ケモミミだらけの異世界で顔の良い人に拾われた件について 作:疾風怒号
ラテラーノ編エピローグになります。少し短めです。
「……はい、それでは出発します。 いえいえ、お気になさらず、はい、それでは」
宗教国家ラテラーノの端、早朝の業務用窓口前。そこに車両を停めて端末の向こう、ディオニシウス・インダストリーの社長と話す。顔を合わせる事は少なかったが、それでもこの人にはお世話になった。というかこれからも取引は続くので、世話になり続ける事になる。
あの火災から約1ヶ月、ようやく医者から許可を得て、俺はイェラグに帰国する運びとなった。あの社長、そして担当してくれた医者が感染者に対して偏見や忌避の念を持っていなかった事が、ここ最近で一番の幸運だろう。ディオニシウス自体は未だにゴタついているらしく、俺自身あの火災現場でドンパチやった事も併せて見送りの類は無し、寧ろこうやって電話を掛けてくれるだけで十分すぎる気遣いだ。
黒錠と白鍵は消失、ディオニシウス・ホールは全焼、犠牲者は4人、犯人は不明。 到着が遅れていた筈の消防隊が表彰を受けているのを見た時は流石に失笑が溢れたが、結局のところこれがラテラーノという国なのだろう。信仰によって抑圧された欲は、いつか膨れ上がって溢れ出すか、毒となって身を蝕むかのどちらかだ。
「…………帰るか」
「待って」
通話を切って運転席に乗り込もうとした時、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。視線を向ければ、長い髪をバッサリと切ったエクシアの姿がある。
「エクシア、どうした?」
「帰るんでしょ、お見送り」
「悪いな、わざわざ」
エクシアがにかりと笑って、黒い眼鏡ケースを投げた。中には古ぼけたフレームレスのサングラス。……ヴァーチェさんの物だ。
「これ、持っていって。 私が持ってたら、此処から出られなくなっちゃうからさ」
「…………分かった」
「それからね、私、もう少ししたら此処を出るよ。此処を出て、色んな物を見て、モスティマも探して」
「だから」と彼女は詰まった。二、三度息を吸って、吐いて、たっぷり数秒間おいてから口を開く。
「だから、ヴァーチェの事は気にしないで。
私は大丈夫。絶っ対モスティマをとっ捕まえて、ちゃんと話して貰うから!」
「…………無理すんなよ、エクシア」
「分かってる、エンシレントこそ」
「それじゃあ、帰るよ」
「うん、気を付けてね」
それだけ言って、俺は車に乗り込んだ。車両用エレベーターが下り、ほんの数秒で真っ暗闇に放り出される。その僅かな間に、エクシアの言葉を反芻していた。
『私は大丈夫』なんて、そんな筈は無いだろうに。本当は俺の事も恨んでいるだろうに。それを引っくるめて此処に来た彼女は本当に強い人だ。底が見えない程、俺やモスティマよりもずっと。火災現場に入ってきた時も、今もずっと強いんだ。
「もしもしモスティマ。ああ、今ラテラーノを出た所。 ……お前、覚悟しておけよ、エクシアが『絶対とっ捕まえる』って」
あっという間に、エンシレントが乗った車は見えなくなった。彼の手前強がったけれど、今だって整理は付いてない。 あの日よりは落ち着いたけど、それでも、これからどうするかって具体的な事は何も決まっていないし、ふとした時にヴァーチェの姿を探してしまう事もある。きっと、私は私が思っている以上に不安定だ。
「…………私、頑張るよ、ヴァーチェ。 だって今、今までで一番『外に出たい』って思ってるから……!」
けれど、私はきっと大丈夫だ。
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帰りの道のりは概ね順調だった、野盗に出会す事も、運悪く天災に巻き込まれる事も無く、角の生えた天使に遭遇する事も無い。移動都市に立ち寄る事は出来なかったが、食料とガスはラテラーノで積み込めるだけ積み込んだので問題無い。道中で一度車内の電灯が全て落ちたが、これもすぐに(アーツで)修理出来たので大丈夫。
そうして丁度二週間後、俺は無事シルバーアッシュ邸に帰還する事が出来た。
「おかえりなさいエンシレントさん、皆さん待ってますよ」
「コッレーガさん、わざわざすいません……」
最初に出迎えてくれたのはコッレーガさんだった。出迎えというより、いつもの輸送車を邸宅からかなり離れた場所に停めて待ってくれていたらしい。ちなみに後部席にはレガトとオルニットがいた、何故?
邸宅の玄関にいたのがヤーカとクーリエ、そしてエンヤお嬢様、エンヤお嬢様に関してはスリット付きのスカートがすごい寒そうだから出来れば部屋にいて欲しかったかも。ちなみに玄関を潜った瞬間にエンシアお嬢様が突っ込んできた、火災の経緯と入院した話を盗み聞いていたらしく凄い勢いで怒られた、心配を掛けてしまったようで申し訳ない。
最後に、居間で優雅にティーカップを傾けていたのが我らが主人、エンシオディス・シルバーアッシュ様。
「エンシレント・アウレアイグニス、只今戻りました」
「あぁ、よく戻った。……苦労を掛けたな、報告と資料は明日受け取ろう、今日は休むと良い。
…………どうした?」
…………マジ? てっきり『報告書と資料を纏めてから休んでね☆』って言われるかと思ってたんだが? いやでも1ヶ月半遅れて帰るって事になった事自体お咎めなしだったし……、後々反動が来そうで怖いけど、まぁ、ご好意は素直に受け取るに限るか……。
「いえ、分かりました。 資料はもうこちらに纏めてありますので先にお渡ししますが、詳しいことは明日と言う事で……」
取り敢えず出発前に纏めておいた資料だけ渡し、お言葉に甘えて休む事にする。飛び付いて土産話でもせがんでくるかと予想していたエンシアお嬢様も、今日は部屋に入ってくる事は無かった。
あっという間に過ぎ去った数ヶ月だと自分でも思う、忙しかったし、慣れない環境でもあったし、何よりあの営業部で働く事は楽しかった。勿論、カランド貿易が嫌と言う話ではない。此処は俺の唯一無二に職場にして帰るべき場所。無事に帰って来れた事の安心感もある。万事万全に、とはいかなかったが、初の出向は概ね成功と言って良いだろう。
それでも、気分が全く晴れないのは……………………
「…………恨みはしないが、許す事も出来ないぞ、モスティマ」
きっと、全て俺の未熟さが招いた事だ。
合成コール美味しい…………美味しい………………(EX-5を周回し続けるドクターの図)
やはりグラキャロは至高、グラキャロは世界を救う。
冗談はさておき、これでラテラーノ編は終了になります。本来は5話で終わらせるつもりだったのですが、想定よりも膨れ上がってしまいましたね、反省点です。 そして一章に増してたくさんの感想、お気に入り登録、また度重なる誤字報告、本当にありがとうございました。
次章は何処に行くのか、もしくはイェラグの話になるのか、現時点では決まっていません、もし「こんな話が読みたい」という意見等を感想に書き込んで頂ければ、もしかしたら参考に挿せて貰うかも知れません……。まだ本当に何も決まっていないので動かし放題ですよ(違う)
また、今回投稿後にエンシレントの個人プロファイル、第三資料を解凍する予定です、気になった方は此方もご覧下さい。
それでは次章で会いましょう、疾風怒号でした!