それッ!!」

 

 

杖が振り下ろされると同時に正方形が降ってくる。咄嗟に足元に爆炎を発生させて跳躍して瓦礫塗れの床に転がった。 見れば、正方形の範囲に閉じ込められた爆炎が()()()()()()()()()()。いや、爆炎だけじゃない、吹き上がった瓦礫や何処からか千切れ飛んだ布片、果ては砂埃までが白い光の向こうで、時間が止められたかのように静止していた。

 

 

「……馬鹿げてる」

「それには概ね同意するよ」

 

 

しかも連発可能なようで、頭上には既に次弾が浮いている。慌ててその場から飛び退いて交わすとまた頭上に正方形。諦めて背を向けて走り、モスティマに向かって電撃を撃ち込む。

 

 

「次はこうだ!!」

 

 

奴が白い杖を横薙ぎに振るうと、半円状に放たれた光の帯がいとも簡単にアーツを全て弾いてしまった。火炎を弾いた時と同じく正反対の方向に弾くようで、俺の足元に電撃が突き刺さる。

 

十数分程度の戦闘を経て、気付いた事が二つある、一つは術士がロッドを二本扱った際の厄介さ。黒錠と白鍵の性質なのか、モスティマの技術の高さ故なのかは分からないが、兎に角手数が多過ぎる、こっちは精々苦し紛れの反撃が精一杯だというのに、向こうは防御と同時にカウンターを行った上で悠々と本命のアーツまで叩き込んでくる。

 

もう一つは、モスティマ自身あの杖の性質と限界を把握している訳ではないという事。アーツの威力にはムラがある上に狙いも甘い。こちらは単純に俺のアドバンテージだ。ただ問題は、そのアドバンテージを持ってなお不利な状況は変わらないという事にある。

 

 

「ぐぁッ!?」

 

 

反射された電撃に紛れて突っ込んできた閃光に左肩を撃ち抜かれ、派手に床を転がった。次の瞬間モスティマを見上げる間もなく頭上に現れた正方形の中に捉えられると、立ち上がろうとした姿勢のまま身体が硬直する。息が詰まり、視界が固定され、思考がぶつ切りになる奇妙な感覚。音も聴こえない、肌に当たる熱気も無い、切り取られた世界にただ身体と物体だけがあった。

 

 

「        」

 

 

視界の端でモスティマが何事か口を動かす。その意味を理解する前に正方形の光が揺らぎ、身体が動き出した瞬間に群青が降り注いだ。

 

 

「驚いた、コレを避け……防いだのかな?」

「……っはァ……! はッ……、クソ、気持ち悪い…………!」

 

 

何の事はない、火炎を弾いた時と全く同じ理屈だ。電撃を発生させ、一気に膨張する空気でアーツのエネルギーを逸らしただけ。それでも強力に過ぎる閃光によって身体のあちこちを打ち据えられ、ジャケットはボロ切れ同然の有様だ。弱音の一つも吐きたい所だが口に出すのは悪態だけにしろ俺、まだ頑張れるだろ。ようやく再開した呼吸と血流にひどい倦怠感を催し、思わず膝を突き掛けた、まだ頑張れるッつッてんだろ、しっかり立てよ俺。

 

……兎に角黒錠から発せられる正方形に捕まってはいけない、アレは食らった限り考えるに『ほぼ全てのエネルギーを停止させる』アーツだ。あの範囲内ではアーツも弾丸も思考も強制的に静止させられるだろう。

 

逆に白鍵のアーツは単純な力場を発生させるもの、しかしその自由度と出力はそんじょそこらの物とは比べ物にならない。弾丸状にして撃ち出す、至近距離で炸裂させて他のアーツを弾く、帯状に発振して複数のアーツを弾く……と言った具合。幾らアーツを撃ち込んでも弾かれる以上、やる事は自然と一つに絞られた。

 

近付いてブン殴る、もしくは高出力のアーツを叩き込む、……相手のアーツを避けて? 難易度高過ぎんだろ巫山戯んな。

 

 

「でも、やんなきゃ駄目だよな」

 

 

ロッドを翳してアーツを発動、追撃の閃光を電撃で打ち消して走り出す。同時に電磁波を飛ばして辺りに張り巡らせ、最適なルートを導き出した。 正方形を躱し、崩れた展示品を盾にして目指すのはうず高い祭壇。僅かに眼を見開いたモスティマが、心底楽しそうに笑う。

