ケモミミだらけの異世界で顔の良い人に拾われた件について   作:疾風怒号

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11:延焼、或いはタイムリミット

 

 

 

 

 

「私はね、そんなに褒められた人じゃないの」

 

「まだ貴女には難しいだろうけど、私は沢山間違いを犯したし、今も後悔してる。それに、この国に縛られた以上それを償う事も出来ない」

 

「……貴女はそんな風になったら駄目だよ、いつかこの国を出て、色んな物を見て回るの」

 

 

_____急に言われても、よく分からないよ

 

 

「そうね……、いつかきっと貴女の手本が、貴女が『外に出たい』と思うようなきっかけが出来るわ」

 

「大丈夫よ、エクシア。 きっと大丈夫…………」

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

 

 

電撃と閃光、視界を白く潰す極彩が入り乱れて空間を埋め尽くす。遅れて爆音が轟き、幾つもの瓦礫が吹き飛んだ。朦々と立ち込める煙から飛び出すのは二つの影、炸裂するアーツを撒き散らしながらぶつかり合い何度も交錯する。

 

 

「良い加減……はぁ、倒れてくれないかな……!」

「弱音か……? 珍しいな、そういう顔も出来るのか……」

 

 

モスティマが額に垂れた血を拭って吐き捨てる、『良い加減』というのは随分な言い草だ、まだ十発そこらアーツを受けただけだろう。この程度でどうにか出来ると思っていたのなら、流石にカランド貿易をナメている。

 

 

「あんまり時間を掛けたくないんだ!」

「だったらもっと撃ってこい!!!!」

 

 

飛来する無数のアーツを前方ダッシュで潜り抜けて肉薄、ロッドを大上段から振り下ろす。無論受け止められる事は想定済み、杖と杖がぶつかった瞬間に手を離し、モスティマの襟を掴んで引き寄せるとヘッドバットを叩き込んだ。仰け反ってたたらを踏んだ彼女が散弾銃のように放ったアーツの内、胴体と頭に当たる物だけを電撃で相殺し、取りこぼしが手足に突き立つのを感じながらロッドを掴み直して追い縋る。

 

 

「今ので十五発、そろそろキツいんじゃないかな!?」

「……んな訳ないだろ……!」

 

 

刺突と打撃にアーツを織り混ぜて尚も追撃、脳震盪での無力化を狙って行った頭部への攻撃を二度受けた上で、その精密さに全くの衰えが見られない天使の迎撃に舌を巻いた。重ねて蓄積した被弾のダメージが脚に負担を掛けて酷く痛む。強がりに痩せ我慢と極度の興奮(アドレナリン)を重ねて誤魔化してはいるものの、長くは保たないだろう。

 

勝算はある、だがそれは俺が何処まで気張れるかによって変わってしまう。確率はゼロではない、ゼロではないが限りなく低い。その十割から九割九分九厘を差っ引いた一厘を掴み取れるかどうかは、俺次第だ。

 

ロッドを蹴って大きく後方に跳躍したモスティマの周囲に幾つもの光球が浮かび、それと同時にあの青い壁の構えを取る。恐らくはこれで終わらせる気らしい。此方もそろそろ身体の源石でアーツを発動させるのに疲れてきた所だ、有り難いと言えば有り難い。

 

 

 

「これで終わりにしよう、……死なないでくれよ?」

「ヴァーチェを殺しておいて……何を今更……!」

 

 

全身の源石でアーツを発動すると同時に地面を蹴り付けて走り出す、殺到する光球をジグザグに避け、避けられない物はロッドで防ぎ、それでも庇いきれない物は受け止めて無理矢理前に進む。骨の折れる音が何処からか鳴り、視界が赤く染まった。

 

白鍵を振り抜く風切り音と共に青い壁が迫る、その壁に向かって右手に握った雷を叩き付け…………

 

 

「連発は出来ないだろう?」

 

 

冷ややかな宣告と共に、群青を突き破った先にもう一つの壁が現れる。モスティマの言う事は正しい、電撃の槍を直接叩き付けるのには体力を使うし、自らが感電するダメージを最小限にする為に高出力のアーツをコントロールするから集中力も必要だ。だから青い壁を二連発した彼女の選択は正しい。

 

たった一つ、相手が俺という阿呆だという事を考慮に入れ忘れた点を除いて。

 

 

無礼()めんなァァッ!!!!」

 

 

つまるところ、体力の消費と自身の感電を度外視すれば、十分に連発するだけの猶予はある。右腕を振り抜いた勢いに尻尾の振りを加え、踏み込んだ左脚を軸に一回転、全身を焼く電流の痛みに歯を食い縛りながら雷の杭を握り、眼前に叩き込んだ。

 