 

 

「君がその気なら!」

 

 

身体を捻って白鍵を振り被り、その先端に青白い光が集まっていく。網膜を焼くような輝きが一際高まった刹那、地面と水平に振り抜かれたロッドから、横一文字に閃光が走る……と認識した瞬間には、俺の身体は宙を舞っていた。

 

 

「が………ッ……?」

 

 

何だ?何が起こった? アーツか?アーツだろどう考えても、白鍵だから単純力場のアーツ、いやいや遮蔽物何処いったよ、瓦礫ごと吹っ飛ばされたのか?んな馬鹿な話…………。

 

どしゃん、と床に叩き付けられる衝撃。受け身をとって素早く起き上がるも口内に鉄臭い液体が湧き出した。唇に溢れた血の色から察するに喀血、肋骨が折れて肺が傷付いたか、それとも気管がやられたか。 足が震える、予想以上に滅茶苦茶な奴を相手取っているという現実を今更突き付けられたようだった。

 

 

「効くだろう、加減はしていないからね」

「ゲホ……ッ……。 冗談、余裕だよ。……お前をふん縛るまでは絶対倒れてやるか」

 

 

恐らく避けるのは不可能。綺麗に瓦礫が片付けられた眼前の光景から推測出来る限り、アレは前方広範囲に向かって発生している、何とかする為には同じだけの威力を真っ向からぶつけるしか無さそうだ。モスティマの表情にもまだ余裕がある、一度や二度凌げば良いって話でもない。

 

さっきと同じように走り始める、と同時に奴が白鍵を構えた。身体を横方向に捻った姿勢から数秒の溜めを経て閃光が解き放たれる。今度はそれがよく見えた、半円状に広がる群青色の波が光の粒を撒き散らし、壁のように迫る。飛び散った粒が幾つもの数字のように見えたのは気のせいだろうか。

 

思考を振り切ってロッドを右から左に持ち替え、右手を後方に引き絞って構える。丁度槍投げのフォームに近くなった所で身体の源石を使ってアーツを発動、角から額に、額から首に、首から肩を通って肘、そして前腕へ急速にエネルギーが充填され、黄金色の電撃が槍状のカタチを空間に作り出す。

 

地面を確と踏ん張って身体を固定、目と鼻の先にまで近付いた青い壁に向かい、右掌に握り込んだ雷を叩き込む。

 

 

 

_____堅固を突き破るには槍を投げてはならない、その手で直接、杭を突き立てるんだ。

 

 

 

拮抗は一瞬、群青は黄金に突き破られた。

 

 

「な……っ!?」

 

 

弾かれそうになる上体を尻尾で床を叩いて引き起こした距離を詰める、珍しく驚愕を貼り付けたモスティマの顔が何故だか面白かった。殺到するアーツを電撃で打ち消しながら祭壇に辿り付き、段差に指を掛けて一気に登り上がって着地、それ以上の迎撃を諦めて祭壇から後方に飛び降りようとした奴に追い付き、ロッドの石突を突き込む。

 

それを受け止めた拍子に転げ落ちる青い天使と、空中で視線がぶつかり合った。

 

 

「追い付いたぞ……ッ!!!!」

「……中々、どうして、やってくれるッ……!」

 

 

2人して床に転がり、弾かれたように立ち上がる。至近距離で同時に撃ち出された互いのアーツが滅茶苦茶な方向に素っ飛んで、辛うじて被害を免れていた壁を撃ち砕いた。

 

 

「本当タフだよね、君は……」

「仇討ちって訳じゃあないが、此処で取り逃すほど軟弱(ヤワ)じゃないんでな」

 

 

戦闘(戦い)はまだ、終わりそうにない。

 

 

 

 

 







記念すべき第10話なのに戦闘シーンが難産過ぎてアホほど時間が掛かりました、疾風怒号です。

描写がちゃんと伝わっているか不安で夜しか眠れません、思った事が有れば気軽に感想欄に書き込んで頂けると幸いです。また、前回投稿時に感想を書き込んで下さった皆様、本当にありがとうございました。

エンシレントのプロファイルも、近々更新する予定です。

追記
エンシレントのプロファイルを一部更新しました。




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