壁が打ち破られる、視界が開ける。残り少ない体力を振り絞って身体を前に運び、モスティマが次弾のアーツを起動するよりも速くロッドを突き出した。返ってくる硬質的な手応え、石突が黒錠の装飾部にめり込んでいる。

 

 

「ぐ、……ッ……!!」

「……らぁッ!!」

 

 

更に踏み込んでもう一段身体を押し込み、崩れ掛けた壁面に激突させた。ロッドを手繰って黒錠を弾き飛ばし、痺れる右腕でその左腕を掴んで壁に縫い止める。

 

 

 

「や……っと捕まえた……!」

「……ははっ、捕まっちゃったか………。 なんて!!」

 

 

立ち込める煙の向こうで、モスティマが表情を歪めながら白鍵を放棄して()()()()を突き付けた。既にトリガーに指が掛かっている。咄嗟に身体を反らせるが、この至近距離ではそれも意味が無い。そして_____

 

_____頭のすぐ横を、弾丸が通り抜けた。

 

 

「…………なにを、してるの」

 

 

狙いがズレた弾丸が俺の角を削って明後日の方向に飛んでいく。神経を抉られる激痛が脳髄を掻き回す。だがそれよりも、俺の視線は銃口をズラした相手に釘付けになっていた。

 

 

「エクシア…………!?」

「……驚いた、まさかこの火災の中に突っ込んでくるとは」

 

 

エクシアの全身は濡れている、大方水を被って火の粉と熱を防ごうとしたのだろう。水滴が滴る髪の奥、臙脂色の相貌を鋭く細めて彼女が叫ぶ。

 

 

「二人とも……何してるのッ!!」

「エクシア、南口に行けって言っただろ!」

「もう行った! 行ったけど!ヴァーチェはいなかった、ヴァーチェだけがいなかった!

 エンシレントだっていつまで経っても帰ってこないし!いざここに来たらモスティマがいるし! もう訳分かんないよ!」

 

 

エクシアは黄土色のメカニカルな銃を構えていた。その銃口から細く白煙が立ち昇っていて、モスティマの拳銃を逸らした犯人はそれだと分かる。『何をしているのか』という問いに対しては、どう答えたら良いのか全く分からないが。

 

 

「エンシレント、どうするんだい?」

「本当なら……、はぁ、お前をひっ捕まえたい所なんだが…………、エクシアを放っておく訳にもいかない……」

「それに関しては私も同意見だよ、……そこでなんだけど」

「『私を見逃して欲しい』か? 遂に頭がおかしくなったか……?」

 

 

俺の手を振り払い、白鍵を拾ってモスティマが笑う。

 

 

「私自身、君にはもう少し話がある……エクシアがここに来たのは想定外だからね、必ず君の元に行くよ」

「…………そのつもりが無いなら、お前はエクシアを殺してるんだろうな」

「物分かりが良いね、きっと君の知りたい事にも答えられるよ、きっとね……」

 

 

そう言って人差し指を唇に当てるモスティマの姿は、さながら契約を持ちかける悪魔のそれだった。三日月に裂ける口から、真っ青な舌が覗く。思い出したように全身が痛む、足元がフラついて、これ以上の余裕は無い。今すぐコイツに聞きたい事があるのは山々だが、それが出来るのか? 答えは否、今の俺にそんな事は出来っこない。

 

未だに銃を構えたままのエクシアを一瞥して……俺は構えていた杖を下ろした。

 

 

「承諾してくれた……という事でいいのかな?」

「…………さっさと行け、クソ、出向社員失格だよ、俺は……」

「何、何の話をしてるの、二人とも………」

 

 

エクシアはただ困惑していた、当然か。

 

 

「此処を出るぞ、エクシア」

「待ってよ! モスティマは! それにヴァーチェは!?」

「モスティマは別の場所に行かなきゃならない、ヴァーチェは…………後で話すから……、だから、今は従ってくれ、頼む」

 

 

彼女は俺とモスティマの間で何度も視線を往復させて、やがて銃を下ろした。色濃く困惑の残る顔を顰めて、俺に肩を貸してくれる。

 

 

「……後でちゃんと聞かせて、モスティマも」

「…………悪いな」

「それじゃ、私はこっちだから」

 

 

モスティマがアーツで火炎ごと壁をぶち壊して姿を消す、俺もそれに倣ってアーツを飛ばし、南側の壁に穴を開けた。火は内部にも広がり始めていたが、風の音に混じって消防車のサイレンが耳に届き始める。「ようやく来たか」なんて意味のない呟きは、その空虚さ通りにすぐさま掻き消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 








用事が重なり過ぎて短めになってしまいました、疾風怒号です。最近更新ペースが不安定になってしまい申し訳ないm(_ _)m

そんな中でも皆様の感想とお気に入り登録が励みです、ありがとう御座いました…………………。




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